クリエイター少女のヒーローアカデミア   作:紅葉紫苑

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第3種目・ガチバトルトーナメント準決勝戦 埴安神袿姫VS轟凍火

 続くは第3回戦。

 初戦を飾るのは八百万百、そして爆豪勝己の試合。

 両者共に相手を射抜くような眼差しで見つめあっており観客や友人達の歓声とは真逆の静寂が2人を包む。

 プレゼントマイクの合図が響き渡る。

 

『ガチバトルトーナメント‼︎ 準決勝‼︎ ここまでを凡ゆる創造物で難なく勝利を捥ぎ取ってきた才女‼︎ 八百万百‼︎ 対するは天性の戦闘センス‼︎ 爆豪勝己‼︎ 試合スタート‼︎』

 

 スタートの合図と同時、フィールドを埋め尽くす程に響くは爆豪の両掌から放たれた爆破の爆音とそれに負けない程大きく響き渡る銃声。

 爆煙を貫き飛来する銃弾はゴム弾なれど当たれば激痛を齎す。

 しかし、爆豪の戦闘センスはずば抜けている、飛来する銃弾から射撃の軌道を読むなど直感で可能。

 故に掠りもしない……だが、嗚呼、爆豪勝己は失念していた。

 自分が対峙しているのが袿姫の行動すら先読みして潰す事が出来る程に思考が回る、袿姫と同じく未来視にすら匹敵する行為が可能な化け物だという事を。

 銃口から軌道が読まれる? ならば読まれたとしても意味の無い銃器を扱えばいい。

 爆豪が僅かな隙を突いて八百万との距離を詰めた刹那、八百万が銃撃の最中に『創造』し腰に隠し持っていた銃器を引き抜いて撃たれるはソードオフショットガンからの銃撃。

 

「ッ⁉︎ 危ねぇなぁ‼︎ 」

 

 そう叫びつつも天性の戦闘センスと並々ならぬ反射神経と爆破を利用した事による三次元立体機動で何とかギリギリ回避するが至近距離、それもハンドガン程度ならいざ知らずショットガンは文字通り弾速や威力に於いてレベルが違う。

 出会い頭に出会った敵を確実に殺す為の武器なのだから。

 ゴム弾とはいえ威力は凄まじく撃たれた右脚は痣になっており酷い色をしている。

 だが爆豪の眼は痛みなど知った事かと眼前の相手をジッと見つめ続ける。

 脳内からはアドレナリンとドーパミンがどばどばと放出されて体感時間が何倍にも引き伸ばされる全能の感覚が爆豪を包む。

 たかだか脚をやられた程度で戦意喪失して自分の目指す頂には到底届かない。

 だが(・・)そんな事は八百万とて同じ事、

 そもそもの話、爆豪に負ける様では袿姫との勝負は舞台にすら立つ事が許されないのだから。

 自身の脂質を代償に、無限の手札で無限に選択肢を増やして、相手に無限の選択肢を強いる。

 それが八百万百の個性『創造』である。

 幼い頃から隣に立つ親友と鍛錬を欠かさないが故に今では消費を極めて軽減する事など呼吸と同義。

 息をするのに一々考える事などせず無意識で行える様に、創造に掛かる脂質(カロリー)など極めて低減して創造出来る。

 そうあらねば袿姫の隣で一緒に踊る事など出来はしない。

 今では『ごく一部の極めて大量に脂質消費を強いる物』以外ならば七日七晩連続だろうと余裕で創り出せる。

 空になった弾倉(マガジン)や新たな銃器などの創造に至っては脂質消費は殆ど無いに等しい。

 いや、勿論消費はしているのだが全体から見れば1%にも満たない程度。

 なんなら口径の大きい銃器などを創造したとてそれを数千挺創り出したとしても、それでもなお数週間単位で余裕で戦える位には八百万百は自身の個性を鍛えている。

 そうして試合開始から10分が経過しようとしていた。

 


 

 空薬莢が地面に落ちる音が響き渡るがここに来て殆ど当たらなくなっている。

 やはり天性の戦闘センスとそれに追従できる鍛え上げられた肉体、そして極めて戦闘に於いて有利を取れる『爆破』の個性。

 当然本人の才能や技術、知識、資質にも重きがあるだろうが一撃で勝負を決める事が出来る個性といえよう。

 だがしかし、嗚呼されどもさ……切り札(ワイルドカード)を躊躇いなく吐き捨て続ける八百万の底無しの創造と、それを可能たらしめる貪欲なまでの莫大な知識量。

 捕縛用のネットランチャーに始まり、数分間は意識を奪う閃光炸裂弾、etc etc.

