最初の1週間パチカス達は美味しいスナックだった。
パチンコでランクマをするのは悪いのか!
パチンコで気持ち良くなっちゃあかんのか!?
パチンコはダメなのか?
駄目だから潰して回ってるのだ! 1週間も虐めてると段々と学習してきて花火師を参考にデバフによって序盤の魔法コンボを回避してくるようになる。そう、俺の開幕魔法コンボ構築は極度にデバフに弱いのだ。デバフによって被害を抑えられると詠唱とMPが尽きる。
次のターンからが辛くなってくる。それを学習したカスたちが構築を強化し始める。この頃になると俺もワンターンコンボを放棄してミッドレンジへと切り替える。開幕でバーストするのではなく、3~4ターンかけて確実にリーサルする方へと方針を変更する。
これが半月も続くとパチンコデトックスが完了し、立派なキリングマシーンがランクマに復活する。
こうなってくると戦術も構築もガチになって来る。
確定クリティカル連撃アグロ。W魔法合体コンボ軸。確定クリ全体物理軸。図書館の実装によりこれまで環境になかったクリティカルバフと魔法サポートが一気に増え、パチンコ以外の殺意の高い構築が溢れだす。無駄なオーバーキルから適切なリーサル火力へ。ここまでシフトすると後は勝手に殺し合って勝手に練度を上げる。
1か月、しっかりとパチンカスのデトックスを終わらせればいよいよ遠征の日がやって来る。
大会の前日にはもう住み慣れた我が家を出る。
こうして家を出て遠くへと行くのは図書館以来の事であり、父も母もあんまり良い顔はしてなかった。図書館で大けがをしたのがまだ数か月前の出来事で、それは比較的最近の出来事でもある。片目が漸く見えるようになったのは最近の事でしかなく、当時の記憶は薄れていない。
とはいえ、全ては上のランクへと上がる為。
サボればどういうペナルティが科されるのかは解らない。少なくともジジイはその手のペナルティを用意しているだろう。俺に出来るのは最善、最速でランクを駆け上がる事だけだ。
「そういう訳で父さん母さん、ちょっと都会に行ってくるよ」
「その言葉が出て来る辺りすっかり田舎の無法地帯に馴染んだなぁ」
「田舎の無法地帯って言葉がなんかもう良く解らないよな」
「尊? テレビも来るらしいから恥ずかしい事はしちゃ駄目よ? 貴方に限ってそういう事はないと思うけど……何かあったらすぐに灯が察知するからね?」
灯がエスパーごっこをするが、実際はあの世を通してウェルギリウスが密告してるだけだ。
「大丈夫大丈夫、今度はあの女が出てくるような事もないだろうし……ない……だろう……し」
「不安そうに言うの止めてくれないかなぁ」
「お母さんたちじゃどうしようもない事だから心配になるだけなのよねぇ」
「ごめんなさい……」
ワンチャンあの女が観戦に来るかもしれないが、流石にそこまで恥知らずではないと思いたい。いや、マジでワンチャンありそうなのが嫌なのだが。その時はもう命を諦める以外の選択肢はない。あの時はあの女が展開したルール内でのお遊びだからどうにかなった訳で。
「じゃ、そろそろ行くよ」
ば、と手を上げて着替えとかの入ったトランクケースを持ち上げたら移動用に合体しておいたグリフォンの背中に乗ろうとして、車道の方から凄い勢いでクラクションを鳴らされた。
「首都圏は!!! モンスター!!! 禁止だって!!! 忘れたの!?」
「……そういえばそうだったな」
「すっかり忘れてたわ」
「駆間市内だと自由に連れて行けるからねぇ」
わっはっは、と一家で笑っていると車道の方、車の窓から此方を見るアンナが頭を抱えている。
「染まり過ぎでしょアンタ……」
「朱に交わってはなんとやら……って話だろ」
