ロデニウス大陸西側、ロウリア王国沖
◆外交団護衛艦隊
・R91 シャルル・ド・ゴール
・タイコンデロガ級 CG-59 プリンストン
・フォルバン級 D620 フォルバン、D621 シュヴァリエ・ポール
・シュフラン級 S 635 シュフラン
シャルル・ド・ゴール、艦橋
「地球じゃ外交官派遣のためにこんな艦隊つけないぞ……」
「艦長、クワ・トイネの方々にお聞きしましたが、この世界ではこれが普通らしいですよ」
「……ロシュフォールさん、これから貴方は仮想敵国と外交を行うんですよ。もう少し緊張感を持ってください……」
「いやぁ、アフガニスタンやアフリカの紛争地域よりは緊張しないんですよ」
艦橋内で硬い声と愉快な声が響く。
艦長のジャグワーとロシュフォール外務次官だ。
ジャグワーは諦めた様に言う。
「貴方ロウリアで追い出されたんでしょ……。そのパーなんとか皇国でさらに酷い事になるのはやめてくださいよ」
「パールパディア皇国ですよ。技術力は中世程度だと思いますが、一応この世界では大国らしいですから」
「中世レベルで大国ですか……「プリンストンより報告。前方に帆船を確認、接近中です」おっと……もう到着か」
報告を聞くとロシュフォールはスーツのネクタイを整える。
「さて、どんな外交になるのかな?」
パーパルディア皇国・皇都エストシラント
第三文明圏でもっとも栄えている都市は騒がしい空気を帯びていた。
「……何だあれ。船なのか?」
若い兵士が呟く。
近くにいる上官が怒鳴った。
「何をしている!早く司令部に連絡しろ!敵の侵攻かもしれんぞ!」
「りょ、了解!」
「彼らは何が目的なんだ?」
パーパルディア皇国海軍第3艦隊司令官のアルカオンは緊張を孕んだ口調で言う。
隣にいる彼の参謀も緊張を隠せない。
「船の形がだいぶ違いますが、ムーの船に似ています。……保護国の可能性が高いです」
「……保護国なら丁寧に対応しないと国際問題になるぞ。いいな?相手に無礼があっても決して感情的になるなよ」
『こちらはパーパルディア皇国海軍「ディオス」です。貴艦の目的を教えてください』
『私たちはフランス海軍です。貴国と国交を結びにきました』
「フランス?第二文明圏にそんな国あったか?」
「いえ、少なくとも私の知る中では聞いたことがありません……」
「まあ良いか。臨検は受け入れてくれたから丁寧に接しろよ」
十数分後、臨検が終わり、前後の甲板に魔道砲と思われる筒がついた巨大な艦が進む。
「全体はでかいのに武装は少ないな……」
「何も置いていないスペースが多すぎますね。もっと魔導砲を置けば強力な船だったでしょう。艦隊の真ん中にいるのは竜母でしょうか?ムーの保護国であれば飛行機械がたくさん載せられるでしょう」
「なら、ムーの保護国で間違いないな」
「……しかし、なぜ今国交を結びにきたんでしょうか?」
複合艇の上でロシュフォールはエストシラントの街並みを眺めていた。
「……良い港だね。綺麗な街並みだ」
「ロシュフォールさん、さっき艦長にも言われたじゃないですか。緊張感を持てって」
「緊張している事を相手に気づかれたら相手のペースに翻弄されるよ」
「それはそうですが……」
ロシュフォールの返答にそこそこ外交経験があるベランジェは納得のいかない表情を浮かべる。
「おや、もう上陸?もう少しこの中世ヨーロッパの街並みを眺めていたかったなぁ」
「ロシュフォールさん、いい加減に気持ちを切り替えてください」
「……わかったよ」
パラディス城、外苑「第2外務局」
赤い絨毯が敷かれた廊下の奥、重厚な扉の前で、フランス共和国外交代表団の面々が足を止める。
ロシュフォールは、わずかに眼鏡の位置を直した。
背後には、ベランジェ、軍事省顧問のルメートル准将が並ぶ。
彼らの前で、扉が静かに開いた。
――会談の始まりだった。
「遠路はるばる、よくお越しくださいました。私は第2外務局、局長のリウスです」
低く響く声が、天井に反射して重く返る。
「ムー国の保護国と聞きましたが……“フランス共和国”、でしたか。実に珍しいお名前ですな。」
ロシュフォールは軽く眉を寄せた。
「保護国……ですか? いえ、我々は“ムー”という国家を存じ上げません。独立した主権国家です。」
その瞬間、リウスの笑みがわずかに引きつった。
「……ほう。では貴国は、ムーの保護を受けていない、と?」
「はい。我々は他国の庇護下にありません。」