 無限に手札があると言うことは相手にした場合無限の選択肢を強いるという事に他ならない。

 スモーク弾の煙幕が揺らいだほんの一瞬、八百万は未来視にも匹敵する先読みにて何も無い箇所にネットランチャーを射出。

 その2秒後、爆炎を放ちながら高速立体機動を試みた爆豪が吸い込まれる様にすっぽりとネットに絡め取られ地に堕ちる。

 

「ポニテ女‼︎ テメッ‼︎」

 

 即座に網を爆破して脱出するも、致命的なその隙が生んだ2秒という時は残酷なまでに『手遅れ』であった。

 袿姫との切磋琢磨をしていた八百万からすれば、その2秒は致命的なまでに勝負を分ける2秒である、その隙を見逃す筈もなく二手三手と詰将棋の様に手を詰めていく。

 SIG SAUER M17を創造して2発狙い撃つ。

 爆煙を貫き、弾丸と弾丸がぶつかり跳弾した銃弾が立ちあがろうとした爆豪の膝裏に撃ち込まれ四つん這いになる爆豪。

 そして爆豪勝己の後頭部に突きつけられるはショットガンの感触。

 荒い息を整えつつ八百万は語る。

 

「一応言っておきますが動いたらその瞬間に撃ちますわ」

 

 その言葉に、爆豪は歯噛みしながら、文字通り口から血を滴らせて、無念の思いを乗せて口を開く。

 即ち降参宣言を。

 主審のミッドナイトが高らかに宣告する。

 

「勝者決定‼︎ 最終試合に駒を進めたのは八百万百‼︎ さて‼︎ 次が第三試合の大トリよ‼︎ 埴安神袿姫VS轟凍火‼︎ 2人は10分後にフィールドにくる事‼︎」

 

 ミッドナイトがそう告げて締め括る。

 


 

 大歓声の中、控え室へと戻る八百万。

 その足取りは覚束ない。

 荒い息を吐きつつコンクリートの床へと仰向けに倒れ込みぼうっとする頭と揺れる視界を何とか抑えながら先の試合の改善点を脳内で並べる。

 連続して創造した故に消費はそこまででも疲労が抜けていない、あれ程の高速で連続の創造はやはり負荷が大きく袿姫との試合では扱うのが難しい。

 そも、切り札の1つがあの超高速で創造物(手札)を交換し続ける荒技だ、試合を見ていた袿姫には間違いなく通用しない(・・・・・)だろうし、何よりも。

 切り札とは初見殺しであってこそ切り札足り得る。

 そも、“切り札”ってのは通用して(・・・・)一度まで(・・・・)、一度見せたらもう〝切り札〟でもなんでもない。

 それを二度三度使うなんて三流(バカ)にやらせとけ……とは袿姫と八百万の共通思考であった。

 そう──故に『〝切り札〟の使い方は──三つ。〝最後まで伏せる〟か〝ブラフに使う〟か“切り札”じゃない筈の札を“切り札”に変える』……無限の手札と無限の選択肢を相手に強いる2人。

 故に思考は自然と似通う、何よりも幼馴染故に互いの癖や思考は相手以上に相手を知っている。

 故に今ここで練らなければならない、袿姫に届き得る“切り札”を。

 それはさておき……疲労困憊で動けない八百万。

 その疲労を彼方に置き去りにする程、先ほどの激闘は楽しかった、八百万の口角が上がり自然と笑みが溢れ言葉が口を開く。

 

「爆豪さん、とても強かったですわ」

 

「それは実に良かったね百‼︎ 来ないからと心配してきてみればやはりやはりか‼︎ 呵呵‼︎ 立てるかな? 無理そうならアレをするけど?」

 

 静寂をぶち破る親友の声音に仰向けのまま視線のみ動かすと室内にいつの間にやら居た袿姫。

 試合開始まで残り僅かながら此処へ来たらしく八百万は語る。

 

「言いたい事は星の数ほどありますが、一先ずお願いできますか?」

 

「任された」

 

