最強以外ありえない   作:てんぞー

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デッドエンド

『待っていたよ……さあ、とある星の終末期を共に追いかけようか』

 

 21層。

 

 天上の世界。神話の世界。雲の上に咲く花畑。空に浮かぶ庭園。天使と神々が下界を見守る世界、神々の国というイメージを投影したような場所だった。

 

「そういえばロストエデンも見つかってないんだっけ」

 

「お前から新情報が出てくることに関してはもう驚きもないが、なにそれ」

 

「これ」

 

 クイッ、と周りの景色を指差す。

 

「元は神々の国、天上の世界で天使や神々がいた場所。ダンジョン化して今じゃ成層圏をうろうろしてる筈」

 

 皆で空を見上げる。

 

「追いかけられる気がしませんね」

 

「利権がめんどくさいから忘れよう、この話! 空をうろうろしてるとかどれぐらいの国が権利主張するのか解らないぞ!」

 

 そういうことになった。

 

 天上の世界は平穏に包まれているように見えて……その実、静かすぎた。ここにいるはずの神々の姿がない。その代わりに異形の怪物が雲の上を徘徊している。まだ距離があってこちらを捕捉できてないが、此方からは見える。

 

「……」

 

 モンスター達はその姿に黙り込み、ララはオート探知を開始してた。そういやコイツは格が低いから前世の記憶とかなかったな。だから過去にあったことに囚われない。強くない?

 

 と、そこで遠くの雲海を突き抜ける巨影が現れた。距離があり、影に覆われた存在は輪郭しか見えない。並の都市よりも巨大な存在が多くの神々と争っている姿は見える。

 

 天空を覆う炎。雲を散らす大嵐。時代を凍らせる氷河。その全てが襲いかかり、霧散し、影に周りが食らわれる。

 

『それが責務として神々は抗った……だがそもそもからして、彼らに勝てる道理はなかった。戦う力のない神は逃亡し下界に力を求め、多くは世界を滅ぼすその存在に抗い、滅びた……神々の時代の終焉だ』

 

 背景でどんどん死んでゆく姿を流しつつ、前に進む。

 

 かつては美しいとされた楽園も、神話の終焉に従い光を失い、滅びた。

 

「……」

 

 その光景に違和感を覚えた。いや、光景じゃない。やり方だ。

 

 

 22層。

 

 それは戦場だった。西の女帝が率いる軍が連合軍と争っている。モンスター達が入り混じった戦場を兵士たちが駆けて、戦っている。

 

 そこに異物が現れる。

 

 黒い、不定形。黄昏と違って生理的に受け付けない気持ち悪さを感じる不定形。それが口を開けた。

 

「口だ……」

 

 百、千、万の口が開いた。それが食欲のまま戦場のあらゆる命を喰らい始めた。敵も味方もない阿鼻叫喚の戦場を駆け抜ける。

 

 見ているだけで吐き気を覚える光景。それは終末の始まりだった。地獄の中を駆ける姿が見える。たとえ地獄の底だろうが抗う人はいる。明日は来るのだ、諦めるものか。

 

 そう叫ぶ姿が見える。

 

 違和感。

 

「……ミコト? どうしたのですか?」

 

「いや……確証が取れない……喋って無駄に脳の処理を増やしたくない。もう少し状況証拠が揃ったら口にする」

 

「解りました」

 

 東吾は此方をちらりと見て、アイコンタクトで考えるのは任せると伝えて来る。このチームで索敵だけではなくダンジョンギミック、ダンジョンの内容そのものに関する認知は俺の担当だ。そもそも空間認識力、干渉力に関しては俺がトップだ。

 

 何か干渉されてるとして、それに気付けるのは俺だけだろう。モンスター達は根本的な部分でモンスターとなった時点で弱体化しているようなものだ、アテにする事は出来ない。だから辺りを見渡し、戦場の様子を見て、違和感を言語化しようとして……失敗する。

 

「……先に進もう」

 

「ああ」

 

「気を付けていきましょう」

 

「大丈夫っすよ。罠はもう解除したっすから」

 

 野生のモンスターの口に咥えられたララが誇らしそうに言って、真っ二つに食いちぎられた。

 

 ララ―――!

