『求 ゴブキンとFF 1時間↑ こっちから色々と指定あるかも スキル代負担 出 パフェキャン 制限 駆間在住』
SNSに放流したら10秒で100人釣れた。
『ゴブリン専門です! 同人誌も描いてます!!』
『合体施設予約してきました』
『合体施設襲撃してきます』
『ゴブキン染めしてます、何でも対応できます』
『今、鴉羽ファーム向かってます』
『祭りじゃん』
『暴徒を鎮圧しました』
駆間警察の皆さん、お疲れ様です。
ゴブリンキングは作成条件がゆるいタイプのモンスターで、同じゴブリン系統のモンスターとのシナジーが強い、ゴブリン染め専用のモンスターだ。Sランク用になるが更に特化させたゴブリンゴッドという戦闘中に死亡したゴブリンのスキルを獲得する奴もいたりするが……まあ、あれはT3ぐらいの強さだ。
何はともあれ、爆速でフリーファイトしてくれるマスターは揃った。15秒目ぐらいで返信を閉じないと際限なく応募者が増える所だった。だがそのおかげでゴブリンキングを出してくれるマスターは見つけられた。
ちょっとだけ発言を遡ってマジモンの変態かどうかを調べて……そして問題がなさそうな変態であれば決定。一番人格的に問題なさそうな奴にダイレクトメッセージでスケジュールを聞き出して調整する。なんだかんだこの時期は皆仕事で忙しかったりするので中々捕まらないと思ったが、1週間後にはフリーファイト組んでくれるという事になった。
「爆速だったなぁ」
「お兄ちゃん、パフェキャン1枚今時価8億だよ」
「そら早いわ」
というかパフェキャン値上げした? ちょっとした疑問に調べてみたら叶プロとかいう人物が《冥神の誘い》とかいうぶっ壊れスキルを使っているのが原因で、実は《パーフェクトキャンセラー》から進化させられるスキルあるのでは? とか言い出した奴がいるらしい。
賢いなぁ。他にもあるよ。そして賢い人間から破産して行く。そこから先は地獄だぞ。
地獄だと解っていてもハーデスのぶっ壊れスキルみたいなのは誰だって欲しい。欲しいから検証が始まる。検証するから破産する。ついでに相場も上がる。皆苦しんでる。ちょっとコレ罪悪感感じるな。後でスレに専用スキルのレシピちょろっと投下するか。
「というか灯、お前相場解ってるんだな」
「私今、牧場の宣伝の為に配信してるからね。そこそこ世間に詳しいよ」
どやっ。
「へー」
全く興味がない。宣伝はこのまま妹に任せて俺はバトル方面に集中すれば良いか。とりあえず、これで予約は出来た。後は来週実際にバトルするだけだ。ウェンへとビシ、っと指を向ける。
「来週の為にスキル色々と付け替えるけど……トレーニングをまずは優先な。将来的にクリティカル関連を詰めたいから技量伸ばしで行こう」
Aランクで統合されたチビの血統とロストヒーロー血統で回避カウンター血統とクリティカル特化血統をSで完成させて、回避カウンター+オーバークリティカル型にする予定だ。クリティカル関連のステータスは技量なので、これを伸ばす必要がある。だからウェンとそれ以降の世代は全部技量系トレーニング予定だ。
オーバークリティカル実装前は結構死にステだったよね。
「う、うっす……って、こんなに簡単に決まるんすね、バトル……なんか、もっと、こう秘境とかに向かうと思ってたのに」
「ダンジョンで戦うより他のマスターの手持ちと戦う方が楽だからね」
ついでに何度もリトライできる。それこそウェンが結末に納得するまで。ウェンは現代社会に適応できてないから首を傾げてる―――まだウェンは合体したばかりの第2世代モンスターだ。蓄積された経験も薄いからしょうがないだろう。
とりあえずは来週、来週だ。来週になればゴブリンキングと戦う事が出来る。そうなれば白紙の物語の第1段階を進める事が出来る。
それで、未来が動き出す。
「……」
「……」
「あの」
「くぅーん」
「お兄ちゃん。チビ、お兄ちゃんともっと居たいって」
「最近あまり構ってなかったしな。仕方がないか」
図体がデカくなってから一緒に遊ぶ回数が減ってしまったのはしょうがない事だが、やっぱり寂しかったらしい。起き上がるのを諦めるとぱぁ、っと厳つい顔が子犬の様に嬉しそうにする。デカくなったのは図体ばかりだなぁ、と思いながらデカいモフモフの中に体を沈める。灯も一緒にモフモフの中に沈む。
モフモフは大正義。これはしょうがない。
しょうがない、と言いながら暖炉の暖かさに眠気を誘われる。
まだやりたい事はたくさんあるのだが……まあ……あとでいっか。
そう思いながらまた1日が過ぎ去って行く。
トレーニング。ダンジョン探索。1日が終わる。
マスターとしての業務は意外と忙しく、余裕がない。正月が明ければ学校も再開される。その合間にマスター業を詰め込んでいるから忙しいのも当然だ。宿題もやらなきゃいけないし、期末テストもそろそろ見据えないといけない。
そうやって日常を過ごしていると1週間なんて時間は一瞬で過ぎ去り、約束の日がやって来る。
モンスター協会地下、バトルグラウンドにはSNSで募集し、採用されたマスターがいた。
全身を緑色に塗って、腰に布を巻いたほぼ全裸の変質者だった。
「気合の入ったゴブリンコスプレっすね。寒くない?」
「ははは、この時期は風邪を引くから病院の常連ですよ」
笑ってる場合ちゃうぞボケ。
「ごぶごふー!(早く服を着て!)」
「ごぶぶー!(風邪引いちゃうよ!)」
案の定手持ちのモンスターにまで心配されてるじゃん。
