最強以外ありえない   作:てんぞー

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デカパイ陰険マスター

 スキルを覚える手段は全部で3つある。

 

 1つ目は合体による継承。

 

「モンスターは合体した時に、合体元となった素体から覚えていたスキルを継承する事が出来る。これは上限数があって、1つのモンスターに対して継承できる合計スキル数は8。この8枠がモンスターのスキル構成になる」

 

 この8枠の中にはパッシブスキルも含まれるからアクティブとパッシブのバランスも地味に難しい。

 

 2つ目はダンジョン探索。

 

「モンスターはレベルアップではスキルを習得しない。ダンジョンを探索するとその経験がスキルとして浮かび上がる。だからどれだけレベルアップしても、ダンジョンを探索しない限りは新しいスキルを覚える事がない」

 

 ちなみに相性とかダンジョンの種類によって覚えるスキルは違ってくる。その為、覚えたいスキルの為にひたすらダンジョンを求めて徘徊する廃人になる事もままある。というかプレイヤーたちはそうだった。ダンジョンからダンジョンへはしごして片っ端からジェノサイド。

 

 クリアしたのに欲しいスキルが出なかった……じゃあやり直しね! ダンジョン探すところからやり直しだよ。じゃあセーブ&ロードするわ! 残念、現実にセーブもロードもないんだわ。マスターになって一番恐ろしい要素ってここだよなぁ、と切実に思う。

 

「そして3つ目、スキルカード使用による習得」

 

 ダンジョン内で見つかるスキルカードはモンスターに対して使用する事でそれに記録されたスキルを習得させられる使い捨てのアイテムだ。時折迷宮商人と呼ばれるモンスターがダンジョン内でショップを開いていて専用通貨により売買も出来たりする。

 

 ただ、普通は協会のショップや、オークションでのやり取りがメインになる。

 

 迷宮商人の取り扱うスキルカードはレアなものが多いが、それ相応に要求してくるものが結構酷い。

 

「このケットシーはスキルが恐らく合体後から弄られてない。つまりダンジョン探索せずにトレーニングと他のモンスターとの戦闘でレベル上限まで育てた、ってのが解る。だから習得しているスキルが合体前のモンスターの適性のもの、ケットシーの適性のものが何もない」

 

「なにもない」

 

「無。Nothing。Null。虚」

 

「ひぃん……」

 

 合体元のスキルそのまま継承して何も弄ってないんだからそりゃあ弱いに決まってる。

 

「トロットフォックスは物理型アタッカーで。ピクシーは攻撃魔法と回復魔法をそれぞれ習得する。それをそのまま使ってるならまあ、勝てないのも当然って話になる。そもそもケットシーは物理型でも魔型でもないからな」

 

「そうなの!?」

 

「何故貴様が驚いてるんだ……?」

 

 グランドマスターの戦術調べるぐらいなら自分のモンスターの適性を調べよ? という話をしながら地下から1階に戻り、そのまま協会の購買へとやって来た。ここでも自分のモンスターの強化の為、新たな戦術を試す為に色んな人がスキルカードやグッズを見ている。

 

 ここで一旦足を止める。

 

「ケットシーはサポーターなんだよ。バフデバフを重ねて味方を勝利に導く補助の専門家で攻撃への適性はほぼないんだよ。ステータスを確認して貰えれば解るけど、この《力》と《魔力》って所のステータスが低いだろ? ……あ、こっち参考用の同じランクのアタッカーのステータスね」

 

 スマホで引っ張って来たデータを見せると、七海と久遠が画面を覗き込んでくる。

 

「……確かに猫のが低いな。能力だけを見れば勝ってるところがMPの多さと素早さぐらいか……」

 

「みぃちゃんって力も魔力もない貧弱もやしだったんだね。今まで殴り合いさせててごめんね……」

 

「いいよ、ななちゃんの学習力のなさが原因だから」

 

「主従で殺し合いを始めないでね。止めないから」

 