 互いに短い言葉で交わす。

 刹那、袿姫の手が八百万の身体へと触れると刹那にも満たない時間で幼馴染の疲労困憊の身体を『造り変えて』全快させる袿姫。

 袿姫の個性、造形神(イドラデウス)の使い道は何も武具の造形のみに収まらない。

 他者の肉体を造り変えてから元に戻す事により対象の部位欠損や病魔、疲労、死亡しても造り変えてからの蘇生が可能であるが故に死という事象すらをも取り除ける。

 そして、それ故に袿姫と百は互いの個性の都合上組み合わされば更なる相乗効果を発揮する。

 

「さて、疲労困憊の身体も軽くなりましたので観客席から応援してますわね」

 

 フィストバンプを交わし合い意気込みを新たに表明すると袿姫は轟凍火が待つフィールドへと移動していった。

 


 

 袿姫がフィールドへと歩みを進めると対面にはこちらを凄まじい眼で睨みつけてくる凍火。

 良い眼だ、私をどうあっても倒そうと言う気概に満ち満ちている。

 尤も、それが叶う事は絶対に無いが。

 

『さぁ‼︎ 準決勝もいよいよ大詰め‼︎ これに勝った方が決勝トーナメントに進出‼︎ 焔と氷‼︎ 相反する2つの個性を極めて巧みに使いこなしている轟凍火‼︎ 対するはその手で凡ゆるモノを創る‼︎ 埴安神袿姫‼︎ 準決勝試合開始‼︎』

 

 プレマイ先生のスタートが宣告された刹那、先に動いたのは凍火であった。

 両の手を胸の前で交差させて構えて叫ぶ。

 

「赫灼熱拳・燐‼︎」

 

 刹那、轟凍火の身体を包む様にして雪の様に白い焔が発せられる。

 袿姫はそれを見て感嘆の言葉を紡いだ。

 

「素晴らしい……それでこその半冷半燃、それでこそ轟凍火さんというものです」

 

 袿姫が教えたとはいえあの僅かながらな言葉のみでここまで仕上げてくるのは凍火さん自身の感性(センス)と燈矢さんやエンデヴァーの指導が余程上手いという事。

 心臓を発電機として使い、冷えた血と熱い血を循環器系全体に巡らせるそれは袿姫や百でいう所の創る前段階に等しい。

 言わば大技へと至るチャージ段階、つまりは……この後には確実に大技が来る。

 凍火さんが呼吸を一拍置いた刹那、即座に自身のジャージへと手を触れた袿姫。

 急激に下がるフィールドの空気、その2秒後、急激に熱が発せられる。

 それに伴い熱膨張の原理で衝撃波が発生し吹き荒ぶ暴風と爆煙。

 フィールド全域に広がる煙が晴れていくにつれ、誰しもが……その場のほぼ全員が袿姫の場外負けを確信していた、八百万百と轟凍火の2人を除いて。

 爆煙が晴れると同時に鈴の様に響き渡る袿姫の声音。

 

「これでお終いなんてつまらない事、させる訳ないでしょう?」

 

 上のジャージを袿姫は即座に爆風を防ぐ為造形素材として使用しスポーツブラの姿が露わとなる。

 バトルフィールドの地面と結合された即席の盾は爆風如きではびくともしない強度で形成された様で其方も傷一つ付いてはいない。

 その言葉と共に軽やかに歩みを進める袿姫。

 袿姫と轟凍火、彼我の距離は50m程、その50mの距離をまるで散歩でもするかの様に軽やかに進んでいく。

 

「ッ……⁉︎ 赫灼熱拳・ヘルスパイダー‼︎」

 

 凍火の白魚の様に美しいその指先から、右手からは全てを燃やし尽くす程に凝縮した熱線を、左手からは全てを凍て尽くす程に極冷の氷を放射し、うねり揺らめく炎と氷の斬撃を繰り出す。

 当然、豪雨の如き猛烈な勢いの焔と氷は袿姫の歩みを止めようとするが僅かに身体を反らすだけで凍火の放った焔と氷はまるで意思を持ったかの様に袿姫を避ける。

 それに驚愕を隠せない凍火、当然だ……袿姫は空手であり武装も何も有していない。

 袿姫には並外れた動体視力も、並外れた身体能力もないが、ただ一つ誰にも負けないモノがある。

 袿姫のその眼は見ただけで凡ゆるモノを理解する、言語化できるものではない、言い換えれば直感である。

 どうやって、どの様にすれば攻撃を回避できるかなど『見れば』分かる。

 袿姫は歩みを止める事なく口を開く。

 

