トリコロールの旗を掲げて   作:理由もなく歩く人

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16. 救出作戦

 

波が岩に打ちつける音が辺りに響く。

暗闇の中、二人の皇国兵が哨戒を行っていた。

 

「なあ、こんなところまで見にきても何もないだろ?」

「それはわからないぞ。いつ敵がきてもおかしくないからな」

 

返答の内容に呆れたのか、尋ねた皇国兵は苦笑いしながら聞く。

 

「…おいおい、俺たちは列強だぞ?そう簡単に敵が来るわけ…「フランスって国を知らないのか?」……は?フランス?」

「そうだ。この前でかい竜母が来ただろ?あの国だ」

「……見たけどよ。所詮蛮族だろ?うちの戦列艦にかかれば一瞬……どうした?」

 

突然、もう一人の皇国兵が足を止める。

その皇国兵はマスケット銃を海の方に構えていた。

 

「……そこに誰かいたぞ」

 

その言葉にもう一人も銃を構え、砂浜の方へ進む。

波の音と、砂を踏む靴音だけが規則正しく繰り返される。

 

「……異常なし、だな」

 

皇国兵の一人が、気の抜けた声でそう言った。

後ろを歩いていた相棒は、小さく頷く。

その数歩先で、また影が一つ見えた。

 

「……そこで何をしている?」

 

――返事がない。

 

「おい?何かいる………あれ?」

 

振り返った瞬間、彼の視界から相棒の姿が消えていた。

そこにあったのは、波打ち際と、静かな闇だけだった。

 

心臓が嫌な音を立てる。

 

「……誰だ」

 

声が、夜に吸い込まれる。

背後で、砂を踏む音がした。

 

振り向こうとした、その瞬間――

 

彼は自分が叫ぶ暇すら与えられなかった。

その場は再び何事もなかったかのように静まり返った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

皇都エストシラント、第3外務局。

 

高い天井から吊るされた魔導灯が、明るく室内を照らしていた。

玉座に座るレミールは、愉悦を隠そうともせずに微笑んでいた。

 

「さて、貴様がロシュフォールか。リウスから聞いたが、お前は話が通じやすかったらしいからな。それで名指ししたのだ。………さて、改めて聞くが貴国は、我が皇国の“寛大な提案”を受け入れる用意はあるのか?」

 

その声には、勝者の余裕があった。

彼女の背後には魔導通信装置が待機している。

ロシュフォールは静かに一礼した。

 

「お呼びいただき感謝したします。改めてお聞きしますが、”提案“とは具体的にどのようなものでしょうか」

「とぼけるのはやめろ。パーパルディア皇国の属領として国内の全てを我々のために使うことだ。国土、資源、民、もちろん――お前もだ」

 

レミールは楽しそうに言葉を重ねる。

 

「拒否した場合?その時は……そうだな。貴国の外交官の“安全”が保証できなくなるだけ」

 

彼女は指を鳴らした。

部屋の端に置いてあった魔導通信が起動し、宙に映像が投影される。

 

荒涼とした広場。

その中央に置かれる処刑台。

そして縛られ、膝をつかされたべランジェ。

周囲では皇国兵が慌ただしく処刑準備を始めていた。

 

「どうするか?今から処刑を始めさせることもできるんだぞ?」

 

レミールは、完全に調子に乗っていた。

ロシュフォールは映像から目を逸らさないまま、静かに口を開いた。

 

「……確認ですが、それは正式な命令ですか?」

「ああ。フランスが“理解”を示さない限り、彼はここで死ぬ」

「なるほど」

 

ロシュフォールは頷いた。

 

「では、もう一つ確認を」

「次は何を確認するんだ?言ってみるがいい」

「貴国は今、この行為が宣戦布告であるという自覚はお持ちですか?」

 

レミールの眉がわずかに動いた。

 

「何を言って――」

「外交官の拘束、脅迫、処刑。それを魔導通信で中継する。どれも、国際的には“宣戦布告と同義”です」

 

ロシュフォールの声は淡々としていた。

 

「貴国は、フランスと戦争状態に入る覚悟があると?」

「……は?」

 

レミールの顔から余裕が消える。

 

「ご安心を。我々は“望んでは”いません」

 

一拍

 

「ですが――逃げもしません」

 

その瞬間、レミールは完全に逆上した。

 

「黙れ!!これが国際的に宣戦布告と同等だと?その口を利けなくしてやる!」

 

彼女は振り返り、魔導通信に怒鳴りつける。

 

「処刑を開始しろ!今すぐだ!!」

 

処刑場。

剣が振り上げられた、その刹那。

 

 

 

剣を持つ皇国兵の頭が吹き飛んだ。

 

 

 

それが合図のように銃声が続き、次々と皇国兵の頭に銃弾が撃ち込まれる。

そして画面の中に迷彩柄の装備に身を包んだ隊員たちが現れる。

無駄のない動きで皇国兵を片付ける。

銃声を聞き、駆けつける皇国兵も銃を構える前に撃ち殺された。

 

皇国兵は一瞬で全滅した。

拘束具が切断され、べランジェが抱え上げられる。

 

『対象確保。離脱する』

 

そう言い、一人の隊員が魔道通信機を撃ち壊した。

すると魔導通信の映像は、そこで途切れ、画面が真っ黒になる。

理解が追いつかないまま、レミールは硬直していた。

 

「……な……何が……」

 

次の瞬間、彼女は叫ぶ。

 

