最強以外ありえない   作:てんぞー

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これがボクのパーフェクトキャンセラー(物理)っす

「3時、通路を抜けて此方へと接近中残り10秒。6時の通路から4体、30秒後ぐらいに到達」

 

「事前にバフしてー重ねて……別枠バフを使ってー」

 

「エグゼリアGO!」

 

「不意打ちは騎士の誉れ!」

 

 はいどーん! で3時から接近してたモンスターが蒸発する。バフを入れる時間があるのならワンパンするのはそう難しくはないのだ。そしてそうやって数が少ない方を散らしたらそのままエグゼリアを再行動させて集団の方にもどーん! 相手は死ぬ。

 

 態々相手の接近を待って普通に戦闘するのは馬鹿のやる事だぜ!

 

 相手が容赦しないのならこちらも容赦なく戦わなければ不作法というもの。

 

 戦闘をたのしむことに定評のあるアーサーと東吾だったが、この禁書庫内での戦闘、相手が奇襲や不意打ちの類を容赦なく活用し、なおかつ交渉や会話などが出来ないモンスターばかりだと理解した時、2人の辞書から容赦という概念は消え去っていた。

 

 というよりこれが本来のダンジョン内での動き方だ。相手は無法という言葉で動くモンスター達。それを相手に普通の戦闘を行う方が馬鹿々々しい。普通のダンジョンではこうやって事前のバフを決めてから奇襲で打ち倒して行くのがメジャーだ。

 

 根の国の時のキュウビ戦や別館での戦闘は言葉が通じる相手だからこそ成立する公式戦に近いルールの戦いだ。所謂無法な動きを取らない限り此方も取らないという暗黙の紳士協定が通っている。だがこの禁書庫のモンスターに紳士協定は通じない。

 

 だったらもう、ルール無用で殺すしかない。

 

 そうなると道中でバフを重ねて先制攻撃で吹き飛ばすのが一番効率的になる。索敵、指示、ブレインと3人で役割を分担する事で負担を軽減しつつ、素早く罠を破壊し、次のフロアまでの最短ルートを構築する。

 

 そうする事で1フロア辺り最小限の時間で進む事を可能とさせる。

 

 駆間にいたころはダンジョン構造を直接シンクロで覗き込んでぶち抜いてたが、ここのモンスター達は発狂していてそんな情報を脳内に抱えていない。だから索敵し、なるべく早く突破する為に常に移動し続ける必要がある。

 

「ミコト! 何かアイテムがあります!」

 

「混沌結晶! 合体で使うと闇と光の属性が最大までチャージされる混合属性アイテム!」

 

「欲しい」

 

「確保!」

 

 すれ違いざまにアイテムをひょいっとバッグの中に突っ込んでそのまま進む。一瞬も足を止める様な事はしない。タイムリミット云々の前に、このダンジョンの雑魚は殲滅した所で普通に新しく湧いて来る。だからまともに相手してるだけ無駄なのだ。

 

 そしてアイテムを拾えば拾う程鞄は重くなる。

 

 10層毎にある脱出地点から地上に戻った時だけ鞄の中のアイテムをリリースする事が出来る。そうなってくると道中で確保するアイテムはなるべく厳選しておきたい。ゲームと違って、持ち歩けるものには限度があるのだから。

 

「尊、魔法陣は?」

 

「この先」

 

「《聖剣技》……良し! クリア完了!」

 

 雑魚の殲滅を終わらせて脱出魔法陣まで移動し、全員が乗った所で起動させて次のフロアへと移動する。そうやって新しいフロアに降りたらオメガがまずは全体守護し、その間にフロアを軽くスキャンするようにシンクロを走らせ、そして他がその間にバフを重ねる。

 

 準備が終わったら一番近い敵を消し飛ばしつつ再びダッシュ。

 

 落ちているアイテムだけは見つけられないので、必然的にアイテムを求めるならフロアを走り回る必要が出て来る。だが浅層で出て来るアイテムは正直そこまでレアでもないので気にする事はなく、道中で見つけたものだけをピックする。

 

 そしてこの間も常にダッシュ。

 

 マスターは全部モンスターに任せるから体力がいらない?

 

 冗談言っちゃいけないよ。体力のない奴がダンジョン探索したりこのマラソンに付いていける訳ないだろ。

 

 アーサーも、東吾も、俺も、普段からモンスター相手のトレーニングで体を一緒に動かしている。モンスターと遊ぶ影響で体に傷が出来る事は珍しくないし、怪我だってする。それを積み重ねる度に体が強く育ってゆくのだ。

 

 そうして鍛え上げられた体力と力が今、フル稼働している。最速、最大効率でダンジョンをぶち抜いている。探索開始から2時間。

 

 漸く、9層へと到達し、10層へと至る魔法陣を発見する。

 

 発見した瞬間周辺をクリアリング、通路をモンスターの技を使って埋めてバリケード代わりにして通路から入って来られないようにする。その間にボスへと挑む為の準備に入る。事前情報は共有済み、最適行動がどういうものかは2人とも把握している。

 

「経過時間」

 

「2時間。かなり良いペース。9層現在、経過時間は2日」

 

「時間の流れが速い。下に行けば行くほど加速するぞこれは……」

 

「10層用アイテム、スキル調整チェック」

 

「チェック」

 

「チェック、バフいくよー」

 

「動きがマスターのそれじゃなくて軍人とか特殊部隊だよなこれ……」

 

「対ボス戦闘用意―――!」

 

 教えてやろう! 居場所とデータが割れているボスへの対処法を!