灯とアイコンタクトを交わして最悪の場合は頼むとだけ伝え、山の方、久遠がいるであろう方へと視線を向ける。今日は家での仕事があって見送りに来られないらしい……ちょっとだけ残念だ。だからそっちの方を見て軽く頭を下げてから車で待っているアンナの方へと向かう。
黒服の厳つい兄さんがトランクを受け取り、その間に車に乗ってアンナの横に座る。
「よ」
「よ、じゃないわよ。全く……あまり変な事をしないでね? 私の名に傷がつくんだから」
「大丈夫だって、俺だって社会常識捨てたわけじゃないんだから」
「どの口で言うのよ……それよりもモンスターは本当にこっちで運ばなくていいのね?」
「あぁ」
窓を開けて、家族に手を振りながら図書館のゲートへと向かうモンスター達を見る。
「別ルートで来るから大丈夫」
何なら俺達の数倍早い移動手段だよ。館長はサムズアップで現地に直接ゲートをこっそり開いてくれると言ってるし。モンスターの移動に関してはもう悩む必要はないのかもしれない。本来なら馬鹿みたいな値段がかかる所だが、その心配はもういらない。
「アンナ様」
「車を出して。東京に行くわよ尊」
「あいよ」
ミストドラゴンに乗ってではなく車で牧場を去る。もう既にこの牧場を帰る場所として捉えているのか、去って行く姿に寂しさを覚える。レイド廃人たちもキャンプサイトから此方を見つけると手を振ってくる……牧場の治安に関しては彼らがいる限り、心配する必要はないだろう。
……なんか、裏技使ってる感じでちょっと申し訳ないな。
ジジイもこんな方法で土地を管理するとは欠片も思わなかっただろう。
しばらく流れて行く景色を眺めながら時が過ぎるのを待った。牧場が段々と離れて行ったら……窓を閉めて、シートに背中を預ける。
「もういいの?」
「おう。で、どうせお前の事だからなんか事前準備だー、話だー、とかあるんだろ」
「アンタにしては察しが良いわね」
横からアンナがタブレットを渡してくる。それを受け取りつつ確認するのは出場者のリストだ。ついでに直近の大会成績まで載っているし、使用したモンスターの大まかなデータまで出ている。わぁ、という声が思わず零れる。
細かいデータは乗ってないが、モンスターを見れば大まかなデータは脳内で構築できる。
「良い? これはアンタと私が同盟関係にあるって事を見せる為の一種のパフォーマンスよ。それと同時にアンタの世間一般へのお披露目でもあるの。柊一族としてのね」
「……」
「嫌な顔をしても駄目よ。解ってるでしょ、アンタはこれから伸びる。有名になるわ。その前にどの立場にいるのか、っていうのを見せつけないと舐められるの。アンタが舐められると同盟を組んでる私も舐められるの」
「必死だなあ」
「そりゃあそうよ。一族で一番強くなるのは間違いなくアンタよ。既にSランカーとの繋がりも出来てるし。私自身はそこそこで良い。アンタをトップに据えて実権を握れれば私はそれで良いのよ。だからアンタが舐められると困るの。解る?」
「解りたくないけど解る。めんどくせぇ」
「我慢しなさいよ……私抜きだったらもっと面倒な事になってるから」
まあ、東吾もアーサーもそういう方面で助けてくれるようなタイプじゃない。寧ろこういうタイプの面倒からは逃げる奴か。アーサーはともかく、東吾はテレビ依頼から逃亡した前科があるし。そう考えるとアンナに手伝って貰えるのは助かるか。
「私はアンタに賭けてるの。アンタが必ず私を引き上げてくれるって」
「俺、アンナのそういう隠さず言う所好きだよ。ヒトはそういうの、無駄に隠そうとする」
「私だって相手は選んでるわよ。それに人間という生き物は外面で取り繕わないと大変なことになるのよ」
