最強以外ありえない   作:てんぞー

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止めておけ、な?

「久遠負けたー」

 

「うむ、良く頑張ったな。細かい所は解らなかったが、貴様の表情が良い試合だった事を物語っている。全力を尽くしてその表情なのだろう? だったら貴様は全力を尽くしたに違いない。良く頑張ったな」

 

「なんだアレ。勝ったはずなのに釈然としねェぞ」

 

「雑魚」

 

「デカパイ今なんつった???」

 

「今セクハラ発言した?」

 

「強すぎるカウンター止めねェか! 勝てないコンボを出すな!!!」

 

 消し飛んだモンスター達を蘇生したりなんだりしてステージから降りて何時もの休憩スペースへ。何時も通り感想戦に入ろうとすると他にも面白がって集まって来る奴がいる。まあまあ何時ものメンツだ。俺が負けたのを面白がってる奴がそこそこいる。

 

 まあ、公式戦では基本負けないしな、俺。

 

 そういう訳で注目を集める中、感想戦を始める。

 

「とりあえず勝利おめでとう。ジュース奢るよ」

 

「おう、サンキューな。最高に気分いいわ」

 

「花火師バチバチに戦術詰めてたもんなぁ」

 

「みこちゃんギリギリ対応しきれなかった感じあるよなー」

 

「結果見ると結構紙一重って感じだったよな。勝敗を分けたのはロジジャマか?」

 

 《ロジックジャマー》、単体を対象に妨害耐性を付与するマスタースキル。まさかCランクで俺以外にマスタースキルを使う事の出来る奴が出て来るとは思わなかった。それもピンポイントでメタ枠を引っ提げて来るとは思いもしなかった。

 

「鴉羽がパフェキャン握ってるのは有名だからな。スタイル的にもコアスキルを潰して行動止めたらそのまま火力叩き込んで締める高速戦を好むしな。絶対に死神を選出してパフェキャンを合わせて来るとは思ったぜ」

 

「悔しいけど分析はあってる。コア潰してぶっ殺すのが一番外れがないからな。普通は止められないし」

 

 《インタラプト》はまだ比較的に手に入りやすいが、《パーフェクトキャンセラー》はそうじゃない。2妨害立てられる以上俺の方が妨害合戦に入れば基本的には有利だ。相手が先に《インタラプト》を吐いたのを見たから2枚目をこっちは打ったのだ。

 

「ダブマジをインタラで止めたのは油断させる為かぁ」

 

「先に打てば引き金が軽くなるだろォ?」

 

 実際、安心してこっちは2枚目を差し込んだ所を打ち取られたので考えは正しい。話を聞けば聞く程こっちの思考を丁寧にトレースして戦術を組み立ててるのが解る。徹底して殺しに来てるなぁ、これ……悔しいけど天晴れだわ。これはマジで賞賛以外言葉が見つからない。

 

 何よりも久しぶりにキチンと読み合いが発生するレベルの戦いが出来て凄い楽しかった。

 

 これだよこれ、こういう勝負がしたいんだよ。負けるかもしれないから勝負ってのは面白いんだ。

 

「今回はロジジャマの奇襲が完全に刺さった形だったな。正直同じ手を使って勝てるとは思えねェ。鴉羽、お前なら次回どうする?」

 

「ロジジャマはバフ扱いだからディスペで剥がす」

 

「まあ、そうなるか」

 

 《クイックスペル》で行動を割り込んで《ディスペル》で耐性剥がしてから《パーフェクトキャンセラー》が丸いかなぁ、とは思う。でもここまでやると魔法の枠がキツイんだよなぁ。そもそもフラメア自体スキル枠がかなりキツイ。

 

 《幻想図書館》《無詠唱》《暴走詠唱》《積層詠唱》《術式展開》。

 

 もうこのセットアップフルセットだけで5スキルだ。ここに《復唱》《ダブルマジック》と《ブリザード》が入る。

 

