最強以外ありえない   作:てんぞー

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確変演出来た―――!!

 久々に帰ってくるマイファームには微妙な懐かしさを感じるが、それよりもやることがある。初詣を終わらせた翌日にはもうモンスター協会に来ていた。

 

 そう、合体である。

 

 新環境の適応と準備が俺を待っている。何せ、魔女血統はここからC相当まで育成と合体をさせないとならないのだ。マジで時間が足りない。幸い、既に事前準備は終わらせてある。メリーはもう合体させるだけの状態だ。

 

「このエレベーターにも乗り慣れたなぁ」

 

「通い詰める時もあったからな……」

 

 いつも通り横には久遠。右目がまだ駄目なこともあって常に右側を固めている。なんかウチに泊まって面倒を見るとか言い出してる辺りは正直どうにかして欲しい。俺にもプライバシーはある。

 

 そして、逆側にはメリーがいる。本日の主役その1だ。彼女と合体予定の火の精霊も近くをふよふよと浮かんでいる。此方の方は自我が薄いのか、本能的な行動が多い。

 

「大丈夫か?」

 

「あ、そ、その、だ、大丈夫です……」

 

 なんか普段よりも吃ってる気がする。チラチラと久遠に視線を向けてるのも面白い。もしかして苦手だったりするのか? それとも俺から視線を逸らしてる?

 

「まあ、なんだ……」

 

「?」

 

「一回も勝負に出してやれなくて悪かったな」

 

 チンッ、と音がしてエレベーターが止まる。先に出るとメリーがあの、と声を張る。

 

「ふ、不満はありません! その、私は解ってて来ましたから! 私は駄目駄目だけど……この後の皆はきっと、マスターの助けになるって……だから、大丈夫です」

 

「ありがとう」

 

 メリーに感謝を伝えてから踏み出そうとすると、ころころと転がってくるものがあった。

 

 そう、エナドリだ。

 

 正面に視線を向けるとあっちこっちエナドリの山があった。これを見るとここに来たんだなぁ、という気持ちになるがそれはそれとして流石にこの量はやばくねぇか? という気持ちがある。

 

 案の定、合体所の奥を見ると骨だけになった博士とQちゃんが骨になった体にエナドリを流し込んで骨の色をエナドリ色に染めてた。

 

「それ、死んでるのか?」

 

「ギャグ補正だよ!!!!」

 

「あ、あの、ま、マスター? あの人たち人間……ですよね……?」

 

「ちょっと自信ないかなぁ」

 

「人間じゃなかったら自分達を装置に突っ込んでるとも!!!」

 

「やってみたが合体しなかったから人間じゃよ」

 

「わ……ぁ……ぁ……」

 

「メリーちゃん恐怖で泣き出しちゃったよ」

 

「よしよし……」

 

 もう試したとか言う辺りがだいぶホラー味がする。一体どういう度胸してるんだ? 本当に人間で可能かどうか自分でやってんのか? 怖い以外の感想が出てこない。ギャグで通していい範疇超えてない?

 

 でも、まあ、合体のが大事なので清らかに前に出る。メリーちゃんは相変わらずマジでここで出来るんですか!? みたいな顔をしてる。言いたいことは解る。でもこの2人はその道のプロフェッショナルだ。そこはまあ、信じてあげよう。

 

 そういう訳で火の精霊を片方に入れる。小さい精霊は指先を差し出せばそれを両手でつかみ、ぶんぶんと振って別れの挨拶とする。接していた時間はそう長くはないが、楽しい時間は過ごせたらしい。

 

 残るもう片方のシリンダーにメリーが入る事になる。それが自分の運命だとメリーも理解しているのだろう、シリンダーの前までやってくると足を止めて、振り返った。

 

「あ、あの、マスター! 少し良いですか……?」

 

「ん? どうした」

 

「そ、その……」

 

 ちらり、と久遠を見てから意を決すように此方に向いた。

 

「あ、あの! 抱きしめてもいいですか!?」

 

「全然いいよ」

 

 中々可愛らしいリクエストに、メリーとして最後なのもあって叶える事にした。近づいて腕を広げると、飛び込む様にメリーが抱きしめて来る。ぎゅ、っと力を込めてもあまり痛くないのはまだ第1世代のモンスターだからか。それにしても小っちゃくて可愛い娘だ。モンスターだとは思えない程に。

 

「あ、あのですね、マスター」

 

