最強以外ありえない   作:てんぞー

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お前がナンバーワンだ

「クックック―――」

 

 低い声で笑うと懐からロケット花火を取り出し、それをナイフを舐めるチンピラの如く舐めた。待って、今何をした? 今ロケット花火舐めた? なんで? しかも舐めたら懐に戻した。なんで? 今の動きなに? なにしたの今? なんで!?

 

 懐にロケット花火を戻した花火師はすっ……と背筋を伸ばした。

 

「対戦形式はマスターズルールでお願いします」

 

「あ、構いませんよ」

 

「ありがとうございます……クックック鴉羽ァ……お前を倒す為の解を教えてやるよォ……!」

 

 そう言って審判を務める協会員へと花火師が向かって行く。

 

 マスターズルール。

 

 それはゲーム内のランクマで使用されていた基本的なルールであり、この世界では主にB以上の大規模公式戦で採用されるルールである。その内容も基本的にはこれまでの公式戦と変わらないが、マスターズルールは大規模な大会を念頭に置いたマイナーチェンジが入ってる。

 

 それはモンスターの選出だ。

 

 マスターはモンスターを選出する際お互いに手持ちを非公開状態で控室に待機させ、控室内で何を出すかを決める。一度フィールドに立ってしまったら変更は不可能であり、事前に調べて情報を頼りに相手が何を出すのかを考え、選出しなくてはならない。

 

 ゲームだと基本的に6体公開からの4体選出で勝負していたので、ほぼそれに近い感覚である。

 

 花火師がこのルールを挑んで来たという事は相当自信がある……或いはこのルールで戦うのが有利な奇襲戦法を取って来るという事だろう。面白い、今日一番ワクワクしてきた。花火師が周辺にモンスターを連れていないのも待機させているからだろう。

 

 先に審判の所へと向かって選出を伝えた花火師は振り返る。

 

「鴉羽ァ……俺はこの2試合お前の動きを見て大体の動きは把握してるから少しだけヒントをくれてやるゥ……俺は確定OCに成功してるぜェ」

 

「うっわ、マジかよ」

 

 そう言いながら楽しげに口の端が吊り上がるのを止められない。

 

 恐らく花火師は気づいている。

 

 Cランク帯で得られるクリバフで継続的なクリティカルサポートを続けるのは難しいという事に。今環境に溢れているパチンコ構築は継続的に殴る事を考慮して構築されているから110%や120%という微妙な数字で止まっている。

 

 だがバフというものは根本的に単発や1ターンの様な短期のもの程効果が高い。そして既にそれを俺はウェルの対ゴブキン戦で証明している。

 

 そう、単発ならオーバークリティカルが成立する。

 

 あの花火師は完成させてしまったのだ。Cランク帯最強構築。

 

 確殺確定オーバークリティカル自爆構築を。圧倒的火力と破壊力で全てを粉砕する構築だ。Cランクという技幅が制限されている環境においては化け物クラスの強さを誇る構築だ。こっちも本気で挑まなければならない。

 

 むんっ、と腕を組んで悩む。

 

 七海と久遠は邪魔しないように少し離れて見てるのが助かる。

 

 大前提として花火師はOC自爆で確定リーサルを狙ってくる筈だ。前回見た時は命中ガン盛りの技量特化構築だった筈だ。つまりそれはそのままクリティカル特化へとイコールでもある。つまりこの時点でチビは選出から外れる。

 

「くぅん」

 

 相手が勝利するには自爆を通す必要がある。通った段階でほぼ勝利は確定だろう。俺だったら自爆する為のモンスターに1枠、もう片方をそれを射出する為のカタパルト用のモンスターにするだろう。W自爆構築は正直スキルの用意がこのランク帯だと難しくて無理なんじゃないかなぁ……という疑惑がある。

 

 何よりも自爆モンスター2体だと妨害に対して弱すぎる。となると相手は相方枠にタンクか、デバッファーを入れるだろう。自爆モンスターを守る為のタンクか、それとも妨害を打ち消す為のデバッファーか。どっちのパターンにしろフラメアは確定選出だ。

 

 ……やっぱり《パーフェクトキャンセラー》と《インタラプト》の打ち消し2枚看板を通せるウェルギリウスか? 最悪《サクリファイス》からの《輪廻》で《パーフェクトキャンセラー》の使用回数を復活させられる。そうなれば禁断の2度打ちも可能になる。

 

 相手が何らかの手段で《パーフェクトキャンセラー》を回避できても、2度目はそれに対抗する為の《インタラプト》も残らない。

 

