「はろはろ」
『はろはろー!』
『きゃー! アカリちゃーん!』
『微妙なローテンション助かる』
『このローテンションと後ろの世紀末ぷりの差よ』
本当に配信してるんだな、あの妹……。
いつの間にかウェルギリウスがカメラマン技能を習得してるし、魔本の従僕が図書館からこっちに来ててスタッフの真似事までしてる。何? 何年も図書館の中にいて暇? ならしゃーないな。
「今日も鴉羽ファームの宣伝していくよ」
『宣伝なんかしなくても十分だと思う』
『もっとアカリちゃんを見せて』
『この牧場の世紀末っぷりは界隈で有名になりつつあるから……』
「漸く黒字経営になってきたところで油断しちゃだめ」
『ドヤ顔カワイイ』
『ちゃんと家計のことを考えられて偉いね』
『というか漸く黒字経営なんだ』
「うん、お兄ちゃんが結構な頻度で新しいモンスター連れてくるから飼育費とかで結構お金持っていかれてた」
『お兄様!!!!』
『加減しろ!!』
「俺が悪いみたいなの言うの止めない? まあ、俺が悪いんだけど」
カメラがこちらに向けられるのでチビに寄りかかりつつ手をひらひらと振る。それだけでもコメント欄は盛り上がるらしい。なんでも女性配信者に男の影があるのは嫌だが、血縁のある兄妹ならセーフだとか。
お前ら、他人の人間関係にあれこれ言うのか? めんどくさいな……。
『お兄様珍しいな』
『配信嫌いのお兄様が出るとか』
「嫌いじゃなくて配信カルチャーを理解できない、なんだけどな。これ、面白いの……? 他人の喋るところを見てて眠くならない?」
『草』
『全否定してる』
『妹のやることに理解を示してあげようよぉ!』
「お兄ちゃんの出る回って毎回伝説になるからもう少し顔を出そうよ」
『めちゃくちゃ嫌そう』
『露骨に面倒って顔してる』
そりゃあね。関わらなくていいなら関わりはしないさ。特別他人との繋がりを作ろうとは思わないし。必要じゃなきゃこうやって顔を出すようなことはしない。そう、つまりは今回は必要だから顔を出した、ということだ。
配信は覇権コンテンツだ。
特にモンスターバトルが盛んになった今の世では配信を通したファームの様子やバトルの様子を送るのは屈指の人気コンテンツになっている。
多くの人はモンスターを育てることができない。バトルに参加することもできない。そもそも見るのも危ないと思っている層もある。まあ、近くの世紀末都市を見てると何も否定出来ない。
だけどこの文化には触れたいと思っている層は多い。特に首都圏、都心とかに住むモンスターと触れ合えない層にそう考える者は多い。手軽に見て楽しめるファーム配信は需要と見事に合致した配信コンテンツだった。
「俺のできる事なんて解説ぐらいだしなぁ」
『毎度新しいモンスター出す人がなんか言ってる』
『お兄様のレシピ講座助かってます』
『検証班のものです、もしかしてスレにレシピ投下してる殺人鬼は貴方では?』
真実にたどり着いたものがいるようだな。まあ、俺も別段この知識を隠すようなことしてないしな。皆が強くなればなるだけ殺し合いが楽しくなる。皆が強くなるのはウェルカムなのだ。
「……」
牧場に目を向けると今日も女神が除夜の鐘になっている。増やした生産用モンスターのハーバルトータスは良質なハーブを背中に生やす亀で、日向ぼっこしながら収穫の時を待っている。
増やした羊達は二本足で阿○羅閃○している。中には下半身だけ動かしてダカダカ走っているのもいる。うーん、カオスになってきたな我が牧場も。
「Bになればもうちょい増やせるんだけどな……」
『会話しろ』
『相変わらず欠片も興味を持たない』
「お兄ちゃんの対話拒否デッキは凄いよ。興味ないと欠片も反応しないから。そこはもう諦めたほうがいいよ……あ、メタが来た」
「見つけたぞミコト」
久遠が参戦。俺がチビに埋まってる姿を見ると、そのまま近づいてきて、一緒にチビの隙間に埋まる。
『奥さんニッコニコで草』
『お幸せに』
『結婚式はちゃんと配信しろよ』
「お前らどうなってんだ……?」
男女が一緒にいると炎上するもんじゃないの? 違う? 配信者に男の影があるのが嫌? 関係者の恋愛は普通に祝福する? わ、解らん! 謎! 文化が理解できない! 怖い!
