最強以外ありえない   作:てんぞー

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次の皆にもよろしくっす

 物語の再演が終了し、運命はその軌跡を変えた。力を使い果たしたウェンはそのまま雪の中へと顔面から倒れ込んだ。その場にいた全員が再演された運命の目撃者であり、力を使い果たしたウェンに拍手を送った。

 

「お疲れ様。助け、いる?」

 

「じ、自分で立つっす……」

 

 雪の中に倒れ込んだウェンが苦悶の声を上げながら立ちあがり、両手を膝について深い息を吐く。それは恐らく彼が迎えた結末に対するものだろう。自分が辿り着いた異なる結末に対して噛み締めるように目を閉じ、そして開いた。

 

「これが、オイラのたどり着ける異なる可能性だったんすね」

 

「そうだな、お前は必死に頑張って時間を稼いだ。その結果自警団の団長が帰って来る時間と、最後のエリクサーを生成するだけの時間を生んだ。お前は死んで、村も滅びる。その運命は一切変わらないけど」

 

「オイラの努力が、未来に小さな波紋を生む……っすか」

 

 立ち上がったウェンは拳を握り、自分の結末を噛み締める。言ってしまえば力不足で、ハッピーエンドには絶対にたどり着けないものだ。あの状況からハッピーエンドにしろ、という方が無理だ。アレがウェンという少年の限界で、ココナ村の末路だった。

 

 それでもそこに僅かな希望を残せたら、それはあの世界にしては大健闘と言わざるを得ないだろう。

 

 なにせ、本来は何も残らない筈だったのだから。

 

「文句はたくさんあるっす。それを言っても仕方のない事だって解るっす。だから次に託すことにするっすよ。全部終わって大将たちが勝てばきっと、全部元通りになるって信じて……オイラはオイラに出来る事をやるっす」

 

 その顔は、少しだけ大人びて見えた。

 

 既にウェンの中では合体し、次のモンスターへと己の志を受け継ぐ覚悟は決まっていた。だから俺はそのウェンの意志に応える。

 

 そこからウェンのトレーニングが進む。

 

 レベリングは上限が低い事もあって1日で最大値まで届く。

 

 それが終わったら技量トレーニングを限度まで行う。これもまた、レベル上限が低い事もあって直ぐに終わる。

 

 1月末にはウェンの育成も完了し、合体可能な状態になる。並行してウェンの合体相手も用意しておいたので、ここで困る様な事もなく月末、2月に入る前には既に次のモンスターへと合体して引き継ぐ準備が完了していた。

 

 そして準備が完了すれば合体しない理由もない。

 

 予定通り2月に入る前に、ウェンの合体の為に予約して合体所まで来ていた。

 

「つい先日合体で訪れたというのに、もう訪れるとは早いな」

 

「まあ2世代のモンスターだから早いのは当然かもしれないけどね! 先日合体した魔女ちゃんの調子はどうだい? 良い? 良さそう? なんか面白そうなデータ取れてる? ちょっと解剖しないかい!?」

 

「相変わらず馬鹿テンションだなぁ」

 

 合体所の様子は何時も通りエナドリが大量にあっちこっち放置されてる地獄の様子だった。ウェンの前にエウプロイアの準備が整ったから先に合体させたが、その時から合体所の様子は一切変わっていない。変わっているとすればモンスター博士が5人ぐらいに増殖している事だろうか。

 

「ふふ、どうして5人いるか、という顔をしているな? 機密保持が厳しくて簡単に新たな人員を増やせないからな……気づいたのだ……増殖すれば全ては解決するとな!!!」

 

「そっかぁ」

 

「人間でも増殖出来るんだな」

 

「気合を入れたらこう……の?」

 

 ちなみに博士Aは仕事して、博士Bは床で死んでいて、博士Cはソシャゲしていて、博士Dは天井から吊るされていて、博士Eはエナドリを飲み続けているだけだった。増殖してる意味あるのかなぁ……とか思っちゃいけない。本人は多分満足してるから。

 

「ま、博士の人間化け物疑惑はさておき、今日も合体宜しくお願いします。こっちもC適応で忙しいからサクサクやっちゃおう」

 

「うむ、ワシも実はこの後も予約があってな。予約のない時間がないというのが正しいんだが。お前もなるべく合体は一括でやって欲しい。バラバラに連れてきて違うタイミングは止めてほしい。本当にね」

