モンスター関連の施設は地下にある。
地上だと脱走した場合厄介な事になるが、地下だった場合は崩落させて生き埋めに出来るからだ。そういう安全装置がかかっている……らしい。あんまり興味ないから多分そんな感じの設定だった筈だ。
だからモンスター関連の施設は基本地下で、表にいる煩い人たちの目につかないようになっている。
「おー、広い」
エレベーターを降りて見上げれば空があった。いや、空のように見える天井だ。広く、地下スペースはモンスター達が過ごしやすいように整えられており、様々な環境が再現されている。とてつもなく金がかかっているのが解る。
ウチみたいにダンジョンに地形を侵食させて整えたのじゃなくて、金をかけて整えた奴だ。我が家の牧場がどれだけ邪道に手を染めてるのか理解出来る。普通なら鎮圧部隊出動もんですよウチ。
降りて周りを見ると案内用のホテルマンがいる。それ以外にも問題が発生したときに備えての鎮圧用の高レベルモンスターも配置されている。
やっぱ高いだけあって色々と用意してるんだな、このホテル。納得しつつ歩き出す。意外と宿泊客も多くて穏やかに過ごしてるのが見える。
モンスターと散歩してたり、走り回ったり、寝転がったり、ブラッシングしてたり……おかしい、誰も殺し合ってない。モンスターとの最大のコミュニケーションは殺し合いではなかったのか!?
「嘘でしょ……死と血の気配がしない……!」
「殺し合い以外のコミュニケーションもあるんですにゃよ……?」
「うーん……」
よく見ればホテル側で用意された隣にいる人と縁のないモンスターが多く見える。マスターとモンスターとしての繋がりを感じない。つまりペットカフェみたいな店舗で触れ合う感覚に近い。
「お客様、よろしいでしょうか?」
「ん?」
入り口から辺りを伺っていると近くで様子を見守っていたホテルマンが説明してくれる。
「当ホテル自慢のモンスタースペースでは当ホテルが用意したモンスター達との触れ合いが出来ます。特に大型モンスターとの触れ合いは都会では絶対に味わえない特権の一つです。小型のモンスターであればモンスターカフェ等で味わえますが……」
「成程、そういうのもあるのか」
「にゃあ。普段はファーム住みなのであまり意識してない所でしたね」
「そうだな」
アーティと俺の言葉にホテルマンが頷いた。
「ならお客様にはあまり新鮮さを感じないかもしれません。一応奥の方にバトルスペースもあります。レンタルバトルも可能ですので、誰かしらいるかもしれませんね」
「ありがとう、死の気配を追ってみるよ」
「そんなものはありませんよ……?」
あるって! 絶対にあるよ!
理想の話をすれば明日の大会に向けて最終調整する為に平均レベルのマスターと対戦することだ。適当に誰かしら捕まえて軽く20戦ぐらい流しておきたい。
せっかく遠征してきたんだから、100戦もせずに帰ったんじゃ遠征の名折れだ。蹂躙出来るだけしてなるべく皆の心に傷を残して帰りたい。
「都会のサンドバッグ共ー、どこかなー」
「最悪なこと言いながら歩いてますにゃ……」
しかし、歩いてるとバトルとは関係なく過ごしてる人のまあ、多いことだ。
ウチはファーム経営でモンスターも多く、最近はちょい大型のモンスターも増えてきた。Bに上がれば生産性も見た目もデカイモンスターが増えてきて、いよいよ大手を名乗れるレベルにはなるだろう。
それで感覚が麻痺してるが、基本的に都会の人間はモンスターとは生活してない。
「都会じゃモンスター税がかかるし、土地もない……モンスターとは暮らせなくて、一緒にいられるのはペットサイズの小さな連中だけだ」
「成程にゃ、つまりモンスターとの生活は富裕層の贅沢ということなのですにゃ?」
「うん、ここ数年はすっかりファーム生活で忘れてたけどね」
そういや東吾に聞いたな。
国は方針としてなるべく人にモンスターを持たせたくないって。モンスター関連の利権や権利は協会が大半を握ってて、介入出来ないって。
まあ、その裏にはたぶん旧世界の神か権力者がいるんだろうけど。
その影響でこの世界では誰もが簡単にモンスターという武力を手にできてしまう。だから税金や何やらで所持し辛い環境を作って、実際に使役できる人を減らす。
これで国家内の力を持つ人間をなるべく減らしてるって。
国よりも力を持つフリーの人間ができることが安全を考える上で厄介というのは解る。ただ、これは人の世が続く前提の話だ。滅亡の女神が存在する以上、国家を超えて強くなれるマスターが必要なのだ。
だからこうなった。
牧場住みとなった今、大半のことは俺には関係がなくなった。重要なのはどうやって上に行くか、という話だ。
「と、人いるじゃん」
なんだ、バトルしてるじゃーん。とりあえず生を頼む感覚で。
「とりあえず殺すか」
「待てたわけ」
「む」
部屋からフラメアたちを召喚しようとしたら、後ろから挟み込まれてくる声に動きを止められた。
「直ぐに飛び込まず良く見ろ」
「んー?」
バトル用に取られたスペースは広く、コートのようにマーキングされた本格的ではない、カジュアルなスペースだった。そこに10人ぐらい集まっている。中央では一組が戦っている。
「さて、どう動こうかな……」
