トリコロールの旗を掲げて   作:理由もなく歩く人

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14. 凄惨のリカネ

 

 

フランス・ブルターニュ地方 ウェサン島

 

 

ウェサン島の海風が、発射台の最終チェックを終えた作業員たちの顔を撫でていった。

島に来てから一ヶ月半。

地獄のような工期と、資材が届かない苛立ち、そして連日の荒天に耐え抜いた結果が、目の前にそびえ立っている。

 

溶接工のシモンが、ピカピカに磨かれた遮熱板を無言で一瞥し、

 

「これで完璧だ。あいつら(ロケット技師たち)がもし失敗しても、俺たちの仕事のせいじゃない」

 

と呟いた。

誰かがトリコロールの旗を、発射棟の最上階に掲げたのが見えた。

 

いつもより旗が輝いて見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェン王国・ニシノミヤコ

 

 

この日、フェン王国はかつてないほど騒がしくなった。

 

「急げ!皇国軍が上陸する前に全員配置につけ!民間人を避難させろ!」

 

王宮武士団十士長のアインは周囲にいる部下に命じる。

部下に的確な指示を出すアインだが、彼も実戦は初めて、それに相手は列強で緊張を隠すので精一杯であった。

 

「砲撃がきます!」

「もうそこまで来ているのか!?水軍はどうなったんだ!足止めをしてくれるはずではないのか!」

「アイン十士長!ここは我々に任せてアマノキを守ってください!」

「……わかった。みんな!あとは頼んだぞ!」

 

ニシノミヤコの守備は部下に任せてアインはアマノキに向かって走った。

途中、丘の上からあるものを見て絶望する。

 

「……なんだよ、あれ……」

 

海一面が帆船で埋まっていた。

すでに砲撃が始まっており、ニシノミヤコの所々で建物が燃えていた。

 

 

 

 

「剣王シハン様!」

「おぉ!アインよ、よくぞ戻った!」

 

城に到着したアインを見てシハンが喜ぶ。

 

「お主が最後にニシノミヤコを見た時、どんな感じであったか?」

 

シハンの問いにアインは顔を暗くする。

 

「皆しっかりと自分のやるべき事をしてをりましたが、丘の上から見た時には皇国軍の攻撃が始まっていました」

「大丈夫だ。武士団は皆強い。ただでは負けんさ」

「シハン様!モトム様からの連絡でございます!」

 

武士の一人が駆け込んでくる。

顔面蒼白になりながら。

 

「どうした。落ち着いて申せ」

「ニシノミヤコに皇国軍が上陸!海岸線での奇襲は失敗!現地の武士団は壊滅状態であり、ゴトク平野に一部を回し、迎え撃つとのことです!」

「なんだと!」

 

奇襲が失敗し、壊滅状態になったことでシハンとアインは驚く。

アインが刀を持って立ち上がる。

 

「私もゴトク平野に行きます!」

「頼んだぞ!」

 

アインは数名の武士を連れてゴトク平野に向かっていった。

シハンは天守閣からアマノキを見ながら呟く。

 

「本当に頼んだぞ……。お主たちが頼りだからな……」

 

 

 

 

 

その後、ゴトク平野で戦った武士は全滅した。

皇国軍は数名の死傷者を出しただけで特に変わりはなかった。

 

 

 

 

その日の夕方、アマノキは包囲された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パーパルディア皇国・皇都エストシラント

 

 

第3外務局

 

廊下は長く、天井の高いアーチが薄暗い影を落としている。

べランジェはゆっくりと歩を進めながら、護衛の足音に耳を澄ませた。

心臓の鼓動は速まらない。外側では冷静を装っているが、内心はすでに戦場のように張り詰めている。

 

「深呼吸……冷静に、冷静に。」

 

壁の装飾を目に入れながら、彼は自分に言い聞かせる。

護衛が軽く立ち止まり、扉の前で合図を送る。

べランジェは息を整え、書類を一度だけ握り直す。

 