 

23層。

 

 西方帝国が滅ぶ。

 

『西の女帝は強く、気高く、そして野心家だった。彼女は黄昏を御せると信じ、そして実際に利用していた。だが兵を送り出した所で口が地上に溢れた。ワールドイーター、その口先。食欲しか持たない眷属たち。それが帝国本土を襲い、食らいつくした』

 

 崩壊した帝都の中を探索する。悲鳴、絶望、助けを求める声。どれも手が届きそうで触れる事は出来ない、過去の映像でしかない。それでも出現するモンスターは本物だ。まるで画面から飛び出してくるように背景で暴れていたモンスター達は現れ、その中には小さい不定形の怪物も混じっている。

 

「気色悪い! さっきの層にもいたがこいつらは何なんだ!」

 

「ワールドイーターの生み出した眷属だよ」

 

「21層に出てきたあの巨大な影ですか」

 

「そう、天父……つまり創造神を食欲を満たす為だけに喰らって、その力を欠片も受け継がなかった食欲の怪物だよ。ちなみに黒幕のペット」

 

「趣味が悪い!!」

 

「それはそう、本当にそう」

 

「何一つ反論が出ない奴」

 

「まあ……ビジュアル面は最悪だな……」

 

「正直性根の邪悪さが透けて見えますよね」

 

「どうして悪という人種はこういうビジュアルを好むのでしょうか?」

 

「ぼろくそすぎて面白いなこれ」

 

 でも確かに、悪い奴って大体悪そうな見た目してるのって何だろう? 創作上の都合でビジュアルを悪くした方が解りやすいってのはまずあるけど……これがリアルの話になると趣味以外に何か理由があるのだろうか? 黄昏はビジュアル面Tier1だったしな……。

 

 罠でピンボールみたいに跳ねまわるララの姿に癒されながら先へと進む。ワールドイーターの眷属で最も小さく弱いタイプの“小口”が敵として出現するも、そこまで強くはない。

 

 蹴散らして進む。

 

24層。

 

『この脅威を前に人類はついに連合を作り上げる。この頃にはもう天上には神々がいなかった。そしてこの騒ぎを前に、最強種の王と神がついに目覚め、動き出す―――既に手遅れだとも知らずに』

 

「……やっぱり」

 

 山脈の間から起き上がる巨大な姿が見える。山よりも巨大な龍の姿が立ち上がり、天へと向かって吠える。白く輝く鱗を持つ巨大な白竜……竜王程大きくはないものの、その神聖さと存在感は竜王を凌駕するものが、翼をはばたかせながら天へと向かって飛翔する。

 

『それは地上最強の生命だった。竜王ラグナロク、そして神龍■■■■……眷属を当然のように殲滅した最強種はそのまま天上を根城とした反逆者へと迫り、そしてそれを守るワールドイーターへとたどり着いた』

 

 頭上を覆う雲海に激しい衝撃が走る。ナレーションが消えて、先へと進む時間だと知らされるが……自分の中にある違和感が段々とだが、大きくなっている。そしてそれは同時に確信へと変わっていた。答えは恐らく出ている。だがその中心にある()()に対する答えが出ない。

 

「セルフチェック」

 

 右目を押さえ自分の精神を一回鑑定する。自分の精神を理性から剥離させ、俯瞰した状態で自分の精神のチェックを行う。一回自分の精神の状態をチェックし、終わった所で深呼吸する。

 

 答えが出た。

 

 進む。

 

 ここまで来ると禁書庫ももはや終盤戦、出現するモンスターやトラップ、マップの規模も広くなってくる。出現するアイテムも中々レアなものが増えて来て、持ち帰るものにも悩む。

 

 ダンジョン自体の難易度は上がるが、それでもやる事はこれまでの繰り返しと変わらない。出現するモンスターの情報は共有済みだから、メタ張って先手取って殺している。苦労する事はないし、迷う事もない。俺が索敵して、ララが死んで、皆で倒して、先に進む。

 

 この繰り返しで次の魔法陣を見つける。

 

 25層。

 

『竜王と神龍はワールドイーターを破った。現行最強の生物がついにその牙城を打ち破り―――そして敗北した。成す術もない。ただ敗北し、牙を折られ、神龍は殺され、竜王は―――』

 

 もう、確認はいいだろ。出てくる答え、その可能性に背筋に震えが走る。もしかして、詰みかもしれない。

 

「やっぱり、そうか」

 

