最強以外ありえない   作:てんぞー

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シティエルフの皆さん

「エウプロイアは瞑想と魔力制御訓練だ。最大MPと魔力をガンガン伸ばそう。足の遅さとかは気にする必要はない。最終的に求められる役割は砲台役になるから、長所を伸ばしていこう」

 

「はい、必ずや期待に応えましょう」

 

「それからウェンは……」

 

 半透明なゴーストの少年へと視線を向けると、キョロキョロと牧場を見渡していた。生前の未熟さと幼さのままの少年の姿に苦笑が漏れると、それに気づいたウェンが焦って振り返る。

 

「あ、ご、ごごご、ごめんなさいっす! えと、何をすればいいんすか……?」

 

「トレーニングする前に、ウチの牧場見て回る?」

 

「回るっす!」

 

 なんか弟が出来たみたいな可愛さだなぁ、と思いながら歩き出す。

 

 モンスターの合体を終わらせてから数日、色々とゴタゴタしてて大変だったが、漸く腰を落ち着けられるようになった。これで本格的にCランク戦線の準備が出来るようになる。

 

 少なくともエウプロイアはあと2回合体させてCで使える段階まで育てないとならない。

 

 そう考えると実際に参戦できるのは4月辺りだろう。それまではモンスター達の準備をしたり、環境を更に魔境に変えるための手を打つ事ができる。

 

「うぉー……ウチの村も広かったっすけど、ここも広いっすね! ウチは薬草農園だったっすけどこっちは牧場? 牧場ぽいっすね」

 

「なんかモンスターだったり、人形だったりが徘徊してるから一見は解らないよね。一応は牧場だよ」

 

 ちなみにララ以外にも合体事故限定のモンスターみたいなのがいて、特殊な条件を満たして合体すると事故って出てくるみたいな羊型モンスターがいる。

 

 《教導》と《品質向上》持ちのモンスターで、同じカテゴリーの生産系モンスターの生産素材の品質を向上させ、尚且つトレーニングに採用すると成長効率を上げることが出来る優秀なやつだ。

 

 今も二足歩行で残像を残すスライド移動でチビ達ランニング組のトレーニングを見ている。他にも似たようなトレーニング補助のモンスターや、生産系のレアモンスターを牧場に配置している。

 

 コイツらは別にレベル上げたりしなくても仕事するから用意するのが楽なんだよね。特殊レシピのレアモンスターは再現しやすくて助かる。

 

「牧場はジジイに押し付けられたもんだし、維持は自費扱いで最初は父さんと母さんの貯蓄切り崩す生活だったけど……利用者が増えたり、特産品が増えて黒字になったおかげでモンスターを増やしたり、牧場機能に投資出来るようになったんだよなぁ」

 

「ほぇあー……大変なんすねぇ……オイラはそういうの全然すからねぇ……」

 

 そう言うとウェンは頭を掻いた。

 

「……もうちょっと、親孝行しておけばよかったな……」

 

 ウェンは既に死んでいる。だからゴースト系のモンスターとして存在している。その事実は覆らない。だからぽんぽん、と紛らわせるように頭を撫でる。

 

「過去は変えられないけど、未来は変えられるんだ。これからだ」

 

「……うす!」

 

 歩き出す。牧場内はモンスター達も増えてきてだいぶにぎやかになっている。俺がいない間にキャンプ場も出来てる。おかげで違法じゃないレイド村も完成されてしまった。

 

 ウェンを連れてレイド村に行くと朝から運動してるレイド民の姿があった。揃ってラジオ体操してる姿を見ると平和だなぁ、と思う。

 

 その裏では意思統一してボスをハメ殺すための封殺コンボ用意してるのは何も平和じゃないけど。

 

 地味にリーサル用のコンボをマルチルートで用意しながら、一つが駄目なら次のに切り替える柔軟性を備えていて凄い優秀なんだよね、この人たち。ランクマで見かけないから趣味と実益兼ねたレイド廃人なんだけど。

 

