良し! 勧誘しよう!
そう言って本館をうろうろしだすと意外と多くのモンスターが食いついてきた。
「え、お外? 行きたい行きたい! 仲間になってもいーよ!」
「合体への抵抗ですか? ありませんよ……未来の為でもありますから」
「ピー、ガガガ、ピ―――」
「みょんみょんみょん……」
人語が喋れたり、喋れなかったり、モンスターは色々と存在する。喋れない奴はシンクロで直接意思を確認するなんて方法も必要になって来る。隠れてたわりには結構アクティブだったり興味津々で、軽く話しかけるだけでもだいぶ乗り気な奴が多かった。
まずは属性を高めるタイプのモンスターを何種類か。趣味で育てたい童話系モンスターも何体か。それから“超越”作成用に先の素材を。そうしている間になんか周りに良くモンスターが集まって来る。
「オメガくん見てみて、ロリコンアーマー!」
「右腕担当のアリスよ」
「左腕担当のアリスよ」
「右足担当のアリスよ」
「左足担当のアリスだわ!!!!」
「肩車されているナーフ前アリスよあ、こら、待ちなさい、私はナーフ前よ、女王なのよ、ちょっとまってうわ―――」
一瞬でナーフ後アリスに掴まったナーフ前アリスは別館のブラックホール罠へと連れて行かれ、廃棄された。まるでお前は存在してはいけないのだと指摘されたかのように。そうやってナーフ前の存在は完全にこの世から消滅した。
「ナーフ前……あなたは存在してはいけないのよ……」
「兎さんもそう言っているわ」
「言ってないっすよ」
「貴方じゃない方よ」
「赤の女王もさっさとぶち殺せって言ってる筈よ」
「そうそう、さっさとジャバウォックの口の中に投げ込んでしまいましょう」
「もう処理し終わった後だけどね」
「はい、アリスちゃんたちそろそろ降りてね。キャラメルだよー」
「わーい!」
降りたアリスがキャラメルを受け取ってその場で食い始めて大量虐殺が始まった。ころころ転がるアリスの死体の群れに震えながら振り返り、オメガを見る。
「ち、違うんだ、こんなつもりじゃ……!」
「ホラーなのか漫才なのかどっちかにしねぇか? リアクションに困るんだよこのパターン」
「そっかぁ」
不評だった。死んだアリスから回収した人形で丁度3個目、これでノルマは達成。将来的には3人で不毛なアリスミラー対決でもこれで楽しむとしよう。それはそれとして欲しいモンスターは大体誘う事に成功したが、未だに会えていないモンスターがいる。
と、そこで通りがかった妖精に聞いてみる。
「君、見習い魔女メリーを知らない?」
「メリーちゃん? むーりーとか言いながら2階に隠れてるよ」
「メリーちゃん人見知りだもんね!」
「落ちこぼれの魔女~」
「何をさせてもダメダメ~」
「雑魚! 低種族値! 技幅狭い!」
「最後の最後で結構具体的な罵倒が出てきたな」
「だいぶ否定が難しいタイプの奴って対応に困るよな……」
妖精たちにキャラメルを上げてありがとうと告げる。別館に行ってから食べるんだぞー、とか言っている間にもう既に食って昇天してる。この図書館の命ってルールを守る事が出来ないんだろうか?
いや、違う。
自我が薄いんだ。アリスも、妖精も、自然誕生したモンスターは自我が薄くて、衝動的な行動ばかりを選んでいるんだ。だからこういう突飛な行動をとるし、直ぐにノリに反応する。アリスも、妖精たちも簡単に乗せられてしまうんだ。
……思いがけない所で先ほど聞いた話を裏付ける事になるとは思いもしなかった。
「で、その見習い魔女ってのを探してるのか?」
「うん、血統図作る上で祖の部分に一番相応しい。遺伝される魔力の伸びとか作成するスキルの事を考えると彼女以外ありえない」
「ま、その独特のシステムは俺様の管轄外だ。地球人で仲良く意味不明なチャート組んでくれ。2階だっけ? 行こうぜ」
て、て、て、と邪魔されることもなく本館を移動する。最初来たときは妨害されまくりだったからここまでなにもないと逆に寂しさすら覚える。
そんなどうでもいい事を考えていればあっさりと2階へと到着する。
ここに展示されているのは終末大戦の記録だ。星の終末期に抗った人々の記録が残されている。英雄から無名の人々まで、必死に生きた人たちの記録が日替わりで出ている。
なにせ、星丸一つ分の記録なのだから。到底展示しきれるものではない。
そんな歴史の海を泳ぐように本棚と展示物を掻き分けて進めば、フロアの隅っこの方、影の中に潜むように本を読んでる娘の姿を見つけた。
オメガは数歩下がり、手をひらひらと振る。自分が近いと威圧してしまうから行って来い、との事だ。だからララを抱えて近づく。
「よ、何読んでるんだ」
「ひ、に、人間さん……!」
そう言っておどおどしてるのは大きく尖った魔女帽にだぼだぼのローブを纏ったピンク髪の少女の姿をしたモンスター、見習い魔女のメリーだ。
「怯えられた……」
「あ、いえ、その! ご、ごめんなさい!」
露骨にしょんぼりすると焦って謝られる……モンスターとのコミュニケーションはちょっと大げさな方が意図が伝わりやすい。コレぐらいは反応を大きくするほうが解りやすくていい。
「俺、何かした……?」
「い、いえ、その、そうじゃなくて……その……私、は、その……」
少し吃りながらメリーが必死に言葉を探してる。それを待つように横に座って目線を合わせながら待つ。ここら辺の勧誘と接し方はスタンダードコースでも学べたことだ。スタンダードコースでは対女性モンスター勧誘練習にホストクラブから本職の方が呼ばれる。
駆間ナンバーワンホストRICKさんである。駆間でホストって需要あるの? 何で生きてるの? どうして女性モンスター勧誘でホストが呼ばれるの? そんな疑問は考えちゃいけない。考える様な奴は駆間では生きていけない。RICKさんの講座を信じろ。モンスター協会公認講師だぞ。
信じろ、ホストを!