 駆間市の住人血の気が多すぎる。先祖代々バーバリアンの血を引いてるとかない? 仲の良い主従のじゃれ合いだと思っておこう。

 

 ショップの情報端末前まで移動したらえー、と声を零す。

 

「欲しいのはケットシーが適性のあるサポート系のスキルだね。Eランクにしては結構広い技幅してたはずだから、そこから有用なものを習得しておきたいね。目指すのはコンロとかバーンとか……いや、それじゃあ伝わらないか。あ、在庫あるじゃん。えーとカートに追加してっと」

 

 とりあえず見つけたスキルカードを3枚カートに追加する。

 

「あ、あの、このスキルカード1枚1万円とか書いてあるんだけどぉ」

 

「今日がセールで良かったね」

 

 ひぃんという声さえ出ない様なショックの受けた顔をしている。雑にカートにぶち込まれたカード3枚だけで3万円。財布の中身を確認してからケットシーと七海が向き合い、ケットシーは瞳を潤ませながらここぞとばかりに勝負を仕掛けにきた。

 

 主従を無視してこっちはこっちで話しを続ける。

 

「ミコト、コンロとかバーンとはなんだ」

 

「元はTCGの用語なんだけどまあ、概念的に通ずるものがあるからこっちでも使ってるだけなんだよね。盤面を支配、相手のリソースや行動を制限して自由な行動をさせずに制するスタイルがコンロ、コントロールの事ね。バーンは継続ダメージを主軸とした構築だよ」

 

 基本的にどの対戦系のコンテンツもそうなのだが、プレイヤーは勝つために勝てるデッキを模倣するものだ。

 

 トッププレイヤーが生み出す構築をフォロワーが真似して勝つ。これは腐る程繰り返された事であり、TCGでも、モンスター育成系のシミュレーションゲームでも、どんなゲームでも同じように通じる事なのだ。

 

 今のトップにいるのがグランドマスターで、アグロ軸を構築している為に皆それを真似する。その結果それが環境に溢れかえる。強いプレイヤーはその流れを見て有利な構築を選ぶのだが、大半のプレイヤーというものはそこまで考えない。

 

 勝ちたいなら強いのを真似れば良い、で大体考えが止まる。メタ意識という概念が抜けているのだ。

 

「七海のケットシー運用で抜けてるのはここらへんね」

 

「メタ意識か……つまり何が良く出て来るのかを意識して、それに対して有利を取れる手を選ぶという事だな?」

 

「正解」

 

 七海とケットシーを見る。ケットシーが可愛いアピールで七海を篭絡しにかかっている。もう9割ぐらい墜ちてるようにも見えるが、最後のラインで3万円を死守している。あれはもう時間の問題だな。

 

「しかしたった3万で勝てるようになるのか」

 

「3万にどれだけの価値を見出すかは個人の価値だけど、今のこの環境ならたった3万で勝てるようになるよ」

 

 1枚1万円のスキルカードは全部汎用スキルだし、しっかりと合体レシピ組んで継承してれば購入する必要なんてなかったスキルカードだ。値段にしては効果は優秀だし、場合によっては普通にC辺りまでは活躍も出来るだろう。

 

 それでも上位互換がこの後ゴロゴロ出て来る。だからこの値段。

 

「E帯はランクマが1日3回まで限定、賞金は1勝500円、安いと思えるけど3勝すれば1500円。これを何と10日続けるだけで1万5千円です」

 

「20日毎日3勝するだけで3万円か。確かに安いな、勝てるなら」

 

 ゲームの時は結構いい収入源だった。問題はリアルでの財源なんだろう……ってなる所だ。これだけ人口のある競技でファイトマネーこれだけ出して平気なのか? やっぱり儲かってるのだろうかこの業界。それともこれは日本だけの仕様なのか。

 

 気になる様なならない様な……。

 

「買って……きました……」

 

「にゃにゃにゃにゃ」

 

