久々の蟲毒に戻って来た。数か月ぶりなので懐かしさがある。図書館以降、ずっと忙しかったしリハビリもあるから仕方がないと言えば仕方がないのだが。それでも漸く右目もある程度見えるレベルになったし、モンスター達もCランク環境への適応を終えた。
これで漸く戦える。
エレベーターを抜けて降り立つフロアは相変わらず熱気に包まれていた。連れてきたモンスターたちとは別に、横にはいつも通り久遠がいる。右目もだいぶ調子が良くなったから別に平気だというのに、相変わらず一緒にいる。
「ここは年中変わらないな」
「環境は激変してそうだけどね。ちょっとモニター見てみるか」
歓声に沸き上がるフロアの端、大型モニターでそれぞれのステージを確認できる所から全体をざっと見る。
「お、やってるやってる」
「どんな感じですか? ライバルになりそうな方はいますか?」
ひょっこりと肩に手を掛けて後ろからモニターを覗き込むのはアップデートを終わらせた今世代の魔女、錬金術師フラメアだ。金髪ストレートの正統派美少女というビジュアルは根強い人気があるよなぁ……と思わせる意外とアクティブな娘だ。
格好もブラウスとスカート、それからローブにブーツ、可愛さと動きやすさを両立している。彼女こそがこのランクにおけるウチのメタ要素になる。
「ざっと見すると物理多いな……」
低ランク帯の物理OC軸はどっちかというと微妙というか、200%盛りが確定出来ないから火力の伸びが悪くて成立しないはずなのだが、なんか皆物理握ってるな。
なんで? 合体魔法のがコンボしやすくて良いのに。
「お、鴉羽じゃん。しばらく見てないと思ったらハーレムパか? いや、ごめん。お前が意図してハーレムパなんてするわけないよな。お前ゴリゴリの性能厨だし」
「言い方ってもんがあるだろ」
あってるけど。
「おー、お前がいない間に環境が激変してなぁ……見た感じ適応してから来てるのな?」
「まあ、前期もそうだったでしょ」
「お前は事前準備整えてから一気に勝率稼ぐタイプだもんな……」
「お、みこちゃんじゃん。相変わらず嫁さん同伴なんだな」
「みこちゃんは止めろ」
段々と何時ものメンツが集まり始める。大体の場合でここに集まるから、顔を出せば直ぐに集まってくる。ここしばらく顔を出してなかっただけあり、直ぐに群がってくる。
「お、ついに参戦?」
「遅かったじゃん。後ろのが新人? へぇ……解析していい?」
「駄目に決まってんだろ。先にランクマ回させてくれ」
ランクマの話を持ち出すと皆黙り始めた。なんすかこれ。なんなんすかこれ。なんの空気なのこれ。辺りを見渡すと皆俯きながら黙ってる。どうしたんだよ、皆新環境でエンジョイ殺し合いしてるんじゃないのかよ。
「まあ……モニターを見てくれ……」
「今なら5番かなぁ」
「うーん……?」
「なんでしょうかね?」
促されるようにモニターを見る。そこで繰り広げられてるのは物理型同士の戦いだ。1ターン目はクリバフ積んで率を上げて、殴る準備に入る。
OC実装の良いところはこれまで専用構築が要求されてたクリティカル関係が緩和されたことだ。クリティカル関係のスキルが増えたことで低ランクでもクリティカル100%ができるようになったのだ。
少し触ればわかるが、低ランク帯でOCを狙うのは現実的じゃない。だからクリティカル100%で止めて、それで素早く殴るのが継続的な火力が維持しやすく強いのだ。
モニター内の試合が2ターン目に入り、バフが入る。
3ターン目、バフ。
「うん!?」
4ターン目、バフ。
5ターン目、バフ。
「待て待て待て、動きがランプのそれ」
「あぁ!」
「それだけじゃないぞ!」
6ターン目、ついに動きが見える。
『俺のクリ率は120! クリダメ350! OCしたら700の7倍ダメージだ! 攻撃バフで攻撃は2倍! 事実上の1400%だ! これでOC通ったら気持ちいいよなぁぁぉぁぁ!!』
『俺は110%だぜ!? 俺のほうが決まったら気持ちいいに決まってんだろ!? い、今から全体攻撃でOC引くから見てるぅぉぉぉよぉぉぉぉぉ!?』
ガンギマリの表情でなんか叫んでる。よく見れば彼らはクリダメは盛り盛りに盛ってるが、クリ率はそこまで盛れていない。110とか120とかで殴り合おうとしてる。無理に10や20の部分を稼いだ結果、初速を殺してる……!
「え、なにあれ」
「パチンコ」
「ギャンブル依存症」
「OC芸人」
「俺がいない間に環境はどうしちまったんだ……!?」
本当に環境どうしちまったんだよこれ。なんで知らないうちに皆ギャンブラーに転職してるんだよ明らかにおかしいだろ。誰も止めなかったのかよこの流れ。
「お、みこちゃんじゃん」
「みこちゃん言うな。それでどうしてこうなったんだよ」
そう聞くと周りの連中が顔を見合わせる。
「いや、まあ、OCと合体魔法が出た直後皆で性能検証するじゃん? それでフリマ組みまくって試すじゃん? その時クリ120%でギリギリOCで逆転勝ちするじゃん? 脳内麻薬ドバドバするじゃん? 滅茶苦茶んほるじゃん?」
「もういい……もう何も言わなくても良い……大体理解した……」
パチンコだ。
こいつら全員パチンコにハマりやがった……!
OCパチンコ!
