最強以外ありえない   作:てんぞー

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頼むから俺の解る言語で会話してくれ

 黒い。

 

 闇しかない。

 

 光はなく、先が見えず、己も見えない。

 

 死んだのか?

 

「いや、死んでないな。まだ生きてる」

 

 スマホを懐中電灯モードにして辺りを照らす。漸く自分の姿を確認できる程度の明かりが出来たが、それでも見えるのはスマホが照らす範囲だけだ。その先は完全なる闇で、いまにも飲み込まれそうな気配がする。いや、既に飲み込まれた後なのだろう。

 

 あの口の中に。

 

「という事は消化される寸前か……短い人生だったな」

 

 どうしようもない。勝ち目がない。勝ち筋がない。アレの《上位観測》に対抗するには最低限で最終世代級のスペックを持つ事、そして()()()()()()()()()()()()()()である事だ。つまり“未来”の事である。

 

 “未来”というコードネームのモンスターは実の所、数種類いる。白紙の物語を使って生みだす他モンスターシリーズ、ロストヒーローズを最終世代まで合体させたとき、それまでの傾向や血統によって生まれて来るものが変わって来る。

 

 アタッカー型、サポート型、タンク型……数種類に分かれるのが特徴だが、全て共通しているものがある。

 

 彼、或いは彼女は旧世界には存在しなかった事だ。つまりエンディングを迎えた後に生まれた存在。だから絶対に《上位観測》の対象にならず、それを否定する事が出来るのだ。その上で固有スキル、《白紙の未来》は先制や絶対回避、必中等の効果を自身有利の結果に塗り替えるスキルだ。

 

 このメタ能力によって■■■は漸く戦う事の出来るラインまで降りて来る。無論、戦えるようになるだけで弱いという訳じゃないのだが。最低限の戦うラインに乗る事が出来る、という話だ。そもそも上位存在を相手にするのだ、素のスペックが弱い訳じゃない。

 

 だからこそ最強のパーティーを構築し、ぶつかる必要があった。

 

 過去形。時間遡行による現実改変攻撃を準備が整う前にラスボスがやってきたらそれはもうただのクソゲーなんだ。

 

「勝てるわけねぇだろ」

 

 竜王と神龍のペアも、ワールドイーターを殺すことに成功したが《上位観測》による結果の上書きには勝てずに敗北している。メタ能力の確保はマストなのだ……なのだが、それももう無理だ。

 

 口に食われてしまった。

 

 後は死を待つのみだ。

 

「……」

 

 後は死ぬだけだというのに……何故か歩き出す。いや、このまま死ぬのは本当にちょっと、というかかなり納得いかない。なんだよ、エンディングには満足したから繰り返すって馬鹿かよ。上位存在が負けたら時間遡行するとかなんだよ。

 

 誉れがないのにも程があるだろ。将来的には勝てる筈だった戦いがノリで覆されるってなんだよ。許されるのかよ、そんな事。納得は出来ない。出来ないが、詰みだ。溜息を吐きながら闇の中を歩く。空間が拡張されているようで歩いても歩いても終わりが来ない。

 

 考えてみればあの口の、ワールドイーターの胃袋に直結してるのだ、無限の広さを誇っていてもおかしくはない。

 

「あ、マスター」

 

「ララじゃん。生きてるのか」

 

「懐に忍ばせておいた蘇生アイテムを時間差で起動させたっすよ」

 

「何時の間に……?」

 

 死に過ぎてセルフリレイズまで出来るようになってしまったララの姿はもはや涙なしには語れない。目頭が熱くなるのを感じながらもよっこら、と腰を下ろす。ララも近づいてきて横に座る。

 

「負けたっすかマスター」

 

「いやあ、負けたねぇ」

 

「流石にどうにもならないっすか」

 

「どうしようもないねぇ」

 

「まあ、マスターは生き急いでる所あるから何時かはこうなると思ってたっすよ」

 

 ララの言葉にそうだなぁ、と呟く。こんな殺風景な所で最後の瞬間を迎える事になるとは思いもしなかった。憂鬱で、悲しい。何よりも家族を置いてけぼりにしてしまう事に、久遠を置いて行く事に申し訳なさを感じてしまう。

 

「マスターは必要だから生きようとしていただけで、たぶん死の瞬間が来たら特に抵抗はしないと思ってたんすよね。なんというか……マスターは死が身近すぎるんすよ。生き物は死が怖いんすよ。だから忌避して遠ざけようとするっす。でもマスターと灯のお嬢はどっちも怖がってないんっすよ」