 降り注ぐナレーションを自分の声で遮る。

 

「お前、誰だ」

 

 全てが止まった。背景で動いていた歴史が、記録が、時を止めたかのように停止した。流れていた悲劇が止まり、ナレーションも止まり、そして全員の視線が俺に集まった。精神安定のためにララを持ち上げて腕の中で抱きしめる。

 

「禁書庫に入ってからは明確に違和感を感じる様になった。いや、その前にも兆候はあった。そういうもんだって気にせずに流してただけで見逃しちゃいけないサインはあったんだ」

 

 天上を見上げるように言葉を続ける。

 

「館長は確かに昔を想い、悲劇に心を痛め、そして嘆いても諦めない人だ。でもその根本にあるのは慈愛であり怒りだ。お前みたいに必要以上に物語を美化しない」

 

 そう、美化だ。ここで流れる歴史や物語は美化されている。事実が変わっている訳ではないが、語られる口調は楽し気だ。語るのが楽しい、教えるのが楽しい―――自分の好きな物語を聞いて欲しいという無邪気さを言動に感じる。

 

 それが感じていた違和感の一つだ。もう一つの違和感の答えは恐らく、正解に行き着けばすぐに理解する。だが俺の考えが正しいのなら、状況は最悪な方へと進んでいるのかもしれない。

 

「お前、館長じゃないな」

 

『……ふふ』

 

 男の声のまま、小さく笑い声が響く。

 

『下で待っているよ。早くおいで』

 

 ぶつり。声と共に周りの景色も消えた。繰り返されていた悲劇が消え去り、何もない、再現された過去だけが残された。これ以上悲劇を見る必要もないと理解し、軽く息を吐いてから胸を押さえる。

 

「お疲れ、尊。良く頑張った」

 

「えぇ、良く気づけましたね」

 

「たぶん……気づかせるつもりで干渉してたんだろうね」

 

 思い返せばヒントはあったのだ。

 

 未来からの声。本来は届くはずのない音。存在しない筈の反響。タイムパラドックス。そして最後に違和感を抱かせないようにするための雑な干渉。

 

 それが最大のヒントであり、答えでもある。もし、この予測が正しければ、この逃げ場のない禁書庫で全員死ぬ事になるだろう。確実に、間違いなく。抵抗なんてものは当然できない。当然のように死ぬだけだ。

 

 本物の館長もこの調子だと死んでいるかもしれない。

 

 そうすればこの星も終わりだ。あの女の玩具箱になって終わりだ。何時だ? 一体何時からこうなった? 最初に図書館に入った時か? いや、違う。そこじゃない。マリアゲルダ戦も問題はなかった……最初に声を聴いたのは戦いの後、白紙の物語を手に取ってからだ。

 

 アレは原作にはなかったイベントだ。つまり変化はあそこで発生していた。

 

 じゃあ、アレか? 殺せる者が生まれる因果が確定した結果、奴との因縁も確定したという事か?

 

 もしや、もしや―――確定した因縁を辿られた……?

 

 それを口にも顔にも出さない。共有しない。飲み込んで、秘密にする。ウェルギリウス経由でメタ情報を共有するぐらいは……出来るかもしれない。最悪、死んだら魂だけの状態でなんとか枕元に立ってみる。ワンチャンあるかもしれない。

 

「……尊? 顔色が悪いぞ?」

 

「いや、少し疲れただけだよ」

 

「おい、小鴉。ちょっと運んでやるからこっち来い。ほら、このユニットに乗っとけ」

 

 砲台の様なユニットを空間から取り出すとオメガがぽんぽんとそれを叩く。こうやって労わられるのはちょっとだけ恥ずかしい……というより申し訳ないが、余裕がないというのも嘘じゃない。原作を思い出し、その内容から思い出せる範囲の事を取り出せば解る。

 

 こんなイベントじゃなかった筈だろうと。

 

 最下層で待ち受けているのが何なのか。

 

 俺の予測がガバってる可能性だって十分にある。既に転生してから10年以上経過しているのだ、細かい所を忘れていてもおかしくはないだろう。

 

 それでも、逃げ場はない。選択肢は他にない。俺達は前に進む事以外他には何も出来ないのだ。

 

 だから覚悟を決めて前に進む。

 

 それがたとえデッドエンドへと向かうものだとしても。

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