 

「ごめんて。育成終わったタイミングで連れて来てるんだよ」

 

 だからウェンの前にエウプロイアの合体を先日終わらせている。ウェンは白紙の物語関係でちょっと遅れてるのが影響出てる。ただ今のペースを考えれば2月中にはCランク適応まで持ち込めるんじゃないか? と思わなくもない。

 

 いや、3世代目から必要なトレーニング量増えるし2月は難しいか? なんにせよ、実際育ててペースを見れば良いだろう。

 

 連れてきたウェンと合体素材として用意したゴースト系モンスターをシリンダーへと導く。先にゴーストが片方のシリンダーに入り、もう片方にウェンが入る。

 

「大将、短い間だったっすけど楽しかったっすよ。あの村の外の世界をオイラは見られたし、この先にもきっと未来はあるんだって思えたっす。それだけでこんな形で2度目の生を与えられた事の意味があったんだって思えたっすよ。次の皆にもよろしくっす」

 

「おう、また遠い未来、世界が創り直されたら会おう」

 

 拳を作ってそれを叩きつけ合う。それを別れの挨拶にしてシリンダーから離れ、博士の方へと向かう。今回はスキル調整があるのでちまちまと設定の方を弄る。館長がお年玉代わりに変異結晶をダースで送ってくれたおかげで、だいぶ厳選作業が楽になってるのでありがたく使わせて貰おう。

 

 最終世代でロストヒーローズ血統には火力部分をオーバークリティカルで補って貰う予定なので、デフォルトでクリティカル100%を維持して貰いたいと思っている。そこから自己バフでクリティカル+100%するので、自己バフ関連のスキルを盛る予定だ。

 

 途中、ウィークメーカー系習得で弱点付与を取れるので、それ込みでこの血統はぶっ飛んだダメージを出せるようになる。だが現時点で取れるのはクリティカル関係のスキルだけだ。素材として変異結晶を投入しつつ、パッシブスキルでクリティカルを盛る。

 

 これで良し、スキル周りの微調整を終わらせる。恐らく5世代あたりでこの血統はメイン運用しないといけないイベントが開始されるので、それに合わせて今のうちからガチ運用できる仕込みをしなくてはならないのだ。

 

 それが終われば後は合体させるだけだ。

 

 シリンダーの内側から敬礼してるゴーストはなんなんだろうなあ、お前……って気持ちがちょっとある。

 

「素晴らしいな……また未知のモンスターが生まれて来る。だがただ未知なだけではない、まるでそれ以外の誕生を拒むかのように他の可能性が存在しない。まるで辿るべき未来が決まっているかのようだ」

 

「面白いね。長年合体をしてきてるけどモンスターという生き物は少なからずあらゆる可能性を内包しているものだと私は見ている。モンスターは単一の情報ではなく、様々な情報が混ざって出来た生命体だとも思っている。だから合体する時にブレが生まれる訳だ」

 

 Qちゃんはウェンを指差す。

 

「だが彼にはそのブレがない。絶対にある未来へとたどり着こうという純粋さしか存在しない。まるで合体事故を拒否してるようにさえ思える。恐らく何を相手に合体しても絶対にその合体しか出来上がらないのだろう……不思議だねぇ」

 

「人や科学を超えた力が働くのを感じるな……なあ?」

 

「なぁに、ちょっと教えてくれるだけでいいからサ! 世の真理とか! 秘密とか! 発狂しない自信あるから! だって既にしてるからッ!!」

 

 4人のモンスター博士とQちゃんにぐるぐる囲まれてるのが怖すぎて久遠の後ろに隠れる。久遠が睨みつけると全員逃げて行った。女の影に隠れてる自分が情けなさ過ぎて一回死にたくなってきた。

 

「大将!! オイラが合体する前に死ぬの止めてくれないっすか!? オイラが末代なの嫌っすよ!?」

 

「よし、茶番も済ませたしそろそろ合体するか」

 

「それではスイッチオン!」

 

 もはや慣れ親しんだ合体シーン。シリンダーの中身が分解されて、中央のシリンダーへと集まり、融合する。そしてその中にある概念情報が一つの形―――を取る前に、照明が落ちた。部屋全体が暗闇に包まれ、光が消えた。

