最強以外ありえない   作:てんぞー

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負け犬の記憶

「あ、ララが死んでない!!」

 

「餌には食いつかなかったか……!」

 

「なんすか。死んでるのが価値って言いたいんすか? 概ねあってるっす」

 

「それでいいんですか……」

 

「どうやら前のボスが出オチした事を学習していた様ですね。来ます」

 

 奇襲は失敗、ララは無事生存。ララを連れてもりのひろばのようなフィールド、その端の方へと逃げる。それに合わせてモンスター達とマスターたちが前に出る。こうなってしまった以上、俺に出来る事はほぼない。マスタースキルを活用したバフも撒き終わっている。後は2人の腕前を信じるだけだ。

 

 黄昏の空が割れる。

 

 オーロラの様な光が広がる。

 

 その中から半透明ながら性別を感じさせない美しい異形が舞い降りて来る。歌う様に、響く鐘の様な音が喉の様な器官から溢れだす。福音、世界の終末を歓迎し祝う様な冒涜的なメロディーは人の精神には美しさと陶酔を沁み込ませてゆく。

 

 そう、破滅は美しいのだ。

 

 築き上げたものが一瞬で崩れ行く様は爽快だ。

 

 だからこそ、終末と破滅、絶望の化身は黄昏色に輝いて美しいのだ。

 

 そして、その全てが揃って黄昏の大精霊が生まれた。

 

 黄昏の大精霊Lv120 が あらわれた!

 

『見せて貰おうかな……大荒厄の1つと数えられたこの黄昏にどう対処するのか』

 

「上から目線なのは少々不服だが、アーサー」

 

「えぇ、事前の相談通りに詰めます……カウント1」

 

 先手を取ろうとする黄昏に対して此方が問答無用で先制を取る。事前に付与されていた先制化のマスタースキルで此方が上手を取る。相手の行動パターンは既に把握済みだ。パターンから外れた行動をとるにしても取れる札は理解している。

 

 データとして存在しているものは、対処法が存在している。

 

 つまり殺せる、という事だ。

 

 そしてその判断と対応を編み出す事において、アーサーと東吾は俺を経験年数で上回る化け物だ。既に全てを教えてある2人にこれ以上のアドバイスや手助けは不要だ。俺は後ろに下がって、傍観者として安心して戦いを眺める事にした。

 

 圧倒的な防御力を誇る黄昏の大精霊には一切の攻撃が通らない。魔法耐性も60%と異様な高さを誇っており、通常の属性耐性ですら最低限で半減ライン。馬鹿の様な硬さはクリティカルを使った防御無視を使わないと削れない。

 

 ―――が、当然、抜け道はある。

 

「ハーデス」

 

「任せろ」

 

 何時も通り―――本当に何時も通りハーデスの回復反転化魔法が飛び、大精霊への回復効果が反転する。そこにラファエラの大回復魔法が飛んで、その体力を削る。割合回復は対ボスという状況においてのみ、割合効果を失って大回復効果へと変わるのだが、それを活用してボスへの耐性防御無視のダメージへと変換できる。

 

 デバフの成功値は100%、問題があるとすればHPにストッパーがあり、一定数値を下回る度にHPが減らなくなり、デバフが全て解除されて強化が入るという事だろう。だが防御を無視し、ダメージをストレートに叩き込む特殊戦闘法であるヒールダメージは、刺さる相手には刺さる。

 

 つまりコイツには刺さるという事だ。

 

「戦線維持します」

 

「了解、こっちは作業を続けるぞ」

 

 絵面は、死ぬほど地味だ。

 

 デバフを付与。ダメージを削減。ヒールする。溢れた回復で全体が癒える。妨害する。ひたすら地味なコントロール作業が続くだけだ。黄昏の大精霊は圧倒的な耐久力を誇り、それに合わせて雑魚を召喚し、雑魚と合わせて此方に絶望と同化デバフを押し付けて来る。

 

