最強以外ありえない   作:てんぞー

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ハァイ、尊

 お金を全部チップに変えてさあ、突撃だ!

 

 ポーカー。

 

「待て! ポーカーだと我が動きを全て読めてしまう!」

 

「人の顔が解らない俺に任せろ! うおおおおー! 負けたー!」

 

 マイナス1000万。

 

 ルーレット。

 

「台、モンスターで運行制御してる……良し! 精神に干渉してフェアなゲームにしたぞ!」

 

「でかした! 見るが良い……我が天運を!!」

 

 マイナス3000万。

 

 モンスターレース。

 

「目玉はセキトバvsスレイプニルvsアーマードアトミックユニコーンかあ……」

 

「次元スライド走法のスレイプニルが有利に見えて、セキトバのジョッキー抹殺OTKも中々だな……いや、ニュークリアアグロで全てを核汚染するのも期待出来るな」

 

「曲がれぇぇぇぇー!!!」

 

「差せ! 差せ! 差せっ!!!!」

 

「ここでハリボテテイオーかよぉぉぉぉぉお!?」

 

 マイナス5000万。

 

 スロット。

 

「最後に残った2000万は二人で分けてやるか」

 

「ついでに財布の中身も全部オールベットだ。どっちが勝っても恨みっこはなしだぞ」

 

「あぁ!」

 

 マイナス2000万+財布の中身。

 

 帰るためのタクシー代さえ失った俺達はカジノに置いてあるソファにどかり、と座り込むと両手で顔を覆った。財布の中身は文字通り空になってた。1円すらない。あんなにお金があったのに、俺たちはもう無一文。

 

 悲しいね。

 

 だからギャンブルなんてやるもんじゃないんだ。

 

「おかしいなぁ……どうして負けた……?」

 

「我が天運が今日は欠片も仕事をしない……おかしい……普段なら勝ててるはずなのに……」

 

「どうやってホテルに帰ればいいんだ……」

 

 イカサマか? もしかしてイカサマか!? ワンチャンイカサマならこのまま訴訟OTKもあり得るかもしれない。無論、内約は暴力なのだが。

 

「いや、お前らはイカサマする暇もなく勝手に負けてたぞ」

 

 そう言って現れたのはでっぷりと太った、口に葉巻を咥えた男だった。恐らくはこの違法カジノのオーナーなのだろう。いかにも成金といった姿をしているが、なんか感じられる感情は畏怖にも近い。

 

「久々に良い賭けっぷりを見せてもらったぜ……カモはカモる主義だが仕掛ける前からガンガン勝手に滅びるやつは久しぶりに見たぜ……。いや、ホントに。怖いぐらい勝手に破滅してたぞ。お前らもうギャンブル止めたほうがいいぞ」

 

「もしかして俺達違法カジノのオーナーに慰められてる?」

 

「悪いことは言わねぇ。才能がねぇよ。これ、タクシー代出しておくから大人しく家に帰れ、な?」

 

「明らかに悪人ってやつに心配されてるんですけど!!」

 

「こっちはビジネスなんだよ! お前らみたいに大負けしたやつは暴れやすいし! こっそりやってるから暴れられると困るんだよ! ほら、ちゃんと帰れるか? ……おい、それはタクシー代だって言ってんだろ! コロシアムを見るな! お前らに賭けの才能はないから帰って堅実に生きろ馬鹿!!」

 

 完敗だ。負けだよ、負け。

 

 負け犬へとジョブチェンジした俺たちはとぼとぼとカジノを出ると段々と茜色に染まる夕日の空を見上げて溜め息を吐き出す。

 

「また来よう」

 

「あぁ、負けたままではいられないからな」

 

 俺たちに学習能力はなかった。タクシー代を悔しさのままに握りしめながらタクシーを呼んで、なんとかホテルに戻ることに成功した。今日はなかなかの冒険を経験できた。

 

 ホテルのエントランスまで戻ると俺達は改めて手を結ぶ。

 

「今日は楽しかったよ王様」

 

「貴様も中々面白かったぞ死神。明日は客席から応援させて貰おう」

 

