トリコロールの旗を掲げて   作:理由もなく歩く人

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13. 軍祭のアクシデント

 

蒼空を叩くように、ラファールMが次々とシャルル・ド・ゴールから跳び出していく。

空母の後部に残されたジェットの白い爪痕が、まだ消えない。

 

「……無事に帰って来てくれよ」

 

飛び立ったラファールの編隊を見ながらジャグワーはそう願った。

 

 

 

 

 

 

上空1万2千メートル

 

ギョーム大尉率いる第17F海軍航空隊のラファールMは、ワイバーンを探知した領域へ急行していた。

機体が雲を突き抜け、雲ひとつない晴天の空に入るとRWRが音を上げ、コックピットを満たす。

 

「FENCEチェックを実行、レーダー反応あり。40か……多いな。………全機へ、ワイバーンを確認した。12時方向、距離17、速度350」

 

ギョームはレーダーを確認するとHUDを巡航モードから空対空戦闘モードに変更し、部下に告げる。

 

「全機へ、HUDをA/Aモードに変えろ。ドックファイト、ウェポンズ・オール・フリーだ。落とされるなよ」

 

無線の終了と共にラファールが散開する。

 

タリー・ホー(敵機を目視で確認した)。距離10』

「了解。エンゲージ(交戦開始)!」

 

ギョームはHUDでワイバーンを捉えるとミサイル発射ボタンを押した。

 

「Fox 3!ミサイル発射!」

 

機体の翼下からミーティアが白煙を吐き出し、大空を切り裂くように飛翔し、先頭のワイバーンに着弾した。

 

スプラッシュ(撃墜した)!」

『Fox 3!』

『スプラッシュ、グッドキル!」

 

撃墜を確認している間に次々と味方のラファールが攻撃を続ける。

発射ボタンを押すだけで敵が落ちていく。

その状況を見たギョームは敵を憐れんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「相手は蛮族のはずではないのか!?」

 

愛機のワイバーンロードで急旋回しながらリュウオは叫ぶ。

 

彼らは皇国軍対圏外文明国防衛艦隊の竜騎士であったが監察軍のワイバーンロードが不足していたため、派遣されていた竜騎士団であった。

初めて監察軍に派遣され、緊張していたが、相手が蛮族と知り、任務はすぐに終わると考えていた。

 

しかし周りを見ると自分が想像していたものと全くの逆であり、彼自身もこの任務を受けたことを後悔した。

もはや当たり前のように落ちていく仲間、戦場を瞬く間に地獄へ変えた謎の飛行機械。

 

「クソッ!聞いてないぞ、あんな相手!どこかの列強の間違いだろっ!」

 

片手で数えられる程に仲間が少なくなった時、彼は竜母に戻ろうとする。

 

だが爆音と痛みの後に彼の意識は消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自機の放ったミーティアがワイバーンに命中し、爆発する。

 

「スプラッシュ。今のが最後か?」

『そうです。グッドキル』

「思ったより楽勝だったな」

 

ギョームはキャノピー越しに周りの空を見る。

先程までの火球とミサイルが入り乱れる、地球では嘘のようなドックファイトを行ったのに彼には実感が無かった。

 

『レーダーに敵影無しです』

「了解。燃料も少ないし戻るか。ホーム・プレート(帰投する)

 

第17F海軍航空隊はギョームの指示で編隊を組み直し、母艦に戻った。

 

ザ・ボート・イズ・イン・サイト(空母を目視で確認した)ザ・ボール(光学着艦装置)確認」

 

ギョームが着艦信号士官に報告する。

すぐに返答が返って来た。

 

『進入許可。風、25ノット、艦のピッチ、約4度。 オン・スピード(正しい進入速度)、そのままだ。スリー・ワイヤー(3番ワイヤーを狙え)

「了解。全機、ビンゴ(燃料残量)を確認し、着艦待機」

 

ギョームはコクピットで最終チェックを完了し、操縦桿のスイッチを押し込んだ。

 

「フックダウン。オン・スピード」

 

機体後部から、着艦拘束ワイヤーを捕らえるためのアレスティング・フックが展開される。

速度を理想的な迎え角(AoA)に合わせ、ラファールは最後のカーブを切り、艦尾目指して一直線に降下を開始した。

ギョームは艦の動きに集中し、機体が正しい進入角に乗っていることを示す橙色のを探す。

 

ボール・イン・サイト!(光学着艦装置を確認)

 

彼は「ボール」がわずかに上に逸れているのを確認し、スロットルを微調整して降下率を上げる。

速度よし、姿勢よし。着艦信号士官の指示は、わずかなスロットルの微調整を求める静かな誘導に変わる。

 

オン・ザ・グライドスロープ(正しい降下経路)... ベリー・グッド。」

 

そして、甲板に突入する直前、ギョームは迷いなく機体を理想的な着艦目標(3番ワイヤー)に向けて叩きつけた。

 

ガシャン!

