パリ・軍事省 統合参謀本部
フランス4軍を統括するこの場所は軍の士官や外務省の職員が慌しく動いていた。
「統合参謀本部部長が入る」
声と共に全員が入ってくるド・ウィルに対し、敬礼をする。
ド・ウィルは全体を見回すと話し始める。
「楽にしてくれ。……それより、状況はどうなっている?」
すぐに情報士官が報告を始める。
「現時点でパーパルディア側に動きはありません。……べランジェ外交官の状態も不明です」
「ド・ウィル参謀本部長、フェン王国ですが……本日の早朝、首都アマノキへの攻撃を確認。――陥落しました」
「フェンが落ちるのは想定内だが、外交官拘束は全くの想定外だ。救出作戦はどうなっている?大統領に“外交官を救出し、報復しろ”と言われたんだからな」
「もちろんです。現在、救出プランを計画中です。……少々手荒なものになりますが」
情報士官の歯切れの悪さにド・ウィルは怪訝な表情をする。
「……内容は?」
「こちらへ」
そう言い、士官は会議室に案内する。
そこには各軍の参謀本部長や将官、外務省の高官もいた。
ド・ウィルが席につくとプロジェクターが作戦内容を映し出す。
「……では、これより救出作戦の説明をします。まず、参加部隊は特殊作戦旅団から海軍コマンドのコマンドー・トレペルとコマンドー・ド・モンフォール、国家憲兵隊からはGIGNが参加。海軍からは新型艦の『C 701 ダンケルク』と『S 637 トゥールヴィル』が参加します」
「新型巡洋艦を実戦投入か……」
空軍参謀総長のデュラン大将が呟く。
映される画像が変わる。
「次に作戦の流れについて説明します」
映し出されたのは皇都エストシラントの航空写真だ。
「ここが皇宮であるパラディス城、その周辺にあるのは第1、2、3外務局です。近くには空軍基地と思われる施設も確認しましたが、べランジェ外交官が拘束されている場所は不明です」
「場所がわからないのにどう救出するのだ?」
陸軍参謀総長のルフェーブル大将が疑問を口にする。
周りの将官たちも頷いていた。
「その点についてですが、パーパルディアの要求を利用させてもらいます」
「パーパルディアの要求?」
「はい。内容ですが、次の会談にロシュフォール外務次官の出席を望んでいます」
「名指しでの呼び出しなんて……。あの男、前回の会談で何やらかしたんだ……?」
外務省の高官が頭を抱える。
ロシュフォールの会談時の丁寧さと自由さは外務省ではもちろん、軍の高官たちの間でも話題として上がるぐらい有名だった。
「で、どうするんだ?」
「まず要望通り、ロシュフォール外務次官を会談に出席させ、その際にべランジェ外交官の安否確認、できれば場所を聞き出します」
「聞き出すのは無理だろう」
「その通り、聞き出すのは不可能に近いでしょう。ですので、“処刑場”を襲撃します」
「処刑場?」
航空写真が別の場所に変わった。
先ほどよりも発展していなさそうな場所だった。
「こちらが“処刑場”です。場所はエストシラント郊外。ここにべランジェ外交官を連れてくる可能性が高いです」
「どういうことだ?」
「周辺国からの情報でパーパルディアは外交の際、――相手の国の人質を処刑する傾向があります」
パーパルディアの残虐さに会議室が静まり返る。
将校の一人が恐る恐る口を開く。
「……つまり、会談の際にべランジェ外交官が処刑される可能性があると?」
「そういうことです。なのでべランジェ外交官を確認した瞬間に待機していた海軍特殊部隊が急襲し、救助する予定です。万が一の時のためにロシュフォール外務次官はGIGNが護衛します」
「参加部隊の中に巡洋艦が含まれているのはなぜだ?」
ド・ウィルが尋ねるがそれにはモロー海軍参謀本部長が答えた。
「陽動と敵の戦力を削るためです。救出プラン成功後すぐに報復作戦が始まります。そのため、処刑場を強襲する直前に首都にある皇国軍の基地を全て攻撃し、敵の初動対応を遅らせます」
「報復作戦時の兵員の輸送については?」
「それについては私から」
ルフェーブルが立ち上がり、プロジェクターで参加部隊を表示する。
「今回報復するパーパルディアですが、この世界では”列強“と呼ばれており、ロウリア制圧戦よりも規模が遥かに上です。当然、我が軍の兵力も増えます」
「我々海軍の輸送艦の遠征能力を飽和するぞ」