 勝ち誇ったケットシーの顔としおしおの七海。帰って来た主従を迎えつつ早速購入したスキルをケットシーに習得させる。七海が握ったカードをケットシーの前で掲げればそれが光になりケットシーへと吸収される。これでスキルの習得は完了した。

 

「じゃ、これで事前準備も終わったし戦い方の方を説明するぞ」

 

 

 

 

 

『さあ! 中央ステージに立つのは現在14連勝中の沢田マスター! 相棒のカブト種のジャイアントビートルと共に新たなチャレンジャーを待ち受ける! 対するは現在12連敗中! 血迷ったか!? それとも秘策があるのか!? 篠田マスターだ!』

 

『ひぃん、どうして一番辛い所に投げ込んだのぉ……?』

 

 一番目立つ中央ステージ連勝中のEランクマスターを見つけたので、そこに七海を投げ込んできた。伝えるべき事は全て伝え終わったので後は七海の醜態を眺めるだけのフェイズに入った。久遠と並んでモニターを眺められる席を確保したらサイダーを片手に、エンジョイ姿勢で泣き顔を楽しむ。

 

「おぉ、泣いてるなぁ。泣いてるというか鳴いてるな」

 

「良いのか? 放り込んで。セコンドでアドバイスも出来ただろう」

 

「結局習った事を実践するのに一々横からカンペ出しても覚えないしな。失敗しながら繰り返すほうがはるかに覚えやすいよ」

 

 ランクマとかその最たる例だ。ランクマに突っ込んで負けて、反省会開いて、参考記事や動画見て調整してまた挑む……というのが理想的な成長サイクルだ。だがあのひんひん鳴いてる生き物は反省の方向がそもそも間違っていた。

 

「12連敗もするならちゃんと反省して挑むだけの気力はあるって事なんだ。余計な事をせずに眺めてる方がいいよ」

 

 言うべき事は全部言ったし。

 

 そう久遠に伝えながらモニターを眺める。

 

 中央ステージでは吉田と呼ばれたマスターがカブトムシ型の巨大な昆虫モンスターを繰り出している。それに相対するようにケットシーが立っているが……うん、七海よりはしっかりしている様に見える。プレッシャーのせいか少しだけ七海の目に涙が見えるが、ちゃんと相手を見ている。

 

 悪くないぞ。

 

『それでは試合……開始!』

 

『サクッとあの雑魚を倒して15連勝にしようぜビートル!』

 

 ケットシーよりも大きなカブトムシの姿がケットシーへと向かって突進してくる。

 

 だが素早さそのものはケットシーのが上だ。防御や回避する事を選ばずに、ケットシーが魔法を発動させる。青色のオーラがケットシーを包み、ジャイアントビートルの角がケットシーに叩き込まれる。小さな姿は吹き飛ばされて軽く宙を舞い……両足で着地する。

 

『そのまま一気に攻めるぞ!』

 

「焦るなよ……焦って手筋を間違えるなよ……」

 

 ビートルが再び角に力を溜めて攻撃スキルを発動させながらケットシーへと突進する。それをケットシーは再び同じ魔法を使って対応し、吹き飛ばされる……だが今度の吹き飛び方は先ほどよりも小さく、少し滞空したらあっさりと着地した。

 

 威力が殺されている。

 

 それに気づかないままビートルが3度目の突進に入る。

 

「3カウント、これでMPは大体空だ」

 

 ケットシーが回復魔法を使って体力を半分戻す。ノーガードの体に角が突き刺さり吹き飛ぶも、威力はだいぶ削がれている。その不思議な硬さに沢田マスターが首を傾げる。ケットシーの本来の防御力なら既に倒れている筈だ。

 

『みぃちゃん!』

 

『解ってるにゃ』

 

『いいぞ! 回復してるって事はヤバイって事だ!』

 

 ビートルの攻撃が2発、3発と入る。だがそれをケットシーは連続でガードしてから回復する。その姿を見て妙な余裕をケットシーが保っているのに気づくも、既に遅い。

 