「まあ、さくさく優勝するから見ててよ」

 

 そうやって王様とは別れを告げると、入れ違うようにラウンジの方からアンナがやって来た。今日もゴスロリ姿なのは解りやすくて助かる。

 

「あら尊、今までどこにいたの? 姿が見えなくて心配したのよ」

 

「外に出てた。楽しいお散歩だったよ」

 

「……? そう、まあ、リフレッシュ出来たのなら幸いだわ。明日は朝から忙しいから早めに休むのよ? それじゃあディナーで会いましょう」

 

 そう言うとアンナは去ってゆく。忙しそうにしている辺り、まだまだ仕事があるのだろう。俺と変わらない年齢なのに大変だなぁ。

 

 一人でうろうろしている理由もないのでエレベーターに乗って部屋に戻ると、出て直ぐの所でアーティが待機していた。無事に帰ってきたのを見るとほっとした様子を見せる。

 

「ほんと、心臓に悪いのでやめてほしいですにゃ……」

 

「ごめんごめん」

 

 部屋に戻るなり怒りのチビが頭に噛み付いてはむはむしてくる。早速スマホの充電をしつつベッドに向かうとフラメアがいた。

 

「添」

 

 ウェルギリウスからパフェキャンが飛んでフラメアが黙らされた。何を言おうとしたんだよコイツ。一気に実家の空気になっちゃったじゃん。

 

「我々の出番が欠片もありませんでしたが、外はどうでした?」

 

「楽しかったよ。はしゃげたし。少し疲れたから風呂にでも入って、さっぱりして落ち着いたら晩飯にでも行くかな」

 

「わた―――」

 

 インタラがウェルギリウスから飛んでフラメアの言葉が止められる。そのままのっしりとチビがフラメアの上に飛び乗り、押しつぶす。別に一緒に入るぐらいどうという事はないんだけどなぁ、という言葉は久遠に聞かれたらアレなので黙っておくか。

 

 思えば今朝家を出てからサービスエリアでの休憩を挟んでいるが、ずっと移動しっぱなしだった。一回風呂に入って気持ちをリセットするのも悪くはないだろう。

 

 まだ確認してなかった洗面所はトイレと一体型のホテルで良く見るタイプだ。これ、複数人で利用していてトイレと風呂が重なるタイミングはどうするんだろう……という地味な疑問が残るが、まあ、一緒に居るのはモンスターだけなので特に気にする事でもない。

 

 まずは風呂に湯を注ぎ込む為に蛇口を回したら思ってた数倍の勢いでお湯が溜まって行く。普通数十分かかるもんじゃないの? と思ったけどまたなんかモンスター使った謎技術使ってるんだなぁ、と納得しておく。こりゃあシャワー浴びている間に溜まるな。

 

 急いで服を脱いだらシャワーの下へと飛び込む。流石最高級ホテルだけあってシャワー含めた風呂場が広い。温かいお湯を頭から浴びて汗とか汚れを流す。ぱっぱと体を洗ったらいざ、湯の溜まった風呂の中へ。

 

 さっきからシャワーを浴びている間、扉の前で謎の攻防戦が繰り広げられているのは無視しておく。これは実家でもちょくちょくあった事だ。その度にウェルギリウスが妨害に入ってる。イーリュ曰く、奴はみこくお過激派らしい。みこくお過激派って何?

 

「あぁ……気持ちええ……」

 

 冬も春も変わらず風呂が気持ち良い。日本人は風呂に入ると安らぐようにDNAが出来ている。入るだけで疲労回復、ストレス軽減、細胞活性化、才能上限拡張という効能が付いている。日本人は風呂に入るだけで進化するように神からデザインされているのだ。

 

「ふぅ―――」

 

 両手で掬い上げた湯を顔にかけて、目を閉じて天井を見上げる。大会の為に駆間を出た……これからランクを上げる為にポイントを稼ぐ為に、どんどん駆間を出て大会に出る必要が出て来る。その度に久遠を置いて来る必要がある。

 

 ……どうにかして、彼女も外に連れ出せないものか。

 

