最強以外ありえない   作:てんぞー

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《小さな勇気》

「うわぁ―――」

 

 叫び声と共にウェンはバラバラに砕け散った。もう何度目ともなる敗北。しかし蘇生されてから即座に起き上がり、斧を構えた。

 

 もはや勝敗は決していた。誰が勝者なんか見て解っていた。それを誰よりもウェン自身が理解していた。それでも諦めたくない。斧を握って、ゴブリンの王へと向けていた。それにゴブリンキングはちゃんと向き合って、相手をしていた。

 

 ゴブリンキングの中に少年に関する記憶はない。だが、少年の恨みは決して間違いではないだろうと理解もしていた。ゴブリンはそういう種族だったし、そういう恨みが引きずられているという事にも理解があった。だからただただ1人の統率者として応えるべく、クレイモアを振るった。

 

 それから1時間が経過し、ウェンはまた死んで、起き上がった。

 

 仕方のない事だったのか? 絶対に起きるしかない悲劇だったのか? 止める方法はなかったのか? 斧を振るって、頑張って、必死になって、食らいつこうとして―――それでもウェンはあっさりと死んだ。2発、昔よりはマシだった。食いしばり万歳。

 

 でもそれだけ。カウンター気味の一撃は決して深い傷を与えられる訳じゃない。ただ一矢報いて終わり。そこに意味なんてなかった。

 

 それが2時間続いて―――漸く、地面に仰向けに倒れ込んだ。

 

 その姿に近づいて、覗き込む。

 

 ウェンは泣いていた。

 

「戦えば戦う程解るっす。どうしようもなかったって。ああなった時点でオイラの運命は決まってたんすよ。逃げきれない、勝てない……オイラとココナ村は散る運命だったんす……あの時、オイラはどうすりゃあ良かったんすかね」

 

 涙を流す姿にゴブキンが背を向ける。人間が出来過ぎてる王様だなぁ、と思いながらウェンの横に腰かける。

 

「勝てると思った?」

 

「無理っス。絶対に無理っす。無理って解っててやったっす」

 

「助けを求めようとは?」

 

「思えなかったっす。絶対に間に合わないし、足りないから」

 

「そうだ、お前は絶対に勝てない。ココナ村の運命は変わらないんだ。あの村は絶対に滅ぶ運命だったんだ。そしてウェン、君も絶対に死ぬ。この結末だけは変える事が出来ない、絶対の部分なんだ」

 

 第2世代で第5世代に勝てるか? まあ、マスタースキルとちょっとした脱法コンボを駆使すれば……みたいな話はある。だけど現実に考えて、当時のウェンがそれを使えるわけがない。これはリアリティに欠ける描写だ。だから白紙の物語は受け入れてくれない。

 

 そう、物語を書き換えるにはリアリティが必要なのだ。

 

 未練を解消するに至って、白紙の物語は当時の状況で再現、或いは可能な出来事のみを受け入れて、改変してくれる。そうする事で物語に僅かながら救いを残す事が出来るようになる。だからウェンがあの状況でゴブリンキングを倒す、というのは不可能だ。

 

「諦めるしか……ないんすか!? 大好きな村を諦めるしかないって言うんすか!? 何も出来ないなら、無力なら! 何も出来ちゃいけないって事なんすか!? 神様がそう決めたんすか!?」

 

「間違えちゃいけないぜ。あの女神はカスでクソでゴミなのは事実だけど、あの女はそもそも最初から相手に最大の期待を向けてるよ。アレはアレで本当に命を愛してるんだ。歪みまくってるけど」

 

 それがあの女の弱点でもある。あらゆる可能性を残している事。それが最大の弱点。だから俺達でも殺せるのだ。

 

「次は俺の指示で動いてもらう……いいか?」

 

「……うん」

 

「良し、手を貸してやる」

 

 手を差し出せばそれをウェンが掴み、起き上がる。離れた所にいるゴブ専を見て、アイコンタクトで意思疎通を終えたらお互いにモンスター達から離れる。本来なら指揮所まで移動するべきだが、この戦いはそこまで広がらないから下がる必要はない。少しだけ離れた位置まで移動し、シンクロしてウェンに指示を送れるようにする。

 

「……行くっすよ」

 

「……」

 

 言葉もなく、目配せだけでいつでも来いとゴブキンがウェンを誘う。

 

 それに応えてウェンが飛び掛かった。先手は譲られた。それで良い。斧がゴブキンに当たり、ほとんどダメージを与えられず、それを払うようにウェンが吹き飛ぶ。

 

 《小さな勇気》。

 

 ウェン専用の食いしばりスキル。HPが満タンの時に発動し、絶対にHPを1残すスキルだ。

 

 《ポーション》。

 

 ウェン専用の回復スキルで、使用するとHPを固定数値で回復する。アイテムをスキルにしたような専用スキルだ。だが数字的にこれはウェンのHPを最大値まで回復できる。薬草農園で生まれ育ったウェンが両親に叩き込まれた技術。

 

 それがウェンを生かし、そして再び傷つける。

 

「あぐっ」

 

 食いしばる。また飲む。

 

「あがっ」

 

 食いしばる。また飲む。

 

「いっ」

 

 食いしばる。また飲む。

 

「ぐぎっ、げ、んぐっ……はあ、はあ……」

 

 食いしばり。また飲む。

 

 それだけを繰り返す。それしかできない。殴られて、吹き飛んで、また《ポーション》で回復して。生きているだけ。勝利には一つも届かない。死なないだけのループ。それを続けて、両手を床についた。

 

「これっすか……これがオイラの出来る唯一の事っすか……」

 

 ウェンの言葉に答える。

 