「降参するなら今のうちですよ」
そう言って和やかにモンスターを挟んで和んでいた。
……殺し合いの空気じゃない。
モンスターを挟んで数秒間、和みながら考える仕草を取ると行動に移し、攻撃を始める。そこから数回、慣れてない様子で攻撃するモンスターと、慣れてない様子で指示を出すマスターの姿が続く。
やがて殴り合いから耐久の高いほうが順当に勝利する。
「あのレベルに貴様が入り込んでも空気が死ぬだけだ。止めておけ」
「なにあの温いの」
「マジョリティだ」
振り返る。
そこには黒髪をオールバックに流す、鋭い赤い瞳が特徴の男がいた。恐らく二十代に入るぐらいか。
「マジョリティ」
「そう、つまりは大多数。多くの人が所属するグループ。Cは凡人の受け皿だ。上と下の層は厚く、意識の違いが大きい。地域によって昇格のし易いところもありやる気のない者、才能のない者にも平等にチャンスがある」
再びボーイスカウトみたいな和気あいあいバトルクラブを見る。
「アレが、そう?」
「そうだ。明日開かれる大会は大きく、多くの凡人が記念の為に顔を出す。一戦勝つだけでほら! 私は柊家主催の大会で一回戦に勝利したぞ! と自慢できるからな」
「情熱を持って物事に取り込める層は常にそう多くないのですにゃ。だからこそ、情熱と技量を兼ね備えたプロフェッショナルはおおきな壁なのですにゃ」
「ふ、その道化はどうやら道理を理解しているようだな」
「成程なぁ」
これが大半……或いは主流。強くなりたい、強くなる、その為の行動。それを取れる人間はある程度恵まれていないとならない。環境、手段、初期投資、全てを揃えて上へとステップアップするのは簡単な事ではない。
「都会ではモンスターを育て辛い……」
「そうだ、そういう風に法が縛っている。故に凡人たちは手探りでどう強くなるのかを探らないといけない―――あそこにいる凡人共は決して舐めている訳でも不真面目な訳でもない。本気で考え、本気で戦っているのだ。ただそのレベルが貴様の求める通常の域に達していないだけだ」
「あれが“普通”かあ……」
駆間で戦った時の様な殺意や戦意がない。死の気配もしなければ血の臭いもしない。眺めていると大きく吹き飛ばされ、ぼろぼろになった姿が地面に転がると、起き上がらずにそのまま体から力を抜いた。
それで戦闘が終了し、マスターたちは歩み寄ると握手してから和やかに感想戦に入った。
「明日はアレレベルと戦らなきゃいけないのかぁ」
「全てが全て、そうではないだろうな。柊の名はでかい。それに惹かれてやって来る有象無象も多いが、純粋に飛躍する場ととらえてやって来る強者もいるだろう。腐る必要はない、死神。貴様の相手であれば間違いなく存在するだろう。運命とはそういうものだ」
流石にアレに混ざるのは止めておくか。そう判断して振り返り、改めて割り込んできた男を見る。
「えーと、ありがとう兄さん」
「王」
「王?」
「我の事は王と呼べ」
急にキャラが濃くなったな。いや、良いんだけど。
「王様?」
「うむ」
満足げだ。
「王様は此方に何を?」
「明日の見物に来たが暇でな。何か面白いものでもないかと思ってフラついていた」
「成果は」
「ん」
俺に視線を向けたという事は俺が面白いものだって言ってる?? まあ、確かに少しは面白いかもしれない。腕を組んでふーむ、と唸ってどう答えてやろうかと考えていると王がふ、と小さく笑い声を零した。
「死神……貴様の考えは手に取るように解るぞ……大方が明日の大会に向けて調整がしたかったのだろう。だが未知を示すのは君臨者たる者の務め、我が貴様に道を示してやろう!」
ばばーん、と音が鳴りそうな勢いで真面目そうに手を突き出し、案内してやると言われた。
「どっか他に対戦出来る場所があるの?」
「うむ、このホテルからそう遠くない場所にモンスター協会の支部がある。そこへと向かえば他のマスターと対戦する事も可能だろう。金はかかるがモンスター協会でもモンスターの預かりはやっているからな、都会住みはそこで預けたりもしてる」
「へえじゃあ―――」
「待つにゃ! アンナさんやお母様に言われた事を思い出すにゃ!」
「む」
行くか、と言おうとしたらアーティからストップの声がかかった。確かにアンナと母さんに何か言われていた気がするな。
イマジナリー母さん。
『良い、尊。他人に迷惑を掛けちゃ駄目よ? ちゃんとお行儀よくするのよ』
イマジナリーアンナさん。
『良い!? 絶対に! 絶対に勝手な事をしない事! アンタの! 振る舞いが!! 私の!! 品位に!! 直結するの!!! 勝手な行動しないでよ!?』
イマジナリー東吾くん。
『いけ、尊! やらかしておけ! 俺は後でキレる準備だけしておくから! お前はどうせ止まらないからな! 今回もやるんだろ?』
良し、ゴーサインが出たな。
「行くか?」
「行く!」
「にゃぁ……申し訳ありません、私では止められませんでしたにゃ……」
いえーい、と声を上げながら王様とハイタッチ決めたらエレベーターに乗って早速外へと向かう。そのまま一階のロビーにまで戻ったら迷う事無くホテルの外へ―――シティジャングルへと向かって飛び出す。
いざ、シティジャングル東京へ!