『ガードレインフォース掛け直しにゃ……からのブラントウェポンにゃ』

 

 防御バフ、攻撃デバフ。覚えたばかりのスキルが使用される。2度の使用でケットシーの防御力は倍に、既にジャイアントビートルの防御力をも上回っている。攻撃力も下がった段階でもはやケットシーに対して大ダメージを通す事は不可能になっている。

 

 元のゲームではコマンドとして防御を選ぶ事でMPをある程度回復できる。

 

 MPが枯渇した後連続で通常攻撃を続ける事でジャイアントビートルはMPを枯渇させたままだ。

 

 だがケットシー側は焦らず、じっくりと構えて防御を織り交ぜながらバフとデバフを重ね、受け流している。

 

 そしてそこへ、致命傷を差し込む。

 

『そこ!』

 

『ちょいにゃ!』

 

 貧弱としか表現できないケットシーによるひっかきがビートルの体を裂いた。裂いた、とは表現するが今の攻撃でビートルの体力は1割も削れていないだろう。根本的な力と魔のステータスが不足している。ケットシーには火力を出すような能力がないのだ。

 

 なら違う手段を使うしかない。

 

『げ、毒!?』

 

「詰んだな」

 

「うむ」

 

 ジャイアントビートルのステータスが毒状態へと変化する。それを見届けたケットシーは七海の指示の下、決して深追いする事無く防御でMPを回復しながらデバフとバフを重ねて被害を軽減、テンポを維持して盤面のコントロールを続ける。

 

「そもそも年上の人だったし、心配し過ぎだったかな」

 

「一度でちゃんと覚えられたみたいだな」

 

 HPが大きく減っても、焦らない。HPはMPと同様にリソースなのだから。0にさえならないなら残り1割になっても良い。最初に食らったダメージから凡その相手の火力範囲を想定し、それに合わせてバフとデバフで被害を軽減、死なないように減らしながら中盤に備えてリソースを温存。

 

 そして中盤に毒を差し込み、もう1度差し込めば悪化して1ラウンド10%のHPダメージへと変化する。

 

 Eランクでアタッカーがデバフ解除に類するスキルを保有する事はないだろうから、これで詰みまで持って行ける。後は焦らずに相手の攻撃を抑えれば終わる。

 

 モニターの中でジャイアントビートルが目を回しながら倒れ込み、戦闘不能になる。

 

『驚きの結果だ! 15連勝を止めたのはそれまで12連敗だった篠田七海マスターだ! 見事に相手の攻撃を受け流しながら猛毒で相手を仕留める非情なファイトだった! ここまで徹底して敵をなぶり無力化して戦う陰険マスターはEランクには珍しいぞ!!』

 

『やったぁ! 勝てたぁ! 勝てたよー! ……あれ、褒められてない?』

 

『やったねななちゃん!』

 

『勝った篠田マスターに挑もうという猛者はいるか!? いる! ケットシーの回復が終了次第次の試合を始めます!』

 

『え、待ってそんな話聞いてな……あ、これ連戦ステージ? あ、ヤバイ、降りられない。待って待って待ってハメられた! ミコトく―――ん! 久遠ちゃ―――ん! 待って―――!!! 助けて―――! 勝ったからいい気分で帰りたいの―――!!』

 

 モニターの中で必死にジャンプして助けを求める七海の動きに合わせてぼよんぼよんと胸が揺れる。

 

 俺と久遠の頭もそれに合わせて上下にぼよんぼよんと揺れる。

 

「デカパイ雑魚マスターがデカパイ陰険マスターにクラスチェンジか」

 

「めでたいな。そろそろ家に帰る時間だし帰るか」

 

 たっぷりとモンスターバトルの空気を味わった俺達は満足した。満足したので七海の事は忘れる事にして迎えに来たミストドラゴンの背に乗って帰宅した。

 

 そこそこ楽しい1日だった。

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