沈黙。
わずかにリウスの眉が動く。
そして、その口元がゆっくりと歪んだ。
「なるほど……」
声の調子が変わった。
先ほどまでの礼を装った柔らかさは消え、代わりに、薄い嘲笑が空気に混じる。
「そうですか。では、貴国は……“文明圏外国”ということになりますな。」
彼は椅子に深く腰を下ろし、ロシュフォールたちを見下ろすように視線を流した。
「いや、失礼。私どもは“蛮族”と呼んでおります。とはいえ、ムーの影響を受けているかと思っていたのですが……まったくの野生から来られたとは。」
ベランジェの手が無意識に震えたが、ロシュフォールは視線ひとつ動かさなかった。
「野生、とは心外ですね。私たちは文明と科学を基盤とした国家です。平和的関係を望んでおり、敵意はありません。」
「平和的関係……?」
リウスは喉の奥で笑った。
「はは、愉快だ。蛮族が“平和”を口にするなど、この百年聞いたことがない。」
部屋の空気が、一瞬にして冷えた。
それでもロシュフォールは、微動だにせず言葉を紡ぐ。
「貴国と我々の間に誤解があるようですが、我が国は高度な科学技術、教育、法体系を有する近代国家です。文化や価値観の違いこそあれ、互いに敬意をもって対話すべきだと考えています。」
「……敬意、ですか。」
リウスは机の上に肘を置き、退屈そうに指で書類を叩いた。
「では、こういたしましょう。我が皇国は、貴国を“属国”として迎え入れます。奴隷の献上や技術の開示、皇国商人の自由な出入り、関税の免除、皇国艦船への港湾優先利用、我が皇国民の保護のため、貴国の首都に常駐官を置く。そして我が国の皇族を貴方の国の最高権力者にする――どうです? 悪くない提案でしょう。」
ベランジェが言葉を失い、ルメートルの目が鋭く細められる。
ロシュフォールだけが、静かに微笑んだ。
その微笑みは、外交官としての冷徹な仮面だった。
「なるほど。ご丁寧な提案をありがとうございます。しかしながら――私どもは対等な関係を望んでおります。条約案は、一度本国に持ち帰り、政府にて検討いたします。」
その声音には、わずかな皮肉が混ざっていた。
だがリウスはそれを聞き取れないのか、あるいは聞き流したのか、あからさまに肩をすくめた。
「蛮族の国にしては慎重なことだ。ですが、我が皇国の慈悲に感謝することですな。このように穏便に国交を結ぼうとしているのですから。――次に会う時までには、文明人らしい返答を。」
その言葉に、部屋の空気が一段と重くなる。
だがロシュフォールは、動じなかった。
「……文明人らしい、ですか。」
眼鏡の奥の瞳が、冷たく光を宿す。
「では、我々が文明とは何かを示す時が来たようです。」
リウスの表情がわずかに固まった。
その微妙な変化を確認すると、ロシュフォールは丁寧に書面を折り畳み、鞄に収めた。
「ご厚意、確かに承りました。本国に伝えます。」
「ええ、ぜひそうなさい。……次の会談では、きっともっと話が通じるでしょう。フランス――でしたか? その名を忘れぬようにしておきましょう。」
リウスは薄く笑った。
だがその声音には、すでに外交的侮蔑の響きがあった
会談室を出た瞬間、空気が変わった。
ベランジェが小さく息を吐く。
「……あの態度、まるで植民地主義の再来ですね。」
ルメートル准将が低く答える。
「彼らにとって、他者はすべて“下位”の存在なんだろう。」
「ええ。だが――我々は違う。」
ロシュフォールは歩きながら静かに言った。
その声には、冷ややかな決意が宿っていた。
「対話を拒む者には、事実をもって答える。外交とは、言葉で始まり、結果で終わる。」
廊下の果て、巨大な窓から差し込む陽光の中、
三人の背がゆっくりと遠ざかっていった。
その背後で、リウスが呟いた。
「……フランス。ふん、蛮族の国が文明を語るとは。皇国の秩序を理解するには、千年は早い。」
そして、パーパルディア皇国第二外務局の記録には、こう書き残された。
――「フランス共和国、文明圏外の未開国家。要監視対象。」
読んでくださりありがとうございます。
いかがでしたでしょうか。
まだあの皇族は出てきていませんが、登場が近いですね。
今回の外交団護衛艦隊は主砲が二門ついている艦艇を派遣しました。
選んだ理由は、少しでも威圧感を出せるように、だそうです。
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