トリコロールの旗を掲げて   作:理由もなく歩く人

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新しい作品の構想を練っていたらいつの間にかこんなに日にちが経っていました……。
新作は今週中に投稿予定です。








22. 古き友よ

 

 

 

長い机の向こう側に座る男が、静かに立ち上がる。

 

「ムー国外務省、列強担当部課長のオーディグスです。本日はお越しいただき感謝します」

 

落ち着いた声だった。

年齢は四十代ほど。理知的な目をした男である。

それに対し、ロシュフォール外務次官も静かに立ち上がった。

 

「フランス共和国外務省、ロシュフォール外務次官です。お招きいただき光栄です」

 

互いに握手を交わす。

この世界では珍しい握手という習慣に、オーディグスはわずかに興味を示したが、すぐに表情を整えた。

 

「フランス共和国の噂は、すでに我々の耳にも届いております」

「良い噂であることを願います」

「……それはこれから判断することになります」

 

オーディグスの視線は鋭かった。

席に着くと、短い沈黙が流れる。

最初に口を開いたのは、ムー側だった。

 

「率直に申し上げます」

 

オーディグスは机の上に資料を置く。

 

「パーパルディア皇国との戦争において、貴国が使用した“兵器”についてです」

 

ロシュフォールの目がわずかに細くなる。

 

「都市を一瞬で消滅させた光。

そして巨大な爆発。

その後に発生した広範囲の被害」

 

オーディグスは続けた。

 

「我々は最初、これを魔帝のコア魔法と判断しました」

 

部屋の空気がわずかに変わる。

 

「つまり」

 

オーディグスはロシュフォールを真っ直ぐ見た。

 

「フランス共和国は、

――魔帝国の後継国家ではないか、と」

 

静かな言葉だったが、意味は重かった。

ロシュフォールは数秒考えた後、ゆっくりと口を開いた。

 

「結論から申し上げます」

 

一拍。

 

「それは誤解です」

 

オーディグスの眉がわずかに動く。

 

「では、あの兵器は?」

「核兵器です」

「……核?」

「我々の世界で開発された兵器です。魔法ではありません」

 

オーディグスは黙り込んだ。

 

「つまり」

「魔帝とは関係ありません」

 

ロシュフォールは続ける。

「我々は魔帝でも、その後継でもない。ただの国家です」

 

数秒の沈黙。

オーディグスは資料を閉じた。

 

「……興味深い」

 

だが、完全に納得したわけではない様子だった。

その時だった。

ロシュフォールの視線が、部屋の端に向いた。

 

そこに置かれていたのは――

地球儀だった。

ロシュフォールは思わず立ち上がる。

 

「これは……」

 

ゆっくりと近づく。

球体には海と大陸が描かれていた。

そしてその形は、ロシュフォールにとって見慣れたものだった。

 

「……地球」

 

オーディグスが振り向く。

 

「ご存知ですか?」

 

ロシュフォールは静かに答えた。

 

「当然です」

 

彼は指を伸ばす。

ヨーロッパ。

アフリカ。

アジア。

すべて、正確に描かれている。

 

「これは……どこで?」

「古代の遺物です」

 

オーディグスが答えた。

 

「我々ムー国には伝説があります」

 

彼は少しだけ声を落とす。

 

「かつて“地球”という世界があり、そこから我々の祖先がこの世界へ移った――という伝説です」

 

ロシュフォールはゆっくりと振り返った。

 

「……なるほど」

「何か?」

「その伝説は、ほぼ正しい」

 

オーディグスの目が見開かれる。

 

「フランス共和国は」

 

ロシュフォールは言った。

 

「地球から移転してきた国家です」

 

部屋の空気が一瞬止まった。

 

「……まさか」

 

オーディグスは立ち上がる。

 

「つまり貴国は……」

「地球国家です」

 

ロシュフォールは静かに頷いた。

 

「そしてムーは」

 

地球儀を見る。

 

「かつて地球に存在した――

伝説の大陸、ムーの国家」

 

オーディグスの表情が変わった。

疑念が、理解へ変わっていく。

 

「……だから、あの地図を」

「ええ」

 

ロシュフォールは答える。

 

「我々にとっては、見慣れた世界です」

 

オーディグスはしばらく黙っていた。

そして――小さく笑った。

 

「なるほど」

 

彼は椅子に座り直す。

 

「ようやく納得しました」

 

最初の硬さは、もう消えていた。

 

「魔帝などではなく、同じ地球出身の国家だったとは」

「我々も驚きました」

 

ロシュフォールは肩をすくめる。

 