「その通りです。なので今回は民間に協力してもらい、大型船で旅団を運びます」
「民間船を使う、か……なら輸送艦を増やしておくべきだったな」
「まぁ、でも今回はできる限り戦わない方針でしたから……」
モローは苦笑い、ルフェーブルは肩をすくめる。
先ほど話していた通信士官に進行役が戻った。
「では、これで説明は以上になります」
「わかった。諸君、今回の作戦は絶対に失敗は許されない。何も知らないやつらに教えてやれ。
――我々を敵に回した恐怖を」
会議が終了すると、統合参謀本部から各軍に作戦内容が伝えられていく。
すぐに参加する部隊は装備の点検や、ブリーフィングを始める。
一人の若い隊員が呟いた。
「――外交官を拘束した奴、絶対に許さないからな」
偶然にも参加する軍人全員が同じことを思っていた。
作戦名:Opération venger(オペレーション・ヴァーンジュ/復讐)
参加兵力
陸軍
◆ 第1機甲師団
・第7軽機甲旅団
・第27山岳歩兵旅団
・第1砲兵連隊
・第132歩兵大隊
◆ 第2機甲師団
・第5機甲旅団
・第92歩兵大隊
◆第3機甲師団
・第2軽機甲旅団
・第11落下傘旅団
・第2竜騎兵連隊
・第31工兵連隊
◆第4戦闘航空旅団
・第1戦闘ヘリコプター連隊
・第5戦闘ヘリコプター連隊
◆ 参謀本部直轄部隊
・第7輜重大隊
・第72海兵歩兵大隊
・第785電子戦中隊
海軍
◆ シャルル・ド・ゴール空母打撃群
・シャルル・ド・ゴール級 R 91 シャルル・ド・ゴール
・ダンケルク級 C 701 ダンケルク
・フォルバン級 D 621 シュヴァリエ・ポール
・アキテーヌ級 D 650 アキテーヌ、D 653 ラングドック、D 656 アルザス
◆ カール・ヴィンソン空母打撃群
・ニミッツ級 CVN-70 カール・ヴィンソン
・タイコンデロガ級 CG-59 プリンストン
・アーレイ・バーク級 DDG-104 スタレット、DDG-110 ウィリアム・P・ローレンス
・アミラル・ロナルク級 D 660 アミラル・ロナルク、D 661 アミラル・ルゾー
◆ 輸送部隊
・L9013 ミストラル、L9014 トネール、L9015 ディクスミュード
・EDA-R型戦車揚陸艇
・CTM型中型揚陸艇
・その他大型民間船
・あきづき型 DD-115 あきづき
・ラファイエット級 F-711 シュルクーフ、F-712 クールベ
航空宇宙軍
◆ 第2航空団
・第1戦闘飛行隊
◆第3航空団
・第1戦闘飛行隊
・第2戦闘飛行隊
・第3戦闘飛行隊
◆第30航空団
・第1戦闘飛行隊
◆第61輸送航空団
・第1輸送飛行隊
・第2輸送飛行隊
◆第64輸送航空団
・第1輸送飛行隊
◆ 第33偵察・情報航空団
・第1偵察飛行隊
◆第36早期警戒管制航空団
・第1早期警戒飛行隊
特殊作戦司令部
◆特殊作戦旅団
・第35特殊作戦航空団
・海軍コマンド
・コマンドー・トレペル
・コマンドー・ド・モンフォール
・国家憲兵隊特殊介入群
・国家憲兵隊治安介入部隊(GIGN)
・国家憲兵隊空挺介入中隊(EPIGN)
戦略空軍
◆第4航空団
・第1戦闘飛行隊「ガスコーニュ」
パリ・外務省
「ロシュフォールさん、私も連れて行ってください!」
「エステル、君の気持ちはわかる。でも下手すれば命を落とす所に君は連れていけないよ」
「ですが!」
エステルは涙目になりながらロシュフォールに頼む。
すると彼は哀愁がこもった微笑みでエステルを見る。
「私だって行くのは怖いんだ。でも名指しで呼ばれているし、仮に呼ばれてないとしてもまだ人生が長い君は行かせられないよ。それに……」
ロシュフォールはエステルと目線の位置を合わせるとさらに微笑んで話す。
「こういうのは私の得意分野だ。この老いぼれに任せなさい」
「………はい!」
エステルに背を向け、窓から夕陽が差し込む廊下を歩き出す。
その離れていく背中に向けて彼女は言った。
「
その言葉にロシュフォールは軽く手を上げて返した。
読んでくださりありがとうございます。
次回からオペレーション・ヴァーンジュが始まります。
フランスの救出と報復をお楽しみに。
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