「うん」

 

「その、私じゃ全然力になれないですけど……けど次の私が……いえ、私達は絶対にマスターの力になりますから、その……期待してて……くださいねっ!」

 

 そう言うとばっと離れて、そのままシリンダーの中へと飛び込む。此方を見ないように帽子を深く被って顔を隠しているのは恥ずかしいからだろうか? 久遠と違ってこういう反応が可愛いとちょっと新鮮な気分になるよね。

 

「寂しかったら合体するまでシリンダーの中で過ごすか? お勧めじゃよ」

 

「今更だけどその骨だけでどうやって喋ってんだ……」

 

 ないない、と手を振ってから離れる。モンスター博士が新環境発表以来1時間も休みがないぜぇ、って叫びながら仕事してるのを見ると、環境変化で本当に死ぬ人がいるんだぁ……という知見を得られる。死ぬのは恐らくこの爺さんだけだからいっか。Qちゃん? せめて人類っぽいもんを指定してくれ。

 

 それはさておき、合体の為に必要なアイテムをモンスター博士に渡す。

 

 賢者の石。最高等級の隠し味。超越の魔女へと至る為のキーアイテムでもある。受け取った骨だけモンスター博士は賢者の石を握り、そして掲げる。

 

「なんだこの物質は……!? 見た事のない物質な上に密度、質量と共に異常だ。握って、そこに存在している筈なのに質量がマイナスに突入しているような軽さと希薄さがある……なのに凄まじいまでの存在感だ。強固で、軽く、そして……そして解らん、説明する言葉が見つからない」

 

「賢者の石っていうらしいよ。何でも究極の物質。完成された結晶、概念というものを補完する為の完璧な容器……らしい。概念そのものを濃縮してこの中に保存する事が出来る至高の物質だってね」

 

「賢者の石、これが噂の……! 流石に素材にするには勿体ないな……」

 

「そう言いながら迷わず素材スロットにシュゥゥゥーッ!!!」

 

「だってデータが気になるからっ!!」

 

「流石だよアンタら」

 

 狂ってるなぁ。人によっては殺してでも奪う様なレベルの物なのに、使う事に一切の躊躇がない。そろそろ危なさを感じて来たので離れて久遠の横に並び安全を確保する。

 

「それでは―――」

 

「スイッチオン! ぽちっとなっ」

 

 ばこん、という凄まじい光が合体機から放たれてモンスター博士とQちゃんがバラバラにふっ飛ばされた。部屋のいたるところに骨が散らばる中、最後に顔を持ち上げたメリーが手を振っている。だがその姿も直ぐに分解され、精霊と、賢者の石と融合合体し、一つのモンスターとなって中央のシリンダーへと誕生する。

 

「生まれるぞ……新たな魔女が……!」

 

「うわぁ、肉体取り戻してる」

 

「き、気持ち悪い」

 

「おっと、ストレートな罵倒は止め給えよ、傷つくからね」

 

 じゃあ気持ち悪い動き止めろよ。

 

「あぁっと! 茶番を挟んでいる間に合体も終わりそうだよっ!」

 

 散らばった光が収束し、それが赤く染まる。そうやって中央のシリンダーが解放され、中から一人の魔女が現れた。ウェーブのかかった長く赤い髪、同じように赤いドレス、右手には炎で編まれた杖、その肩の上には同じように炎で編まれた鳥が乗っている。

 

「火と情熱の魔女、エウプロイア……火を絶やさず次へと受け渡す為にここに……マスター、私達の出会いは必然です。短く、直ぐに次の私と交代する事になるでしょう。ですが、私が貴方を敬愛し、そして尊敬する心は前の私が抱いていたものと一切変わりありません」

 

 優雅に、優美に一礼を取る。

 

「どうぞ、宜しくお願いします」

 

「宜しく、エウプロイア。来てくれたことを、現れた事に感謝する」

 

「はい、必ずやいずれ至る超越へと……続きましょう」

 

 これで本日1件目の合体が完了した。シリンダーから降りてきたエウプロイアは大人の女性だ。背丈もメリーよりも大きく、彼女の面影があんまり感じられずちょっとだけ寂しさもある。ただ、それもまた合体とバトルの醍醐味という奴だろう。

 

 エウプロイアを迎え、本日2件目の合体へと移る。

 

 憑依させてある訓練済み低級霊をシリンダーの中に叩き込み、恐らく最も重要であるアイテムを博士に預ける。

 