 

「そうだな、特に恐れるもんでもないって解ってるからな。お前みたいに都合よく何度でも蘇るって訳じゃないけど……1回死んで、その先にある事を理解してるから恐怖する所は通り越してるんだ。だから、まあ、こうなった以上は仕方がないで終わる話なんだ」

 

 これでこのお話はおしまい。俺は勝てなかった。時間を跳躍して勝つ手段を手にする前に殺しに来るラスボスにどう対抗すれば良い? ない、存在しないのだ、対抗手段なんて。だからおしまい。そう言って不貞腐れる。こんな理不尽なゲーム、誰だって満足してエンディングを迎えられるわけがない。

 

 だというのに。

 

「どうしてだろうなぁ、こんな所でしょぼくれてると怒られる気がしてくる」

 

「久遠の姉御っすか」

 

「あぁ、アイツだったら絶対に俺のケツを蹴り飛ばして立たせるだろうな」

 

「違いないっす! 久遠の姉御はこういう時全然優しくないイメージあるっすよね」

 

「そうそう、ケツを蹴って立ち上がったら……なんだ、まだ立てるのならやれるな! さあ、やれ! とか言ってくるんだよ。全く優しくない」

 

「そうっすか? 滅茶苦茶愛があるじゃないっすか」

 

 ぴょんぴょん、とララが跳ねて前に回る。

 

「久遠の姉御は確かに厳しいっすけど、本当に興味のない相手には見せない厳しさっすよ、アレは。超えられるって解ってるから見せられる厳しさだと思うっす。きっと、マスターは凄く愛されてるっす。そして信じられてるっす。マスターの想像の中でもそうなら、きっとマスターもそう思ってるって事っす」

 

「……」

 

 解ってる、久遠が優しい事も、彼女がずっと俺の手を握って引っ張ってくれてるって事も。きっと彼女がいなければ俺はずっと虚無的な態度を貫いてただろうと思う……悔しいけど、ジジイは最高の仕事をした。久遠を横に置く事で俺が絶対に怠けないようにした。

 

 彼女の厳しさは優しさの裏返しで、信じてるからそうやって背中を押してくれるんだ。

 

 最初は正直、苦手だった。でも知れば知る程、離れ辛くなる。裏切らないようにしたくなる、不思議な魅力の女の子だった。

 

 ……あぁ、逢いたい。

 

 彼女に逢いたい。ここを出たい。生きて出たい。こんなカスみたいな女の相手なんかしたくない。日本に帰って逢いたい。胸を焦がすほどの郷愁が襲い掛かる。俺にとって帰る場所は何時の間にか東京ではなく、あの子のいるあの牧場と日常になっていた。

 

 死の国でもない。前世でもない。

 

 この世界、あの子の隣に居たい。

 

 心の底からそう思えるようになってしまった。何時の間にかこんな風に変えられていた。狂わされていた、1人の女の子を相手に。まさか自分がこんな風になるなんて思いもしなかった。圧倒的な死と生の真理を前に、全てが虚無的に見えたのに。

 

 ……変わってしまった。変えられてしまった。

 

「……」

 

「マスター、目に力が入ったっす。滅茶苦茶やる気出たっすね」

 

 強く拳を握る。再確認した、自分の原動力を。どうして戦うのか、どうして戦いたいのか。それがはっきりする。それが解っただけでもこの図書館へとやって来た事に価値はあった。俺はあの娘と同じ時間を過ごしたいんだ。同じ時を生きていたいんだ。

 

 たとえ、それがいつか訪れる別れだったとしても……その時を一緒に過ごしたいんだ。

 

「その為には……あのクソ女、邪魔だな」

 

 本気になるのは難しい。

 

 本気というものは自分の全てを吐き出してまで勝とうと思える相手が存在しない限り成立しない。その上で対等な戦いになるかどうかはまた別の話だ。だがまずは相手と同じレベルの世界に踏み込まない限り、この戦いは始める事が出来ない。

 

 スマホを握りしめ、考えを整理する。目を閉じて自分の取れる手を全て考え、手持ちのアイテムと含めて情報を整理する。少しずつ深まって来る闇がタイムリミットを示している。これが光を飲み込んだ時が俺達の最後だ。完全に消化されて死ぬ事になるだろう。