 ウェルギリウスとフラメアはどっちもDLCで追加されたモンスターだ。なので根本的なキャラクターパワーが他のモンスターとはまるで違う。後期のインフレ環境で戦う為にデザインされているから当然と言えば当然だ。

 

 なので選出の事を考えた場合、この2人を選出するのが最も丸い。

 

 ウェルギリウスを抜かしてイーリュが採用されるのは相手の素早さが高く、相手がWアタッカー構築で来てフラメアの行動前にフラメアを落とす可能性がある場合だ。通常の対戦だとこのケースが多くなりそうなのでタンクのが採用率が高くなる。

 

 だがこういう1発切りの大砲を止める場合はウェルギリウスの様なデバッファーで止める方が楽だ。問題は相手がそれを読んでるだろうから、何を使ってそれを止めて来るか……という所になる。そうなると先制取ってフラメアで殴って殺すのが最適解になる筈だ。

 

 そもそもこの手の大砲タイプに受け止める、という選択肢は取れない。飛ばしてくる前に沈めるか妨害するのが一番だ。

 

「良し、プランは組めた。行ってくる」

 

「いってらっしゃーい」

 

「楽しんで来い」

 

 久遠と七海に手を振ってから審判の方へと向かい選出を伝える。それを伝えてからステージに上がり、既に待機していた花火師と向かい合う。それから遅れるように選ばれたモンスター達が上がって来る。此方側にはフラメアとウェルギリウスが。

 

 花火師側に立ったのは手足が生えたデフォルメマスコットの様なメロンのお姫様、そしてタマネギの道化師だった。合体したモンスターのシリーズを継続している―――という事は合体の特性は継承し、方針を維持しているという事だ。前回同様ベジタブルヒーローズのままだ。

 

「プリンセスメロンにタマネギの道化師かぁ……」

 

「どうやら説明不要のようだなァ」

 

 鉄砲玉+デバッファーという対妨害軸で来る様だ。やはり《パーフェクトキャンセラー》が警戒されているのが解る。死神が手持ちにいるならそれを警戒せざるを得ないのはまあ、しょうがない話だしな。となるとマスカンを間違えないようにしないとならない。

 

 自爆は通した時点で負けだ。プレッシャーがヤバイ。

 

「もはや言葉は不要……行くぞ鴉羽ァ!」

 

「おう、Cランク最強が誰なのか教えてやろうじゃねぇか!」

 

 向き合い、笑い合い、それから背筋をまっすぐ伸ばして頭を下げる。

 

「対戦よろしくお願いします」

 

「対戦よろしくお願いします」

 

 マナーは守ろう!

 

 挨拶が終わったのでお互いに定位置に就く。やっぱりバトルは強敵とじゃないと面白くないよなぁ、と思いながら―――戦闘を開始する。

 

 幻想図書館への扉が開かれた! 全ての者に叡智が授けられる!

 フラメアの《無詠唱》! 《暴走詠唱》を唱えた!

 フラメアの《術式展開》! 詠唱と共に魔力が上がった!

 

 完璧な立ち上がり。妨害はなし。相手は此方側の行動を通した。つまり攻撃を妨害で止めるつもりか。これは間違いなく空中戦―――手番外のスキルの打ち合いがメインになるだろう。それを意識し、フィールドの反対側にいる花火師とモンスターを見る。

 

「行くぜェ……」

 

「来い」

 

 互いに目配せは一瞬、高速戦に入る。

 

 最速はフラメア。

 

 フラメアの《ダブルマジック》

 タマネギの道化師の《インタラプト》!

 

「それは通す」

 

 《ダブルマジック》が不発に終わるが相手に打ちやすい妨害は撃たせた。《パーフェクトキャンセラー》は俺が最近雑に配ってるがそうでない場合中々手に入らない。となるとこれ以上の妨害札は中々出て来ない筈。

 

「自爆される前に落とす」

 

「やはりそう来るか鴉羽ァ!」

 

 ウェルギリウスの《忘却の音色》! タマネギの道化師は過去を忘却した!

 タマネギの道化師は《シンクロ》で忘却を共有する!

 ウェルギリウスの《インタラプト》! 《シンクロ》を打ち消した!

 フラメアの《ブリザード》! 猛吹雪が敵を襲う!

 タマネギの道化師の《悪態》! フラメアの攻撃と魔法攻撃が1段階下がった!

 ウェルギリウスの《サクリファイス》! 己の命を捧げた!

 《輪廻》を巡りウェルギリウスは新生した! 《インタラプト》が回復した!

 ウェルギリウスの《インタラプト》! 《悪態》を打ち消した!

 タマネギの道化師の《再演》! 《悪態》が再び放たれた!

 タマネギの道化師の《アンコール》! 同じ悪夢が繰り返された!

