トリコロールの旗を掲げて   作:理由もなく歩く人

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3. 外交交渉

 

灰色の雲が立ち込めるトゥーロン港に、二隻のフランス海軍艦艇が静かに汽笛を鳴らした。

旗艦はフォルバン級フリゲートのシュヴァリエ・ポール。

その後ろにはラングドックが続く。

いずれもステルスフリゲートであり、機動力と警戒監視能力に優れた艦であった。

 

そして両艦の外側を守るように、濃いグレーに塗られた巨躯が一隻。

米海軍のアーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦スタレットである。

SPY-1Dレーダーの四角いパネルが艦橋に並び、異世界においてなお圧倒的な電子の眼として海を睨みつけていた。

 

今回の派遣艦隊は、当初案よりもはるかに縮小された規模だった。

空母も揚陸艦も伴わない。理由は単純である。過剰な軍事的威容を示せば、相手をいたずらに刺激しかねないからだ。フランス政府は、まずは「外交の窓口」を開くことを最優先に選んだ。

シュヴァリエ・ポール艦内では、外交官団が乗艦していた。

艦内居住区の一角を臨時の執務室とし、外務省の高官、アントワーヌ=ド=ロシュフォールが中央に座していた。

六十に差しかかる老練な外交官であり、かつては中東やアフリカにおける難しい交渉をまとめ上げた経験を持つ人物である。

 

彼の周りには若手の外交官が控え、緊張した面持ちで書類を整理していた。

 

「……二隻だけで本当に大丈夫でしょうか」

 

若い外交官が、思わず口にする。

ロシュフォールは、白い髭を撫でながら静かに答えた。

 

「規模の大小ではない。必要なのは、我々が理性をもって相手に臨んだという事実だ。軍艦の数は、その証拠にはならんよ」

 

彼の声音には揺るぎがなく、それがかえって周囲の者たちに落ち着きを与えた。

艦隊はゆるやかに外洋へ向かい、異世界の海へと姿を消していった。

 

 

 

 

 

 

ロウリア王国 近海

 

 

「うーむ、異常は無いな」

 

海将シャークンは彼方まで続く水平線を見る。

先日、所属不明の四隻の船が現れた事を受け、海上の警備が増やされていた。

 

「昨日現れた船はクワ・トイネかクイラの偵察か?」

 

彼は隣にいる部下に問う。

 

「わかりませんが、報告によるとワイバーンの火球を迎撃したらしいです。」

「バカバカしい、ワイバーンの火球を撃ち落とせるなんて列強ぐらいだ。竜騎士の見間違えだろう」

「そうなのでしょうか……」

 

部下の報告を間に受けないシャークンは水平線の先に何かを見つける。

 

「……おい、来たぞ」

「何か見つけました?「あれを見ろ」……す、すぐに司令部に方向します!」

 

部下もシャークンの指差す方向を見ると顔色を変えて魔信に報告する。

 

「司令部へ、水平線の先に船と思われる形を確認!ワイバーンを送ってくれ!」

 

魔信で伝えるとすぐにワイバーンたちが向かってくる。

近くにいる船も所属不明船へ向かった。

 

 

 

 

 

 

フランス外交交渉艦隊

旗艦 シュヴァリエ・ポール

 

海図には載っていない島影が現れ、陸上の村落や小舟が視認できるようになる。

甲板に立った観測員は双眼鏡をのぞき込み、驚きと困惑を声にした。

 

「帆船です。……しかも、まるで中世の漁船のようだ」

 

報告を受けたシュヴァリエ・ポールの士官は、思わず肩をすくめる。

 

「電子戦装備どころか、無線機もない。……ここはまるで時代が五百年は巻き戻った世界だな」

 

『こちらはロウリア王国海軍、貴艦の所属と目的を答えよ!』

 

近づいてきた帆船から拡声器越しと思われる声が届く。

それに対しシュヴァリエ・ ポールの艦長がマイクを手に取る。

 

「こちらはフランス共和国海軍所属シュヴァリエ・ポール。貴国との外交交渉を行いに来た。本艦には外交官が乗艦している」

『……臨検を受け入れよ』

 

 

 

 

シュヴァリエ・ポール執務室

 

 

若手外交官が小さく呟いた。

 

「……彼らと、本当に交渉が成り立つのでしょうか」

 

ロシュフォールは遠く霞む海岸線を見据え、ただ一言。

 

「我々は試みねばならない。結果はどうあれ、歴史は証言を残すのだ」

 

 

 

ロウリア王国 貿易港エスタル

 

港は石造りの桟橋と木造の倉庫が並び、行き交う人々の衣装はフランス側の目からすればまるで時代劇の舞台そのものだった。

鎧兜をまとった兵士、荷車を引く農夫、素朴な木舟を操る漁師。

近代的な軍艦がそこに停泊する光景は、異様としか言いようがない対比を生み出していた。

 

