最強以外ありえない   作:てんぞー

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デビューします!!

 モンスターを連れずにホテルを出て数分。

 

 タクシーに乗ってモンスター協会へと向かった俺達は道中なんか面白そうなお店を見つけてタクシーを降りた。それから近場を歩き回り、見つけたバスが中々見ない形をしてたのでそれに乗ってはしゃぎ、終点で降りて。

 

 気づいたら欠片も知らないところに来てた。

 

「ここ、どこ」

 

「知らん……」

 

 ホテルを出て一時間。俺たちは迷子になっていた。顔を見合わせながら首を互いに傾げて何が悪かったんだ? と悩むこと10秒。

 

「まあ、適当に歩いてたらそのうち辿り着くだろう! 我、王だからな!」

 

「さっすが王様! じゃあ適当にぶらぶらすっか! ……あ、スマホの電池切れてる。まあ、ええか」

 

 そういや今朝家を出てから一度も充電してなかったな。今更思い出すことでもないが。そうやって俺と王は見知らぬ街にやってきた。

 

 久しぶりに出てきた都会はやはり人が多かった。右を見ても人、左を見ても人。誰も彼も顔がなく、マネキンの行列がルーティン通りの生活をしているようにさえ見えてくる。

 

 だがガスマスク無しで歩き回れるという気楽さは悪くなかった。ただ、警察の数が多いように感じる。

 

「なんか交差点で警察をよく見るね? モンスターも連れてるみたいだし」

 

 犬型とか狼型とか、比較的飼いやすく育てやすいタイプが見れる。まあ、ウチのチビのが強いか。近づくと警察が接触を止めようとするが、それよりも早くモンスターが転がって腹を見せる。

 

「え? なんでこいつがこんな簡単に心を許してるんだ……?」

 

「生物としての格の違いを感じてるのだろう。獣なだけに目の前にいる相手の格を敏感に感じ取っているのであろう」

 

「わんっ!」

 

 そう言いながら犬のモンスターは王にも同じ敬意を見せていた。二人で軽く警察犬のモンスターを撫でたら再び歩き出す。

 

「街中でモンスターを見るなんて」

 

「少し前にイギリスでSランクにしか攻略できないダンジョンが都市部に発生したからな。それ以来どの国も警戒態勢に入ってる。新法によって都市内のモンスター事情が変わりつつある」

 

「へぇ、そんな事が」

 

 いや……知らん……アレ、あんな影響あったんだ……。え、もしかして俺達の影響で法律変える羽目になった?

 

「そもそも現行の法律ではテロを防ぐ手段がなかった。街中のモンスターを排除すればそれだけテロやモンスターを使った犯罪に対処出来なくなる……漸く法律がそれに追いついてきた」

 

「モンスターに対処出来るのはモンスターだけだしなぁ」

 

「そうだ」

 

 言われてみればそうだ。警察でさえモンスターを所有できないとなると本当にテロや犯罪に対処出来る者が限られる。これまではある種の信頼や慢心で保っていた平和が崩れただけだ。

 

「……」

 

 頭を振る。人の顔が見えすぎる。少しだけ頭が痛くなる。昔はすべての人がのっぺらぼうのように見えた。それが久遠と会って、過ごすようになってからは黒塗りに見えるようになった。

 

 今はクレヨンで塗りつぶしたように見える。

 

 人間性を獲得すればするほど相貌失認が悪化する。軽いノリで街に出てきたが、止めておけばよかったかも知れない。

 

 あー、駄目だ。真面目なことを考えると頭が痛くなる。なるべく考えないようにしないと。モンスターと面白いことだけを考えておけばだいぶ誤魔化せる。

 

「ふむ、少し待て」

 

「王様?」

 

 こちらの様子を見てた王が辺りを見渡すと雑貨店の中へと入って行き、それから数分すると出てきた。

 

「これを使え」

 

「……サングラス?」

 

 そう言って投げ渡してきたのはサングラスだった。それもチンピラが使うようなレンズが微妙に小さい丸いタイプの。これをかければ無事にチンピラ入りだ。

 

 かけてみる。

 

「……見えないんだけど」

 

「中央部分はな」

 

 王の言うとおり、サングラスをかけると真ん中が見えない。ただレンズが小さいからその周辺は見えて、真ん中だけぽっかりと塗りつぶされたような感じになる。

 

「ジョークグッズだがそれなら人の顔を見ても見えないだろう」

 

「……解るの?」

 

「我は王だぞ」

 

 ふ、と笑い声を零す。

 

「人間なぞ見れば解る」

 

 まあ、なんとなくだが欠けたところのある同類の様なもんだとは察していた。恐らく見れば解るというのも嘘ではないのだろう。在野にこんな才能の塊みたいなやつがいるなんてな。

 

「貴様のそれは精神性の奥底から生まれたものであろう。なぜ抗う。受け入れれば楽になろう」

 

 王の質問に歩きながら答える。

 

「実は俺、カワイイ婚約者がいるんすよ」

 

「お、惚気か?」

 

 交差点で足を止め、まあ、待て、と手を出す。

 

「本当に可愛いし健気な娘なんだ。俺を理解した上で本物にするって言ってくれた初めての他人なんだ。ずっと俺の横にいて、俺を人にしてくれるって言ってくれてんだ」

 

 その衝撃、その喜び、その重み。普通の人間には理解できないだろう。

 

「たぶんその子の事が好きなんだ」

 

「貴様を濁らせているのはそれだな」

 

「うん、そうだね」

 

 久遠と出会って、話して、一緒に過ごすようになって人間らしくなってきたと思う。空っぽの心が少しずつなにかに満たされてゆく。だけどそれは生まれ持ったものを否定するものである。