「あーあ、お兄ちゃんがチビの中に隠れちゃった」
『もふもふで幸せそ〜』
「暖かくてふわふわで気持ちいいよ。ブラッシングも毎日してるし」
チビが自慢の毛並みにキリリッ、と表情を作るが、どうあがいても小動物ぽさが抜けない。お前はずっと子犬のままだよな。最終世代でもそうなのか? なりそうだな……。
久遠と埋まってる間にも灯は配信を続ける。慣れているようでややダウナー気味にトークを楽しく続けている。あまり社交的な娘じゃないからどんなもんかと思ったが、割りとやっていけてるな。
「それじゃあ今日の人気コーナー行こうか」
「む、人気コーナーとかあるのか」
「あるぞ。評判が良いらしい」
へー、と唸っていると視聴者と合わせて灯がコールする。
「ららさんぽ〜」
オチの見えているコーナーが始まった。ララの奴いつの間にか配信デビューしやがって……と思っていると空からボロ雑巾が落ちてきた。
いや、ララだった。
「あ、またミニドラ達の玩具にされてる。今日は空から落とす遊びだったみたい」
「ララ、お前……」
悲しいなぁ、最強種たるドラゴンにとってララは丁度いい玩具らしい。玩具として遊ばれた挙げ句死んでる。あのドラゴン達は神龍血統として統合予定だから悪影響ないといいなぁ……。
「いや、今度躾けておくか」
コーナーの主役が最初から死んでいるというハプニングから始まるが、視聴者達は既に慣れているらしく、ララの死体を前に和やかに過ごしている。イカレてんのか? でもいつも死んでるしこんなもんか。
「それと、今日は新しいゲストがいるよ。と言ってもお兄ちゃんが新しく用意した子なんだけど」
『また新種??』
『いい加減そこの人に解説させなよぉ!!』
『アカリちゃんの配信は可愛さの裏に起きる唐突なガチ勢殺しの新情報があるからスリル満点だぜ』
「そこ、ウリになってんだ」
「評価されるのはいいことだ」
せやな。
「それては新人のアーティどうぞ……どうぞ? あれ?」
左右を見渡す。アーティの姿はそこにはない? 首を傾げる灯の背後ににゅるり、とアーティが出現する。
『後ろ後ろ!』
『後ろにいるよ!』
灯が振り返る。だが視界範囲を押さえたアーティが視線を掻い潜って回避する。灯が再び首を傾げ、反対側を見ようとしてアーティに逃げられる。的確に視線を回避してるせいで、縦横無尽に動きながら全然その姿を捉えられないのに、カメラにだけは映り込んでる。
「どこにもいないよ? 遅れてるのかな」
『草』
『今!! カメラに手を振ってる! こっち!!』
「あ、いた」
「どうもですにゃ」
振り返って正面を向いたところ、一輪の花を灯に差し出すようにアーティが立っていた。拍手が画面の向こう側から送られてくる中、小さな芸を披露し終えたアーティが一礼をする。
「はじめましてにゃ、旅芸人ならぬ、旅芸猫のアーティですにゃ! 皆様に笑顔を届けに来ましたにゃ!」
「という訳で、お兄ちゃんの新しい仲間のアーティだよ。芸が得意で色んな事が出来るんだって」
「こう見えて古今東西様々な地を巡ったという事が自慢ですのにゃ。レパートリーは中々のものですにゃ」
ウィンクを送る猫の姿に早速視聴者が盛り上がっている。この様子を見る限り配信にアーティを出すのは問題なさそうでホッとする。
そのままずぶずぶとチビの冬毛に埋まっていると、久遠が此方に問いかけてくる。
「それで……アーティの未練とかはどうにかなりそうなのか?」
「流石に今回の事は門外漢だからな、解らない……としか言えないな。感触は悪くなさそうだけど」
配信に参加しているアーティは楽しそうだし、受け答えも良く、人の反応がどう返ってくるのかを理解した本職、プロの動きをしてる。そこは流石旧世界を旅してた芸人というところだ。
だが俺がそもそもこの配信カルチャーに対して不理解なのでこれが正しいのかが解らない。なにせ、アーティの未練、或いは願いとはシンプルなものだったからで、その内容は……。
『沢山の人を笑顔にしたいのですにゃ!』
なのだから。
原作、或いはゲームの話だとこのパートは芸能ミニゲームパートになっていて、別の育成ゲームみたいな営業、売り込み、仕事パートで顔と名前を売って知名度を上げて……みたいなシステムだった。
当然、真似なんて出来ない。というかインディーズゲーだからこそ許されたパロだった。そんな便利なシステム現実にはないし、俺はプロデューサーでもない。
で、手頃な手段がこの配信というコンテンツだったというわけだ。
大人気コーナーららさんぽが始まり歩き出したララを通りすがりの羊が轢き殺した。牧場をお散歩してるララを灯が見守るコーナーなのだが、毎度意味不明な死を迎えるララと歩いてるだけで命が脅かされる鴉羽ファームへのツッコミが止まらないコーナーだ。
冷静に考えて見学に命のかかる牧場っておかしいだろ。
だから面白い。
ララのお散歩を見守る灯とアーティがドキドキハラハラと見守りつつ視聴者でツッコミを入れるこのコーナーは反応が良い……が、これではアーティが笑顔にしてるとは言い難いな。
アーティ自身のコーナーが必要だし、彼女自身の力で笑顔にしなければ意味はないだろう。
思ってたよりも苦戦しそうな気配がする。
「今の時代、人を笑顔にするって難しいよな」
「ふむ、確かにそうだな。娯楽が増えたから見たいものだけを見る、興味のないものは見ない……が強くなった。その影響で一つのことに対して人が集まり辛くなったな」
「そうなんだよね。一つのコンテンツに集まる人の数が減って大きな反応を引き出すのが難しい時代なんだよね」
だからこそモンスターバトルという誰もがハマり、熱中するコンテンツがヤバすぎるのだが。でもバトルを見るだけならウチじゃなくてもいい。もっとデカイ箱を見ればいい。
なんならエンタメに特化したところもある。態々ウチを見なくてもいいのだ。
「……」
アーティの本当の願いを知ってるだけに、俺が助け船を出すことは出来ない。彼女が自分で辿り着かないとこの一連のイベントは意味がない。
「……」
もふもふに埋もれつつ白紙の物語を取り出す。既に物語の第二章は追記されてる。この中にはアーティの本当の願いと後悔が描かれている。
ららさんぽでララの死体が運ばれてゆくのを眺めつつ、新しい物語を読み始める。
このシリーズ、微妙に空気壊せる環境で読まないとバッドエンドばかりで普通に気分悪くなるんだよね……。