最強以外ありえない   作:てんぞー

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対戦ありがとうございました

 到着次第ミストドラゴンの背から飛び降りて意気揚々とした姿を見せるのは我が家のマスコット、チビだった。初めてやって来る街中、そして初めてこんなにも多くのモンスターに囲まれるというシチュエーションはチビをどうしようもなく興奮させていた。

 

 そう、俺はチビを連れてモンスター協会にやってきていた。

 

「来ちまったなぁ」

 

 ミストドラゴンの背から降りるとテンションの高い子狼が足元をぐるぐると回って催促してくる。今までトレーニングする事はあっても、一切バトルに関わる事がなかった我が家の末っ子は今か今かと自分の出番を待ち望んでいた。

 

「腹をくくったのならぐちぐち言うな。負けたのなら慰める事ぐらいはしてやろう。ほら、私の胸は空いているからな」

 

 飛び降りてきた久遠が胸を叩いてから広げて来るのを見て、そのまま横を通り過ぎるように協会の中へと入って行く。おい、と軽くドスの利いた声を無視して中に入り、地下のスペースを目指す。ここに来たのは数日前の出来事だったが、未だにその時のことを思い出せる。

 

「待て、私を置いて行くな! 全く……レディの扱いというものがなってないな。それともどうした、初のバトルを前にナーバスなのか? ふふ、そうだろうそうだろう。誰だって初めてはあるものだ。それを恐れる必要はない。何、コツが必要なら私が教えてやろう。舞台の上に立つのは後ろからアドバイスするのとは違うからな」

 

 久遠と並んでエレベーターに乗り込み、答える。

 

「ないよ」

 

「ん?」

 

「緊張はないよ。心配もない」

 

 そもそも、と言葉を付け加える。

 

 エレベーターが止まり、扉が開く。先に1歩踏み出しながら振り返る。

 

「Fランクでこのビルドのチビに勝てるモンスターは存在しない。これは強がりでも精神論でもなく、単純な事実だ」

 

「……ふむ?」

 

 俺が本当に憂鬱なのはこの1歩目が、本当にこれからの俺の人生を縛ってしまうかもしれないという事実の方だ。これから何になるのか、何になりたいのか、それが見えていないのに人生をこの道に固定されてしまうという嫌気だ。

 

 だけどそれもエレベーターを出た後の熱気で直ぐに消え去る。

 

 そして湧き上がってくる高揚感。戦いたい、自分の強さを証明したい、自分の知恵と知識がどこまで通じるのかを見てみたいという本能。1人のゲーマーとしてプラチナトロフィーを手にしたいという欲求だった。

 

 チビも、それを察してかせっつくようなことはせずに、大人しく横につく。そうやって静かになった久遠とチビを引き連れて、バトルフロアにある申し込み用の受付へと向かう。先日とはまた別の受付嬢の前に立ち……少しだけ目を閉じ、覚悟を決めてから目を開ける。

 

「すみません、Fランクのマスターなんですけど、Eランクへの昇格戦を行いたいんですけど」

 

「Eランク認定戦ですね? ライセンスの提示をお願いします……はい、確認しました。鴉羽尊さんですね。5番ステージの方で認定戦を行いますのでそちらへと移動をお願いします。直ぐに担当の者が参りますので」

 

「ありがとうございます」

 

 ぺこり、と頭を軽く下げて受付から離れようとするとあー、という声が響いた。

 

「鬼畜ロリショタ軍曹!」

 

「ちっす」

 

「久しぶりだな」

 

 クソザコを卒業した元クソザコマスターの七海が腕をぶんぶんと振りながら走って来る。その横にはケットシーの姿もあった。その様子を見るに、ここ数日は俺達の事を軽く探していたのかもしれない。走り寄ってくるとぷんすこ、と怒っていますアピールをしてくる。

 

「もう! 急に姿を消しちゃって! アレから10連勝するまで帰れなかったんだからね!」

 

「10連勝出来たのか」

 

「うん。11戦目でディスペル持ちにガンメタされた」

 

「合掌」

 

「死んでないよぉ」

 

 滅茶苦茶正しいメタの回し方で殺されてた。というか10連勝出来たという事は普通に優秀な脳味噌してるんだなぁ、死ぬほど情けないのに。とはいえ、見知った顔がなんかうろついているというのはちょっとだけ気が紛れるものだった。此方も片手を上げて挨拶を返す。

 

「2人はどうしたの?」

 

「実はミコトがこれからEランクへの昇格を懸けて初挑戦する所なのだ」

 

「え、尊くんが? 初めての認定戦をやるの? え~」

 

