最強以外ありえない   作:てんぞー

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あれ、欠片も信用されてない?

 アイアンクローで宙吊りにされて迎えた翌日。

 

 宣告通りアーサーと東吾は完全回復した状態で図書館に戻った。

 

 単純にモンスターの育成や探索だけではなく、テレビ出演や国家の防衛等Sランクの仕事はマスター以上のものがある。その都合上、非常にタイトなスケジュールが組まれる事も多く、Sランクに到達したマスターはただ趣味で戦う人ではいられないらしい。

 

 そしてその激務から疲れやすく、体も損耗しやすい。だからこそそういうマスターを癒す事に特化したプロフェッショナルのエステティシャンがいるらしい。単純な回復魔法では追いつかない部分を徹底して癒すのが彼らの仕事、こういう時は手配しているらしい。

 

 そういう事もあり、アーサーと東吾は回復していた。

 

「お前はほんと目を離すと何をするか解らないな……そもそも最初に会った時も1人で根の国を探索しようと黄泉平坂の最下層に突っ込んでたな……」

 

「だから反省してるって!! 今回も本館から出なかっただろ!」

 

「そういう事じゃないだろお前……もう1度繰り返すか??」

 

「まあまあ、不毛な争いはそこまでにしましょうよ。ちゃんと見張ってれば問題ありませんから」

 

「あれ、欠片も信用されてない?」

 

「前科がある上にお前は知識があるからやらかす時が重大だからな……」

 

 困った。否定できない。否定できないので言葉を濁して先に進もうぜとジェスチャーを取る。2人もこの話を延々と引っ張るつもりはないらしく、今回は折れてくれた。良かった。それはそれとしてモンスター勧誘周りはやりたかったらしい。後で時間余ったらやろうね。

 

 見慣れたマリアゲルダに受付で挨拶しつつ、これまでは近づかなかった本館地下へと向かう階段を進む。

 

 どことなくシックで落ち着く雰囲気のあった本館の1階だったが、地下へと降りて行くにつれてだんだんと雰囲気が薄暗く、そして重いものへと変わって行く。階段を降り切ると少しだけ広いスペースへと変わり、その中央には魔法陣が展開されている。

 

 元はここに奥へと進めないように遮断用の結界が張られていたが、それもマリアゲルダに勝った事で解除され、通行可能になっている。

 

 ただその前に従僕執事が1人待機しており、此方を見かけると恭しく頭を下げてきた。

 

「お待ちしておりましたゲストの皆様方……禁書庫の管理を担当しています、カイルと申します」

 

「この先が話に聞いた禁書庫、らしいな?」

 

「はい、この先には数多くの知が……それも野放しにしてはならない、危険なものが多く集められております。本館や別館に住まう者達は皆比較的に理性的な者ばかりです。害はあっても悪意はない者達……ですが禁書庫に封じられた者達はそうではありません」

 

 禁書庫のモンスターは野放しにしてはならない、出来ない、そういうタイプのモンスターばかりだ。その上でトラップの類も別館よりも多く、非常に殺意が高い。

 

「その仕様上禁書庫の地形は変動し続けています。入る度に構造が変わります。ですが地下10階、20階、30階は封じるべき邪悪な存在を押さえつける為、構造が固定化されています。ですが構造が固定化されている為、1階までの直通の脱出用魔法陣も設置されています」

 

「つまり基本ランダム形式のダンジョンだがボスフロアがあって、そこだけは脱出可能地点になっている、と」

 

「そういう事になります」

 

 禁書庫は30層に及ぶ地下型のランダムダンジョンだ。その形式上マップ構造は毎回変化し、配置されているアイテムも毎度変わる。だからランダム配置系のアイテムで欲しいものがあるなら確定で手に入るという訳じゃない。

 

 ちなみに叡智の書が10層。

 

 記憶の書が20層。

 

 追憶の書が30層の報酬で、これはクリア済みのメインシナリオとかを振り返って遊ぶ事の出来るアイテムである。つまりイベントで1度しか行けなかったエリアやイベントをもう1度体験する事が出来るアイテムになる。俺にとって一番不要なアイテムだ。

 