 

 無言で消火器を構える。

 

「待て待て待て待てちたまえ! 違う! 今回のこれは私の演出じゃないぞ!? ちょっとガチャ演出っぽくしたらドキドキするかなぁ、とか思ってるけども!」

 

「合体にガチャ要素いらないです」

 

 必死に命乞いをするQちゃんの姿に消火器を振りかぶると、中央シリンダーにスポットライトが当たる。全員の視線が其方へと向けられるが、シリンダーの中身は空だ。じゃあ殺すかコイツ。そう思うとむ、と久遠が声を発す。

 

「上だ!」

 

 全員の視線が上へと向けられる。

 

 スポットライトもそれに合わせて移動し、天井付近の姿を照らした。

 

「―――にゃん」

 

 何時の間にか天井に逆さに立っている猫がいた。いや、猫にしては大きい。二本足で立ち、服を着ているのは獣に近いタイプの獣人だ。天井に逆さまに立ったままお辞儀すると姿が煙のように消え、スポットライトが俺達を照らす。

 

「ある時は道化師」

 

 ぽん、と肩を叩かれて横を見れば誰もいない。その間に既に逆側に回り込んだ猫の獣人は手に花を握っており、それを久遠へと渡してまた姿を消す。

 

「ある時はサーカスの一員!」

 

 背後で照らされるスポットライトに全員が振り返れば、大玉の上に乗った猫がよっとっと、と大玉の上でジャグリング跳躍し、空中で回転しながら再び大玉の上に着地してジャグリングを続ける。スポットライトが消え、今度は中央シリンダーが照らされる。

 

 その中から扉を開けて出るように階段をその猫は降りてきた。

 

「その正体は旅の芸……否、旅芸猫、アーティだにゃ!」

 

 ぱぁん、とクラッカーの音が鳴り響き、花吹雪が舞う。その中で綺麗にポーズを決めて登場した猫の存在に皆で拍手を送る。被っていた帽子を脱ぐと一礼してくる。

 

「ありがとう、ありがとうにゃ! 賞賛こそ芸人への最大の報酬にゃ」

 

 にゃにゃーん、とエフェクトを伴って現れたのは雌猫の獣人である、旅芸人のモンスターだった。よく見る擬人化タイプではなく、かなり獣に近いタイプのビジュアルをした獣人だ。着ている服のボディラインからどことなく雌っぽさを感じるビジュアルをしている、灰毛の猫だった。

 

 登場の芸を終えた所で落ちていた照明も元に戻り、箒と塵取りを取り出したアーティが掃除を始める。それを興味深げにモンスター博士が眺めてる。

 

「実に興味深い。今まで様々なモンスターを見てきたが、こんな風に誕生そのものに干渉してくるタイプを見るのは初めてだ」

 

「それはにゃーが芸人だからですにゃ。芸能とは他者を楽しませる事にあり。登場は最も重要でインパクトのあるものじゃないと直ぐに没個性として埋もれてしまいますにゃ。私の事、忘れられなくなったでしょう?」

 

 にゃ、とウィンクしてくるアーティのキャラはだいぶ濃い。ウェンとはまるで方向性が違う。だが彼女も、歴史の敗北者であり、運命の分岐点に立っている旧世界の住人の1人だ。興味深げに博士たちが観察している中、新たな仲間を迎える為に手を出す。

 

「よろしく、アーティ」

 

「はい、よろしくお願いしますにゃご主人」

 

 差し出されたもふもふハンドを握り、ぷにっとした感触が掌に走る。この掌に残る、ぷにぷにとした感動的な感触はまさしく。

 

 ―――肉球……!

 

「んんっ、駄目ですよご主人。レディの肉球をそんなに触ったら。其方のご婦人が睨んでますにゃ」

 

「あ、はい、ごめんなさい」

 

「……」

 

 ジト目を久遠に向けられつつ、ロストヒーローズ2人目となるモンスターを仲間に加える。彼女のシナリオも、2月中に攻略出来れば良いのだが。




 ここ3か月近く休みなしで毎日更新して来ましたが、そろそろ体の限界を感じるので更新頻度を3~4日に1回に落とします。調子が良かったりしたらまた毎日更新に戻そうと思いますが、少なくとも年末年始は更新を落とします。
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