 

 特別性の否定。人に近づくとは永遠性との別離で、有限であることを愛することだ。

 

「でもね、俺には解らないんだ。これが婚約者としてこの子を好きになるべきだと判断して好きになったのか、本当に俺の心の奥底から生まれた物なのか。真か否か」

 

「判別が付かぬか」

 

「うん。だからね、でもね、彼女は本当に真摯に、本気で俺に付き合ってくれるんだ。それに応えたいんだ」

 

「―――馬鹿め、それこそ愛から生まれた行いだろうに」

 

 うん、かもしれない。

 

 でも鴉羽尊にはロールプレイと本物の見分けがつかないんだ。

 

 これが本物の愛なのか、そうじゃないのか。その区別がつかないんだ。だけど久遠のその献身には応えたい。だってそれに応えられなきゃ胸を張って生きることは出来ないから。

 

「だからどれだけ苦しんででも、どれだけ自分の才能や力を削ることになっても、必ずたどり着かなきゃいけないんだ」

 

「それが貴様の矜持か……」

 

 俺の中で明確に本物だと理解しているものは2つある。

 

 一つはバトルに対する情熱。戦いたい。勝ちたい。負けたくない。最強でありたい。その欲求と感情は本物だ。

 

 そしてもう一つ。

 

 怒りだ。

 

 あらゆる命を、存在を冒涜するあの女神への怒りだ。

 

 この2つだけが本物だと理解しているものだ。だけどそんなんじゃ全然足りない。もっと、もっと知るべきだ。もっと近付くべきだ。

 

 人に。

 

「お陰で悪化し続けてるんだけどね!」

 

「まあ、それは仕方あるまい。貴様の選択だ」

 

 それはそう。自業自得。そういう生まれ方をした俺が悪い。

 

 と、話しながら歩いてると嗅ぎ慣れた臭いがする。くんくんと鼻を鳴らして辺りを見渡しその気配を察知する。

 

「死の臭いだ」

 

「ほう、案内せよ」

 

 王が愉快げな表情を浮かべるので俺もサムズアップを浮かべて日常的に嗅いでいる死の臭いを追う様に歩き出す。

 

 今まで歩いていたメインストリートから外れ、路地裏に入る。入った直後は人の姿がなくなるも、奥に進むに連れて段々と隠れるような気配へと変わる。

 

 それから明確に人の姿が増え、どことなく治安の悪そうな様子が見えてくる。

 

 入っちゃいけないところに入りつつある。自覚しながら面白そうという考えだけで俺達は突撃する。なんかガラの悪いやつが増えてくるだけでワクワクしてくる。

 

 そこから更に入り組んだ道を進めば……入り口にちんぴらを置いた地下への入り口を見つけた。

 

「あの奥から死の臭いがする」

 

「成程……ワクワクしてきたな!」

 

「あぁ!」

 

 本当は迷子だから帰り道を探すべきなのだが、それはまあ、後でいいだろう。俺達はライブ感だけで生きてるのだから。

 

 顔を見合わせ、じゃあ行くか、と、近づくとチンピラが片手でこちらを止める。

 

「会員証を出せ」

 

 ギロリ、とこちらを疑うように睨んでくる。当然、そんなものはない。だからポケットからマスターライセンスを取り出し、それを見せる。

 

「……通れ」

 

 ライセンスをポケットに戻して地下へと続く階段を降りてゆく。半ばまで来たところで王が首を傾げる。

 

「今のはどうやったんだ?」

 

「見たいものを見せてやった」

 

 シンクロして脳をハッキングしただけだ。見せたものが求めているものに見えるようにしただけで、其処まで変なことはしてない。咄嗟に思いついた事だけど、何かに悪用出来そうだなこれ。

 

 そんな事を考えながら階段を下りきり、扉の前に到着する。

 

 その向こう側から感じる熱気に覚えがある。

 

 期待とともに扉を開けば一気に熱気と音が飛び込んできた。踏み込むと共に感じるのはダンジョンに突入したときに感じる浮遊感。視界は一瞬で切り替わった。

 

「ほう、違法カジノか」

 

 地下に置いてあるダンジョン、その中にあったダンジョンゲートはまさかの違法カジノへと繋がるものだった。通常のカジノらしいゲーム台が並んでると思えば、中央には巨大なアリーナと、その中で戦うモンスターの姿があった。

 

「まさかこんなところにカジノがあるなんて」

 

「法律でしてはならないと定められればやりたくなる、それが人間という生き物だ」

 

 違法カジノ、しかもその最大のゲームはどうやらアリーナでの殺し合いらしい。道理で死の臭いがぷんぷんする訳だ。金の為に何百何千という命をここで殺してるのだから。

 

「いや、でも……」

 

「でも?」

 

「駆間のが死の臭いが強い」

 

「無法ごっこと本物の無法地帯を一緒にするな」

 

 蘇生して殺してのループだしリレイズ込みでも殺し合ってるからこっちのが臭いが薄いなぁ。金という欲望エンジン付けてるくせにこの程度なのか? がっかりだぜ。

 

 とはいえ、違法カジノなんて初めて来た。こんな様子なんだなぁ、と辺りを見渡していると王様がなんかごそごそしている。

 

「死神、手持ちはいくらある?」

 

「えーと……3000万かな。軍資金として渡されてるけど使う予定ないし」

 

「我は8000万ほど今日は持ち歩いてる」

 

 向き合い、キャッシュカードを取り出し、それで乾杯する。

 

「合わせて1億1000万!」

 

「やるか!」

 

 俺達! 違法カジノデビューします!!

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