プレゼントの交換が終わり……袿姫は愛おしそうにネックレスを大事に、大事に扱いつつ自室へと戻ると自身の持つ宝箱に丁寧に仕舞い込む。
そうして天蓋付きのキングサイズベッドに横たわる袿姫。
色々有りすぎて疲れた身体を癒すべくふかふかのベッドに横になる袿姫。
袿姫は思う……己は間違いなく天才で在ると。
その理由は、6000年前まで確認できる一族の系譜。
6000年前……埴安神一族の初代頭首のみが到達した神域。
そしてその後の埴安神一族全員が現代に至るまで誰もが到達できなかった神域。
しかし、袿姫はベッドにくるまりながら誰にも聞こえない声音で呟く。
「ただ一人だけが
そう語られる。
神域に到った埴安神一族史空前の天才は──だが、絶後ではなかったと。
現代に生きる袿姫が……齢16の小娘が、一族の誰もが終ぞ掴めなかった不可能を可能にしたと、暗に語ったのだった。
さて、此処で解説を挟むとしよう。
埴安神一族、それはモノづくりに極限まで特化した一族の名であり……門外不出ともオーバーテクノロジーとも称される技術により凡ゆる機械工学を全て過去の遺物にし、全ての技術を土台から引っくり返した一族の名前で在る。
“工業と産業〟においてはこの世で最も長けた一族であり……その技術を有す一族らの能力のみで工業と産業の世界的シェア全てを獲得した一族の名である。
産業スパイらがその技法をどうにか盗もうとした事もあったようだが……全て徒労に終わっている。
一応……産業スパイの苦労が偲ばれる会話の一部を此処に抜粋しておく。
……『以下略』とばかりに
一方、何とか正気を保ったスパイはこめかみを押さえて、深呼吸を一つ、隣に居るAI搭載の人工知能付きカメラと言うもう1人の相棒に問うた。
「よし……今の撮影した所……あの訳分からん編集部分、ノンカット版かスロー再生で頼む。出来れば解説付きで」
半ば諦観が入り混じった様な声音にAI搭載の人工知能付きカメラは指向性音声で2人に話しかける。
「申し訳ございません。見ておわかりの通り埴安神一族は〝極めて器用〟で……」
「……ん……見えないし‼︎ ……わからない……けど……ねっ!?」
「ワケわかんねぇデタラメの解説を求めてんだよ!? まさかとは思うが……背丈の50倍あった鉄塊を、ザクザク斬ってドカドカ殴って──で?」
其処で一度言葉を区切り……白目を剥いて頭を振りつつ絶叫する──ッ!
「機械の球ハイ完成‼︎ とでも言いたいのか!? “器用〟にも限度があるだろ!!」
「……違う……っほぼ〝真球”‼︎ ……加工精度……基準原器、水準……っ!!」
2人のスパイの片割れが視認したそれは曰く──『何かの機械』らしき……作業員の手にある物体。
どう見てもただの鉄塊から……残骸を経て、ジャイロコンパスの如く複雑に稼働する機械へ……そうして次の瞬間には鏡面加工ばりの光沢放つ準真球体に変じた物体に……と言うよりもそもそもの話として。
「一枚鉄からどーすりゃ複数部品が噛み合った機械が出来上がんだよ!?」
鋳造しろよ。
切削とか……最低限組み立てろよッ‼︎ なに? 素材にテキトーに傷を付けて? 殴って折って畳んで、精密機械が完成? ふざけてんのか⁉︎
映像は暫し暗転し……別作業と思しき工場の中の映像が映し出されて……大量の資材を前に腕組みしていた作業員。
「オるァッ!!」
と……気合い一発、瓦割り‼︎ すると何故か‼︎ 目の前の資材が、有機的な外観を持つ駆動炉に変ずる。
そして一仕事終えた感を出した作業員が、バーベル上げの如く駆動炉を持上げて……ぽいっちょ、と無造作に投げられた駆動炉を、文字通り別の作業中の奴らが受け取る。
着々と。猛スピードで。ポイッポイッ……と。
飛び交い積み重なる各部品が、ぶつかった勢いで接続され、展開され、結合され。
あたかもひとりでに巨大構造物へと組み上がっていくかのような〝惨状〟に。
「同じくテキトーに他のとこ造ってた奴らが誰かしら受け取るでありますからテキトーに組み込んで造って『飛航艦』になるであります。以上でありまぁす!!」
そう宣うAI搭載の人工知能付きカメラに対してスパイの1人は叫ぶ。
「やってることは同じじゃねぇかああぁぁッ‼︎」
……ああ。よーするにアレは個性に見せかけた魔法だ。今更ツッコむまい。
そう菩薩の微笑で諦念する間も猛スピードで組まれていく『飛航艦』や『飛行機』の様なナニカ、航空力学に喧嘩を売る形状だが何故飛ぶかも気にすまい。
それを言えば速すぎる男ことホークスはあの程度の羽根で何故人が滑空どころか飛翔、飛行まで出来るのは何だ……それは潔く個性と諦めよう。
だが『機械』──テメェはダメだ、とそのスパイは阿修羅の顔で吼えた
「根本的に‼︎ 『設定図』どこよ!? 測量具とか!! ハンマー以外の工具は!?」
機械……すなわち〝法則に従って論理的に特定動作する装置〟である……。
企画書、工学理論……要するに〝論理〟の行方を問うそのスパイのその後は──果たして。
そうして……入学当日となる。
身支度を整えて……雄英高校へと到着する袿姫。
事前に送付されていた学年クラスを記した紙を持って『1-A』と書かれた場所へ移動する。
袿姫がクラスへと到着すると其処には見知った顔が。
「おはようございます、百、一緒のクラスになれて何よりですわ……あら? それに轟家の……貴女も雄英高校を受けていらしたのですね? 私は埴安神袿姫……よろしくお願いしますわ」
袿姫よりも速く席に着いていた八百万百。
それに……轟家の次女……轟凍火。
きめ細かく手入れが為された非常に美しい光沢を放っている紅白のロングヘアと八百万と同等の袿姫にも劣らない豊満な胸。
顔の造形1つ取っても素晴らしい……。
自分の世界に入り込みかけた袿姫で在るがスパァン‼︎ と鋭い音と共に八百万百からチョップを喰らったと理解し現実に引き戻され、パチクリと親友へ眼で会話する。
唐突な事にビクゥッと縮こまる轟家次女。
すかさず八百万百が凍火に説明する。
「すみません……轟さん、こちらの埴安神袿姫は少し、いえ……だいぶ筋金入りの造形大好きな人間でございまして……美しいモノを手ずから更に美しくしたい欲求があるらしくてですね、たまに自分の世界に飛び立ってしまう事が……」
そう説明する八百万百であった。