「兵士!あの男を拘束しろ!!」

 

皇国兵が一斉に動こうとした、その時。

 

 

扉が爆音と共に吹き飛んだ。

そして閃光弾が投げ込まれる。

視界を白が塗り潰した。

 

「GIGNだ!動くな!!」

 

防弾バイザーを着けフルカスタムされたMP5を持った隊員が突入してくる。

短い銃声が連続し、一時的に視力が奪われた皇国兵は次々と倒れていった。

ロシュフォールはすでに護衛に囲まれていた。

 

「撤退ルート確保!ついてきてください!」

「ええ」

 

ロシュフォールは、床に崩れ落ちたレミールを一度だけ見下ろした。

 

「また会えるといいですね。では、“その時”(皇国の滅亡)まで震えて待ってろ

 

そう言い残し、彼は部屋を後にした。

その場に残ったのは、完全に主導権を失った皇女と、静寂だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「外交官救出成功しました!現在、艦載機で移送中。本艦到着予定、15分後」

「GIGNから報告!ロシュフォール外務次官と共に撤収中!」

 

作戦成功の報告に艦長は満足そうに頷く。

 

「艦長。海軍コマンド部隊から連絡。『配置についた。攻撃支援を要請する』です」

「わかった。司令部に報告し、攻撃用意だ」

 

通信士官からの報告に頷くと艦長はヘッドセットを着用する。

 

「艦長。ミサイルはコマンド部隊がレーザー誘導します。26発です」

「総員戦闘配置。1番から26番、巡航ミサイル発射用意。目標まではレーザー誘導だ」

「了解!SCALP、1番から26番発射用意!レーザー誘導する!」

「設定完了!攻撃用意よし!」

 

マイクをオンにし、『トゥールヴィル』に連絡する。

 

「こちら『ダンケルク』。発射準備完了。発射はそちらに合わせる」

 

 

 

 

 

 

「艦長。外交官の救出が完了しました。現在、ヘリで『ダンケルク』に移送中です」

「了解。司令部に報告し、次の指示をもらえ」

 

通信士官が統合参謀本部戦略海洋部隊司令部に報告する。

すぐに返信があり、指令が書かれた紙が艦長に手渡される。

 

「……戦闘配置につけ」

「了解!総員戦闘配置!繰り返す、総員戦闘配置につけ!」

 

艦長の一声で艦内で慌ただしく乗組員が自分の配置に向かう。

そして艦長は紙に書かれた内容を伝えた。

 

「第1攻撃目標。グリッドコード(目標座標)、タンゴ ウィスキー 0-5-6-6-2-8(東方向056メートル、北方向628メートル地点)

「了解。座標入力、0-5-6-6-2-8」

 

管制員が読み上げられるグリッドコードをミサイルに入力していく。

 

「第2目標。コード、ウィスキー キロ 5-6-7-8-9-1-2-3-4-5(東座標56789、北座標12345、精密誘導)

「5-6-7-8-9-1-2-3-4-5、入力完了」

 

艦長が副長に発射キーを渡す。

同時にキーを回し、発射ボタンが出現した。

 

『こちら『ダンケルク』。発射準備完了。発射はそちらに合わせる』

「了解…………攻撃開始!」

 

発射ボタンを同時に押した瞬間に魚雷発射管が開き、4発のMdCN巡航ミサイルが発射され、勢いよく海面を飛び出す。

同時刻に『ダンケルク』の前甲板VLSのハッチが開き、26発のSCALP-EGが轟音と共に大空へ舞い上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、セット完了」

 

DHY 208 レーザー目標指示装置を用意したコマンドー・ド・モンフォールの隊員が呟く。

彼の所属する分隊はパールパディア三大陸軍基地の一つである皇都防衛軍基地に対するミサイル誘導のために基地から2km離れた場所で待機していた。

 

『『ダンケルク』CICからコマンドー・ド・モンフォール全隊員へ。ミサイルを発射した。各部隊、誘導コードを送ってくれ』

「了解。こちらエックスレイ1-1、レーザー誘導コード“1744”繰り返す“1744”レーザー照準を開始する」

『エックスレイ1-1へ、ミサイルは6発だ。外すなよ』

「よし、照準開始しろ」

 

分隊長の指示で彼はボタンを押し、基地の中央にある施設にレーザー光線を当てる。

光は目標に当たり、微細な反射となって空へ拡散した。

 

「着弾まで10秒」

 

カウントダウンが始まる。

 

「3」

「2」

「1」

 

6発のSCALPが基地内へと落ちる。

それぞれのミサイルが正確に照準された場所に着弾した。

 

シャック(着弾確認)!ナイス・ショット。目標完全に破壊。攻撃完了」

 

着弾の報告を行いながら分隊長は奥に見える基地に目を向ける。

双眼鏡越しにところどころで黒煙が上がり、皇国兵が慌てて消火活動を行っているのが見えた。

 

『こちらアルファ。着弾確認。全部隊へ帰投を開始しろ。潜水艦でまた会おう』

「こちらエックスレイ1-1。了解。帰投する」

 

分隊員が照準器の片付けを始める。

 

「あとは一般部隊の出番だな」

 

空へ上がる黒煙を背景に彼は呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読んでくださりありがとうございます。


というわけで、救出が完了しました。
次回からはみなさん楽しみに待っていらっしゃるパ皇の崩壊の始まりです。

ぜひ、活動報告の場にあるQ&Aコーナーもご使用ください。


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