あらすじにも書いてある通り、もし移転したのが日本ではなくフランスだったら?という感じの内容です。
ミスが無いか確認しながら描いていますが、間違いなどを見つけた場合はご報告ください。
1. 移転
パリの朝は、柔らかな光に包まれて目覚めていた。
石畳の路地には、カフェの香ばしいコーヒーの匂いと、焼き立てクロワッサンの香りが漂う。テラスでは紳士が新聞を広げ、子供を連れた母親が笑い声を響かせる。観光客はスマートフォンを手に、ルーヴル美術館の正面で記念撮影に夢中だった。
セーヌ川沿いの遊歩道では、ジョギングする人々、犬を連れた人々、画家や写真家が穏やかな朝を楽しんでいる。川面には朝日の反射がきらめき、小舟が静かに波を切る。鳥の群れが水面の上を飛び、街の音に混ざるその声が、平和な日常の証のように響いた。
地中海沿岸の港でも、朝の光景は変わらなかった。漁師たちは網を引き上げ、海上にはラファイエット級フリゲートが穏やかに停泊している。甲板上では若い水兵が見張りを続け、艦首に掲げられた青白赤の三色旗が朝風に揺れていた。
「今日も平和だな……」
甲板の見張り台から、若い水兵がつぶやいた。声には少しの退屈と、しかし微かな誇りが混ざっていた。
港の外洋では、哨戒艦が波を切る。レーダーが遠くの船影を捉え、無線で連絡を取り合う。指揮官たちは、日々の訓練を淡々と続けていた。朝の光景は、軍事的緊張よりも、むしろ「日常の中の安心感」を強く伝えていた。
市民もまた、平和を疑う理由は何もなかった。カフェのマダムはクロワッサンを並べ、観光客は写真を撮り、川沿いの画家は筆を走らせる。子供たちは笑い声をあげながら、広場で走り回っている。
だが、この穏やかな朝は長くは続かない。
空が、わずかに揺れた。
光の帯が大気を裂くように走り、街全体を一瞬で照らす。
携帯電話は一斉に沈黙し、テレビの画面は砂嵐のようなノイズで真っ白になった。
港の艦艇も、レーダーに異常を示す赤い点が瞬き始める。見張り員たちが互いに顔を見合わせ、静かに息を呑んだ。
街角の市民も、誰も理由を理解できなかった。
ただ、いつも通りの朝が、突然、終わったことだけを感じていた。
エリゼ宮の情報本部は、通常の朝とはまるで違う空気に包まれていた。
大型スクリーンには全国の通信状況、空港・港湾・艦艇の稼働状況、各地の衛星データが表示されている。しかし、どれも赤く点滅し、衛星軌道の情報は途絶、GPSも通信も完全に止まっていた。
情報担当官のひとりが、緊張した面持ちで声を上げる。
「大統領、全電波が遮断されました。衛星通信も停止、GPS信号も失われています」
大統領はスクリーンを凝視し、冷静な表情を保ったまま、次の報告を促す。
参謀本部長は低く、はっきりと告げる。
「陸海航空宇宙軍すべての部隊に緊急展開命令を発出。艦隊・航空隊は即応待機。情報収集を最優先とします」
情報班のオペレーターたちは、通常の手順では解析できない異常事態に対応するため、気象レーダー、軍通信ログを総合的に照合し始めた。
「大統領、海外にいる部隊との連絡が取れません。各国との連絡網は確立不能です」
若手情報将校の声が震える。
大統領は、眉間に軽い皺を寄せながらも声を落ち着け、冷静に指示する。
「各部門、状況を逐次報告せよ。海軍は海域の偵察に即時出動、空軍は情報収集機を派遣。被害の有無、範囲の特定を最優先とする」
参謀本部長は大画面に表示された艦隊図を指でなぞる。
「偵察艦隊、速力25ノットでEEZ外へ。旗艦は中立航路を保持。各艦、通信不能の場合は信号旗と視認確認を徹底」
情報担当官は新たなスクリーンを起動し、海上AISのデータを重ね合わせて解析を続ける。
「異常は一瞬にして発生し、全国規模で確認されています。推定ではフランス全土が、未知の空間に転移した可能性があります」
大統領は席を立ち、ブリーフィングテーブルに歩み寄る。
「各司令官、状況に応じて即断即決せよ。我々の国土と国民を守るため、判断の権限は現場に委ねる」
各省庁のオペレーターは瞬時に作業に取りかかり、通信線の確保、艦艇・航空隊への指示を並行して進める。