「この世界で地球の痕跡を見るとは思いませんでした」

 

オーディグスは頷く。

 

「では、改めて」

 

彼は手を差し出した。

 

「ムー国として、フランス共和国との関係構築を歓迎します」

 

ロシュフォールも手を握る。

 

「こちらこそ」

 

会談の空気は、完全に変わっていた。

しかしオーディグスは、ふと真剣な顔になる。

 

「一つ、情報があります」

「聞きましょう」

「第二文明圏の周辺で」

 

一拍。

 

「グラ・バルカス帝国の動きが活発化しています」

 

ロシュフォールの目が細くなる。

 

「詳細は?」

「まだ不明です」

 

オーディグスは答えた。

 

「ですが、軍の移動が増えています」

 

短い沈黙。

 

「……興味深い」

 

ロシュフォールは静かに言った。

 

「その情報、感謝します」

 

オーディグスは頷いた。

「同じ地球の国家として、共有すべきだと思いました」

 

会談はそこで終了した。

 

この日を境に、フランスとムーの関係は、大きくいい方向に進んで行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「第37地方隊が壊滅………それにこの兵器。フランスという国はいったい何者なんだ?」

 

軍本部のとある一室でカイザルは数人の部下と共に資料に目を通していた。

 

「『ケフェウス』の持って帰って来たフィルムがどうも怪しかったが、後々第三文明圏に忍び込ませたスパイが同じ形の雲の写真を送って来たぞ」

「カイザル様、やはりフランスは我が国を上回る大国ではないのでしょうか。巨大空母、プロペラが無い戦闘機、戦車も我々のものと口径が比べものにならないですよ」

「多分、戦争になったら負けるな」

 

カイザルは部下に命じ、もう一度フィルムを映させる。

帝国海軍の艦艇が誇らしく進んでいる。

そして一瞬、視界が閃光に包まれた。

 

そこに映っていたのは、先程まで存在しなかった黒いキノコ雲。

程なくして艦隊を突風が襲う。

 

やはり何度見てもこの兵器の威力は凄まじく、恐怖を感じさせる。

 

当然、最初は信じない者もいたが、情報局が第三文明圏に送ったスパイがこれよりも近くで撮った映像と写真を送ってきたことによって信じない者はいなくなった。

 

さらに衝撃的だったのが第37地方隊の壊滅だ。

これは『ケフェウス』の無線記録に書いてあったため、敵の大艦隊にやられたのだろうと思われたが、また現地のスパイがとんでもない資料を送ってきた。

 

 

[第37地方隊が戦闘を行ったとされる海域周辺で確認できたフランス海軍の艦艇は三隻]

 

 

たった3隻の巡洋艦に19隻の艦隊が惨敗したという情報はすぐに末端の兵士にまで知れ渡った。

今までにない惨敗の仕方に海軍の評判は落ち、陸軍の発言力が上がった。

 

「陸軍のおかげで我々の予算は昨年に比べて2割減少、戦艦『マルゼラン』の完成がまた先延ばしになります!」

 

部下が苛立ちを隠さずに言う。

 

「……少し落ち着け。陸軍はレイフォル軍の残党狩りで功績を上げ続けている。それに比べ我々はフランスの実力を見誤ってしまい、惨敗した。陛下がお慈悲をくださらなければ予算はさらに少なくなっていたのだぞ」

「ですが……!」

 

部下はさらに言おうとするが、カイザルに制され不満げな表情で口を閉ざした。

 

「……さて、フランスについての話はここまでにして、本題に入ろう。

 第二文明圏占領の計画についてだが――」

 

 

 

大粒の雨と共に、雷鳴が轟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それではエステル、残りの仕事は頼んだよ」

「任せてください。事務作業も完璧に終わらせますから」

 

ロシュフォールは深く頷くと艦に向かって歩き始める。

やがて、士官予備室の前で立ち止まり、ドアをノックした。

 

「ロシュフォールかい?入って良いよ」

「失礼します」

 

中にはスーツを着た数人がいた。

その中心にいる男に向かってロシュフォールは聞く。

 

 

「準備はできましたか?大統領」

 

 

その問いにシュヴァリエはニヤリと笑うと

 

 

「もちろんだよ。さあ、世界最強にご挨拶といこう」

 

 

ロシュフォールにはその笑みがとても頼もしく感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





読んでくださり、ありがとうございます。

今回は少し文字数が少なめでした。
次話は文字数を多く出きるように心がけます。

アンケートの結果、シュヴァリエ大統領に決定しました。
正直、どうやって書こうか迷っています……。

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