ロシュフォールら外交団が艦から降り立つと、待ち構えていたロウリアの役人が、乱雑に並んだ兵士たちの列の中から姿を現した。

金糸の縫い取りを施した衣を纏ってはいるものの、態度は尊大で、目にはあからさまな侮蔑の色が浮かんでいる。

 

「ようこそ異国の客人。陛下は寛大にも、貴国をお迎えくださるであろう」

 

言葉は礼を装っていたが、声音は嘲笑を隠そうともしなかった。

フランス側の随行員が憤りをにじませる中、ロシュフォールは一歩前に出て、柔らかな微笑みを浮かべた。

 

「光栄に存じます。我々はフランス共和国の使節として参りました。陛下に拝謁の栄を賜れることを、心より感謝いたします」

 

その冷静な応対に、随行員たちは胸の奥に熱いものを覚えた。

 

 

 

 

ロウリア王国 首都 ジン・ハーク 

ハーク城 玉座

 

石造りの大広間。高い天井に吊られた燭台が揺らめき、赤い絨毯が玉座へと続いている。

 

ロシュフォールを先頭に、フランスの外交団がその上を歩み進む。

背後には護衛として数名の士官が控えているが、あくまで帯剣はせず、儀礼用の軍服にとどめていた。

 

玉座に座すはロウリア国王ハーク・ロウリア34世

片手に金の杯を持ちながら、退屈そうに客人を見下ろしていた。

その脇には重臣たちが控えていたが、皆が一様に冷笑を浮かべ、異国の使者を侮る色を隠そうともしなかった。

 

司会役の官吏が声高に告げる。

 

「フランス共和国の使節、アントワーヌ=ド=ロシュフォール閣下、参上!」

 

ロシュフォールは一礼し、ゆったりと口を開いた。

 

「陛下。このたび我が国の艦隊が貴国近海に到来したのは、侵略の意志などでは決してございません。我らはこの世界に突如として転移し、現状を把握するために諸国との対話を必要としております。陛下におかれては、どうか友好の道をお開きいただければと願う次第です」

 

堂内は一瞬、静まり返った。だが次の瞬間、王の口から放たれた言葉は冷笑に満ちていた。

 

「……ほう。異界の蛮族が、我らに友好を求めるとな」

 

重臣たちの間から嘲るような笑いが起きる。

 

「聞いたか? 蛮族どもが、我らに頭を下げよと!」

「滑稽だ、実に滑稽だ!」

 

フランス側の随行員は憤然と顔を紅潮させたが、ロシュフォールは一歩も退かず、平然と微笑みを保ち続けた。

 

「陛下、我が国は蛮族ではございません。長い歴史を持ち、法と秩序に基づき人々が暮らしております。貴国と同じく、我らも主権を持つ国家です。互いに尊重し合い、平和の礎を築くことこそ、未来に資するはずです」

 

しかし国王は鼻で笑い、玉座から杯を傾けた。

 

「尊重? 平和? 我がロウリアが蛮族風情に学ぶことなど何もない。お前たちはせいぜい我が軍門に下り、貢ぎ物を献じるがよい」

 

その言葉に、随行の若手外交官が思わず声を荒げた。

 

「侮辱はやめていただきたい!」

 

兵士が剣を鳴らして威嚇する。だがロシュフォールは手をかざして部下を制した。

 

「……なるほど」

 

彼は静かにうなずき、冷ややかな視線を国王に向けた。

 

「陛下のお立場は理解いたしました。今日のところは、これ以上言葉を重ねても実りはないようです」

 

玉座の上から王は嘲笑を浮かべたまま、手をひらひらと振る。

 

「帰れ。異界の蛮族よ」

 

 

 

 

ロシュフォールらフランス外交団が去った後、ロウリア34世は話し出す。

 

「フランス共和国か……蛮族にしては妙な船を持っているではないか。丁度いい、あの船を我が軍のものにしよう。エスタルに軍を集めよ」

 

 

 

 

シュヴァリエ・ポール 艦橋

 

 

少しづつ遠ざかって行く港町を艦長は眺める。

 

「艦長、ヘリ、格納庫に収容しました。外交団も執務室にいます」

「……流石に相手の国の首都に艦載機を飛ばすのは肝が冷えた」

 

城から追い出された外交団は先程のお返しと言わんばかりに、城の目の前にヘリを呼び、艦に戻っていた。

 

「艦長!ドラゴンが急速接近中!帆船も来てます!」

「なんだ?見送りか?外交団を追い出したのに?」

 

まだ彼らは相手の目的がこの船だと知らなかった。

 

突如、警報が鳴り響く。

 

「火球接近!距離1800、数40!」

「近接対空戦闘!20mm F2、迎撃開始!」

 

シュヴァリエ・ポールとラングドックの20mm F2機関砲が火球に向けて攻撃を開始する。

次々と火球を撃ち落とすが前回の様にはいかなかった。

 

 

 

「火球、すり抜けました!」

「総員、衝撃に備え!」

 

艦が揺れた。

 

 

 

「ラングドック、被弾!」

「何発受けた?」

「二発です!」

 

