最強以外ありえない   作:てんぞー

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君が……君が私をこんなにしたんだからね……!

 アーティが配信に映るようになり2月半ば。

 

 しばらくしてアーティはそこそこ人気になった。そこそこというのはウチの配信がメジャーではなく、どちらかというとマイナー寄りの配信だからという理由がある。そもそも本当に面白い所は毎度企画やってるしグッズも出してる。

 

 それに比べてウチの配信内容は灯のトーク、ララの死亡シーン集、アーティの芸、後は背景で行われてる拷問の様なトレーニング風景とレイド廃人たちによるレイドの光景ぐらいだろう。まあ、レイド戦はそれはそれで派手なので割と需要はあるのだがメジャーに乗るにはちょっと無理がある。

 

 予想してた通り、これでアーティの願いが叶う事はない。

 

 彼女の未練は人を笑顔にしたいなんて漠然としたものではないからだ。

 

 そうやって1月が過ぎ去り、2月になった。2月半ばのイベントと言えば―――。

 

「鴉羽くん! チョコ受け取って!」

 

「ありがとう、異物混入した?」

 

「うん! 濃縮媚薬入れた!」

 

「そっかぁ」

 

 貰ったピンク色に発光するチョコを横で羨ましそうに見てたクラスメイトの口の中に突っ込んだ。口からピンク色の光線を吐き出した彼は制服の上半身を気合で吹き飛ばし半裸になるとそのまま壁を貫通して教室の外へと飛び出し、校庭で日向ぼっこしてた熊の上に乗って野生に帰った。

 

「午後までに文明に帰って来られるかなアレ……」

 

「どうだろう……ちょっと自信ないかなぁ……」

 

 車を乗り越えて山へと帰って行く熊とクラスメイト。この先が不安だがまあ、駆間の人間ならそこまで心配しなくても大丈夫か……みたいな安心感がある。たぶんこれを東京の人に語っても薬でもキメてるんか? とでも言われるだろうが、これは現実だ。

 

 ダンジョンの多い駆間ではダンジョン産のアイテムや素材が良く手に入る。レイド廃人たちのおすそ分けは連中がレイドでレベルの高い敵をハメる事に快感を感じる変態であってドロップそのものにはそこまで興味がない事にも理由がある。

 

 だから駆間にはその手のアイテムを利用したジョークグッズや危険物で溢れている。バレンタインなんて特に危険なイベントの一つだ。油断すれば生きたチョコレートを食べてしまう事もある。生じゃないぞ。生きてるチョコだ。口の中で砕くときに断末魔上げるんだからすげーよ。

 

「鴉羽くん、私は最初の一人かもしれないけど決して最後の一人じゃないんだからね……君が……君が私をこんなにしたんだからね……!」

 

「なんか俺のせいにするの止めてくれない?」

 

「こっち来い!」

 

「通報ありがとうございます!」

 

 風紀委員がやってきて媚薬チョコの子を校内の牢屋へと連れ去って行く。普段から住み込んでる奴がいるが、この手のイベント日は利用者が多くて埋まりやすいらしい。なんで校内に牢屋があるの? という疑問は去年のうちに済ませた。

 

「鴉羽くん、これをどうぞ」

 

「ありがとう。何か混ぜた?」

 

「うん、上の姉さんがダンジョンで性転換薬を発掘したからそれを混ぜたよ。鴉羽くんは女の子になって夜月さんと百合百合した方が美しいと思うの」

 

 異物混入チョコを受け取り、にこりと顔の解らない娘に微笑み、それから首切りジェスチャーを取る。

 

「連れて行け」

 

「ここで張ってるとたくさん校則違反者が釣れるなあ」

 

「今日は忙しくなりそうだ」

 

 このチョコは何か玩具に出来そうな気配がするから持ち帰ろう―――ゲーム時代、主人公の性別を切り替える為のアイテムがあったが、まさかダンジョンで発掘されるようになっているとは思わなかったな。探せばこの手の主人公のアバター変更用アイテムは他にも見つかるかもしれない。

 