 

凄まじい衝撃と共に、機体全体が前に引っ張られる。機体のアレスティング・フックが甲板に張られた4本のワイヤーのうち、3番目のワイヤーを見事に捕らえたのだ。

 

わずか2秒足らずで、ラファールMは時速250キロメートルから完全に停止した。ギョームの身体はシートベルトに強く締め付けられ、激しい前Gで内臓が持ち上がるような感覚に襲われた。

 

停止した瞬間、彼は安堵のため息を漏らし、無線に短い報告を入れた。

 

「フック、スリー・ワイヤー。アショア(着艦成功)

 

甲板員たちがチェーンとクランプを持って機体に駆け寄る。

 

「着艦が一番緊張するな……」

 

ギョームは酸素マスクとヘルメットを外しながら呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「全機、着艦完了です」

「よかった……」

 

管制塔からの報告にジャグワーは安心し、ほっと一息つく。

しかしまだ問題が残っていた。

彼はレーダーに目を向ける。

そこには20個の赤い点があった。

 

「……警告したら止まると思う?」

「無理でしょう。むしろ、さらに近づいてくるのでは?」

「沈める以外の選択肢ないかぁ」

 

そう言うとジャグワーは周囲に展開する3隻に連絡をいれる。

 

 

「『シャルル・ド・ゴール』艦長のジャグワーだ。前方から帆船20隻が接近中、警告して無視した場合は撃沈を許可する」

 

 

 

 

 

 

 

フォルバンCIC

 

艦長はレーダーモニターをじっと見つめる。

ブリッジの窓からは、水平線の先に、小さな点が数十個、不規則に散らばっているのが目視できた。

 

「目標群、依然として減速せず。数、20。距離、18」

 

通信士の声が響く。

現代の最新鋭艦にとって、この距離はまだ戦闘開始の準備段階に過ぎない。

しかし、敵が帆船であるという事実は、彼らが立っている現実の時間軸を根底から揺さぶっていた。

 

CICの巨大なスクリーンには、自艦の他にプロヴァンス、アルザスと、その前に密集する異形の影の群れが映し出されていた。

 

「艦長、主砲装填完了。射撃管制システム、目標補足に入ります」

 

76mm速射砲の管制席で、砲術士官が冷静に報告する。

主目標に指定されたのは、ひときわ大きく見える帆船。

その巨大な木造船体の舷側には、黒い砲門がいくつも並んでいるのが、光学センサーのズーム画像で確認できた。

 

「距離15キロメートルに入ったら、射撃を開始する。その前に、全艦、目標群への警告を徹底せよ」

 

艦橋に微かな発砲音が響く。

アルザスが警告射撃として、76mm速射砲を使い、先頭の帆船の鼻先に海水を跳ね上げたのだ。

 

しかし、帆船群は止まらない。それどころかマストと帆が視認できる距離まで来ていた。

そして先頭の4隻から煙が上がる。

 

「敵艦、発砲!」

「何っ!?」

 

艦長は驚きの声を上げる。

しかし砲弾は重力に逆らえず、戦列艦と3隻の間の半分にも満たない距離で海に落ちた。

 

「……全く届いてなくないか?」

「警告なんでしょうか?それともあれが最大射程?」

「まぁどうでもいいか。全艦、対水上戦闘配置! 兵装管制、ロックオンを許可する! 主砲、最大速射、目標は全隻の喫水線下!」

 

艦長の声は、先程と打って変わって、鋼のように冷徹だった。

人道的配慮は、相手の攻撃意思が確認された瞬間に、断ち切られた。

 

まず火を噴いたのは、プロヴァンスの76mm速射砲だ。一秒間に約2発という驚異的な連射速度で、初弾から標的を捉えた。

 

ドス! ドス! ドス!

 

低く腹に響く砲声と共に、曳光弾が真っ直ぐに先頭の戦列艦へ突き進む。

砲弾は、船体中央の喫水線直下に吸い込まれた。

木造船体にとっては、現代の高性能炸薬弾は想像を絶する破壊力となる。

 

分厚い船板が、内側から爆発的に弾け飛び、凄まじい水しぶきと木屑を巻き上げた。

帆船は、船体の真ん中に巨大な穴を穿たれ、一瞬にして進路を失い、船首から急速に沈下し始めた。

その傾斜は致命的で、搭載された大砲が次々と海中に滑り落ちる音が、遠くからでも聞こえそうだった。

 

続いて、フォルバン、アルザスの76mm砲が、互いに連携して射撃を開始した。

 

「目標二、沈黙! 次目標へ!」

「目標四、着弾! 喫水線下に破孔確認! 船体、急速に傾斜!」

 

CIC内で報告が止まらない。

現代の射撃管制システムは、動く標的の速度、風、波、全てを計算し尽くし、寸分の狂いもなく砲弾を送り込む。

帆船の木造船体は、まるで紙細工のように無力だった。

 

「全敵艦、撃破確認!」

 

短時間の間に、海の巨艦群は次々と崩壊した。

メインマストから巨大な帆が音もなく滑り落ちるもの、船体のバランスを失い、横転して水面を叩くもの、船尾から急速に沈み始め、マストだけを天に突き立てるもの。

 

