トリコロールの旗を掲げて   作:理由もなく歩く人

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4. 作戦準備

 

パリ・軍事省

 

その地下深くに存在する統合参謀本部は、厚い鋼鉄扉と最新の通信設備に守られたフランス軍の頭脳である。

幾重もの検問を抜け、暗い通路を進んだ先に広がる会議室は、深夜にもかかわらず緊迫した空気に包まれていた。

 

会議机の最上席には、制服組の最高位に立つ統合参謀本部長、ジャン=ピエール・ド・ヴィル大将。

その両脇を固めるのは陸軍参謀総長のルフェーブル大将、海軍参謀総長のモロー大将、空軍参謀総長のデュラン大将。

さらに、情報局の分析官、外務省からの連絡将校、各方面軍の司令官が席を埋めていた。

 

壁面には巨大なスクリーンが設置され、先ほど帰還した外交艦隊からの緊急報告が次々と映し出されていく。

通信士官が硬い声で告げる。

 

「報告します。外交団を乗せた艦隊はロウリア王国にて交渉を試みましたが、成功せず、追放されました。その後、撤退中にワイバーン部隊の襲撃を受け、アキテーヌ級フリゲート《ラングドック》が被弾。損傷は軽度ながら、明確な敵対行為と見られます」

 

室内に低いざわめきが走る。

モロー海軍大将が椅子から身を乗り出した。

 

「つまり……ロウリアは、フランスを公然と敵に回したわけだな」

 

ルフェーブル陸軍参謀総長が眉間に皺を寄せる。

 

「外交官を追放し、さらに軍艦を攻撃する。これは宣戦布告に等しい行為だ。放置すれば共和国の威信は失墜する」

 

ド・ヴィルは黙したまま、机上の資料に視線を落としていた。

そこには詳細な被害報告、交渉記録、そしてロウリアの戦力に関する断片的な情報が並んでいる。

静寂ののち、大将はゆっくりと顔を上げた。

 

「――諸君。外交的手段は尽きた。今や我が国は、この異世界において力を示さねばならない」

 

その言葉とともに、会議は一気に軍事行動の具体的検討へと流れ込んでいく。

 

 

 

壁に並ぶスクリーンには、外交艦隊から送られてきた戦闘映像と被害状況が映し出されている。

煙を上げる《ラングドック》、飛び交うワイバーン、そして撤退を余儀なくされた艦隊――。

 

 

報告を終えた通信士官の声が静まり、代わってスクリーンに外交団の最終報告が文字として映る。

 

「――交渉決裂、追放処分。ロウリア王国はフランスを『野蛮なる侵入者』と断じ、以後の交渉を拒否。ワイバーン部隊による攻撃を確認」

 

室内にはしばし沈黙が流れた。やがて、重苦しい声が破る。

 

「ふざけた真似を……」

 

モロー大将が低く唸る。

 

「《ラングドック》は幸い大事に至らなかったが、これは明確な敵対行為だ。放置できん」

「だが軍を動かせば全面戦争になるぞ」

 

陸軍のルフェーブル大将が腕を組む。

 

「我々はまだこの世界の地理、勢力、兵力を正確に把握していない。無謀に前線を拡大すれば、取り返しのつかない泥沼になる」

 

空軍参謀総長のデュラン大将は、映像の中で旋回するワイバーンに目を細めた。

 

「空を飛ぶ“生物兵器”……。脅威度の評価が必要だ。速度はせいぜい300キロ前後、高度も限られるが、火炎弾は無視できない。艦艇相手ならなおさらだ。我々のラファール、あるいはE-3Fの管制下でのミサイル網を持ち出せば撃墜は可能だ。しかし――」

 

彼は指で机を叩いた。

 

「問題は数だ。映像に映ったのは十数騎にすぎないが、本国が抱える竜騎士団の総数は不明だ」

 

情報局の分析官がすぐに資料を掲げる。

 

「断片的な情報ですが、ロウリア王国は数百の竜騎士団を保有している可能性があります。だが、その精度や運用体系は不明瞭です」

 

会議室にざわめきが広がる。

外務省から派遣された連絡将校が、躊躇いながら口を開いた。

 

「……フランス共和国は、先ほどまで外交的解決を模索しておりました。しかし今回の件で、その道は完全に閉ざされました。ロウリアは我々を交渉の相手とすら認めていません。つまり、この国における共和国の立場は、もはや――」

 

「敵だな」

 

モロー大将が言葉を断ち切った。

会議室は再び沈黙する。

 

ド・ヴィル大将は椅子に深く座り直し、ゆっくりと周囲を見渡した。白髪の下の瞳は鋭く光っている。

 

「諸君。我が国の艦隊が攻撃を受けたのは事実だ。これは主権の侵害であり、国民の生命を脅かす行為だ。対応を誤れば、フランスの威信は瓦解する」

 

彼は手元の資料を閉じ、硬い声で続けた。

 

「――私は、限定的軍事行動を提案する」

 

場が一瞬ざわつく。

 

「目標は?」

 

ルフェーブル大将が問う。

 

「まずはロウリア王国沿岸部の制空権と制海権の掌握だ。艦隊を増強し、ワイバーンの飛行範囲を徹底的に削ぐ。同時に空軍を展開し、敵の飛行戦力を無力化する」

 

モロー大将が頷く。

 

「我が海軍としても異存はない。だが、作戦には十分な艦艇が必要だ。空母シャルル・ド・ゴールを中核とした空母打撃群を投入すべきだろう。日米艦艇も指揮下に入った」

 

デュラン大将も賛同の意を示す。

 

「空母艦載機群とラファールMを中心に、ワイバーン相手なら数の優位を確保できる。E-3Fの早期警戒も活用する」

 

