最強以外ありえない   作:てんぞー

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面白くないから

 《上位観測》には弱点がある。

 

 ■■■には攻略法がある。

 

 古来よりあらゆる神や災害を鎮めてきた方法と一緒だ。満足させればいい。こいつはそもそも勝つとか負けるとか、生物としてそういうステージには存在しない。だから倒す事は不可能だ。

 

 出来るのは欲しい物を提供し、満足させ、退散させることだ。

 

 だから最初からこのバトルはあの女を倒すものではなく、なるべく満足させるように立ち回り、口の怪物を倒すというゲームだったのだ。後半戦に入ってあの女は《上位観測》の頻度を落とした。

 

 俺はそれを満足のサインとして受け取り、リーサルまで持ち込んだ。もしこれでこの女が満足せずに居残ることを考えれば本当に全滅する。だから心の奥底では本当に帰ってくれと祈ってた。

 

「安心して」

 

 そんな此方の心情を察してか、■■■は安心させるように告げた。

 

「私、満足したから。だってそうでしょう? どの時代であっても鴉羽尊は鴉羽尊だったのだから。これ以上なく私は満足で満たされているわ! 不安に思う事は何もない! 貴方は必ず私を殺しにくる! それが再確認できた……それだけで満足よ」

 

「そうか」

 

「でも……」

 

 その一言で一瞬で全員が臨戦態勢に入る。リソースはもう尽きる寸前だが、ここであきらめるという選択肢はない。注意深く■■■を伺えば、彼女は問いかけて来る。

 

「貴方はどうして彼女の力を借りなかったの?」

 

 ■■■は上を指差す。

 

「気づいてるでしょう? 未来から覗き込んでるのがいるって」

 

 視線を■■■から外さない。だが彼女が何を、誰のことを言っているのかは解る。つまり、この戦いそのもののヒントの事だ。この戦いがなぜ起こるのを察知できたのか、その理由。

 

 未来から警告があったから。

 

「メリーを通してこっちを見てるアルティティシアの事か」

 

「やっぱり気づいてたのね」

 

「そりゃあな」

 

 超越の魔女、アルティティシア。最強の魔法使い。魔力値全キャラクター中1位。環境破壊者、公式チート、インチキクイーン、環境meta。様々な称号を己がものとした筆頭魔法キャラ。彼女であれば、まあ、未来から干渉して来るのもあり得るだろう。

 

 特に専用スキル、《理の超越》は発動後、詠唱コストを無視して魔法スキルを使用可能になるという究極のインチキを可能とする。そりゃあ環境も壊れるわ。恐らくスタンバイしてたんだろうなぁ、というのは感じてた。

 

「じゃあなんで頼らなかったの? 私はてっきりそれが来ると思ってたのに」

 

 或いは、《上位観測》が控えめだったのはそれを警戒してたから、かもしれない。だからこう答える。

 

「面白くないから」

 

「……面白くない?」

 

 予想外の返事だったのか、■■■はきょとん、として不意を突かれたような表情を浮かべる。その表情がどことなく久遠に似ていて……少しだけ、ムカついた。まあ、このことは一旦スルーしておいてやる。殺せば解決する事だし。

 

「そうだ、未来からの干渉とか既にクリア済みの奴がメタを放り込んで確殺する為のもんに決まってるだろ。少なくとも俺ならそうする」

 

「そうだな」

 

「私もそうします」

 

「対策する時間とリソースがあってメタらないのは怠慢ですよね」

 

「視聴者の皆さん、聞こえてるっすか? この世界に入るとメタが基本らしいっすよ」

 

 勝手に配信者にジョブチェンジするの止めてくれない? ともあれ、全会一致でメタは基本という意見にたどり着く。そして未来の俺なら絶対にそういうメタスキルかなんかを用意しておくだろう。時間軸的には既に攻略が終わってるならリソースも時間も余っているだろうし。

 

「こんなのチートも良い所じゃねぇか。折角全力で、本気で漸く戦えるってのに……こんな手段で勝ったのなら―――」

 

「勝ったのなら?」

 

 問いかけに、一拍置いてから答える。

 

「面白くない」

 

「面白くない」

 

 そう、面白くない。こんなチート同然の手段で勝てたとしても面白くない。チートは面白くないのだ。バランスが崩壊する。いや、この世界最初からバランス崩壊してるけどそういう意味じゃない。単純に戦う意味も中身もなくなってしまうのだ。

 

「この戦いは今の、この時代の俺の戦いだ。終わらせた俺じゃない。お前が今見てるのはここにいる俺なんだ―――どんなにお前が嫌いで、憎くて、死んでほしくても、相対してるのは俺なんだ。だったらそれに応えるのが俺の義務だ」

 

 俺は、裏切りたくない。このモンスターバトルという競技を。システムを。原作を。ちょっとした援護のつもりなのかもしれない。だが完成された未来図からの援護なんてチート以外の何物でもない。だから触れないし、求めない。その結果負けるとしたら全部俺の責任だ。それは謝ろう。

 

 だけど俺は真摯でいたい、このバトルというものそのものに。

 

 それだけの話だ。

 

「だから使わなかった。それだけの話だ」

 

「それで負けたら?」

 

「俺が弱かったというだけの話だ」

 

 まあ、と言葉を置く。

 

「そもそも“口”なんて量産型の雑魚、オーバークリティカル解禁した時点で敵でもなんでもないんだよね。この戦いでお前を倒す必要はどこにもないし。冷静になればやりようは幾らでもあった」

 

「あら、私を信用してるのね」

 

 いいや、と続ける。

 