 ちなみにランダム配置されるアイテムには馬鹿ヤバイアイテムから主人公の性別を反転させるジョークアイテムまで色々と用意されているので、それを求めて延々と禁書庫周回する事もあった。中でも1番レアなのは“変異結晶”と呼ばれるアイテムで、合体の隠し味に使うと《変異因子》と同じ働きをしてくれるアイテムなのだ。

 

 これを求めてまあまあ地獄みたいな作業を強制された覚えがある。

 

 周回結論パ出るまでは地獄だったよ! 本音を言うと今でも100個ぐらい欲しい。

 

 確保できねぇか? 難しい? まあそうか……。

 

「それとお気を付けください、禁書庫内のモンスターはほとんど理性が無かったり、発狂してたりと会話が通じません。死ぬまで戦い続けますし、容赦はしません。司書長の様な慈悲を期待してはなりません。途中、逃げる事も難しいでしょう」

 

「負けたら死ぬ……まあ、何時もの事か」

 

「そこはミコトに期待ですね。事前情報があれば対処できますから」

 

 サムズアップを見せる。

 

 マリアゲルダの時はノーヒントで遊んでたが、禁書庫からはそうもいかない。なにせここでは負けた時に逃げる、という選択肢が取れないからだ。根の国は全滅しても閃光弾やら煙幕で逃げたり対戦待ちのSランクがお、ワイの出番だな!? とか言って唐突にエントリーしてくるからまだセーフらしいが、ここは俺達しかいない。

 

 俺達が全滅したら逃げ場もないし、その時点で終わりだ。

 

 だからアーサーも東吾も事前に軽くブリーフィングでモンスターの説明を受けているし、戦術などの方向性も固めている。ガンメタを張る訳ではないが、最適解を通して攻略するというのは俺達の共通の認識だった。

 

 何よりもマリアゲルダ戦の様な事を繰り返しているとクリスマスまでには間に合わない。

 

 俺達は絶対に! クリスマスまでに!! 帰らないとならないのだ!!

 

 絶対にだ!!

 

「脱出地点に到達すれば再びそこから再開する事も出来ます……それではご武運を」

 

 そう言って本のページが視界を遮るとカイルの姿は消え去っていた。後はご自由に、という事だろう。互いの顔を見合わせ、それから頷いたら全員そろって魔法陣の上へと移動する。

 

 辺りを光が包み、体が一瞬の浮遊感を得てから確かな足元を感じる。目を開ければ既にモンスター達は戦えるように布陣しており、ララが自動的に近くの罠を起爆して死亡した。

 

「ここが禁書庫の地下1階か」

 

「雰囲気ががらりと変わりましたね……構造も本館の地上部分とは違うようです」

 

「索敵とマッピングするね」

 

 辺りを見渡す。先ほどまでは薄暗かっただけの図書館が、明確に暗くなっている。辺りには青く燃える蝋燭が灯代わりになっており、遠くまで見渡せないようになっている。そして天井まで届く巨大な本棚によって壁が出来ており、順路を無視して進めないようになっている。

 

 本棚が作っている迷路、ただし別館と違ってこっちは命を無視したショートカットは出来ない、という形だが。

 

 右目を押さえてシンクロ出来るモンスターの気配を探知すれば幾つかのモンスターが引っ掛かる。広い範囲に展開されており、目的もなく徘徊している。その多くは狂気に飲まれており、意識を重ねようとすれば精神が汚染されるだろう。

 

 まあ、俺には関係ないが。

 

 穴の開いたバケツにどれだけ毒を注ごうが、そこには何も溜まらないのだから。

 

 気づかれないようにささっと視界を盗み、そこから抜ける情報でマッピングする。スマホに書き込んだ情報を2人に送信して共有する。次のフロアへと繋がる魔法陣は見つけられた。後はそこまで移動するだけだ。

 

「さっと視界を盗んだ感じではこんな感じかな」

 

「道中の戦闘は回避出来なさそうだな」

 

「此方から奇襲を仕掛けて―――」

 

 と、アーサーがそこまで言った所で今いる空間に思考が増えるのを感知した。視界を跳ね上げれば空間が歪み、そこから堕落し、異形と化した精霊と使い魔が形を成すのが見える。奇襲だ。禁書庫へと入った直後を狙ったモンスター達による攻撃だ。

 

 それを認知し、さっと右目を覆った。

 

「タイムライン形成。バトルログ出力―――」

 

 何時もの、ルーティーン通りの言葉を口にする。一瞬で精神は戦闘把握に最適化される。

 

 終末の精霊Aが現れた!