 絶望デバフはHP最大値を削り、同化デバフはHP一定以下のモンスターを反転させて相手側に引き入れる特殊状態だ。ケア抜きだと此方のメンバーが減らされ、全てを失うという特殊な戦闘方式で、数の暴力と合わさってかなりの強敵になる。

 

 筈だった。

 

 ラファエラはHP最大値を超えるヒール能力を持っている為、そもそも最大値がほぼ下がらない。その上でヒーラーとしては超がつく程のオーバーヒールな能力を持っている。その為、単純にギミックとして相性が良く、戦闘は東吾のほぼ素のまま進む。

 

 そして一切の盛り上がりも、逆転も、ドラマもなく沈んでいった。

 

 戦闘時間だけを見るなら絶望の王よりは長く、15ターン程かかった。それでも黄昏の大精霊はギミックの相性が悪くてHPを半分も削る事が出来なかった。ラファエラが致命的なメタとして刺さった結果だった。

 

 結論。

 

「雑魚が……来世から出直して来い。いや、嘘ついたな。来世取り消しで頼む。二度と蘇るな。俺以外だったら地獄を見てるタイプだぞこれ」

 

「残念、入る度蘇ります」

 

「ソロで遊びに来られるんですか!? やったー! いや、冷静に考えたら途中退場不可だからヨーロッパSランカーの犠牲者増えますねこれ……」

 

 まあ、攻略情報がない人がソロで来るような場所じゃないと思うよ。周回してても偶に事故って即死する様な所だし。まあ、でも図書館はコンセプト的に慈悲の塊だし、本当にヤバい時は司書や館長がインターセプトするっしょ……みたいなちょっとした安心感はある。

 

『はあ―――!』

 

 叫び声に振り返る。森を貫く炎の剣が大地を、敵を、黄昏を真っ二つに引き裂いた。そのまま振るわれ、地平線まで届く炎の線が生み出された破壊の全てを物語る。その中に黄昏が消えて行く。そして西方の帝国兵たちもまた、その中に燃えて行く。

 

『多大な犠牲を強いた黄昏の精霊たちも……大精霊が討たれた事によって鎮静化する。だがその元は人々の恐怖と絶望から生まれたものだ。そう簡単に消えるものじゃない。人は、これからも続く黄昏と向き合うしかなかった……本当の意味での勝利は、どこにもなかった』

 

 魔法陣が出現し、大地に一冊の本が落ちている。記憶の書を拾いあげ、腰のバインダーに装着する。これで叡智の書と合わせて最も重要なコンテンツアイテムの回収が完了する。こればかりは他の誰にも、政府にさえも手を出させるわけにはいかない。

 

 最悪、俺の手元じゃなくて彼岸の彼方に隠せばいい。あの世に置いておけば誰も手を出す事は出来ないだろう。

 

「地上の魔法陣と地下へと続く魔法陣ですか……一回休みましょう」

 

「そうだな、情報の整理も必要だしな……時間はあまり動いてないな」

 

「アナウンス……館長でしたっけ? 彼が確か時間の制約を緩めたと言っていましたね」

 

「可能……なのか? いや、実際にやっている事を見る限り言っている事は事実なのだろうな。だがダンジョンを生み出した事、モンスターを生み出した事、全人類の認知を、歴史を歪めたこと……全てが夢物語の様だ」

 

 ララを腕に抱えながら地上行きの魔法陣へと向かう。

 

「こんなんで混乱してちゃ困るぜ、お二人さん」

 

 振り返る。

 

「この終末の物語はここからが本番なんだからな」

 

 魔法陣の上に乗った。

 

 

 

「―――さて、少し情報を整理しようか」

 

「そうですね、色々と情報が集まってきました。ミコトが隠す気もなく喋ってる情報と合わせて、我々が把握している事実がどこまでのものか、少し確認しましょうか」

 