 良い事を聞いたなんて顔を浮かべるもんだから思わずウザ、と声を零す。そんなこっちの表情を無視して七海が回り込んでくる。

 

「んふふふ、尊くん初めての認定戦なんでしょう? ここはお姉さんが戦い方とか教えて上げようかなぁ。10連勝しちゃったし? 今日も軽ーく連勝したし? 頼れる先達としてここは一つ導いてあげようかな!」

 

「調子に乗り過ぎだぞ」

 

「誰から戦術を授かったと思ってるんだ」

 

「ひぃん」

 

 これだよこれ、この鳴き声を聞かなきゃ七海って気がしないよ。ケットシーもそうだそうだと頷いてる。

 

 そんなくだらない話をしている間に5番ステージに辿り着いた。話しながら歩いていたせいか、認定戦の担当らしき男は既にそこにいた。一緒に居るのは半透明でピンク色のキューブ状のゼリーの様なモンスターだった。恐らくアレが相手なのだろう。名前も知っている。

 

 確か見た目通りの名前でゼリィとかいう筈だ。

 

 その姿を確認した瞬間に勝利は確定した。

 

「鴉羽尊さんですね? Eランク認定戦の準備は大丈夫でしょうか?」

 

「何時でも行けます」

 

「ではステージの反対側の指揮所へと移動をお願いします」

 

 先にステージに上がり、試験官が準備し始める。その前に1度だけ振り返って久遠と七海を確認する。ここまで来るともう余計な言葉もない。拳を握ってぎゅっとエールを送る久遠、サムズアップを向けて応援してくる七海。

 

 人の縁に恵まれたものだ。

 

 そう思いながら指揮所に立つ。

 

 ステージ、という言葉を使っているが形状としてはローマで見る様なコロシアムの様な形状をしている。ぐるっと囲む様に出来たコロシアムに、両端にマスターが指揮を執る為のステージがある。その上から軽く全体を俯瞰するように指揮が執れるようになっている。

 

 低ランクの試合はこういう風の造りになっているが、モンスターが大型化してくるとこれでは手狭になり、もっと大きなフィールドで戦う様になる。

 

 とはいえ、これが初のバトル、初のステージだ。先の事は考えなくて良い。

 

 今は今の事だけを考える。

 

「行こ、チビ」

 

「わう!」

 

 元気良く尻尾を振りながらチビがついてくる。指揮所に立つとチビが1回だけ吠えてから前に出る。それから反対側で同じように相対するゼリィへと視線を向ける。既に普段の可愛さは薄れ、呼び起された闘争本能に満たされた戦士の表情をしている。

 

『さあ! 本日のニューチャレンジャーを紹介しよう! Eランク認定戦に挑むのは鴉羽尊くん! なんとマスターライセンスを手に入れてからわずか数日という経歴だ! この挑戦は無謀か? はたまた絶対的な自信から来るものか? 注目の1戦だ!』

 

「おぉ、こんな風に煽られるのか。新鮮な気分だな」

 

 ぽつぽつと観客が増えて来る。最低ランクの試験だというのに注目する人間はそこそこいる様だ。それとも新人発掘のつもりで来ているのだろうか? 何にせよ、そっちばかりに集中はしていられない……と思っていたら聞き覚えのある声が聞こえた。

 

「鴉羽くーん! がんばってー!」

 

「負けるなー!」

 

「自己防衛!! 駆間で頼れるのは自分の武力だけだぞ!!」

 

 クラスメイトが数人観客席側にいた。プライベートでバトルを楽しみに来てたのかもしれない。そっちを見て、軽く手を振ってから視線を正面に戻す。目を閉じて、数秒経過してから開ける頃には脳内から雑音は全て排除された。

 

 声援、煽り、全てが雑音として処理されて消える。

 

 耳に残るのは唯一、開戦を知らせるファンファーレだけ。

 

 意識が集中によって引き延ばされ―――試合開始を告げるファンファーレが響いた。

 

「《クイック》」

 

「がうっ!」

 

 飛び出さない。

 

 基本戦術はチビに叩き込んである。良く躾けられている事もあって飛び出さずにちゃんと指示に従ってバフスキルを発動させる。緑色のオーラが絡みつくようにチビの体に湧き上がる。その間にフィールドを横断したゼリィが正面へと到達した。

 

 ぼよん。

 

 そんな音が聞こえそうな感じに跳ねてチビに姿が衝突―――しない。その動きを完全に見切ったかのようにチビが攻撃を回避する。良し、乱数が上ブレている。これなら予定通りノーダメージで試合を終了出来る。