そんな訳で、SNSからは真性のゴブリン好きぽいのを採用した。その結果生活まで入れ込んでそうなタイプのゴブリン使いが見つかってしまった。連れてるゴブリンも低ランクから高ランクまで様々で、まさにエキスパートと言えそうな様子が見えた。
「今日はありがとうございます」
「いやいや、此方こそありがとう。パフェキャンは市場を漁ってたけど最近高騰が激しくて習得させられなくて……最近はB戦線でも活用されるし」
「環境激化してるな……じゃあ、先にパフェキャン渡しますね」
「先払いでいいんですか?」
「公正な取引は先に信用することから始まりますからね」
という訳で間にモンスター協会の人間を立たせて取引の記録を取る。売買は禁止されてるが、公式の記録を取りつつのトレードの類いであれば許可が出ている。禁止されてるのはあくまでも金銭のやり取りだ。
というかこの手の危険なカードを公式側で追いたい、というのが本音なのかもしれない。
ともあれ、図書館探索でダブりまくってるパフェキャンを譲渡する。既に叡智の書に記録済みなので現品はもう俺には不要なのだ。全部遠慮なくトレード等のダンガンに使える。
まだあと4枚あるし。
「はい、受け取りました。ホント助かりますよ」
「此方こそよろしくお願いします」
握手して取引成立。既にSNSで連絡を取り合って色々と合意に至ってるので確認は必要がない。ゴブ専の後ろからヌ、っと巨大なゴブリンが前に出た。
ゴブリンらしからぬ2メートルを超える巨体、頭の上の王冠、背に背負ったクレイモア。そして肩から羽織るマント。ゴブリンの王、ゴブリンキングの姿だ。
「ほう、これがゴブリンの王とやらか。中々の巨体だな」
「これでアタッカーじゃなくてシナジー役なんだから面白いよね」
当然のようについてきてる久遠が腕を組んで興味深げにゴブキンを眺めてる。ゴブキン本人は視線に恥ずかしさを感じてるのか頬を赤らめてそっぽ向いてる。かわいいね。
「な、なんか違うっす……! オイラの知ってるゴブリンと……!」
「まあ……野生のじゃないからね」
合体して生み出されたモンスターは経験と記憶を継承してる。このシステムは一種のセーフティらしい。というのも、マスター達にモンスターを使わせるうえで合体後、記憶がリセットされて本人の自我が濃い場合、場合によっては反逆される可能性がある。
これはそれを防ぐためのシステムなのだ。好感度を引き継げば酷いことにはならないだろう……という館長によるシステムの調整だ。
「……って幻想図書館の館長が言ってたよ。入院中にボイチャしてたら教えてくれた」
「それ、公共の場で唐突にリリースして良い世界の真実なんすか……?」
ゴブ専マスターは笑顔でサムズアップしている。よく見ると耳から血が流れてる。内容を聞ききって理解する前に耳を潰したらしい。アイデアロールに成功した協会の人はブリッジしてから奇声を上げてブリッジしたまま爆走し始めてた。かわいそう。
「て、テロ……!」
「気にするな。尊は何時もこんな感じだぞ」
「良くないっすよねそれ!?」
死人出てないしイイんじゃない? この緩さが余裕の秘密。
ゴブ専の耳を回復したらそろそろ本題……というより本番に入る。雑談ではなくウェンの未練を果たすために来ているのだから。
ウェンに視線を向ける。
「そんじゃ、そろそろだけど……行けそう?」
「……うす!」
ちょっと緊張してるのが見えるが、これぐらいなら問題ないだろう。相手と一緒にステージまで移動する。舞台端に並んで立ちつつ、ウェンを先に行かせる。それを腕を組んで見送る。
「最初は何も指示を出さないから、好きにやれ。そっちのがいいだろ?」
少しだけ驚いたような表情を見せ、それから大きく頭を下げた。
「あざっす!」
ウェンの大きな声が響き、舞台へと進んでゆく。続くゴブキンが振り返り、こちらを見るので、頭を振る。それだけで意図は伝わる。ゴブキンとウェンは中央に立ち、睨み合う。
「いいんですか? 負けますよ、彼」
「それでいいんです。最初に必要なのは納得。次は反骨心。それすらないなら未来はなかった、ということで。俺はこういう風に応えてくれる方が驚きでした」
俺の言葉にゴブ専マスターが苦笑した。
「ゴブリン専門をしていると偶にいるんですよね、恨みとか、トラウマとか、そういうのに直撃してくる相手が。勿論、因縁なんてありません。皆問題を起こさないいい子ばかりです。ですけど、まるで存在しない前世の記憶みたいなものがあるんでしょうね……そういう恨み辛みは見たことがあります」
「改めて、ありがとうございます」
「いえいえ、此方こそ貰い過ぎなぐらいなので、出来る範囲で協力しますよ……と」
そうして話している間に戦闘は始まり、ゴブキンの攻撃を受けて食いしばり、カウンターを叩き込んで……全くダメージを与えられず、そのまま追撃を受けて死ぬ。
蘇生アイテムを投げる。回復魔法が飛ぶ。
「もう一度お願いするっす!!」
少年に応えるように無言でゴブキンはクレイモアを構えた。
「かっこいいなぁ、畜生……!」
そしてまた死ぬ。何もできず死ぬ。更に死ぬ。繰り返して死ぬ。また死んだ。無意味に死んだ。それでも起き上がる。
「まだ……!」
少年は挑む。死にながら、それでもあんな結末は認められないと。その怒りと絶望をぶつけるように。まずは向き合わないといけない、現実と。それを理解する為に。
何度でも、何度でも勝てないという事実へと立ち向かって行く。