「おはようございます鴉羽くん、見回りですか? お疲れ様です」

 

「おはよう、調子はどう?」

 

「今日は高ランクレイドの出現条件を探ろうかと。そろそろSレイドを発生させたいなぁ、と皆で話してまして」

 

「うん、ウチの牧場吹っ飛ばす事だけは止めてくれよ?」

 

「はは」

 

「誤魔化すな」

 

 まあ、発生しても被害はレイドダンジョン内だけだと思うけど。最悪、近くにある根の国の入り口をぶつければいいだろ。そういうわけで完全に移住者のように振る舞う異常者達に別れを告げてまた歩く。

 

「ウェンも、あまり長くいられる訳じゃないけど……その間は牧場の仕事、手伝って貰うからな?」

 

「任せて欲しいっすよ! こう見えて昔はとーちゃんかーちゃんに畑仕事とか叩き込まれたっすから! 結構得意っすよ!」

 

 ニカッと笑って、それから頭を掻く。

 

「こうなって思うんすよ……もっと一緒にいればよかった。もっと言うことを聞けばよかった。もっと、もっと……って。振り返ると短いのに後悔だらけの人生だったっす」

 

 それから少し俯き。

 

「オイラ……!」

 

「この雌豚が!!!」

 

「この程度耐えられないのか!? その程度の耐久力で敬愛する御主人様を守れるのか!?」

 

「……」

 

「……」

 

 ウェンの言葉が罵倒とちょっと艶かしい女の声に掻き消された。声がする方を見る。

 

「……あれ、なんすか?」

 

「鎖に縛られて吊るされたウチの主力タンクだねぇ」

 

「周りの方々は?」

 

「コンクリートジャングルに適応したシティエルフの皆さんだよ。路地裏で野良のシティオークを狩って生活してた所を雇ったんだ」

 

「何をしてるんすか……?」

 

 少年の視線の先では数人のシティエルフが言葉責めしながら丸太をハンマーのように振るってそれをウチの女神に叩きつけてた。一応耐久力トレーニングの一つでHPと丈夫さを伸ばせるのだが……。

 

 ちょいちょいと手招きする。シティエルフが手を止める。

 

「カスが……ご主人様への感謝の念を忘れずに休んでおけよ!!! あ、はい、何でしょうか? 進捗は悪くないですよ。いい感じに自尊心がへし折れてきたから刷り込みに入ろうと思ってます」

 

「トレーニングしろって言ったんだよ。雌豚育てろとは言ってねぇんだよ」

 

 俺の言葉にシティエルフは笑った。

 

「えぇ、そうですよ。そもそも女神とかいう種族が傲慢で、高慢で、それでいて自分を絶対上位に置いている種族なんです。彼ら、彼女らは上位種族としての誇りがあるから最後の一線で完全な忠誠を誓えないんです。だからまずはその自尊心をへし折る所から始めないといけないんですよ」

 

 シティエルフはサムズアップを浮かべた。

 

「Rick塾で学びました」

 

「まあ……Rickさんの言う事なら……」

 

「信じるんすか……!?」

 

「大丈夫ですマスター!」

 

 鎖に巻かれて吊るされてる我らが今期期待のタンク女神、イーリュが声を張る。

 

「これは私のマスターへの忠誠が問われているのだと認識しました! マスターこそいずれ世界を救う救世主たるお方と確信しました! その為にも私、どんな責め苦であろうと耐える所存です……!」

 

「良い度胸だなメスブタぁ!! オラ! もっと丸太増やすぞぉ! あ、トレーニングに戻りますね」

 

 去って行くシティエルフと再び丸太を叩きつけられる女神。それを数秒程眺めてから俺達はその場を去る。無論、頭を抱えながら。

 

「あれは……あれは一体何なんすか? オイラ達何を見せられたんすか?」

 

「解らない……救えない事だけは解る」

 

 まあ……ステータスは伸びてるしいっか……。

 