 

 その為に取れる手は―――ある。

 

「ララ」

 

「何すかマスうわわっわっ!」

 

 スマホをララに投げ渡す。

 

「後で皆に自慢する為に最高に頭が悪くて格好良い事するから、映像撮っとけ。起きてから俺の活躍を見られないと東吾たちがあまりにも可哀そうだからな」

 

「このボクのもふもふうさハンドでっすか!? まあ……やってみるっすね……うおっ、誤タップ」

 

 ララがスマホの操作に悪戦苦闘している間にチェックする―――■■■との接続はまだ途切れていない。あの女からの干渉もない。その意図は良く解る。

 

 待っているんだ。

 

 俺の動きを、俺からの干渉を。否定する理由も、切る理由もない。最後の瞬間まで俺が足掻き、そしてこの状況を覆す事をこの世で最も信じていると言っても良い。エンディングに辿り着いた俺が、こんな所で消える筈がないと思っている。

 

 だから何をされても平気だと思っている。

 

 傲慢。

 

 上位者だからこそ通せる圧倒的な傲慢だ。だからこそ相手からのアクションがない。此方に全てをゆだねて受け入れる姿勢を見せている。だけど■■■だからこそ許される。それだけの強さを持っているから。何をされても負けないのは当然の事実でしかないのだ。

 

 だからこの状況を覆す手を取れる。

 

「マスター、何をするんすか?」

 

 は、と笑う。

 

「目には目を、歯には歯をだ」

 

 底のない闇を見上げる。

 

「底のない闇の中でこそ光は輝くんだ。先陣を切る炎には戻ってきて貰う」

 

 

 

 ―――ある意味■■■は最も鴉羽尊を信じている。

 

 その強さが自分を凌駕するものだと既に理解しているからだ。故に尊が食われた時も、動きが一時的になくなった時も心配なんてしていなかった。必ず戻って来る。それは信頼でも信用でもなく、ただ単純な確信であり事実でしかなかった。

 

「だって貴方は強いから」

 

 強いから。それに尽きる。強者は強者を知る。だから■■■は尊を良く理解していた。恐らくは地上にいる誰よりも。久遠や彼の母親、そして無論、剛三よりも深く、深く尊の本質を理解していた。顕現する上で久遠に近い姿を選んだのもそれが理由だった。

 

 これが、彼を一番奮起させる。

 

 それを理解して選んだ姿だった。無論、そこにはファンとしての心理もあった。初めて顔合わせするならお気に入りのドレスを纏う方が良いに決まっている―――そう、見た目の好悪や姿なんて所詮その時の気分で選ぶドレスの様なものだ。久遠という少女の外見は今、一番気に入ったドレスになった、というだけだった。

 

 そう。

 

 ■■■は人じゃない。

 

 だから人の心なんてものは最初から持ち合わせていない。

 

 それっぽいものを持ち合わせているだけで、生物としての価値観はその根本からして違う。

 

 それでも人という生命の事は良く理解している。そして理解しているからこそ、尊が絶対に諦める事がないという事も知っていた。

 

「……ん、来たっ」

 

 声が弾む。繋げられた意識を強く握られる感触が走った。これが常人であれば、■■■との接続は即座な死を意味する。発狂なんて生ぬるい事にはならない。そもそも生物としてのステージが違う。世界を見ている視点がまるで違う。脳が理解できるできないではない。ステージが違いすぎて、繋げる前に脳が吹き飛ぶ。

 

 そうならないのは、尊が唯一その視点から物事を見る事の出来る人間だから。

 

 提唱:英雄たちはエンディングをまだ迎えていない。

 

「ふふん、成程、そう来るのね。とても面白いわ。それは……前取らなかった手段ねっ」

 

 未知! 新しい展開! 新しい技術! あぁ、なんとも、胸が躍る! そう、尊は今、食らいついた、■■■の意識に、その権能に、シンクロを通した強制ハッキングを行っている。それを察してスルーした。その方が絶対に面白いから。そして尊もそれを理解して利用してきた。

 

「なら私もちゃんとルールに乗ってあげなくちゃ駄目ね」

 

 ■■■の《上位観測》!

 ■■■は既に英雄たちが死んでいるのを記憶している。

 反証:英雄たちはエンディングを迎えている。

 英雄たちは死亡し、運命は既に終焉している。

 尊の《■■観測》!