「そうだ。勝てない。逃げられない。なら耐えるしかない。勝てる人が来るまで。持っている全ての技術と知識を総動員して、それだけがお前に出来る事だった」

 

「それで……それで誰かが救えるんすか……? 村は助かるんすか?」

 

「いや、滅ぶよ。それは変えられない事実だから」

 

 でも。

 

「何か、変わるかもしれない」

 

「……」

 

 俯き、事実を噛み締めるように拳を握り、堪える様な表情を見せるウェンは自分の感情と戦っている。ちらっと視界の端に見えるゴブリンコスプレの男が完全に空気を粉砕しているのでお互いにそれだけ視線に入らない事を注意しつつ沈黙を保つ。

 

「オイラが……耐えれば運命は変わるんすか?」

 

「さあ?」

 

「オイラは、絶対に死ぬんすよね?」

 

「ああ」

 

 言葉にウェンは拳を握りしめ、歯を食いしばる。過ぎ去った日々を想い、そして怒りを力に変えた。

 

「だったらせめて……せめて……何かを、残す事に賭けてやるっす。それが運命に逆らえるというのならオイラ、何でもやるっすよ……!」

 

 だがこれは過ぎ去った出来事だ。既に終わった物語。今更ウェンが何かを覚悟した所で現実は変わらない―――本来なら。記録された悲劇に反応し、白紙の物語が起動する。最初に読まれた物語後半、ゴブリンとの出会いからのページが消えて結末が白紙の状態へと戻された。

 

「起動した」

 

 白紙の物語が予定通りに機能したのを確認し、カッコつけてパタンと本を閉じて光に戻すが―――内心、滅茶苦茶安堵の息を吐きながらぐにゃぐにゃに溶けたい気持ちだった。滅茶苦茶ロールプレイして雰囲気作ってるが、ウェンの精神的部分が物語の結末を変えるには必要なのだ。

 

 現実を受け入れた上で運命に挑むという意思が必要なのだ。

 

 それを引き出す為に未練と対峙し、その上でただ果たすだけでは駄目なのだ。

 

 これが失敗したら未来が詰みかねない以上、失敗は許されない。ある意味で高難易度ダンジョンに潜る事よりも神経を使う瞬間だった。初めての試みだし、何よりもフレーバーテキスト周りの内容を必死に思い出しながらやってるから物凄い自信なかった。

 

 まあ、でもなんとかなったから良し!

 

 しかしこれ、どういう状態なんだろうね? 時系列的には改変後の時系列だけど認知的には改変前だよね? それとも改変した後の事実でこの時間軸って再構築されてるんだろうか?

 

 ……深く考えると何らかのパラドックスに両手足突っ込む気がする。深く考えてはならないタイプの問題だよねこれ?

 

 忘れよう。難しい事は考えない。自分のやるべき事、成すべき事を考えて行動すれば良い。つまりこの物語の再構築を行う事だ。まあ、それに関してはここではなく牧場に戻ってからで良いだろう。

 

 とりあえず今は近づいてきたゴブ専に頭を下げる。

 

「やりたい事が出来ました、今日は協力ありがとうございました」

 

「いや、パフェキャン一枚貰ってるから全然釣り合ってないですから。もし他になにか必要なら言ってください、何時でも駆けつけますから」

 

「ありがとうございます」

 

 でもね、パフェキャンはそのうち配りてぇなぁ、って思ってるの

 

 だって今8億でしょ? でもこれランクマ環境必須アイテムであるなしでの構築の強さが変わってくるんだよね。逆に言えば皆がこれを手にすれば楽しく殺し合えるでしょ?

 

 つまり環境をもっと刺激的に出来るはずなんだ。

 

 ね! 叡智の書! 君ならサンタクロースになれるよね!

 

 俺はただパフェキャンを布教して皆で楽しく殺し合いたいだけなんだ! だから遠慮する必要はない。そのパフェキャンは布教予定の1枚なのだから。

 

 全人類パフェキャン配布計画をこそこそと脳内で練っていると久遠がバトルが終わって近づいてくる。

 

「終わりか? ……確かに、男の顔になってるな」

 

「だろ?」

 

「いやぁ、迷惑かけたっす」

 

 たはは、と頭を搔きながらウェンは頭を下げてから立ち上がる。その姿にゴブキンがゆっくりと近づく。その姿にウェンはビク、と体を硬直させるが、ゴブキンは手を差し出す。

 

「小さな戦士。勇敢。良い」

 

「……! うす! ゴブリンキングさんもとても強かったっす! ありがとうっす!」

 

 両手でゴブキンの手を取ると、それを大きく振った。それを見たゴブ専マスターが静かに涙を流す。

 

「数ヶ月ぶりに喋るところを聞いた……!」

 

「ごぶごぶ(王様はシャイだからな)」

 

「ごぶぶぶ(言葉より行動ってタイプだよね)」

 

「良くコミュニケーション取れるな……」

 

 うむ、と唸ったゴブキンは腕を組みながら頷いた。どうやらウェンの覚悟は認められるものがあったらしい。

 

 だが本当に辛いのはここからだ。書き直す物語に対して、ウェンは一人で挑まないとならない。そこに俺ができるのは僅かな加筆のみ。

 

 それがこのシナリオのコンセプトなのだから。

 

 ゴブキンと打ち解けてるウェンを見てると、新世界とあちらからは呼ばれているこの地球では、かつての因果はほぼ関係ないんだなぁ、と思える。

 

「後は物語を書き直すだけか」

 

 ある意味、これこそがウェンにとっての最も大きな試練になるだろう。そしてこれから続くロストヒーローズの試練の始まりでもある。俺はその結末を既に知っている。

 

 知っているからこそ心の底から思う。

 

 がんばれ、と。

 

 その活躍、献身、結末は全て、君たちにしか生み出せないものだと。

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