「これは……何も書かれていないな」

 

「未来ってのは常に白紙の物語なんだ。何も書かれてないからこそなんでも描く事が出来る。未来ってのはそうあるべきなんだ……って象徴なのがこの本。本当は色々と書いてあったらしいよ、この本。でも彼方側が滅んで、こうなってしまった」

 

「成程、合体に使う事で本来の物語がモンスターを通して描かれる訳か」

 

 流石博士、察しが良い。

 

「ここに記録されているのは物語の英雄譚に出て来る様な人達じゃない。影でひっそりと頑張って死んでしまった人の記録なんだ。だけど誰もが立派に己の役割をはたして、その結果世界は最後の瞬間をギリギリ迎える事が出来た。その僅かな1秒、1分、10分、それを積み重ねて来て3時間29分38秒という時間を稼ぎ切った様々な人の記録だよ」

 

 合体を通してストーリーを追う。だけど同時に合体して生まれて来たモンスターの未練を晴らさないとならない。そうしないと次の段階へと移る事が出来ない。だがそれを積み重ねる事でそれぞれのモンスターが望んだ結末へとたどり着く事が出来る。

 

 そうやって完成するのが“未来”なんだ。

 

「誰もが努力した。誰もが抗った。そうやって生まれて来る未来の導なんだ、これは」

 

 本来ならもっと後に話題になり、手に入るアイテムだった。だけど俺はこれを早めに回収した……なんかのミスで消失したり手に入らなかったらそのまま詰みになるからだ。

 

 《白紙の未来》は単純なメタスキルではない。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()なのだ。

 

 神の絶対性はその力と権能、全知である事で証明されている。だがその法に当てはまらない存在がいれば? 神の存在しない未来で生まれる命があれば? それは存在そのものが毒だ。それは全能者に対する終止符になる。

 

 そう、ラストページだ。

 

 あの滅亡神の言う通り、“未来”は神という物語のラストページの証明になるのだ。

 

 この性質は彼女が未来を知った所で絶対に変わらない。何故なら誕生するのは彼女の世界の未来でだからだ。

 

「頼んだよ博士、これに世界の命運がかかってるからね」

 

「合体失敗したら?」

 

「地球終わりっすね」

 

「ぽんぽん痛くなってきたの」

 

「はよ仕事しろや」

 

 ぽんぽん痛い言う癖に仕事は素早く、そして的確だ。どんなモンスターが生まれて来るのかワクワクしながら見ているというのもあるだろう。エウプロイアと久遠と離れて見守っていると、合体の準備が整う。素材を投入し、何時も通り合体が始まる。

 

「あ」

 

「あ? 今あって言った? ねえ?」

 

「あ、いや、まあ、なんとかなるだろ……たぶん」

 

「たぶんじゃねぇよクソボケ!!! 世界が滅びるか否かかかってんだぞお前!!!」

 

「た、たぶん気のせいさ! ね!」

 

「……うん!」

 

 滅茶苦茶不安になって来た。が、もはや止める事は出来ない。滅茶苦茶ガタガタ音を立てて揺れている合体機を不安に押しつぶされそうになりながら眺めていると、機械のあっちこっちから閃光が飛び出してくる。あ、これダメかもしれないな。さよなら世界。

 

 密かに十字架を切って前世への別れを考えていると、光が固まり、圧縮され、逆再生するようにシリンダーの中へと押し込まれて行く。それを見てQちゃんが拳を握った。

 

「確変演出来た―――!! 仕込んでおいて良かった!!!」

 

 近くの消火器で殴り倒しておいた。フレッシュな死体を皆でエレベーターの中に捨てている間に合体が完了する。中央シリンダーから光が消え、その中から幼い少年のシルエットが浮かび上がる。

 

「わ、ぷっぷっぷ! なんか凄い煙いっすよここ! ……わぁ!?」

 

 シリンダーから出ようとした少年は躓くと、そのままシリンダーから転がり落ちて、頭をぶつけながら3回転して目の前まで転がって来た。そこで大の字になって倒れていると、ゆっくりと顔を上げた。

 

「あ、あははは……ココナ村のウェンっす。宜しくお願いするっすよ」

 

「あ、あぁ……よろしく」

 

 どこからどう見ても頼りない少年の幽霊が床に倒れたまま、サムズアップと共に挨拶してきた。

 

 これが全ての始まりかあ……。

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