 はい、これで8枠全部埋まりました。ここに《積層詠唱》辺りと《クイックスペル》がトレードで入る。人によっては《復唱》よりも確実に発動できる《クイックスペル》のが良い! って人もいる。確実性はないけど《暴走詠唱》から3割で再発動できる《復唱》のが俺は好きかな。

 

「このスキル枠から何を抜いてディスペいれりゃあ良いの……? ってなるんだよね。まあ、比較的に枠が空いてるのはウェル―――死神の方だからこっちの枠を調整して良いんだけど、こっちは差し込む事出来ないからさ……」

 

「魔法の詰め方えっぐっ」

 

「限界まで詰め込んでるなぁ……」

 

「中位全体魔法を3連射する詠唱はこれぐらいしないと無くてぇ……」

 

「そこまでして何と戦ってんだよ……」

 

 花火師を指差す。今回は《悪態》のデバフをモロに受けた影響で火力を下げられたから想定した火力が出せなかった。いや、火力は十分に出せたけど妨害が通しきれなかったのが痛い。

 

「アグロ組んでればなぁ。アグロだったら殺しきれてたなぁ。悔しいなぁ、殺したかったなぁ、ぶち殺してぇなぁ」

 

「発言が猟奇殺人鬼のそれなんだよな」

 

 だって悔しいんだもん。今のは間違いなく勝てる試合だった。俺が戦闘中にマスタースキルの設定を変える事が出来れば―――普通の人のように当然のように選んで発動する事が出来れば、何も問題なかった。

 

 未だに俺の脳味噌はシステムというものに縛られている。そういう風に脳をロックしている。それはある意味ではセーフティでもある。俺が俺という存在を維持して、鴉羽尊という仮面を被り続ける為の。

 

 その認知を削って脳をシャットダウンし、再起動する事でスイッチを切り替える。それがチェンジプラン。そうやって脳を再起動すればマスタースキルの再設定だって出来る。

 

 でも久遠がね、やっちゃ駄目って言うから使えない。怒られちゃうから仕方がないね。俺がもうちょい柔軟にものを考えられるなら出来るのだが―――未だに人の顔はまともに認識できないし、解っていても抜け出せないし、心が滅入る。

 

 だからなるべく考えないようにする。

 

「今回の敗因は固定化された戦闘ルーチンを突かれた感じだったなぁ。そっか、確かに困ったらパフェキャンって癖がついてたな……今度からはちょっと気を付けるか」

 

「いや、実際スキルとしてのパワーはパフェキャン高いぞ。頼るのは別におかしくはない。というかパフェキャンに頼れなくなったらどんなスキルに頼れば良いって話だよ。そもそもあの全体全滅爆発にパフェキャン以外で止める手段はあるのか?」

 

「あるぞ」

 

 花火師が普通に答える。

 

「無敵受け」

 

「Cじゃほとんど見ないだろ」

 

「だけどさっきの戦闘見てる限りメロン姫、スキル枠がウチの魔女並にぎちぎちだったからな。無敵貫通乗せる余裕なんてなかっただろ」

 

「あの短時間で良く発生してるスキルを全部見極めてるな鴉羽ァ……戦闘時間全部で10秒もなかっただろ」

 

「まあね」

 

 リアクションやオートスキルを挟み込むなら1ターン処理は増えるが、それでも大体10秒以内に全部収まる。今回は1ターン当たりの空中戦がすごい事になった影響で1ターンの処理が長かったが、スキルが1個か2個ぐらいしか挟まないパターンだと大体1ターン3秒から5秒ぐらいで処理される。

 

 それでも発動するスキルは全部把握出来た。これは構築したシステムのおかげだ。

 

 これも、何時かはお別れしないといけないのだろうが。

 

「Cで確定OCやるにはパーツが限られるからね、ワンパンに全てを乗せて粉砕するって選択肢はたぶんCでは一番強いよ。俺は魔法でコンボする方が安定感あって好きだからそっち選ぶけど。クリ100だけならそこまで無理する程でもないし、クリ確定させて連撃追撃する方が今のパチンコの数倍強いと思うよ」

 

「耳が痛い」

 