アレみたいに、と言って駆間市のある方を指差す。まあ、言いたい事は解る。駆間市に俺が馴染めたのはそういう中と外の差のない人間しか存在しない。そう、皆性癖と欲望にオープンなのだ。良く考えると良く社会を維持できてるなアレ。
「で、俺のお披露目……だっけ?」
「そ、アンタ今結構注目されてるのよ。色んな所から」
まあ、そこは少しだけ自覚がある。ウチの牧場周りにチラチラとなんか鬱陶しいのがチョロチョロしてるのは知ってるし。それでも本当に悪意あるやつや問題のあるやつは近づいてこられない。
ここはそういう風になっているから。
あー……面倒だ。今まで回避してたそういうのが出てくるのか。
「アンタ、柊家の今の事情は?」
「興味のないものは全く調べない」
「でしょうね。アンタはそういう奴よ」
ため息を吐きながらアンナが話を続ける。その間にも牧場は遠ざかり、いつの間にか見えなくなってしまった。
「今の柊家は大きく分けて3つの派閥に分かれてるわ。1つ目は……まあ、私ね」
「流石」
「揶揄わない。私を筆頭とした比較的まともな連中で構成されているわ。主張はシンプルに“これを機に柊家を新生しましょう”って主張ね。腐った主柱と骨組みを引き抜いて新しくして、クリーンだけどこれまでと同じような役割をはたして行こう……って感じね」
アンナの派閥は柊家の中でもまともな連中が集まっているからか割と真っ当な事を言っている。問題は真っ当な人間程才能を与えられないという不思議なルールがある事だ。お蔭で中身が異次元な俺が一番才能を貰っている気がしなくもない。
「次に清十郎兄さまを筆頭とした派閥ね。これも主張が解りやすくて一番強い奴がトップに立つべき。即ち自分が上に立つって言ってる訳ね。もう既にBランクだし一族の権力を使って自分に有利な大会と賄賂で爆速で勝ち上がってるわ。そのうちAに上がるでしょうね」
「止めようがないじゃん」
「それはどうかしら? こういうやり方、お爺様が一番嫌いそうだと思うし。今は何事もなくても……そのうち、絶対に何らかのペナルティを食らうと思うわ。見てなさい尊、あのお爺様は性根が腐ってるから正攻法以外で進もうとする奴を絶対に虐めるわよ」
「不正がバレる前にゴールしようって腹だな」
成功したらどうしようもないので早めに死んでくれるのを祈っておく。南無南無。
「で、最後は?」
「お爺様に脳味噌を焼かれたハリキリ集団。われらこそ真の継承者! 今こそ己の命と才能を燃やし尽くしてでも駆け上がる時!! とか主張して正攻法で登り上がろうとしている真っ当に頭のおかしい連中」
お空に雅人くんの顔が浮かぶなぁ。
「お爺様がどうしようもなく腐ってしまったのは事実だけど、成し遂げた偉業も事実よ。悔しいけど私達にそれを否定する事は出来ないの。事実として存在するからこの偉業の後を継げるのは偉業を成した者のみ、という主張は割と通るわ。柊家はそれで生まれたんだし」
「超人の後を継げる超人が出て来るとは限らないんだよなぁ」
アンナが物凄い何か言いたそうな顔をしてみているので窓の外を見る。まだまだ都会には遠い。
「宗教キメてる派閥があるのは理解した。理解したくないけど解った。それでアンナは勝てそうなのかこのレース?」
「アンタ次第ね」
「じゃあ勝てるな」
はあ、と溜息を吐く。全く興味のなかった柊家の継承レースだが、ここでこのレースの意味が復活してきている。富も、名声も、権力も俺には必要ない。だがアレは……アレだけは絶対に渡す事は出来ない。
「次元城、そんなにヤバイの? 調べても名前さえヒットしないんだけど」
「あの扉は絶対に閉ざさないとならない。開いてはならない。いいか、アンナ。今の人類の戦い方はリトライ前提の戦い方だ。情報を持ち帰ってそれで対策して勝つってのが基本だ。解るよな? 連中はそれを許さない。城を出たら記憶が消えるぐらいの事は普通にやるぞ」