 こうやって牧場を巡っていると色々と増えているなぁ、とかちょっと変わっているなぁ、とかが見えて来る。設置してあるあの大きな扉は図書館へと通じる扉だ。あっちの方にある鳥居は根の国へのショートカットだ。どっちも危険地帯だからなるべく人を近づけたくはないのだが……あっ。

 

「どうしたんすか?」

 

「キュウビの奴また……」

 

 根の国エリアに近づくと足元が彼岸花だらけになる。アンデッド系が落ち着いて暮らせるエリアになっている所に踏み込み、鳥居に近づくとまた空になったダンボールが積まれていた。あの駄狐共、ちゃんとダンボール縛って纏めろと言ってるのにまたバラバラに重ねてる。

 

「ダンボール捨てるのって結構面倒なんだぞ。ゴミの分別するだけマシだけど」

 

「なんか……大変そうっすね」

 

「大変だけど楽しいよ」

 

 東京にいたころには絶対に味わえない楽しみだった。この生活は、前世は味わえなかった事で溢れている。早く起きてチビ達のご飯を用意したり、モンスターと遊んだりトレーニングしたり、命の危機を覚えたり。

 

 今もフェンスを越えようとしてくる馬鹿配信者がダンジョンから飛び出した野生のモンスターに襲われて巣に持ち帰られている。

 

 アイツら、完全に学習して、この手の馬鹿以外は襲わなくなったんだよね。駆間人を襲撃すると100%ダンジョンごと滅ぶから。

 

「ウチの牧場も有名になって来たな」

 

「無法地帯としてっすか?」

 

「無法地帯なのはここら一帯全部だよ」

 

「なんで生活出来てるんすか……?」

 

 なんでだろうね。

 

 でも見てると楽しい。歩いてみても楽しい。既にこれは俺の一部と言っても良い日常だ。今更生き方を変えろと言っても難しい。そういう意味じゃ……少しだけ、ジジイにも感謝しているかもしれない。

 

 と、大雑把に牧場を見て回り、再び家の前まで戻って来た。愉快な牧場を見て回ったウェンは懐かしさに目を細めてた。

 

「オイラ、昔は手伝いが面倒で嫌だったんっすよ。そんな事よりも冒険者になりたかったっす! 世界は凄く広くて、見るものがいっぱいだったんすよ! 水晶で出来た都市! 謎の空飛ぶ都市! 黄金に輝く海! 冒険譚を読むたびに胸がもうドキドキしたんすよ!」

 

 でも、と続く。

 

「薬草を育てるのを手伝えとか言われる度に現実に引き戻されて……それが嫌だったんすよ。同じ日常が続いて、それに嫌気がさして……自警団の人に戦いを教わって……大きくなったら絶対にこんな村を出て行こう、って決めてたんすよ」

 

 そう言って苦笑した。

 

「まあ、その前にオイラ死んじゃったんすけど」

 

 思いを馳せる様に空を見上げる。それに合わせてウェンの前に光の粒子が集まり、一冊の白い本が―――合体に消費した筈の白紙の物語が戻って来た。

 

 本を開けば、新たな物語が記述されている。

 

「オイラ、未練があるんすよ」

 

 ココナ村の少年ウェンの物語。小さな勇気、大きな無謀、何も成し遂げる事が出来なかった少年の悲劇。精一杯の勇気を掲げて、頑張って、その全てが無駄だったというだけのありふれた悲劇の話。それが最初の物語だった。

 

「マスター? ダンナ? うーん……そうっすね……大将……うん、大将!」

 

 呼び方を決めたウェンが此方を見る。

 

「大将、お願いがあるっす! オイラ弱くて、直ぐに合体の素材になると思うっすけど、その前にどうしてもやりたい事があるんす。出来たら大将の力で叶えて欲しいっす!」

 

 それは物語の中でウェンが成し遂げられなかった事。彼の悲劇を飾った出来事のエンディングのIFを描く為。

 

「ゴブリンキングと戦わせて欲しいっす……!」

 

 Bランク相当、第5世代のモンスターとの戦いを望んだ。

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