「信用はしてない。信頼はしてる。お前は設定したゲームは絶対に守る。口を出してきた時点でお前は自分自身で手を下すつもりを見せなかった。絶対にやり過ぎると解っていたからだ。だからお前は最初から最後までずっと口を使ったマスターごっこに徹していた」

 

 これは単純にこの女の気質の問題だ。最悪の女だが、絶対にルールと約束だけは守る。

 

「お前はそういう所、絶対に破らない。そうだろ?」

 

「―――」

 

 呆気に取られた様子の■■■は数秒間黙ったままフリーズすると、しばらくしてからゆっくりと目を瞑って、それから静かに深呼吸をしてから視線を此方へと向け直してきた。

 

「尊くん」

 

「なんだ、カス女」

 

「私、貴方の事好きよ」

 

 本来、この女は実の父―――即ち創造神から次の主座を受け継ぐ筈だった。だがそれを待つ事もなく殺し、簒奪し、世界を滅ぼした。世界を滅ぼした女が誰かに一心に愛を注ぐことなんてありえない。あるとしたらそれはバグだ。壊れている。こうなるべきではなかった。いや、生まれるべきではなかった。

 

 この女は神として生まれるべきではなかった。初めから何かを間違えていたのだ。だから俺の答えは決まっている。

 

「黙れ、簒奪の滅亡神(アリア=マリス)。この世界に、この時間軸に、お前の居場所は存在しない。速やかにあるべき深淵へと帰るが良い」

 

 睨み、存在を否定する。

 

「お前に欠片でも強者としての矜持が、敗者としての矜持が、簒奪者としての誇りが存在するのなら今日の敗北を噛みしめてこの場を去るが良い。ここは俺と、地球人類と、そして最後まで希望を絶やす事無く抗い続けたこの図書館の正しき人々の勝ちだ」

 

 その言葉を噛み締めるように味わい、アリア=マリスは微笑んだ。

 

「えぇ、そうね……貴方の言う通りだわ。敗者の矜持、確かに噛みしめるべきね。なにせ、1度はそれを放棄して来ちゃったのだから今度こそ守らなきゃ」

 

 人差し指で空間をなぞると、空間が引き裂かれて異次元の通り道が生まれる。あらゆる生命が通る事を拒否する様な歪みの中、唯一それに干渉される事もなく通れる簒奪者が此方を見た。

 

「とても……とても素敵で素晴らしい時間だったわ。おかげで、これからも期待出来そう」

 

 そう言うと指をパチン、とスナップさせた。間違いなく何らかの干渉を行った。ここは彼女の世界ではないが、そもそも創造神級の力を持っているのだ、現実改変の一つや二つぐらい簡単にやってのけるだろう、この最悪の女神は。

 

「何をした」

 

「そう警戒しなくても良いわ。だって勝ったのならご褒美が必要でしょう? これは私からのプレゼントよ」

 

 ふふ、と絶やさぬ笑みで此方を見て、次元の向こう側へと消える前に顔だけ出した。

 

「メリークリスマス、尊。また愛し合いましょう?」

 

 中指を突き立てて早く死ねと無言でアピールし、次元の向こう側へと消えるのを見送った。

 

 それから数秒間、本当に次元の揺らぎも何もなくなり、あの女が完全に図書館を去ったのを理解し、長い溜息が溢れだす。漸く、漸く長すぎる戦いに終わりが訪れた。それを理解した瞬間、力が体から抜けて行く。

 

「やったな尊! 流石だ!!」

 

「ミコト! やりましたね! ミコト……ミコト!!!」

 

 終わった、そう思った瞬間体に力が入らなく。膝から崩れ落ち、床に倒れ込みそうになるのを神速で踏み込んできたエグゼリアに支えられる。

 

「しっかりしてください……!」

 

「尊! 大丈夫か!? ラファエラ!!」

 

「もう治療しています!」

 

「先ほどの戦闘の反動だろう、今マリアゲルダに治療の準備を命じてる! 急いで脱出するんだ、こっちだ!」

 

「大丈夫ですかミコト? 力が入りそうですか? ……マズイ、脈が落ちて来てる……!」

 

「はあ……はあ……はあ……」

 

 息が苦しい。体に力が入らない。胸が痛い。頭が痛い。血が止まらない。視界が白黒に明滅している。いや、赤い。戦闘が終わってこれまで気合と根性だけで堪えていた痛みと症状が一気に襲い掛かってくるようだった。まともに頭が回らない。

 

 駄目だ。

 

 さすが、に、死ぬ、かも。

 

 ぐるぐるしてきた。今、なんて考えた?

 

 痛い。苦しい。死が見える。蝶が舞っている。川の音がする。骨の人。ぼろ。船。懐かしい。

 

「む、迎えが来てるな。死ぬかも」

 

「冷静に言ってないで同郷なら追い払えハーデス!!!」

 

「マスター? 蘇生アイテムここに仕込んでおくっすね」

 

「人間に蘇生は通じませぇぇぇんッッ!!」

 

「え、人間脆すぎやしないっすか!?」

 

「コントしてる場合じゃねぇだろ!!! 心臓止まりかけてるぞオイ!!」

 

「尊くん! しっかりしてください! 大事な、大事なものを想って! それに縋り付いて! 進んじゃダメです、一番大事なものを胸に抱いて、それを忘れないで!」

 

 とうさん。ひらひら。きらきら。かあさん。ぷかぷか。よいのかぜ。

 

 しのくうき。よんでる。ちび。やすらかに。あかり。

 

 あかいはな。くろいみず。こんとん。いのち。まざる。む。

 

 いたい。

 

 かえる。

 

 くりすます。

 

 くおん。

 

 ……くおん。

 

 か……える―――。

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