 終末の精霊Bが現れた!

 絶望に染まった使い魔Aが現れた!

 絶望に染まった使い魔Bが現れた!

 バックアタックだ!

 尊はバックアタックを看破した!

 「速戦即決

 尊は《電撃戦》を命じた! 全味方の攻撃&素早さ1段階上昇!

 

 取られた先制を看破して無効化し、マスタースキルを挟み込む。味方モンスター全体の素早さと攻撃が1段階上昇し、ワンパンで戦闘を終了させる準備を整える。真っ先に動いたハーデスが防御力を下げ、ラファエラがバフを与える。オメガが保険に控え、エグゼリアの《聖剣技》が全体を薙ぎ払う。

 

 きっちり確殺ラインの火力が叩き込まれてモンスターが消滅する。綺麗なワンパン殲滅コンボが決まって損耗ほぼ無しで戦闘が終了した。

 

「今のは?」

 

「ランダム出現のモンスター。一か所に留まってるとこっちを見つけて襲い掛かって来るよ」

 

「足を止める事も許されない、って事ですね。解りました。次のフロアを目指して移動しましょう」

 

 事前に決めた通りの陣形にシフトし、歩き出す。俺は守られるように陣の中央へ。その代わりにシンクロを使って辺りの索敵と、戦闘開始時にマスタースキルを使う事になっている。少なくともアーサーや東吾でも、マスタースキルを使う度に精神を損耗する。

 

 彼らでもそんなばかすか使える技術ではない。公式戦でも1試合1回まで、という制限はゲームの公平性を保つ為だけではなく、マスターが廃人にならないようにする為の配慮でもある。

 

「流石ですね、ミコト。全体を対象としたマスタースキルは複数のモンスター相手に同時にシンクロする必要があるので、相当な高等技能なのですが……」

 

「ブリーフィングで話した通り気にしなくていいよ。頭や心に干渉するならともかく、マスタースキルぐらいだったらどれだけ連打しても疲れないから。道中の対雑魚でのマスタースキルの負担は俺に任せて……まあ、戦闘中切り替えられないって弱点はあるけど」

 

「ま、そこら辺はお前の課題だ」

 

 薄気味悪い禁書庫を移動しつつ溜息を吐く。新たに近づいて来るモンスターを察知して呼びかけつつ、先制を取ってマスタースキルを使い迎撃する。これ自体はそこまで苦労するものではない。問題は俺がこの技術に関してそこまで柔軟にはなれないという事だ。

 

 というのもゲーム時代、マスタースキルは事前に設定した1種類を戦闘で使えるようにする、というシステムだった。自由な入れ替えを許すとゲームバランスの調整が難しくなるから……という部分もあった。

 

 そして俺が戦闘中に構築するシステムはこのゲームシステムに大きく依存している。この世界には実在しないシステムを、精神の中で構築して運用する形になっている。だがこのシステムのおかげで俺は全ての行動をタイムラインで管理し、バトルログを出力して追う事が出来てる。

 

 リアルタイムで出来事をタイムラインへと変換し、ログに出力し、干渉する。

 

 ゲームを基にしている分、ゲームの仕様に縛られる。

 

 俺は結局のところ、根本ではまだこの世界をゲームとして見ているのだ。そんな事理解しているし、そうあっちゃいけないと思っている。それでもまだ、生きているという実感が薄い。だからこのシステムに頼っている。

 

 抜け出さなくちゃならない。そう頭では分かっているのに、心が追いつかない。

 

「……いや、今は悩む時じゃないな」

 

 少なくとも禁書庫はSランクマスターでも、油断してれば死ぬ事の出来るレベルのエリアだ。余計な事を考えず、自分の役割に徹するべきだ。そう考え、死体になったララを持ち上げて次の罠へと蘇生しつつ投げ込む。

 

 今は攻略が先だ。

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