 館長なら何か良い案がないかなぁ。

 

「あら、だったら体質を無効化すればいいんじゃないかしら」

 

「―――」

 

 急激に心が冷めて行く。空洞の中身に煮えたぎる様な感情が注ぎ込まれる。それを理性で握ってコントロールする。鴉羽尊を形作るもっとも大きな感情が今、その役割を果たすべきだと叫ぶように起き上がった。

 

 足を延ばしても余る程大きな湯船の中、先ほどまで感触がなかったのに、足先に何か触れる様な物を感じる。

 

 閉じていた目を開き、視界を落とせば同じ湯船の中に裸身を晒す滅亡神の姿があった。

 

「ハァイ、尊。来ちゃった」

 

 語尾にハートマークを浮かべそうな程楽しそうでうきうきとした表情で、フラグも、伏線も、脈絡もなくその女はやって来た。ラスボスにあるまじきフットワークの軽さ。ゲームで宿で休むという選択肢を選んだら現れる様な訳の分からない登場の仕方。

 

 これが通常のRPGの魔王だったら詰みだ。

 

 休憩中に奇襲暗殺仕掛けて来る超越者なんて勝てるもんじゃない。強者には強者に相応しいだけの振る舞いと格が求められる。だけどこの女にその常識というものは通じない。

 

「あまりにも日々が楽しすぎて私の事、忘れちゃった?」

 

「お前を殺す為にコレ全部頑張ってるんだろ。脳味噌腐ってるのか?」

 

「ふふ、忘れられてないようで良かったわ……あぁ、言っておくけど部屋の外の子たちは全員殺しておいたから。気にせずにゆっくり浸かれるわよ」

 

「お前が入って来た瞬間から出たくなったけどな」

 

「折角の混浴なんだからゆっくりしたらどうかしら?」

 

「お前がいるだけで台無しなんだよ」

 

 姿を寄せやがって。本当にイライラする。だけどそういう感情を引き出せる事さえこの女にとっては嬉しい出来事なのだろう、本当に楽しそうに、嬉しそうにしている。ノリと勢いで星を滅ぼした女だ。何時か、耐えきれずに出て来るとは思っていたがこんな状況じゃなくても良いだろ。

 

「何、殺しに来たのか?」

 

「いいえ? 私自身はまだ干渉するつもりはないわ。遠くから眺めているだけでも楽しいし……あぁ、でもBランク認定戦やる頃には刺客でも送ろうかと思っているの。だって今の尊だと簡単すぎるものね? ライバルとか欲しくないかしら? 因果を―――」

 

 湯船に沈めていた腕を持ち上げ、指を出す。空間に赤い糸が現れ、それを指で弾く。

 

「こう、弾けば。人の運命は簡単に変わるわ」

 

「人の運命を弄ばないでくれ」

 

 その言葉にふふ、と笑うと形の良い顔をこてん、と横に倒した。本当に、干渉する気は欠片もないと言わんばかりの表情。ただ此方を楽しく見つめている。その姿を見ていると怒りが湧き上がってくる。殺したくなってくる。目の前の存在は自分が絶対に害されないと解っていてここに現れているのだ。

 

「尊、実はね、今日貴方の前に現れたのには意味があるのよ」

 

「意味、お前に?」

 

 問うと女神が頷く。

 

「実は明日の大会、はた迷惑な事に私の狂信者が紛れ込むの」

 

 楽しそうに微笑み、それから姿が消えて行く。

 

「見つけないと……大会どころじゃなくなっちゃうかもね?」

 

 それだけ告げると女の姿が消えた。現れた時と同じように唐突に。言いたい事は言い終わったし、見たいものも見られたのだろう。だから女は自分勝手な欲望だけ満たして消え去った。残された後の感情を置き去りにして。

 

「はあ―――」

 

 楽しかった筈の1日が、今ので全部台無しになった。

 

「俺にどうしろってんだよ」

 

 静かになった湯船の中で1人、頭を抱える事になった―――どうやら明日の大会はただ戦うだけじゃ終わりそうにもなかった。

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