 《再演》がアンコールされた!

 

 2連魔法は打ち消された。だが全体魔法は通った。上昇した分の魔力はリアクションスキルである《悪態》で打ち消され、それからデバフを再発動するスキルによって7割5分程度にまで落とされる。これで《復唱》が発動すればリーサルにまで入る。

 

「……発動しないか!」

 

「運が悪かったみたいだなァ……!?」

 

 確率大体25%から30%ぐらい。勝負するには悪くない数字だが、頼り切るには心許ない数字だ。決まってれば勝てたが、外した以上相手の攻撃が来る。ここで合体魔法を使ってセーフティを割っておきたかった……!

 

「死ね! 鴉羽ァ!!」

 

「あの、私お姫様なのですが?」

 

「姫様、自爆の時間でございます」

 

「自爆の時間ってなに」

 

 タマネギの道化師が姫様を蹴り飛ばし、プリンセスメロンがバウンドしながらフィールド中央に転がって来る。その体は光を放つと亀裂が入り、限界まで膨張する。ここからが勝負だ。

 

 プリンセスメロンの《アトミックプロージョン》! 全てを破壊する!

 ウェルギリウスの《パーフェクトキャンセラー》! 行動を打ち消す!

 花火師は《ロジックジャマー》を展開した! 妨害耐性が付与された!

 プリンセスメロンは《パーフェクトキャンセラー》を受け付けない!

 

「ロジジャマ!? うっそだろお前!? マスタースキル使えるの!?」

 

「お前に勝つ為に山籠もりしてたら仙人から教わったァ!」

 

 また駆間に変なキャラ現れてるぅ……とか言ってる場合じゃない。妨害耐性を付与された。打ち消せないのなら速攻で殺すしかない。

 

 こっちも対抗してマスタースキル? 火力? いや、今欲しいのは耐性を剥がす為のディスペルの方だ、それがあればパフェキャンが通った。だけどもう遅い、火力を増強した所で《悪態》によるデバフが重い―――!

 

「フラメア!」

 

「はい……!」

 

 フラメアの《クイックスペル》! 《ブリザード》の猛吹雪が襲う!

 タマネギの道化師の《悪態》! フラメアの攻撃と魔法攻撃が1段階下がった!

 尊は《砲戦指揮》を執った! フラメアの攻撃と魔力が1段階上がった!

 姫と道化師は吹雪の寒さに耐えた!

 吹雪が合わさり氷結する!

 《ダイアモンドダスト》が降り注ぐ!

 道化師は氷漬けになって死亡した!

 姫は食いしばって耐えた!

 

 《復唱》ガチャ……なし! ウェルギリウスで定数ダメージ? いや、妨害耐性で追撃が入らない。《悪態》でのデバフが痛かった、アレでダメージを削られたのが悪かった。いや、ロジジャマがそもそも邪魔だ。アレのせいで妨害を通せなかった。ロジジャマがあると解ればチビ採用してアグロにシフトしてた!

 

「うわぁ、負けた―――!」

 

「俺のォ……勝ちだァ―――!!」

 

 にこり、とプリンセスメロンが笑った。

 

「止めて欲しかった―――」

 

 プリンセスメロンは微笑みの中炸裂した!

 《一の太刀》! クリティカル率が100%上がった!

 《背水》!  《逆襲》!

 《ファイナルアタック》! 命と引き換えに付与されているバフが倍化した!

 《ストライクプラス》! 攻撃に追撃ダメージが発生する!

 《アフターマス》! 爆発の衝撃は遅れてやって来る!

 

「うわ―――」

 

「―――」

 

「……」

 

 プリンセスメロンが爆発した。タマネギ道化師の残骸が飲み込まれて消滅し、フラメアがうわぁ、という声と共に飲み込まれ、ウェルギリウスがじゃあ、実家に帰りますね……というポーズで飲み込まれる。フィールド上、敵味方関係なく攻撃が全ての命を飲み込み、オーバーキルの極みで吹き飛ばす。

 

 《ストライクプラス》で食いしばり系を殺しつつ、《アフターマス》によって殺しきった後のオーバーキル分のダメージが蘇生後にも引き継がれる。こっそりと残しておいたウェルギリウスのリレイズ効果がこれで貫通されて消し飛ぶ。

 

 フィールド中央、どでかいクレーターの中に残されたのはぼろぼろの炭となったフラメアの死体だけで、残りは何も残されていなかった。

 

「見たか!! 俺が……Cランク最強だァァァ―――!!」

 

「お前がナンバーワンだ……」

 

 勝鬨を上げる花火師に俺は拍手を送った。

 

 お前がナンバーワンだよ花火師……。

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