 

 

 

 ―――かつて彼の世界には多くの国々があった。

 

 神が実在する世界において神とは全能の王に等しい。即ち定められた頂点。見える救済。差し出された超常に対する答え。絶対は存在し、実在する。人々は神により与えられた恩恵の中で暮らし、育ち、そして感謝する。彼らは愛を与えられているのだと実感して。

 

 その国は神に見守られていた。絶対たる天父に見守られ、愛された国は緩やかに、しかし穏やかな発展を遂げる。

 

 そして零落の日を迎えた。

 

 天父は死に、天の法則は崩れた。昼と夜の概念が消え去り、世界は永遠の黄昏に包まれた。どれだけ祈ろうと神へ祈りは届かなくなり、これまで握られていた手は切り落とされた。嘆き、絶望、怒り、拒絶……そして深い悲しみがその国を覆った。

 

 神よ、応えてくれ。私達はどうすれば良いのか。日々の感謝はもう届かない。世界は黄昏に包まれてから終末が到来する。英雄たちは立ち上がり、そして燃え尽きて行く。そして全てが狂いだす。

 

 あぁ。成程。世界は滅ぶべきなのか。

 

 狂気は病の様な物であった。一瞬で伝播し、感染する。誰かが狂えば隣人も狂う。信仰の中心となる全能の王が零落して正気を保てる者などどこにいるのだろうか? それは陸上の者がもはや地上で息を吸う事が出来なくなり、水棲生物の様に水の中でしか生きられなくなったようなものだ。

 

 一瞬で王国は狂気に包まれ、腐る。神よ! どこへ! 居らぬのか!

 

 ならば、作るしかあるまい。

 

 狂気にて生み出されるものが王道を歩む事はない。全ての国民と狂気。それが王の肉体へと還元された。そして……それは産声を上げた。

 

 怪物が生まれた。当然、神程の神聖さもなく、知性もなく、狂気の怪物が。

 

 それは巨大な漆黒の球体であった。救済を求める悪夢。狂気に染まり戻れなくなってしまった哀れな殉教者。ギョロリ、と漆黒の球体から無数の目が開く。どこにも存在しない神を求めて見続ける腐れた視線。

 

 それが魔法陣の起動を捉えた。

 

 理性はとうに溶け落ちた。あるのは神を求める心と完成させようとする本能。それが際限なくあらゆる生命を取り込んで自分を昇華させようとする。それゆえに危険物として禁書庫への封印が行われた。それは本能に任せて魔法陣より来訪する新たな贄を歓迎する。

 

 より完璧へ、更なる全能へと至る為に。それが不可能であると一切理解せずに。

 

 見た。

 

 ウサギが1羽現れたのを。

 

「うっす」

 

「……」

 

 しかも体に大量の鉄の塊を纏っているのを“絶望の王”は見た。生前の記憶が一瞬だけ浮上して主張してくる。

 

 ―――あ、これヤバイ奴だ。

 

「察した、っすね」

 

 ララが現れた!

 絶望の王は《破滅の涙》を零した!

 ララは《耐えろ》と先行入力されている!

 ララは攻撃を食いしばって耐えた!

 

「ノルマ達成っすね」

 

 巨大な瞳から落とされた黒い涙が一瞬でエリア全体を覆う。逃げ場のない攻撃はそれこそモンスターだけではなくマスターが存在していれば襲っていただろう。多重の苦しみを与える汚泥の様な涙は一瞬でララの体力上限を1にし、続けて致命傷を叩き込む。

 

 だが既に耐えろと命じられたララはそれを耐え、跳んだ。

 

 そして弾けた。

 

「これがボクのパーフェクトキャンセラー(物理)っす」

 

 閃光手榴弾が弾けた!

 催涙弾が弾けた!

 ジョロキア爆弾が弾けた!

 山芋爆弾が弾けた!

 ラッキーラビットは弾けて死んだ!

 STUN! 絶望の王はスタンした! 次のターン行動不能!

 絶望の王はスタン耐性を獲得した!

 尊が現れた!

 東吾が現れた!

 アーサーが現れた!

 エグゼリアが現れた!

 ラファエラが現れた!

 オメガが現れた!

 ハーデスが現れた!

 

「よし、全部完璧にハマった! 開幕ギミックスカして2ターン目潰せた!」

 

「相手がまともに動けない間に潰すぞ!」

 

「居場所が割れていて行動も割れている? そうですね、とりあえず死にましょうか……」

 

 これが通常のダンジョン構造だったら絶望の王は事前に接近を感知して迎撃できただろう。或いはフロア全体を対象とした攻撃を放つ事さえ出来ただろう。だがこの人だったもの、絶望の王という概念から産みだされたモンスターは隔離されている。

 

 他のモンスターと接触させればどのような問題を起こすか解らないから、その存在そのものが危険だから。あまりにも悲しすぎる存在だから。様々な理由から封じられてしまった。だからこそ入り込むまでは感知できないし、迎撃出来ない。

 

 だが尊たちは違う。構造を理解している。出来る事を理解している。どこに通じ、どの距離から戦闘が始まるのを理解している。

 

 そしてそれを理解しているならどうする?

 

 当然、一方的に殺す。

 

 どんな背景、どんな事情があるにせよ、全ては終わってしまった事なのだ。

 

「クリスマスまでに帰る為に死ね―――!」

 

 絶望なんて知ったこっちゃない。クリスマス前に帰る為に全力の総攻撃が王だったものへと叩き込まれた。

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