「しっかし鴉羽人気だよなあ。羨ましいような、羨ましくないような……」

 

「前者は解るけど後者はどうしてよ」

 

「だって……なあ?」

 

 勝手に机に集まった連中が女子グループの中にいる久遠を指差した。あっちはあっちでチョコを今年も貰っているらしい。まあ、確かにどっちかというと性格的なイケメンタイプだよな、我が婚約者は。チョコを貰っているのも納得だ。

 

「夜月さん、何時も鴉羽にべったりじゃん。他の人からチョコを貰って嫉妬されない?」

 

「アレが嫉妬する様なタイプの人間に見えるか?」

 

「見えねぇ……」

 

「夜月さんって何というか……覇王タイプだよね。最後は余の横に居れば良い……みたいな感じで腕組みしながら鴉羽をリリースするタイプの」

 

「俺そんな遊んでそうかなぁ」

 

「尊は遊ぶようなタイプじゃないけどさあ」

 

 クラスメイト達が顔を見合わせる。

 

「困ってる奴を見つけると助けるよな」

 

「ヒトとして当然の事だろ?」

 

「勉強も出来るよな?」

 

「ヒトとして当然の事では?」

 

「運動も出来る」

 

「それは駆間にいる奴なら大体そうだろ。出来なきゃ生きていけないし」

 

 ヒトとして求められる当然の事をやってるつもりなのだが、割とウケが良いのが困る。人としてこういう事をやれば良い、やれば嬉しい。そういうのはとりあえずやっておくべきロールモデルだと思うのだが。だがその結果媚薬チョコを盛られるなら止めた方がいいんかもしれないな……。

 

 なんか久遠の方を見たらこっちを見てうんうんと頷いてる。何を理解してるんだろうか……?

 

「それはそれとして……お前、大本命(夜月さん)からは?」

 

 久遠の方を見る。

 

「家に帰ればいくらでも時間があるのだから学校での時間は有象無象に譲るって」

 

「やっぱ覇王タイプだよ夜月さん」

 

「ああいう人程実は裏では滅茶苦茶重いんだろ? 俺知ってる」

 

「そうかなぁ……」

 

 言うほど久遠に重さみたいなものを感じた事はないけどなぁ……と思っていると先生が教室に入って来る。チョコまみれなのを見るとここに来るまでに激戦を繰り広げてきたみたいだった。今日だけバレンタイン限定ダンジョンやレイドが発生するから先生も大変だなぁ。

 

 ―――とか思っているうちに1日が終わり、牧場に帰って来る。

 

「さて、ここからは私の時間だな」

 

 学校を終えて地面に降りた時の第一声がこれである。片手に抱えた学校で貰った危険物(チョコ)の入った袋を久遠が回収すると、それをそのまま帰宅と同時にやって来たチビの頭に乗せた。チビはくんくん、と頭の上のチョコの匂いを嗅ぐと無の表情になり、頭から下ろしたチョコを家の中に廃棄しに行く。

 

 我ながら、中々表現がアレだなぁ、と思う。

 

 去年よりも駆間に慣れた影響か今年のバレンタインはそこそこ狂ってる気がする。

 

「さ、キッチンに行くぞ。実はただ作るだけでは芸がないからな。どうせなら―――」

 

「お帰りマスターっ」

 

「おわっ」

 

 そう言って背中に飛びついてくる感触があった。声で誰なのかは一瞬で解った。視界の端に蒼髪が見え、背中を揺らすと肩越しに顔が見えた。歳は十五ぐらいの魔女系統モンスター、湖の魔女ヴィヴィアンだ。

 

「ヴィヴィアン、ただいま。良い子にしてた?」

 

「うんうん、マスターの言う通り瞑想と魔力制御トレーニングやったよー」

 

 背中に引っ付くヴィヴィアンはこれまでの他の魔女モンスターと違って異様にスキンシップが多い。それこそチビぐらい引っ付いて来る。これまでのモンスターとはちょっと親愛の示し方が違っていて困惑する部分も多いが……。

 