「気持ち良くなりたいだけだったんだ……」

 

「パチンコで勝てると楽しくて……」

 

「反省しろクソボケ共」

 

 まあ、構築を切り替えるのに少し時間がかかるだろうからそれまではパチンコ組を虐められるかなぁ。今日はパチカス狩りするつもりが思いがけない対戦になってしまって割と満足感がデカい。フリマを少しだけ流そうかと思ったが、その必要はなさそうだ。

 

 あ、そうだ。折角皆集まってるんだし聞いておくか。

 

「あぁ、そうだ来月、従妹に誘われて外の大会に出る事になったんだけどなんか気を付けておく事ある?」

 

 口にした途端、その場にいる全員がお通夜の様な雰囲気で黙り始めた。

 

 え、なにこの空気。周りを見ると久遠以外全員俯いてたり天井を見上げてる。

 

「鴉羽が外の大会かあ」

 

「これ、止めた方がいいんじゃねぇか……?」

 

「誰も幸せにならないだろ」

 

「不穏な言葉しか聞こえてこないんだけうおっ」

 

「おい、鴉羽ァ……悪ィ事は言わねェ」

 

 花火師ががしっと肩を掴んでくる。

 

「止めておけ、な?」

 

「そこまで言う……?」

 

 まあ、と七海が口を出す。

 

「尊くんは絶対に幸せにならないと思うなぁ」

 

「……どういう事? 外はこっちと比べると温いって話は良く聞くけど」

 

 外のバトルはあんまり見てない……というか欠片も見てない。テレビで映るのは基本的にB以上のプロフェッショナルの奴ばかりだ。そこまで来るとほとんど駆間と環境は変わらないので見応えもあるし予習するにも丁度良いのだが。

 

「長考」

 

「うん?」

 

「長考が入る」

 

「……?」

 

 花火師が続ける。

 

「戦闘中に長考が普通に入る。10秒ぐらい動きを止めて考える時間が入ったりする。酷い時には20秒ぐらい喋ってるだけの時間とか」

 

「あの、リジェネ」

 

「普通に進んでる」

 

「遅延行為やないかい」

 

「寧ろプロと同じ環境で高速戦展開してるウチらが異端というか……」

 

「えぇ……」

 

 なんか、段々と外の大会に出るやる気が削がれて行く。

 

「外はなぁ、なんというか……エンジョイ勢の比率が圧倒的に多いというか……ペットをドッグランに連れて来る感じ? が強いんだよ。本気で殺し合う為に大会に出るんじゃなくて、良くて入賞すればお小遣いになるって感じの感覚が強いんだよな」

 

「温度差が酷いんだよ、ガチとエンジョイで。俺達みたいなガチのエンジョイ勢は殺し合い上等、きっちりトドメを刺す事前提でリーサル作るだろ? エンジョイのライト層は当然のように“なにも殺さなくていいじゃない!!”とか言ってくるんだよ」

 

「しかもこれがCランクに出て来るからな。鴉羽はガチ側のエンジョイ勢だからキツイと思うよ。場合によってはちゃんと上限まで育成されてないのとか平気に出て来るから上と下で強さのむらも酷いし」

 

「尊くんはあんまり楽しめないと思うよ。私も認定戦の為じゃなきゃ外にはあんまり行きたくないかなぁ。楽なのは楽なんだけど……戦闘が作業的すぎて戦っている意味がないんだよねー。学びがないというか」

 

「そんなレベルなのか……」

 

「いや、外で強い奴は普通にいるんだよ。問題はそれが少ないって事なんだ」

 

「マスターの母数が一気に跳ね上がる分下の層が一気に増えるって話な。駆間では生きる為に誰もがマスターになって殺し合って腕を磨くけど、外ではペットや家族感覚が多いだろ? だからそこまで必死になって育てる必要がないんだよ」

 

「……成程なぁ。まあ、従妹に頼まれたから断れないし出るんだけど」

 

 こう、話を聞いてしまうと盛り下がるなぁ。

 

 5月の大会、どうなるんだろうなぁ……。

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