一方でルフェーブル大将は渋い顔を崩さない。

 

「海と空は分かった。しかし、地上戦はどうする? ロウリアは広大な領土を持つ大国だ。兵力は百万人規模とも言われている。こちらの遠征能力を超えている。軽挙は許されん」

 

会議は紛糾した。

陸軍は拡大を懸念し、海空軍は制圧を主張する。だが、最終的にド・ヴィル大将が手を挙げて場を収めた。

 

「我々が求めるのはロウリア全土の占領ではない。共和国の安全と国民の誇りを守るための行動だ。敵が我らを侮ったことを、代償をもって悟らせる。――まずは海空を制し、限定的な報復を行う」

 

その声は、静かにして揺るぎなかった。

こうしてフランスは、異世界における最初の軍事作戦を決断するに至ったのである。

 

 

 

会議が終了すると、国防省の地下会議室に集った将官たちはそれぞれの幕僚に指示を飛ばし始めた。

廊下を出た瞬間から、通信士官が走り回り、各軍の司令部へ暗号化通信が一斉に送られていく。

 

 

 

作戦名:Opération Égide(オペレーション・エジード/庇護)

 

参加兵力

陸軍

 

◆ 第1機甲師団

・第7機甲旅団

・第9海兵軽機甲旅団

・第132歩兵大隊

 

◆ 第3機甲師団

・第6軽機甲旅団

・第11落下傘旅団

・第31工兵連隊

 

◆ 第4戦闘航空旅団

・第1戦闘ヘリコプター連隊

 

◆ 参謀本部直轄部隊

・第22海兵歩兵大隊

 

海軍

 

◆ シャルル・ド・ゴール空母打撃群

・原子力空母 R 91 シャルル・ド・ゴール

・アキテーヌ級 D 650 アキテーヌ、D 651 ノルマンディー、D 656 アルザス

・フォルバン級 D 620 フォルバン

 

◆ カール・ヴィンソン空母打撃群

・ニミッツ級 CVN-70 カール・ヴィンソン

・タイコンデロガ級 CG-59 プリンストン

・アーレイ・バーク級 DDG-104 スタレット、DDG-110 ウィリアム・P・ローレンス

・あきづき型 DD-115 あきづき

 

◆ 輸送部隊

・L9013 ミストラル、L9014 トネール、L9015 ディクスミュード

・EDA-R型戦車揚陸艇

・CTM型中型揚陸艇

・いずも型 DDH-184 かが

・ラファイエット級 F-713 アコニト、F-714 ゲプラット

 

航空宇宙軍

 

◆ 第2航空団

・第1戦闘飛行隊

 

◆ 第4航空団

・第1戦闘航空団

 

◆ 第12航空団

・第1戦闘飛行隊

・第2戦闘飛行隊

 

◆ 第33航空団

・偵察部隊

 

◆ 第64航空団 

・第1輸送飛行隊

・第2輸送飛行隊

 

国家憲兵隊

 

◆ 国家憲兵総局

・国家憲兵隊治安介入部隊 (GIGN)

 

◆ 機動憲兵隊

・装甲部隊 (GBGM)

 

 

 

トゥーロン軍港

 

フランス海軍最大の拠点は、夜間にもかかわらず灯火が煌々と輝いていた。

埠頭にはすでに《シャルル・ド・ゴール》空母打撃群に属する艦艇が並び、慌ただしい整備作業が進んでいる。

 

格納庫では、航空整備員たちがラファールMの翼に最後の点検を施していた。

燃料補給車が忙しく行き来し、兵装庫からはミカ空対空ミサイルやエグゾセ対艦ミサイルが次々と搬出されていく。

 

艦橋ではモロー海軍大将の代理として派遣された作戦司令官が、艦隊指揮官に命令を読み上げた。

「目標はロウリア沿岸海域の制圧。4時間以内に展開準備を完了せよ」

 

艦橋に立つ士官が敬礼し、即座に動き出す。

 

「全艦、出撃態勢に入れ!」

 

軍港全体が、まるで呼吸を合わせるかのように一斉に動き出した。

 

 

第102ディジョン=ロングヴィック空軍基地

 

東部の空軍基地でも、同じ熱気が広がっていた。

滑走路脇に並ぶラファールB/C戦闘機が順次エンジン点検を受け、パイロットたちはブリーフィングルームで作戦概要を叩き込まれている。

 

「目標はロウリア王国沿岸に展開する艦隊の防空支援、およびワイバーン迎撃だ。飛行高度は1万メートル、敵の火炎弾の射程外から誘導兵器で殲滅する」

 

ブリーフィングを受けた若いパイロットが隣のベテランに小声で漏らす。

 

「……まさか、本当に竜と戦うことになるなんて思っていませんでしたよ」

「敵が何であろうと関係ない」

 

ベテランは冷静に答える。

 

「俺たちはフランス空軍だ。任務を遂行するだけだ」

 

格納庫の外では、早期警戒機E-3Fが最終チェックを受けていた。

その大きなレドームが、夜の光に鈍く反射している。

 

 

 

軍事省・統合参謀本部

 

ド・ヴィル大将は各方面からの状況報告を受け取り、静かに頷いた。

 

「よろしい。フランス共和国は、これよりロウリア王国に対し限定的軍事行動を開始する。

これは侵略ではなく、主権と国民を守るための正当防衛である。諸君、共和国の威信を示せ」

 

その言葉に、各軍の将官たちは一斉に立ち上がり、敬礼した。

 

 

 

 

――こうして、フランスの異世界における初めての大規模軍事行動は、いよいよ現実のものとなろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 




読んでくださりありがとうございます。

次回からオペレーション・エジードが発動されます。
フランス軍の活躍をお楽しみに。





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