シュヴァリエ・ポールの左舷側を進むラングドックから黒煙が上がっていた。

 

「被害はどうなってる!」

「ヘリ甲板と左舷ヘリ格納庫に被弾しました!ヘリ甲板から火災発生!」

「ドラゴンこちらに接近中!」

「ジグザグで進め!」

 

二隻は更なる被弾を避けようとジグザグに進む。

上空を飛ぶワイバーンの口に炎が集まり始めたその時、

 

 

ワイバーンが爆発音と共に肉片になって散った。

 

 

「……前方、『スタレット』です」

「間に合ったか……」

 

 

 

 

 

USS スタレット (DDG-104) CIC

 

「ESSM全弾命中です」

「よし、主砲の照準を帆船に向けとけ。撃ってきたら撃ち返すぞ」

「ラングドックより報告、ヘリ甲板炎上、負傷者無し、航海に支障なし」

 

被害が少なく、安堵の空気が流れるがすぐに終わる。

レーダーが新たな目標を捕捉する。

 

「反応あり、おそらくドラゴンです。距離約27マイル、数50、速度時速200km」

「50は厄介だな。念の為落としておこう。ESSM発射用意、2回に分けて攻撃する」

「了解。攻撃目標、1から25。ESSM発射用意」

「ESSM発射用意よし!」

 

「撃て」

 

スタレットの前甲板VLSのハッチが開き、25発のESSMが発射される。

マッハ2.5に達したESSMはINSと指令により誘導された後、SARHに切り替わり、目標に向かった。

 

 

 

 

竜騎士マルコスは仲間の49騎と共にエスタルへ向かっていた。

先程、先に攻撃を行なっていた仲間との通信が途絶え、経験したことのない緊張感が止まらない。

 

ふと、自分たちが進む方向に何かが見えた。

 

「……ん?あれは何だ?」

「マルコス、何か見えたのか?」

 

前方と飛ぶ先輩の竜騎士がマルコスに聞く。

見えなくなっていた何かに首を傾げながら、

 

「今、何か見えたような「……うわぁ!」……え?」

 

突如前方の竜騎士が爆発した。

 

「……何が起こって「攻撃だ!避け……あぁぁ!」……は?」

 

先頭を飛んでいた隊長騎が爆発する。

それを機にワイバーンが何かを避けようと動く。

しかし、それは無意味な行動だった。

 

「どうなっているんだ!?……エルド!あれ!」

 

パニックになりかけていたマルコスはこちらに飛んでくる何かを見つけ、自分が乗るワイバーンに教える。

 

「あれか……エルド!あれを落とすぞ……うわぁぁ!」

 

何かがぶつかる直前、エルドがマルコスを振り落としそうな勢いで急旋回し何かを避ける。

目標を見失ったESSMはそのまま爆発する。

 

「……あれか、攻撃してきたのは……そういえばみんなはっ!」

 

マルコスは周りを見渡すと、残っていたのは3騎しかいなかった。

 

 

 

 

「ESSM、四発外しました」

「射程ギリギリだから仕方ないか……」

「シュヴァリエ・ポール、ラングドック、退避完了です」

「了解。引き続き対空警戒を続けよ」

 

スタレットは反転し、フランスに戻る。

西陽が航路を照らしていた。

 

 

 

 

「……で、被害は無いと」

「はい、一応ラングドックをドックで点検させます」

 

パリのエリゼ宮では外交官が追い出され、艦艇が攻撃される、という地球では前代未聞の事件の対応に追われていた。

 

 

[被害報告書]

 

D 653 ラングドック 二発被弾 負傷者無し ヘリ甲板炎上(消火済) 左舷ヘリ格納庫部分の塗装が一部溶ける

 

 

「ドラゴンは『スタレット』が撃墜したようです」

「そうか、……しかしあまりにも野蛮な国だな」

「報復か対抗措置でも行なった方がいいのでは?」

「そうだな、各地方の司令官を集めておけ」

 

 

 

 

 

「どういうことだ?外交官には逃げられ、ワイバーンを多数失いフランスの船を逃しただと!」

「申し訳ありません!不可視の攻撃により、ワイバーンは壊滅しました」

「壊滅しましたで済むか貴様ぁ!フランス共和国はクワ・トイネよりも先に滅ぼしてやる!」

 

ロウリア34世は立ち上がるとさらに怒鳴った。

 

「何を突っ立っている!早く軍の高官を集めよ!」

 

重鎮たちは駆け足で玉座の間を去って行く。

 

「おのれフランスめぇ……タダじゃ済まないぞ……」

 

 

 

 

 

 

 




読んでくださりありがとうございます。

今回出てきたロシュフォールさんは日本国召喚の朝田さんの立ち位置と同じです。
外交シーンではかなり登場すると思います。

ESSMの最大射程は50キロほどです。
高機動力を維持できるのは18キロほどで、さらに今回は最大射程ギリギリで撃ったのでワイバーンの急旋回により外しています。

スタレットはMk48VLSにMk25キャニスターを装着していたため、1セルでESSMを4発撃てます。


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