『私が“私”でいるのはせいぜい1か月ぐらいだよマスター。だったら少しぐらい甘えさせてくれてもいーんじゃない?』

 

 とか言われるとまあ、拒否できない。後ろから抱き着いたままにしていると久遠が此方をジト目で見ている。

 

「どうした?」

 

「いや……それよりも早く中に入ろう、ここからは私の―――」

 

「そうそう、マスター、はい、これ」

 

 後ろから引っ付いていたヴィヴィアンはくるり、と横を抜けながら前に立つと、可愛い小包を渡してくる。指先で開けて開けてと催促してくるのに従って開けると、中には宝石のようにきらきらと輝くチョコレートが入ってた。

 

「本当の宝石みたいだな……」

 

「宝石チョコって言うらしいよ? こっちの世界の文化は面白いね、ちょっと張り切って作っちゃった。これは普段から優しくしてくれてるマスターへの感謝の気持ちだから私の心を受け取ってね」

 

 そう言うとヴィヴィアンは正面から抱きしめてから手を振って離れる―――去る前に1回、久遠の横から何かを囁くと走り去って行く。去って行くヴィヴィアンは杖を呼び出すとそれに腰かけて低空飛行で飛び去る。それを久遠と一緒に眺める。

 

「エウプロイアとは全然違う性格になったなぁ」

 

「本当にな。前のは可愛かったが今度のは可愛くないな……」

 

「ヴィヴィアンは可愛い子じゃない?」

 

「まあ、そうなのだがそうではないというか……」

 

 久遠が腕を組みながらうーん、と唸る。何かを悩んでいるような、納得がいかない様な、そんな表情をしている。何のこっちゃ、と思いながら振り返ると魔本の従僕やキュウビが此方を見て拝みながら空気を食ってた。

 

「ごっつぁんです!」

 

「若さ! 若さですよ!! うめぇ!!」

 

「これこれこれ、こういうのが欲しかったんですよ」

 

「何やってんだアンタら……」

 

 見つかった連中が走って図書館や根の国ゲートへと飛び込んで実家へと帰って行く。今更ながらあのゲート通行自由なの割と無法な気がしてきた。偶に出口間違えたSランカーがこっちにやって来るんだよね。

 

 集めた薄めの告死蝶を合体させて死神の合体素材にするぐらいのサービスはしてるんだけど。元々存在したアイテム交換NPCいないっぽいし。そろそろ死神も俺や東吾だけの専売特許じゃなくなる日も近いかもしれない。

 

「ミコト、行こう」

 

「あぁ、ごめんごめん、考え事してた」

 

「どうせ大した事でもないだろう」

 

「それはそうだけど」

 

 家に上がれば家を満たす熱気が襲い掛かって来る。あったけぇ、と呟きながらコートを脱ぐと先にリビングに灯の姿があった。前まではミストドラゴンでしか送迎できなかったが、最近は我が家にもドラゴンが増えている。そのおかげで別々に帰る事が出来るようになったのだ。

 

「お兄ちゃん、お義姉ちゃんお帰り」

 

「ただいまー」

 

「うむ、ただいま」

 

「あら皆、お帰りなさい」

 

「すっかり久遠ちゃんも我が家に馴染んでしまったな」

 

 リビングでくつろいでた父が当然のようにただいまと言って上がって来る久遠を見てそんな事を言う。まあ、父の言う事も理解できる。本当に何時の間にか馴染んでいたよな。少なくとも去年のバレンタインはここまでではなかった気がする。

 

 コートを脱いでラックに引っかけたらさっさと手を洗う。ここで普段ならおやつを食べつつ学校に行っている間のトレーニングの成果を確認する所だが、久遠が自信満々にキッチンの方へと向かうのでリビングの方に移動する。

 

「尊、学校の方は大丈夫だったか?」

 

「俺の方はちょっとチョコで盛られそうになったぐらいだよ。父さんの方こそ大丈夫? ファーム運営大変じゃない?」

 

「最初は貯蓄を切り崩す必要もあったけど最近は少しずつ貯蓄出来るぐらいには黒字だからな。こっちの事は良いから、自分の心配をしなさい。本当に大変なのはそっちなんだから」