 反証:このゲームはエンディング後も続いている。

 英雄たちはエンディング後も活用できるキャラクターである。

 ■■■の死亡後も生存しているキャラクターとして活用できる。

 尊はこれらのキャラクターをエンディング後に活用した経験がある。

 《上位観測》は《■■観測》により矛盾を突かれた!

 Q.E.D.

 英雄たちの運命は解放された!

 

「―――!!!」

 

 口が苦しむ。

 

 悶える様に不定形が暴れ、跳ねる。離れた所で見守っていた館長の目が驚きに開かれる。この状況、もはや希望はないものとして死を待つだけだった瞳にわずかながら光が戻る。その視線は今、奇跡を目の当たりにしようとしていた。

 

 その声は、口の内側から聞こえた。

 

「―――アンタは誰よりも前を走り続けた。駆けて駆けて駆け抜けた! アンタは最前線で常に戦い続けた! その背中で皆に進むべき道を示した! そして今日もまた、同じ道を走り出すんだ! 皆に踏み出す勇気を与えたのはアンタだよ!」

 

 炎が口を内側から貫き、割った。飛び出す白銀の姿は炎の中から新生するようだった。兎と少年を抱え、騎士が立つべき深き闇の底から守るべき人を救い出して、再び戦場というステージに立つ。

 

 尊の《メタ観測》。

 《メタ観測》を通してエグゼリアの死は否定された!

 《メタ観測》によりエグゼリアのステータスが最適化された!

 《聖剣技》は《陽剣ソルグラント》へと変化した!

 《ファストアクション》は《焔の先刃》へと変化した!

 

 それは本来成立しない裏技だった。上位存在の目線を活用できるのは上位存在だけ。それを同じ視点に立つ事で覆す事で。大前提としてその視点を活用するだけの力と、力の主の許可が必要になる。だがこれを決して■■■は拒絶しない。

 

 面白いからだ。

 

 ただそれだけ、それを求めて時間を遡った彼女からすれば、自分へと意識を接続し、逆に利用しようと食らいついて来ることは絶頂する程楽しく、面白い事でしかない。自分と同じ視点に立って向かい合ってくれる存在が今、目の前に立ったのだ。

 

「―――心の底から感謝を。私の運命は決して終わったわけではないと証明していただき、感謝を。この剣、アーサーへと捧げたものですが今、この時は貴方へと預けましょうミコト」

 

 口から逃れる様に距離を空けて着地し、異形の怪物を挟み込む様に尊が■■■を睨む。それを■■■は受け入れて、嬉しそうにする。これだ―――これを見るだけでも時を遡る価値はあった。歴史に自分の影を刻み込む価値があったのだと確信した。

 

 苦痛に表情を歪ませながら右目を押さえ、尊が意識を集中する。それだけで■■■との繋がりが強化される。その動きは残された3体の羽虫(えいゆう)を呼び起こす為の動きだ。無論、それに介入する事は■■■にとっては簡単な事だった。

 

 しかし、介入しない。

 

 その意味はないから。

 

「アンタは最後の最後まで人を癒し続けた。傷ついた誰かに寄り添って生き続けたんだ。それは誰もが出来る事じゃない。アンタはどれだけ傷ついたとしても再び立ち上がる事が出来るという人の光を信じてたんだ。今度はその光をアンタ自身に向ける時だ! ラファエラ、再び立ち上がる力を与えたのはアンタだ!」

 

 尊の《メタ観測》。

 《メタ観測》を通してラファエラの死は否定された!

 《メタ観測》によりラファエラのステータスが最適化された!

 《クリアヴェール》は《天空の慈悲》へと変化した!

 《生命活性法》は《大天使の再動》へと変化した!

 

 光が降り注ぐ、羽が舞う。その中からラファエラが立ち上がる。その瞳の中に嘆きや苦しみはもうない。純白の翼を広げて再び彼女は戦場に立った。

 

「ありがとうございます尊くん……私は何百、何千、何万という命が戦場へと戻って行く事を眺める事しかできませんでした。ですがそうして癒した命が次の世代へ、命へと繋がって行くのであれば……諦めず、それでもと言ってまた命を救いたいと思います」

 

 役者が舞台に増える。

 

「オメガ! 無機生命最後の希望! アンタが何一つ守れなかったなんて事はない! アンタは戦った、最後まで戦い続けた! 抗ったからこそこうやって、次へと戦う為の時間が残されたんだ! 無駄じゃない! アンタは明日への灯火を守り抜いたんだ! その力でまた、皆の明日を守ってくれオメガ!」

 

 尊の《メタ観測》。

 《メタ観測》を通してオメガの死は否定された!