それはクリティカル率110%や120%というギリギリのラインでOCを発生させる事で得られる快楽で気持ち良くなる現象である。オーバークリティカルは仕様上、100%を超過しなければ発生しない。だが確定でクリティカル率200%にするのはかなり厳しい。
少なくとも図書館DLCで解禁された新パーツに専用スキル構成、或いは特化育成が必要になる。俺も最終世代はクリティカル率100%は自前で用意させるが、残りの100%はバフ付与前提で考えている。200%を自前で全部確保するのは中々難しいのだ。
無論、ランクが下がれば下がる程このハードルは上がる。C~Bでここら辺を完全にやろうとするのはまあ、無理だろ。それでも無理矢理やろうとすればクリティカル率120とか130が限界だろう。だがそれも戦闘用パーツを放棄したうえで。
だから連中は放棄した! パーツを!
そして限界までクリティカルダメージを盛った!
そして成功するかどうかも解らないOCワンチャンパンチに全賭けして殴り合っている!
馬鹿だ!!!!
「正気かよ」
「正気じゃないからこうなってんだよなぁ」
「皆逆転勝利の快楽に脳味噌ぼろぼろにされてるよ。合体魔法もコンボ軸で楽しいんだけど、OC決まった瞬間のドーパミンドバドバには勝てねぇからよ……」
言ってる意味は良く解るんだけど全く良くないタイプの奴なんだよなぁ、これ。折角ランクマしに来たのにこれじゃあまともなランクマになるかちょっと怪しいな。腕を組みながらその場で唸りながら天井を見上げる。ちょっとこれ、お灸をすえないと駄目かもしれない。
「しゃーない、ちょっと環境を滅ぼして目を覚まさせるか」
「可能なのかそれは?」
久遠の言葉にうん、と頷く。このOCのギリギリ具合とクリダメの盛り具合から大体のスキル構築は読める。なのでまず先に身内に連絡を入れる。
「あ、もしもし東吾、今時間ある? うん、ごめんね、いきなり。ちょっと指定したスキルカード買い占めて欲しいんだけど……大丈夫? うん、―――と―――なんだけど。大丈夫? ありがとう、安くない買い物かもしれないけど……え、図書館以来凄い儲けてるから気にしなくて良い? そっか、サンキュ、何かで返すよこれ」
よし、と通話を切って振り返り、集まってる皆を見る。既に皆、今の通話を聞いて相場チェックに入ってるので遠慮なく質問する。
「この中で《イーグルアイ》か《粘着糸》をチビメタに残してる人手を上げて」
誰も手を上げない。
「回避メタをOC構築にちゃんと組み込んでる馬鹿、いる?」
誰も手を上げず、全てを悟った表情で天井を見上げた。
「そうだね。クリをこの段階で盛ろうとするとスキル枠8枠かつかつだね。メインウェポン1本か2本にパッシブでクリ率ガン盛りって感じが限界だろうね。で、そこに回避メタを仕込む余裕はあるかなっ、あるかなっ」
腕をるんるんと振るってアピールするが全員絶望の表情を浮かべてる。そうだね、OC構築ではあるがOC特化構築ではない。特化すれば技量伸ばしで命中率が付いて来るのだが、彼らはたぶん物理アタッカーをそのままOC構築に流用している。
つまり俺がウェンからアーティへと行っているような技量トレーニングをベースにした育成を行っていないから、命中率の下駄を履かせてないのだ。
「じゃ、今からランクマ3戦挑んでからフリマで一人一人殺しに行くから。あ、久遠、ミストに牧場からチビ連れてくるように伝えてくれる?」
「任せろ」
久遠が笑顔で地上へと戻って行くのと同時に、一斉に全員がスマホを取り出したり、購買へとダッシュする。
「うおおおおお鷲目! 鷲目鷲目鷲目鷲目鷲目鷲目! ない! マジで売り切れてる!!! うわあああああ―――!!」
「あれだけ在庫が腐る程あった粘着がねぇ!!! 手持ちにもねぇ!!!」
「ふざけんな鴉羽ァ!! 汚ぇ手を取りやがってぇえ! すいません、ランクマで当たらないように祈りますね」
「は―――っはっはっは!!! ランクマでガキのお遊戯会を連れて来る方が悪いんだよぉ!! 穴だらけのメタ意識のないカス構築を連れて来るとか正気かお前ら!? 今から粘着と鷲目が再流通するまでの間俺とチビでお前ら全員蹂躙し続けるからな!!!」
あまりの屈辱と恐怖についにおぎゃあと泣き出す奴まで出て来る。だが許さない。こいつらはケアすべきメタを忘れた上で気持ち良くなる事だけを求めた構築を連れてきたのだ。
ランクマは本気で殺し合う為のステージだ、お遊戯会をする所じゃない。遊びたい、ふざけたい、好きなもので気持ち良くなりたい……その気持ちは否定しないが、そういうのはフリーマッチでやるものだ。決してランクマに持ち込むようなものではない。
持ち込んだうえで勝てるのなら話は別だ。だがこいつらはドバドバする為にこれをランクマに持ち込んでる。
じゃあ殺すね……以外の回答がないのだ。
「ランクマぁー申請をぉー今ぁー……」
「や、止めろー!! 今申請中なんだよ!!」
「こっちに来るなぁ!!!」
「嫌だぁ!! まだOCパチンコで気持ち良くなりたい!! 気持ち良くなりたいのぉ!! 110%パチンコでんほらせてぇ!!!」
「はいっ、申請したぁ!! 誰から死ぬかなぁ!!!」
うわぁ、という叫び声が響き片っ端から絶望で床に転がる馬鹿達。ステージでパチンコ決めてる連中は未だにこっちの様子に気づいていないが、それも時間の問題だろう。再び回避メタが流通するまでの間。
駆間はクソゲー特化の暴力に焼かれるのだ。