体育祭も終わり……袿姫は疲れを取る為に湯船に浸かっていた。
時刻は22:00。
ぐい〜っと伸びをしつつ脳内であの時の反省をし、次は、次こそはと、次に勝つ為の弛まぬ努力と、経験を活かして……。
そうして脳内で那由多を超える膨大なシミュレーションを繰り返して行う。
全てはあの日の約束の為に。2人が交わした世界で何よりも大切な約束。
浴室から出てパジャマを着て自室へと向かおうとしたその矢先。
『
「お疲れの所申し訳ございません……袿姫様にお客様がお見えでございます……」
客間に案内され、磨弓が来客の相手をしており、来客には一瞥もすることなく
相手の口が開くよりも速く袿姫の口が開く。
「前々から申し上げておりますがその件はお断りしております……磨弓、お客様のお帰りだ……丁重にご帰宅願え、あぁ、その後で塩でも撒いておいてくれ、2度と来ないように……全埴輪兵団に通達、今後一切、この分家に連なる存在を敷地内に入れる事は許さないわ」
来客として来ていたのは数ある埴安神家分家の一当主。
埴輪兵団の貸出を幾度となく求めて来ており毎回断られている、目的は分家の方にも埴輪兵団の突出した兵器としての価値を提供しろと、まぁ至極つまらない事をネチネチネチネチと詰めに来た次第。
埴安神家はモノづくりに極めて特化している一族、分家も直系の子孫たる袿姫には遠く及ばないがモノづくりに極めて特化している。
兵器産業や工業などで財を為せる程度には。
しかし、埴輪兵団を超える兵装兵器の類は終ぞ造ることが出来なかった。
分家の当主から刺し殺すような鋭い眼差しと、僻み妬み……とにかく負の感情を溜め込んだ眼で射抜かれるが些末な事である。
丁重にお帰りいただく。
人の欲は際限がない……あれもこれもと、掌の上に乗るよりも更に多くを望み、それが叶ったら実は望んだ場所は此処じゃなかったと、また別の場所を求め探し続ける。
「全く……欲の深い人間はこれだから……」
そう呟きながら微睡みに誘われて夢の世界に旅立った。
「いやぁ……体育祭の試合は実に素晴らしい戦いだったよモモ、次は私が勝つ、期末試験の点数勝負と行こうじゃあないか」
モモの髪をその手で弄って遊びながら語る。
モモの髪は黒髪ロングヘア故に色々な髪型を試せるのが素晴らしい。
ヘアケアもしっかりと行っている艶々の髪を触りながらそう宣告する。
中間テストは袿姫と百の2人が全教科100点を取った為に同率1位となり決着が着かず2人の勝負は期末テストに縺れ込んだ。
バチバチと火花を散らしていると始業の時間となる。
ワイワイガヤガヤとしていたクラスであったが相澤先生が入ってきた瞬間にビタァッと静まり返る。
「おはよう、今日のヒーロー情報学、ちょっと特別なモノが行われるぞ?」
『特別』……その言葉を聞いて怖気付く一部のクラスメイト達。
相澤先生が『特別』と言う言葉を使った場合……大体、と言うか94%位は抜き打ちでの小テストや抜き打ちの筆記実技テストがある為だ。
皆の顔が強張る中……相澤先生が語る。
「『コードネーム』……ヒーロー名の考案だ」
ヒーロー名の考案、その言葉で一気にクラスが沸き立つが相澤先生に睨みつけられて一瞬で沈黙する。
相澤先生が理由を説明する。
「と言うのも……休み前に話した『プロからのドラフト指名』に関係してくる、指名が本格化するのは経験を積んで即戦力として扱われる2年3年からだ。つまり今回来た『指名』とはお前らの将来性に対する『期待や興味』に近い、卒業までにその興味や期待が削がれたら一方的にキャンセルなんて事はよくある話しだ」
そう聞いて峰田実や芦戸三奈、上鳴電気は嘆きの言葉を漏らす。
そして、相澤先生がホログラフィックを映し出しながら語る。
「まぁ口で言うより見たほうが早い、指名はこうなった、例年はもうちょいバラけるんだがな」
4桁を超える指名を受けていたのは4人であった。
八百万百18924件。
埴安神袿姫16158件。
轟凍火14712件。
爆豪勝己3981件。
続いて3桁。
飯田天哉841件。
上鳴電気419件。
麗日お茶子109件。
後の者は指名が2桁かそもそも指名自体が来ていないかであった。
そうして説明が為されていく。
「これを踏まえて指名の有無に関係なく、お前らにはいわゆる職場体験に行ってもらう、お前らは一足先に経験してしまったがプロヒーローの活動を実際に体験してより実りのある訓練や授業をしましょうって事だな」
それを聞いて納得したクラスメイト達。
砂藤と麗日お茶子がウキウキで語り合う。
「なるほどそれでヒーロー名か‼︎」
「楽しみになってきたぁ‼︎」
それを皮切りにわいわいと喋り始めるクラスメイト達。
相澤先生が語る。
「まぁ今回付けるのはあくまでも仮のヒーロー名ではあるが適当なもんは……」
そう語った所でドアが開かれてミッドナイト先生が入ってきて語り手を交代して喋る。
「付けたら地獄を見ちゃうよ‼︎ この時仮だと思って適当に付けた名前がそのまま世の中に浸透しちゃって実質的に変更が効かずにそのままプロになって後悔してる人多いからね⁉︎」
そう語るミッドナイト先生。
そして相澤先生は用意していた寝袋に入りながら語る。
「まぁそう言う事だ……そこらへんのセンスをミッドナイトさんに査定してもらう、俺にはそう言うの出来ん……将来自分がどうなるか、どうなりたいのか、何を成したいのか、名を付ける事でイメージが固まりそこに近づいていく、それが『名は体を表す』って事だ……分かりやすく言うならば『オールマイト』とかな……俺は寝る」
そう告げて本当に眠り始めた。
確認なんだけど……給料出てるんだよな? この時間も……多忙なのは重々理解していますが。
仮眠室があるでしょうよ……。
そうなんとも言えない表情で相澤先生を見る袿姫だがそれはさて置きヒーローネームの考案というのは中々に胸が膨らむ。
ワクワクするのはいつだって変わらない。
そうして15分程経過した所でミッドナイト先生が笑顔で告げる。
「じゃあ……そろそろ出来た人から発表してね」
その言葉にクラスの空気が凍る。
まさかに発表形式である、てっきり後ろの人が集めて後ほど発表‼︎ みたいな事を考えていた者達が大多数を占めていた為2〜3分は誰も発表に行かない。
最初に発表した、青山優雅と芦戸三奈のヒーローネームがあまりにも変なのが来たせいで大喜利みたいな空気になってしまった。
そして……次なる発表者である梅雨ちゃんが空気を変えてくれたおかげでまた皆が続々と発表しだす。
ありがとう、
「んー……なんだかなぁ」
ヤオモモがクリエイティブな事を突き詰めたヒーロー名である『クリエティ』と命名した。
さて、自分はどうするか。
ひとしきり悩んだ末に決めた。
「イドラデウス」
自身を最も的確に、自身を1番分かりやすく明確に表すのは個性名でもあるこれが1番早い。
何を為すか、何に至るかは造形神としてのこの名が示している。
そう思いを込めて……付けた名前に恥じない様にしていくと心に誓う袿姫であった。