「会談は言葉で戦う……だが、相手は常軌を逸している。」

 

頭の中で過去の経験を整理する。外交は交渉術だけでなく、心理戦でもある。

高慢な相手、理不尽な要求、感情的な挑発――すべて予想の範囲内だ。

 

「冷静でいれば、必ず相手の油断を誘える。」

 

べランジェは軽く書類を置き直し、呼吸を整える。

 

「……さあ、始めるか。」

 

護衛が一歩後ろに下がる。

扉の取っ手に手をかけ、べランジェは微動だにせず目を閉じる。

そして静かに扉を押し開け、一歩を踏み出した。

 

 

 

 

 

 

「では、まず自己紹介をしてください」

 

自己紹介、と言われべランジェは一瞬思考が止まる。

しかし疑問に思いながらも始める。

 

「フランス共和国、外務省から来ました。べランジェと申します」

「どうぞ、かけて下さい」

「え…あ、はい」

 

まるで面接のような対応にべランジェは戸惑う。

その時、パーパルディア皇国の面子も自己紹介を始めた。

 

「初めまして、第3外務局局長のカイオスです」

 

そしてべランジェが部屋に入った時からずっと気になっていた人物が自己紹介をする。

その人物は豪勢な椅子に腰掛けた20代後半くらいの女だった。

 

「外務局監査室所属、皇族のレミールだ。お前たちフランスの外交担当だと思ってくれ」

「はぁ、皇族の方がなぜ……?」

 

いきなりの皇族にべランジェは戸惑いが隠せない。

そんなこと知らずにレミールは高圧的に話しだす。

 

「皇帝のご意志だ。ここにいるカイオスは気にしなくていい。……それよりも前回、ムーの保護国と偽って入国してきたらしいではないか。流石は蛮族、卑劣な手を使うとは」

「……レミール殿、わが国は偽って入国したのではありません。勘違いされただけなのです」

「黙れ。貴様らの対応をした第2外務局の記録に残っていたぞ。“ムーの保護国と偽称し、自分たちの立場も知らずに対等な関係を求めてきた”とな」

 

(あの男……そんな出鱈目な事を書きやがったのか!?)

 

べランジェは前回、会談をしたリウスという男を思い出す。

確かに“保護国ではない”と知った時に態度を一変させてきているが、まさかそこまで酷く報告されているなんて思っていなかった。

 

「それで、今度は何をしにきたのだ?」

「我々は不当な行き違いしています。このままぶつかっていては、お互いに大きな不利益が生まれます」

「そうだな。本当に不当な行き違いだ。お前たちが皇国の属国になるというのに、ぶつかってしまったら私たちに不利益が生じる」

「……皇国の属国……?」

 

前回も”属国“という言葉を聞いたべランジェは軽いデジャヴを感じる。

レミールはそんなこと知らずに話し続ける。

 

「もちろんどういった形で私たちに従えばいいかわからないだろう。そんな哀れなお前たちに皇帝陛下はお慈悲をくださった。そんなお前たちもこれを読めばわかるだろう」

 

彼女は部下に命じ、質の悪い資料をべランジェに渡させる。

信じられない資料の内容に彼は自分の目を疑った。

 

 

・フランス共和国の王は、派遣された皇族を置き、政治に関わる者は全て皇国人にすること。

・フランス共和国内の法は皇国が決め、皇国人だけが改正する権利を持つこと。

・フランス共和国軍は皇国軍の指揮下に入り、皇帝陛下のために動くこと。

・フランス共和国はいかなる理由があろうと階級を問わず、皇国に奴隷を差し出すこと。

・フランス共和国は今後、皇国の許可した時以外の外交を一切禁ずる。

・フランス共和国は現在ある資源の全てを皇国のために使用せず、皇国の求めに応じてその資源を差し出すこと。

・フランス共和国は現在の国内にある技術のすべてを皇国に開示すること。

・パーパルディア皇国の民がフランス国民を傷つけて場合、いかなる理由があろうと皇国人は責任を問われない。

・皇国人を傷つけたフランス国民は即刻死刑にすること。

 