 《メタ観測》によりオメガのステータスが最適化された!

 《グラビティカノン》は《オーバークロック》へと変化した!

 《フォートレス》は《リミットカット》へと変化した!

 

 空間が悲鳴を上げる様に割れる。朽ちて、錆びて、崩れた鋼の肉体が再起動する。あらゆる無機生命が身を捧げて作り出した最後の希望は再び炉を希望の炎で燃やしながら動き出す。もはや運命がその命を奪う事はない。ただただ、その使命を果たす為に戦い続けるだろう。

 

「ハーデス! 俺達に言葉はいらないよな! お前に言うべき事は一言だ―――起きろ!」

 

 尊の《メタ観測》。

 《メタ観測》を通してハーデスの死は否定された!

 《メタ観測》によりハーデスのステータスが最適化された!

 《パーフェクトキャンセラー》は《冥神の誘い》へと変化した!

 《根の国》は《嘆きの大河》へと変化した!

 

「やれやれ……言ってくれるな。まあ、確かにそうだが。何時までも死んでいる場合ではないな」

 

 冥府の底で消沈していた炎は再び灯された。冥府の神にとって死者を慰撫する事は義務でしかない。それは褒められる事でも、苦労に思う事でもない。永遠に付き合い続ける己の責務であり、同時に誇りでもある。あらゆる生物が終わりを迎えた時、ハーデスには大事な役割がある。

 

 お疲れ様。

 

 次の生が貴方にとって優しいものでありますように。

 

 そう祈り、送り出すのがハーデスの役割であり、誇りだ。そしてその仕事はまだ、終わっていない。彼は世界が再建された時、再び多くの命を送り出す立場に戻らなくてはならない。このような場所で鎮火している暇などないのだ。

 

「はあ、はあ、はあ―――」

 

 フレーバーテキストを、設定を引っ張り出して、事実と経験で反証し、事実を否定する。《メタ観測》とは屁理屈による《上位観測》を否定する手段だと一瞬で■■■は気づいた。この戦いの本質は力の押し合いではなく、言葉による殴り合いだ。

 

 《上位観測》と《メタ観測》。

 

 言葉を尽くして屁理屈を通した方が有利を殴り取れる。

 

「ふふ、嬉しいわ。あの時は貴方と話す時間なんて全くなかったものね」

 

「存在しない記憶の話をされても困るし、俺はお前と話す気はない」

 

「そんな寂しい事は言わないで? 私、今胸がすごいドキドキしてるの……こうやって向き合うたびに貴方は私の期待に応えて、超えてくれるの。やはり、貴方が私の物語にエンディングを与えてくれる唯一無二なんだと確信させてくれるわね。やっぱり私、貴方が好きみたい」

 

「そうか、俺の好みはケツを蹴り上げて背中を押してくれる女の子だ」

 

「そう……やっぱり……私達って相思相愛かもしれないわね」

 

「頼むから俺の解る言語で会話してくれ」

 

 そう言いながら尊が戦闘の為の最後のカードを取り出した。それはスキルカードと同じ形状をしているが、全く異なる性質を持ったものだ。後ろから状況を伺っていた館長は直ぐにそれが自分の作ったものであると察した。

 

「それは……!」

 

「悪い人類、ちょっと数か月ぐらい新環境で混沌としていてくれ」

 

 掲げる様にカードが投げ上げられた。カードが弾け、光の柱となって広がり、世界の理が強制的にアップデートされる。降り注ぐ光の中で真っすぐと、尊の視線が■■■へと向けられ、交差した。既に2人の意識は観測合戦の為に結び付けられている。それでも、言葉は尽くしている。

 

「死んでくれ■■■」

 

「次はマスターごっこね」

 

 ふふふ、と笑いながら不定形が再びワームドラゴンの姿を取り■■■の前に陣取った。それに対応するように全盛期に限りなく近いレベルまで力を取り戻した英雄たちが尊を守るように並んだ。準備は整った。

 

 もはや待つものは何もない。

 

 二つの陣営は睨み合い―――そして図書館の命運を決める決戦が始まる。

 

 “口”レベル150 が あらわれた!

 ■■■レベル???? が あらわれた!

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