「それだけ?」
「いや、そもそも次元の狭間に存在する城なんだ。通常の手段ではたどり着けないし、扉を開く事も出来ない―――」
次元城はDLCラスボス―――あのクソボケカス女を倒した後、その戦闘の余波によって次元に亀裂が生じ、あちらの世界と此方の世界の次元の狭間が開く。そこに存在しているのが次元城なのだ。だからあの女を殺すまでは本当は出現しないのだが……或いは、あの女が暴れれば現れるのかもしれない。
もしくは、招かれるか……とか。
そもそもジジイが本当に周回プレイしてるなら絶対にどっかであのカス女とぶつかってると思うんだよな。
その影響で次元城を知っている可能性もある。というかジジイ、あの女に勝った事あるのか? 未来ちゃんさえ完成させればジジイでも勝てると思うけど。まあ、周回プレイヤーならそれぐらい出来てるだろ。
「……あんま重要性を理解してないみたいだな」
「正直あんまり伝わってない。結局次元城って何なの?」
「かつて彼方の世界に存在した邪神連中を―――って認知出来ないかこの部分は」
「……うん、何を言ってるのか全く聞こえなかったわ」
困ったなぁ、やっぱりランクの低い人間だとそこら辺の知識への認知が機能しないみたいだ。こう来るとジジイは本当にうまい具合に餌をばら撒いたよなぁ、と思う。誰だってジジイの強さの秘密の源だと解ればそれに群がろうとする。
ド畜生がよ。
「じゃあ各国のトップマスターが即死するレベルの化け物ばかりいるダンジョンだと思えばいいよ」
「根の国、とかイギリスの幻想図書館よりもヤバイの?」
「比べ物にならない。単純な難易度で言えば数倍以上はある」
しかもリアル形式となると死に覚えが通じない。そしてギミックが解っていたうえで対処し辛いギミックというものはあるのだ。例えば毎ターンランダム即死ギミックとか。スキルランダム封印とか。連撃回数の分だけダメージカット率上昇とか。
「カスが、戦闘中に急に反転ライフにシステムを上書きするのはなしだろうがよっ……!」
「解った、アンタがキレてるのを見てまともじゃないのは解った。とりあえずアンタッチャブルって事なのね?」
「あぁ……俺は継承して次元城を閉ざしたいだけ。ジジイがどうやって開けたのかは知らないけど、アレは人類には不要なもんだ。存在しちゃならん。存在しているだけでロクな事にならない。しっかりと施錠して永久封印しておきたい」
「解った、解ったわ。アンタの熱意は伝わったから。それよりもほら、資料を確認して」
はいはい、と返答しながら資料を確認する。大会と聞いて30人ぐらいの規模を想定していたが、どうやら100人規模の超大型な大会だったらしい。それも1日では終わらないみたいだから凄い。ここまでデカい大会をCで出来るのか? と思えばやっぱり柊家の力か。
「こんなに人が集まるもんなんか?」
「大会に出て1回戦だけ抜ければ御の字……って人も結構来るわ。まあ、うちの力を見せつける為でもあるんだけど。この業界、舐められたら終わりなのよ」
想像してた数倍の規模になりそうだが……やはり、柊家と名前の付く人間が大会に出場している。
で、と続ける。
「俺の仕事は?」
「送られてくる刺客含めて全部正面から蹂躙する事よ。得意でしょ? そういうの」
アンナの言葉にタブレットを切って横に落とす。成程、超シンプルな話で助かる。
「確かに得意だ」
車が駆間から遠ざかって新たな地へと向かって行く。考えてみれば都会に戻るのは凄い久しぶりな話で、今更になって帰郷に近い形になっている。それでも帰るのではなく向かう、という風に感じるのは……こっち側に大事なものが出来てしまったからなのかもしれない。
今更ながらほんと。
ジジイはこういう采配、ミスらない。