 攻略の後のケアの為にも休憩室に戻り、休みながらテーブルを囲んでこれまでの情報を纏める事になる。この場において俺は訂正する側なので、主に情報を纏めるのは2人の方だ。部屋の隅からちらちらと見て来る挙動不審なメリーもいたりして、ちょっと賑やかだ。

 

「まず大前提として俺達がモンスターと呼んでいる存在は元は異世界で生きている住人達だった。元々モンスターと呼べる者もいたが、異なる種族や人間、それが変異や変質した存在たちが地球ではモンスターとして出現している」

 

「彼方の世界は既に滅んでおり。完全な滅びを免れる為に此方へと何らかの手段で移住してきました。ですが聞いている感じ……この根本的な滅びを招いた存在もまた、私達がモンスターやダンジョンと呼んでいるシステムそのものと一緒に地球へと渡っているようですね?」

 

 アーサーの言葉に頷く。

 

「そうだ、正確に言うと館長は残されたわずかな生き残りを除き、世界そのものを概念へと変換したんだ。星を、世界そのものを概念という情報へと分解する事で次元の壁を越えて地球へと持ち込み、融合させた。その結果生まれたのがダンジョンとモンスターだ」

 

「改めて聞くととんでもない事になっているな」

 

「そもそも自分たちの歴史を1から疑わないといけないという事態が酷いです」

 

 館長が取った手段はラスボスごと概念の塊に変える事で状況を全て凍結する、という事だ。その陰でラスボス含めて全てが止まっている状態だ―――ダンジョンから出現しない限り、奴は動く事が出来ない。そうやって封じているのだ。

 

 そして奴程の格が生まれるのは、ソレ相応のダンジョンが必要だ。

 

 それを生み出す為にテロとかやってたのが終末思想の宗教組織ってワケ。久遠の誘因体質が絡むのもここ。だからこの宗教組織は滅ぼさないといけないし、ラスボスも絶対に殺さないとならない。

 

「しかし黄昏ですか……敵として対峙すると解りますが、アレが無限に増殖する世界というのは恐ろしいですね」

 

「彼方の世界はインフレしてるからどうにかなってるが、地球の戦力でアレに対抗するのは少し難しいな。インターネットを通じた情報のやり取りが出来る分、黄昏の絶望伝播はもっと早いだろう」

 

「或いは他者に無関心だからそこまで絶望しないかもしれませんね。今更神が死んだ所でどうとも思わない人がほとんどでしょうし……」

 

「流石に人が化け物に変わり始めたら……いや……でも現代人だしな……」

 

「地球人ヤバくない?」

 

 黄昏と融合して化け物になる人間がいても絶対スマホで笑いながら撮影したり黄昏と鬼ごっこしてみた! とかいう馬鹿な配信者も出て来るだろ。俺は賢いからこういう予見ができるんだ。地球人類の愚かさは本当に凄いんだぞ。ちょっと擁護できないレベルで。

 

「世界の支柱だった創造神? が死んだ結果始まったのが人々の絶望と黄昏だ、そしてその主犯は今もまだ恐らくは生きている」

 

 うん、と頷く。

 

「先ほどまでの記録の中にはその主犯の姿がありませんでした……恐らく21層から30層、そこで見るのがその記憶になるのでしょうが……」

 

 アーサーの言葉と共に、視線がモンスター達へと向けられた。このパーティーを構築しているモンスターというよりは最終世代のモンスターは基本的に終末期に活躍した英雄や伝説の存在ばかりだ。だから彼ら、彼女らもこの物語の主役になる。

 

 まあ、とオメガが呟く。

 

「俺達の記憶だな」

 

 オメガががしがしと頭を掻く。ラファエラが目を伏せる。ハーデスがそっぽを向き、エグゼリアが天井を見上げた。

 

「まあ、なんだ」

 

 少しだけ言い辛そうに。

 

「次から始まるのは俺達の敗北の記憶だよ。どうして負けたのか。誰に負けたのか」

 

 は、と小さく自嘲して。

 

「負け犬の記憶だよ」

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