 

「ありがと」

 

 どっこいしょ、と着替えずにソファに腰を下ろす。自分だけ先に部屋着に着替えるというのも手だったが、まあ、久遠がまだ制服のままだしそれに付き合うか……という気持ちだった。

 

「尊」

 

「うん?」

 

「最近の……その、調子はどうだ? 最近はバトルをあまりしてないみたいだけど」

 

「あぁ、うん。準備中かな。ヴィヴィアンを後1回合体させたら第4世代になる。そうすれば晴れて環境適応が完了するからバトルに出す事が出来るよ」

 

 DとCには大きな差がある。

 

「Dのレベル上限は30なんだけど、Cは50あるんだ。これまでは10刻みだったレベル上限が一気に20も上がる影響で、Cランクは上の層と下の層で実力者が分かれて来るんだ。Cが最初の壁って言われるのもここにあるんだ」

 

「ウチは夜月さんから借りているミストドラゴンのおかげで楽をしているけど……」

 

「そ、普通はそういう風にズルが出来ない。ダンジョンやマッチで経験値を稼ぐ必要がある」

 

 ミストドラゴンは夜月修三が貸してくれているレベル90のモンスターだ。いや、90の、というか90だったモンスターだ。俺がこっそり余ったアンブロシア食わせたのでレベル上限が今は100ある。だからレベルも91とか92あるんじゃないかな。

 

 このミストドラゴンでスパーリングを行えば大体1週間でレベル上限まで届く。

 

 90レベルのモンスターでスパーを行えば大体70までのモンスターだったら1週間、80までだったら経験値が渋くなるから2か月ぐらいで終わるか? という所だろう。90、100となるともう図書館とか根の国でワンパン構築編成して潜り始めるころだ。

 

 まあ、これは先の話だ。

 

「駆間の環境は割ときっちり仕上げて来る人が多い環境だからCで戦おうとするとちゃんとレベル上限の50まで育てないと話にならないんだよね。大きく伸びるステータスは1レベで4から5ぐらい伸びる。これが10レベル差もあるとステータスの差もデカい。レベルは一番簡単に詰められる差なんだ」

 

「DとCの差がデカいと言うのはこういう事だね」

 

「うん。単純なステータス差がデカすぎて半端なレベルや仕上げたDだけじゃほとんど話にならないんだよね……それに環境も良くない」

 

 Cのトップメタは魔法だ。

 

 Cからは多種多様な魔法が解禁されるようになる。その影響で魔法をメインにした戦術が増える。

 

「Dでは見なかった全体対象の魔法とかがCでは出て来るからね。Dまでは物理がメインだから最低で一手、或いは二手使わないと回避特化のチビには勝てなかった。だけどCからはデバフを気にすることなく全体魔法連打で薙ぎ払う事が可能になる」

 

 こうなってくるとチビで稼げるアドバンテージが無くなってしまう。つまり魔法に強いキャラクターをメタの中心に据える必要が出て来る。そこで出てくるのがヴィヴィアンの様な高魔力モンスターだ。魔力が高ければそれだけ魔防が高くなる。

 

 Cはまだ比較的に純粋ステータスによる殴り合いが発生する段階だ。BやAになると防御無視が増え始めて無効化や耐性、カット系が活躍するがCはその前段階だ。相性ゲーの側面が強い。無論、後期DLC追加キャラクターであるネームドの魔女モンスターは環境トップのパワーを持っている。

 

 このじゃんけん状態をある程度無視する力を持っている。

 

 だからこそヴィヴィアンを合体させて、環境に適応させる必要がある。

 

 今、手持ちで明確に強いと言えるモンスターはヴィヴィアンとウェルギリウスの解禁組だけだ。イーリュは環境意識、チビは統合用、エデが明確に動き出すのは3対3になるBから、アーティ達ロストヒーローズが戦闘活用できる性能になるのはBからだ。

 