 

 口に出さずとも理解しているだろうが、口に出して指示する。

 

「《クイック》」

 

「がーう」

 

 2度目のバフスキルが発動。2度目の発動によるチビの強化が完了した。それを目撃した試験官がまさか、と呟きながら指示を出す。

 

「ゼリィ! 突進だ!」

 

 ぼよん。

 

 強めに、力を込めて突進がチビに迫る。だがそれをはるかに超える速度でチビが回避する。完全にゼリィの数倍の速度が出ているのを確認し、試験官が呟く。

 

「素早さに対するバフですか!」

 

 その言葉に答える。

 

「24」

 

「24?」

 

「チビ―――あぁ、いや、ウルフパップの素の素早さ種族値です。これはFランクモンスターの中では最高の素早さで、素早さに対するトレーニングを上限まで行う事で28になります」

 

 これは圧倒的な速度で、Eランクの中でも相当速い部類に入る。

 

「ご存じだとは思いますが、素早さ=回避率です。これに対抗するステータスが技量ステータスで、技量が高いとそれだけ回避率を無視して命中させられますね?」

 

 命中率の計算はシステム的な話でざっくりやるとスキルに設定された命中率-(素早さ-相手の技量)=最終値。

 

 つまり回避率28を素で確保できるウルフパップというモンスターは滅茶苦茶優秀なモンスターなのだ。

 

「ゼリィの技量ステータスは高くて12、鍛えて15ぐらいですかね。チビの出せる回避最終値はこれだけだと凡そ13%……」

 

 低い。これではとてもだが実用的なラインではない。

 

 ひゅん、と残像残しながらチビがゼリィの攻撃を回避した。手番放棄して話す舐めプの間もゼリィは攻撃している。だがそれがチビに命中する事はない。

 

「鴉羽くん……君……モンスターのスキルに何を積んだ……?」

 

 試験官の言葉ににこり、と笑う。

 

「素早さ+5のパッシブスキルカードを6スロット。だれも見向きしない上にセールで安かったから楽な買い物でしたよ」

 

 つまりチビには+30の素早さ補正が入っている。これで合計値は58。ゼリィの技量補正で打ち消しても43残り。素の回避率4割は優秀だろう。だがここで支援スキルの《クイック》が入る。2積みするだけであら不思議。

 

「素早さの実数値が116になるんですよ、これ」

 

「ま、まさか、君のそのビルドは―――」

 

 うす。

 

素早さ(クソゲー)特化ですがなにか?」

 

 試験官、絶句。Fランクで見る様なビルドではない事実に動きが止まる。だからその隙に無言で手を振るう。その合図を受けて回避に専念していたチビが習得している最後のスキルを発動させる。加速させた力をそのまま解き放つように相手に叩き込む。

 

「がぁぁぁう! ぁう!!」

 

 素早さで判定する攻撃スキル《アクセルクロー》。

 

 Eを飛び越えてDでも見ない超火力の一撃がゼリィに叩き込まれ、一瞬でその姿を反対側までふっ飛ばして壁にめり込ませる。ウルフパップで作れる素早さ特化ビルドは対物理の生存力の高さと、《アクセルクロー》による超火力が両立する優秀なビルドだ。

 

 《アクセルクロー》は優秀だがD以降は威力不足でリストラする事になるが、それまでであれば100を超える素早さから繰り出される物理超火力によって防御力が並クラスまでの相手であれば虐殺出来るという強みがある。

 

 元々、チビには別のスキルが8枠全て埋められていた。

 

 その全てはジジイが用意したスキル、合体継承前提で習得させられているスキルだった。

 

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 その上で再構築したのがこの素早さ特化ビルド、別名ストレスメーカー。または全自動クソ試合製造機。どうやらこっちだとあまり注目されてないビルドだったのか、パーツが全部3年分のお年玉で揃えられたのが僥倖だった。

 

 序盤の素早さ特化はマジで安定するのになぁ。

 

 対戦で使うと友達無くすけど。

 

 友達とのトレードオフだったらまあまあ悪くないんじゃないかな……。

 

「GG、対戦ありがとうございました」

 

「参ったな……完敗ですよ。まさかこんなビルドで認定戦に挑んでくる人がいるなんて思いませんでしたよ、文句なしの合格です」

 

 それじゃあ、と言葉を続けようとする試験官に声を被せる。

 

「ウォーミングアップも終わったので本番、入りましょうか?」

 

 本番? と聞き返してくる試験官に答える。

 

「効率的に行きましょう。このままDランク認定戦をお願いします」

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