「赫灼熱拳・ヘルスパイダー、良い技ですね、惜しむらくは精度の甘さでしょうかもう少し精度が高ければ言う事なしでした」

 

 そうして、いつのまにか盾からジャージに戻していたのを再度造形する袿姫。

 袿姫がその手に持つはショットガン、ベネリM4。

 人類が生み出した殺傷能力の芸術化、銃という存在。

 それを携えて袿姫が語る。

 

「一応言っておきますが実弾じゃありません、ゴム弾ですが当たると結構痛いですよ?」

 

 そう語り、躊躇う事なく引き金(トリガー)を引いて撃ち込んできた袿姫。

 即座に、銃弾が飛来するよりも速く、焔による即席の盾を生成する凍火。

 ゴム弾は焔に溶かされて跡形もなく風に乗って霧散していく。

 しかしベネリM4の装填数は7発、つまりまだ6発残っている。

 それを撃たれる前に凍火は潰す一手を撃つ。

 

「赫灼熱拳・ヘルスパイダー‼︎」

 

 先程よりも遥かに速く、遥かに緻密に撃たれたソレは……先程より更に美しいと袿姫に言わせるには十分であった。

 極めて美しい焔と氷の混合技。

 これほどの芸術をもっともっと間近で観察したいという気持ちは……嗚呼、芸術家たる自身の変えられない性格だ。

 速度も何もかもが先程よりも極めて段違い。

 故に……袿姫はバレルが焼き切られたベネリM4を投げ捨てて、目前に迫る熱線と冷気が極まるソレを、触れれば火傷や凍傷程度では済まないであろうソレを……掌でガッチリと触れると即座に『造り変え』て己が武装を造形する。

 

「私の掌に触れた凡ゆるモノは私の個性『造形神(イドラデウス)』が全てに於いて最優先される、気体は無理だけど、実体がありそれが掴めるのであれば全てが私の素材となる」

 

 そう告げながら袿姫は心の中で舌打ち1つかますと切り札を失う事よりも勝つ事が最優先だと反芻する。

 袿姫は提供された氷と焔から造り出した『単一の機巧』しか有さない槍の形状をした武器(霊装の出来損ない)を用いて攻撃を開始する。

 槍が振るわれ、振るった軌道上の空間が歪み、その2秒後……起きる事象は爆豪勝己の爆破と同等の威力を誇る爆破。

 コンクリートのフィールドが一部破砕され片手で拾える程度の大きさの瓦礫と化する。

 袿姫の手にはもはや使い物にはならないと一目見て理解できる程にボロボロに崩れ落ちている槍だった物の残骸が握られていた。

 

「一撃穿つだけで破損するので乱発には向きませんが幸い素材なら至る所に今出来た。さてと、無限回繰り返しましょう」

 

 そう笑顔で呟く袿姫。

 対する凍火も諦めの表情など浮かべる事なく、その眼と自身の身体全体へと焔と氷を発露させ、滾らせて挑む。

 

 


 

 何度目かも数えるのが馬鹿らしいくらい響き渡る爆音と、放射され芸術すら感じる程美しく交差する炎熱と凍氷。

 接近戦を選択した凍火は振るわれた槍をバックステップで大きく回避する、せざるを得ない。

 回避した直後、空間が歪み強烈な爆破が起きた。

 

(この爆破の威力、下手をすれば場外に吹き飛ばされる程に強い‼︎ だけどッ‼︎)

 

 それ程に強い爆破は自身の近くでは撃つ事が不可能と断じて爆煙で視界が封じられた刹那の隙を突いて袿姫の背後を取る凍火。

 戦闘訓練で袿姫自身に言われた事を、つまり首から下を完全に凍結させるべく動いた刹那。

 Winchester M1897によるスラムファイアでの連続射撃を腹部に喰らい意識が飛びかける。

 しかし、勝利への絶対の執念と飽くなき欲望が意識を手放すことを良しとしなかった。

 だが……袿姫相手に僅か3秒の隙を見せた時点で既に終わりであった。

 膝裏に跳弾した弾丸が姿勢を崩し、痛みなぞ知った事かと立ちあがろうとした刹那、袿姫の艶やかな手が凍火の頸動脈にゆらりと触れ、こめかみにSIG SAUER M17を突きつけられて、告げられる。

 

「一応伺います、動いたら撃ちます」

 

 これ以上ない程完璧な敗北に……凍火は降参宣言を行ったのであった。




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