「これは……一方的すぎるな」

 

艦長はそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

フェン王国・王城

 

 

 

「今回フェン王国を不意打ちしてきた者たちを、退治していただいたことに、謝意を申し上げます。我が国は、貴国フランスと正式な国交条約を締結し──互いに繁栄の道を歩みたいと考えております」

 

マグレブの声は上品だった。だが、その奥にひそむ焦りは隠しきれない。

ロシュフォールとエステルは相手の言葉が落ちきるまで一拍待ち、静かに応じる。

 

「光栄です。まずは、貴国の意図を伺いましょう。焦らず、順を追って」

 

エステルが座りながら視線だけでマグレブを観察する。

瞳が宝石のように澄んでいるのに、その奥で測られている気がして、マグレブは喉が渇いた。

マグレブは資料を取り出し、机に整然と並べる。

 

「フェン王国は……正式に、フランス共和国との国交条約を締結したいと考えております。交易、文化、科学技術の交流、相互理解……すべてを前向きに」

 

ロシュフォールは資料に軽く目を通しながら答える。

 

「理念は良い。だが、条約とは国家の“腹の内”を見せる行為です。そこを曖昧にしたまま話を進めることはできません」

 

マグレブの指が、わずかに震えた。

 

「我が国は、地理的に諸勢力の狭間にあり、どの国とも慎重な外交を……」

 

エステルが微笑を浮かべた。

その微笑は優雅だが、空気の流れが一瞬変わる。

 

「“慎重”は良いことです。ただ――“何を慎重に隠しているか”が、問題になります」

 

マグレブの背筋に冷えが走る。

だが、序盤のこの時点ではまだ押し切れるかもしれないと考えていた。

 

「我々は、ただ友好を望むのみです。危険な意図など──」

 

ロシュフォールが静かに言葉を挟む。

 

「その“ただ”が、難しいのです」

 

その柔らかい声に、マグレブは返す言葉を失った。

 

「……フェンは、パーパルディア皇国との問題を抱えている。その渦に、我々を引き込みたい

──違いますか?」

 

マグレブは息を呑み、空気がひとつ震えた。

周りの武士が反応しかけるが、ロシュフォールの一瞥で凍り付く。

 

「申しておきましょう」

 

ロシュフォールの声は柔らかかった。

それがかえって、冷たさを増す。

 

「フランスが同盟を結ぶのは、信頼できる国のみです。戦争の火種を“隠して”我々を巻き込もうとする国とは……交渉の土台に立つことすら難しい」

 

マグレブは額に汗を浮かべ、声をふるわせる。

 

「ち、違うのです!巻き込むつもりでは……ただ、皇国が攻めてきて……我々は……!」

 

エステルが一歩進み、絹布が擦れるような音がした。

 

「ならば最初から明かすべきでした。国交とは、互いの弱さすら見せ合う誓いのようなものです。ですがあなた方は、その最初の一歩を踏み外した」

 

マグレブは悔しげに唇を噛む。

 

「……フェンは滅びたくないのです……国を、民を守るため……」

「気持ちは理解します」

 

エステルの声は柔らかかったが、核心は揺るがない。

 

「ですが“理解”と“協力”は別です」

 

ロシュフォールがゆっくりとマグレブに向き直る。

その姿は古い城壁のように揺るがぬ威厳を纏っていた。

 

「では──我々から条件を提示します」

 

マグレブが驚きの目を上げる。

 

「じ、条件……?」

「ええ」

 

ロシュフォールは淡々と告げる。

 

「パーパルディアとの戦争に、フランスは一切関与しない。貴国は自力で戦うこと。ただし──国交条約の締結自体は、慎重な段階的合意として続けていく」

 

エステルが補足するように流麗に言葉を重ねた。

 

「軍事協力は認めない。情報共有・経済補助も限定的。その代わり、フェンが戦争を拡大させない“誓約”を条件にしましょう」

 

マグレブは沈黙したまま震えていた。

だが、それが拒否の震えではなく、恐れと安堵の混じった震えであることをロシュフォールは見抜く。

 

「……受け入れます」

 

ロシュフォールは小さくうなずくと立ち上がり、襖へと進む。

 

襖に向かう直前、ロシュフォールが足を止めた。

振り返らず、静かに言葉だけを残す。

 

「──フェンを滅ぼすのは、皇国ではありません。視野の狭さです。気をつけなさい」

 

その一言は、鋭さではなく“重さ”だった。

エステルがマグレブへ軽く会釈し、二人は静かに退場していく。

 

言葉は鋭いのに、声はあまりにも静かで、余計に胸に刺さる。

 

襖が閉じる瞬間まで、フェン側は誰一人動けなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 





読んでくださりありがとうございます。


また1週間以上離れての投稿でした。
申し訳ありません。

ふと思ったのですが、戦闘シーンよりも外交シーンの方が多く書いているような……。
そう思ったので戦闘シーンを頑張って増やしてみようと思います。
ここからビックイベントもありますし……。


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