「冗談だよ、冗談。焦らなくて良いから。それに今日はずっと君の事を探してたからね。後少しぐらい待つのは全然問題ないから」
「ああいうのはいいんすか?」
「記憶が継承される話しただろ? 将来の火種になる。アーサーは結婚する時滅茶苦茶荒れたぞ」
後ろから嫌な会話が聞こえてくるなぁ。
外野からの声と視線をガードしつつメリーの言葉を待っていると、少し言い辛そうにしながら帽子を少し深くかぶり直した。
「あ、あの、その、わ、私、強く、なくて……あまり、スキルとかも覚えてません、し……それに、全然、魔法使えません、から……その……役に立たないです、から……」
見習い魔女メリーは第1世代のモンスターだ。耐えて殴るというのがメインのFランクやEランクの環境において、回避の出来ない魔法攻撃は非常に強い。そのバランスを取る為に第1世代で使える攻撃魔法は限られているし、そもそもMPが足りなくて2~3回ぐらいしか発動させられない。
つまり低ランクの魔法は弱いのだ。
駆間Dランクでガチガチ魔法アグロとか魔法ランプとか組んでる環境が狂ってるだけなのだ。防御固めて魔法で殴るぜヒャッハー! してるのがマジでおかしいだけである。
「メリー、少し厳しい事を言うかもしれないけど君は確かに弱いし、1度も戦う事もなく合体する事になる」
「あ……あう……」
俯いた。
「でも……それでも、君が必要なんだ。俺が目指す理想のモンスター、その始まりは絶対に君じゃないとダメなんだ」
「わ、私ですか……?」
「うん、代役はつかないんだ。《ルーン》、使えるだろ?」
「は、はい……数少ない……使える魔法です」
そう言うとメリーは手元に魔法陣ではなく、古い文字を浮かべた。この世界ではない、あちらの世界におけるルーン文字だ。この段階だとまだ低度の強化ぐらいしかできないスキルだが、その強みはランクを上げて、スキルそのものを変異して強化する事で増えて行く。
なにせ、《ルーン》は進化した先で選択式のスイッチスキルになるからだ。
「君が唯一の特技だと言ったそれは何時か、最強を名乗るのに相応しいモンスターが振るう力になる。君から始まった血統はやがて多くの属性を、魔術を、流れを組み込んでいずれは“超越”へと至る。君というモンスターじゃなきゃ“超越”の旅路を始める事が出来ないんだ」
拒絶したければ出来るように、ゆっくりと手を握る。
「俺と一緒に、最強を目指さないか?」
俯いてたメリーは少しだけ考えるように顔を伏せていたが、少しだけ頬を、耳を赤らめて顔を持ち上げた。
「あ、あの、私で……貴方の旅路を、支えられるなら……!」
「ありがとう、そしてようこそ」
「拗れるぞー。将来絶対に拗れるぞー。見てろよー、拗れるからなー」
「死ななきゃ安いっすよ」
大丈夫だって! 人間とモンスターの恋愛は成立しないから! 俺には既に婚約者がいるし、アーサーの様なイケメン顔って訳でもないし、拗れる事はないだろう。
これで欲しかったモンスターは何とか揃える事が出来た。父に連絡を入れて牧場の方へと送ると伝えたらゲートを開けて送るかなぁ、なんて事を考え、メリーの手を引いて立ち上がる。そろそろホテルに帰らないと東吾たちに殺される。
そう思って出口へと向かおうとした所で。
「―――私達は何時か全てを超越して無二の頂点に立つ。そうでしょう? ダーリン」
振り返る。そこにはメリーの姿しかない。
「メリー?」
「はい……ど、どうかしました?」
「あ、いや、なんでもない」
最近はフライングが流行りなのかもしれない。まだ早い。俺達が出会う未来はまだ遠い。それでも、その1歩目は間違いなく踏み出せている。その声がそれを肯定しているようだと思いながら図書館での短い用事を済ませた。
そして。
「―――で、弁明は?」
「ないぜ」
「いい度胸だ、ゆっくり殺してくれる……!」
ホテルに戻るとキレた東吾にアイアンクローを食らわされた。こうして東吾とアーサー抜きの1日は終わった。