非常事態を統制する現場の緊張感が、情報本部の空気を重くしていた。
やがて、旗艦のブリッジと情報本部が直接連絡を取り、未知の海域に向けて艦隊を進める準備が整う。
大統領はスクリーンの遠くに映る青と白と赤の三色旗を見つめながら、冷たい決意を胸に秘めた。
フランス南東部にあるトゥーロン軍港では偵察艦隊が出航の準備を進めていた。
海軍
フリゲート D653 ラングドック、F711 シュルクーフ
哨戒艦 P733 ラ・コンフィアンス、P734 ラ・レゾリュー
航空宇宙軍
早期警戒機 E-3F
アキテーヌ級フリゲート6番艦ラングドックの艦橋。
窓の外には、まだ見ぬ海が広がる。波は穏やかだが、クルーたちの表情は穏やかではなかった。
「……異常は本物か?」
副長が冷静に艦橋を見回しながらつぶやく。
「艦隊通信も一斉に途絶しました。全衛星情報も消失、GPSも使えません」
通信士が手元の操作盤を見つめながら報告する。手がわずかに震えていた。
艦長は黙って顎に手を当て、海図と周囲の航路情報を確認する。
「艦隊は中立航路を保持、予定通り進路を取る。各艦、視認確認を最優先」
後方の士官席では、若い水兵が声をひそめてつぶやく。
「本当に……俺たちだけで未知の海を航行するのか……?」
「恐れるな。訓練通りに動けばいい」
艦橋のベテラン士官が冷静に答える。
「慌てるな、状況を把握しながら対応する。それが艦の役目だ」
クルーたちは互いに目を合わせ、緊張を隠すようにうなずく。
操作盤の光が青白く艦橋を照らし、外の海は静かだが、誰もその静けさに安心はしていなかった。
艦長がゆっくりと指示を出す。
「艦隊は予定速度で出航。全艦、航行準備完了後、旗艦と同時に進路を取れ」
艦内の空気が一瞬、張り詰める。
全員が任務を理解し、手順を確認し、未知の海域に挑む覚悟を胸に秘めていた。
波間に漂う光の反射が艦を包み、艦隊は静かに未知の海域へと進路を取った。
未知の海域に到達した偵察艦隊。
波は静かだが、艦内の空気は緊張に満ちている。
「全艦、航行位置を維持。偵察艦は前方確認、旗艦は中立航路を保持」
艦長の低い指示が艦橋に響く。水兵たちは操作盤に手を置き、緊張した呼吸を整える。
上空では、航空宇宙軍のE-3Fが旋回し、巨大なレーダードームが光を反射している。
「艦長、E-3Fより偵察情報です。前方海域に異常なし、海岸線を確認」
無線士官の声が艦橋に届く。
「視界良好、前方を確認。漂流物なし、異常なし」
前方を進むシュルクーフからも報告が来る。
しかし、水平線の彼方に微かに浮かぶ輪郭に、艦橋の士官たちの目が一瞬で鋭くなる。
「何ですか、あれ……大陸の影?」
副長が艦長に尋ねる。
艦長は静かに頷いた。
「E-3F、詳細な上空偵察を継続せよ。艦隊は進路を維持、接近時は全艦、警戒態勢」
E-3Fは高度を上げ、広域スキャンで未知の大陸を探る。海上艦隊は視界の限界で大陸を確認するのみだが、AWACSの情報により陸地の輪郭や森林、河川の存在まで把握できる。
艦内クルーたちは互いに緊張しつつも、手順を確認し合う。
「旗艦、接近速度は問題なし。全艦、警戒態勢維持」
「了解。偵察範囲を逐次報告せよ」
水平線に、未知の大陸がゆっくりと姿を現す。
波間に映る朝日の光に、艦隊の三色旗がきらめく。
艦長はブリッジの窓越しに旗を見つめ、低くつぶやいた。
「共和国の旗を掲げる限り、我々はこの大陸を確かめ、踏み出す」
海上と空の連携による偵察は、静かな緊張感の中で進む。
未知の大陸――ロデニウス――は、まだその全貌を隠したままだが、共和国の艦隊は確実にその存在を確認し、初の接触への第一歩を踏み出したのだった。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
今回出てきたアキテーヌ級やフォルバン級ってフランスだとフリゲートなのにペナント・ナンバーに「D」がついているのでNATOとかだと艦種は駆逐艦なんですよね。
ややこしいのでどちらかに決めたいと思うのですが、皆さんはどちらがいいですか?
評価、感想などよろしくお願いします。