 つまりCの中心は超越血統の魔女ヴィヴィアン、環境意識したタンクの女神イーリュ、そしてパフェキャンインタラサクリリレイズが犯罪だと噂の死神ウェルギリウスだ。

 

 ドラゴン軍団は雑に強い枠なのだが、ステータスが高い以外の特徴が現段階ではなく、寧ろ使い辛い。本領発揮は明確な特徴が見えて来るA辺りだろう。

 

 つまりCは魔女、女神、死神の3匹を軸に頑張る必要がある。これまで頑張ったチビには悪いがCの間はお休みになる。魔法メタの速攻物理アグロが見えたらチビをメタに差し込んで封殺する事もあるから完全にお留守番という訳ではないが。

 

「でも今月来月で大まかな調整は終わるかな。予定通り4月からはランクマ潜れそう」

 

「そうか……尊がちゃんと考えているならあまりとやかく言うつもりはないけど」

 

 父の視線がキッチンへと向けられ、俺の視線もつられるように其方へ。キッチンでは久遠と灯と母がエプロン姿でバレンタイン用のチョコレートドーナッツを作っていた。普通のチョコにするのはつまらないから、ドーナッツを作っているようだった。

 

 既にキッチンの方から甘い匂いが漂ってきて、学校で空かせたお腹に特効ダメージを叩き込んでくる。

 

「尊は卒業した後の事は考えているのかな?」

 

「卒業の後」

 

「うん、勿論中学じゃないよ? 高校の事だ。将来どうしたいとか、考えている? あと久遠ちゃんとどうなりたい、とか」

 

「それは……」

 

 あまり、考えていなかった。今の所Sランクになってジジイの遺言を終わらせて、カス女ぶっ殺して、それで……それで終わる事しか考えていなかった。

 

「今は楽しいからそれで良いかもしれないけど……尊が遺言を果たした後、もう剛三さんの遺言に従う必要はなくなるはずだ。その時は婚約者じゃなくてただの尊と、ただの久遠ちゃんになる……お小言という訳じゃないけど。卒業した時はどういう風になりたいのか、今のうちに少しだけ考えておくといいよ」

 

 キッチンに視線を向けて、日常の一部となった久遠との生活を見る。

 

 高校を卒業する頃にはSランクになっているだろう……とは思う。そうなれば確かに、ジジイの遺言も果たしているだろう。その時はどうするのだろうか? 引き続き今の生活を続けるのか? ラスボスを殺してバトルを引退するか?

 

 ……それとも……引き続き久遠と結婚するのか?

 

 漠然と過ごす今の忙しさに、そういう未来の話をすっかりと忘れていた。

 

「父さん、ありがとう」

 

「優秀な息子に道を示せたのならこれ以上ない喜びさ。さ、ぼちぼち出来上がるみたいだね。食べ過ぎて晩御飯が入らなくならないように気を付けようか」

 

 背中をとん、と叩いてくれる父親に押されるように立ち上がりダイニングの方へと向かう。出来上がったばかりのドーナッツが運ばれてくる様子に笑みが零れる。更に山盛りになったドーナッツにこれは晩御飯ちょっと厳しいかもしれないな……と思いながらも嬉しそうに運んでくる姿に気合を入れる。

 

「さあ、食え。無論、特別なものは何も入ってないが」

 

「私達の愛がたっぷり入ってるよ」

 

「ふふ、2人とも頑張ったものね」

 

「俺達だけで独占するのが勿体ないなぁ……」

 

「はは、チビが外から欲しそうに見てるし入れてあげようか」

 

 ここにいるのは去年と誰一人変わらない筈だ。変わらない筈なのに……ここにある空気、そして雰囲気はまるで違っていた。人は少しずつ変わって行く。そしてそれは俺にも適応されるものだ。被っていた仮面は何時の間にか馴染む様になってきた。

 

 或いは、本当に俺も―――。

 

 そう思いながら2月も過ぎ去って行き、3月も瞬く間に過ぎる。

 

 卒業式が来て、特に顔ぶれが変わる事もなく4月へ。

 

 季節は春。始まりの季節。

 

 再び、長らく留守にした戦場へと舞い戻る。

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