 

「何ですか、これは!?」

 

べランジェの反応にレミールは甲高い声で笑う。

隣のカイオスは不快そうな表情を浮かべた。

 

「前回、リウスが提示した内容に少し付け加えたものだ。これでわかりやすくなっただろう?」

「こんなもの、認められるわけがありません!属国どころか、植民地扱いじゃないですか!」

「いちいち騒ぐな、蛮族が。“皇国がルールを作り、フランスは従う”これが当たり前であろう。むしろ、このぐらいにしてやったのだから感謝してほしいところだ」

 

べランジェは落ち着いてから、淡々と語る。

 

「一つ訂正を。……奴隷、生殺与奪の権利。これは単なる属国化ではない。我々が歴史上、血を流して否定してきた人類の暗黒時代への回帰です。あなたたちに、自由、平等、博愛の精神を踏みにじらせるわけにはいかない」

 

レミールの眉が跳ね上がった。

 

「何だと?フランスなんて辺境の寄せ集め国家だ。文明も、軍も、皇国の足元にも及ばない。 お前たちみたいな後進国に、“皇国の威光を分けてやろう”って言っているんだぞ?」

 

べランジェは微動だにしない。

レミールはさらに続けた。

 

 

 

「蛮族は自分の頭が頭が悪いことを自覚していないのか?自分の国を“大国”とか思っているのか?」

 

 

 

その瞬間――べランジェの瞳に火が灯った。

これまで一度も崩れなかった礼儀が、静かに破られる。

 

 

「……ふざけるのも大概にしろ!お前らは自分が神とでも思っているのか!」

 

「何だと?蛮族如きが、皇国に口答えするな!」

 

べランジェが鼻で笑う。

 

「蛮族とは、理由もなく他国民を貶め、礼節も、論理も持たぬ者のことだろう!……その定義は、“お前ら”ではないのか!」

 

レミールの眉が跳ね上がった。

次の瞬間、怒号が響く。

 

「その蛮族を捕えろ!皇国に逆らったらどうなるか思い知らせてやる!」

 

周りの兵が一斉に動いた。

べランジェの護衛が前に立ちふさがる。

 

「大使代理に触れるな! 国際儀礼を――!」

「黙れ!」

 

兵の1人が銃床で護衛を殴りつける。

護衛が倒れた瞬間に他の兵がべランジェを拘束する。

 

「やめろ!何をする!」

 

倒れた護衛を兵が拘束しようとした時、レミールが止めた。

 

「待て、その護衛に言うことがある」

 

護衛は解放されるとレミールを睨みつけた。

レミールは護衛を指差し、狂気すら感じる笑みを浮かべる。

 

「前回来たロシュフォールとかいう男を連れて来い。それまでこいつは預かっておく」

 

レミールの要望に護衛は唖然とする。

それを不機嫌そうにレミールが見る。

 

「……邪魔だ、さっさと出ていけ」

「なっ――!」

 

護衛は兵士に押さえつけられ、強制的に外務局の外へ引きずられていく。

べランジェは拘束されながら、ゆっくりとレミールを見据えていた。

その目は怒りよりも、冷たい侮蔑の色を宿していた。

 

レミールは勝ち誇った声で笑う。

 

「話は少しは通じたが、やはり、所詮は蛮族だな」

 

兵士たちはべランジェを押さえつけたまま、会談室の扉を閉めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 





読んでくださりありがとうございます。


今回の対パ外交、いかがでしたでしょうか。

べランジェさん、前回の対パ外交で出てきたの覚えていますか?
ちなみに彼はエステルさんの先輩設定です。


この度、活動報告の場にてQ&Aコーナーも設けさせていただきました。
お気軽にご質問ください。


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