トリコロールの旗を掲げて   作:理由もなく歩く人

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過去一長く書いたと思います。


6. 首都制圧戦

 

数百のパラシュートが夜空に花のように開き、風に乗って広がる。

下ではジン・ハークの外郭砦が微かな異音を感知していた。

見張りのロウリア兵が、夜空の影を見上げて目を見開く。

 

「なんだ……? 鳥か?」

 

直後、落下してきた兵士が地面に着地、サプレッサー付きHK416が短く火を噴いた。

 

「敵だ! 空から敵が――!」

 

報告は途中で途切れた。

第11落下傘旅団の先遣中隊が静かに砦を制圧する。

夜の闇が、彼らの最大の味方だった。

 

 

 

 

夜は重く、空気は静謐そのものだった。

黒布を引いたような闇の上を、三機のEC‑725「カラカル」が無音のように滑った。

ローターは低回転、赤外線低反射塗装の機体は月光をなぞるだけで存在を薄める。

機内は冷え、金属と合成繊維の匂いが混じる。

 

GIGNの突入班――二十数名の精鋭が、完全武装で座席に伏している。

装備は実戦的だ。

消音装具の付いたMP5、照明を抑えたスタングレネード、拘束具、折り畳み式防弾盾。

隊員の顔は真剣そのものだが、表情は抑えられている。言葉少なに、全員の動きは事前訓練で刻み込まれたものだった。

 

隊長のバチスト・ルノー少佐は、膝の上の作戦図を指でなぞった。

地図は偵察機アトランティック2と艦載機からの画像を元に手作業で作られている。

衛星はない。情報は生の観測データと、現地に投入した前線班の断片的報告だ。だが、それで十分だと判断されたからこそ、今ここにいる。

 

作戦の命令は、暗く明瞭だった。統合参謀本部からの電文が機内に配信され、暗号解除後に内容が読まれた。

要点は一行に収まる――「交渉は行わない。抵抗する武装勢力は一切容赦なく殲滅せよ。非戦闘員は保護せよ」

命令は政治的決断の反映だ。

ルノーは目の前の兵士たちを見渡し、短く頷いた。

 

「降下準備」

 

機長の声。

赤い機内灯が緑に変わり、ドアが開いた。

ロープが垂れ、黒い影が一列に落ちていく。

夜の風が鋭く肌を打ち、瓦屋根の感触がブーツ越しに伝わった。

降下は静かに、だが迅速に行われた。

屋上着地の報告が次々に上がる。

 

屋上での最初の作業は索敵と即応だ。暗視ゴーグルの緑の画面に従って、狙撃手とポイントマンが前方を確認する。

屋上にいた見張りは抑えられ、即座に無力化された。

だが今回の命令は「拘束」ではない。抵抗の意思を見せた者は即時に排除する。

非戦闘員であることを示す白布や降伏の動作以外、武器を持つ者は区別なく「敵」に分類される。

 

「移動、屋上から北塔へ! 最短ルートで」

 

ルノーは低く命じる。手信号だけで進行が続いた。

廊下を下るたびに石の床が振動を伝える。

民家や控えの兵が息を詰める――それは任務の一部であり、彼らの心に重く残る。

 

最初の遭遇は想定内の激しさで起きた。

階段の踊り場に陣取った弓兵が、暗がりから矢を放った。

矢は消音された銃声と同時に弾かれた。

数秒後、弓兵は床に伏した。

脅威は排除された。

全員が次の動作へと移る。

GIGNは狙撃ではなく、殲滅のために来ている。選択肢はない。

 

ルノーは通信機に声を落とす。

 

「北翼、クリア。南回廊にて複数反撃あり。即時殲滅を実行」

 

声は簡潔だ。

彼らは心理的な葛藤を語る余裕は与えられていない。

命令は実行されるべきものだ。

 

広間の扉を破る。

スタングレネードが投擲され、閃光と轟音が空間を支配する。

その一瞬で視覚が奪われ、耳が鳴る。

残響が続く間に、盾を構えた隊列が前進する。

剣を抜いた近衛兵が突っ込んでくる。

接触は短い。

盾に押され、スタングレネードと電気式スタンの連続で多くは動きを止められる。

しかし、数名は抵抗を続ける。

ルノーの部下が即座に致命的射撃を行い、抵抗は断たれた。

銃弾が出る。それは業務の一部であり、また事後処理が生む重さでもある。

だが部隊は次の目標へと動く。玉座の間へ通じる通路に入ると、王城の守備隊が集結していた。

彼らは剣と盾で構え、声を張り上げたが、その接近はやはり短命に終わる。

手持ちの武器は現代的な実弾に適合しない。機関銃の束射が近接戦闘能力を一気に削ぐ。

 

王は玉座の間にいた。34世は威厳を保とうとする顔で兵を見下ろしていたが、目は恐怖で揺れていた。

彼を守る近衛もまた戦いの最中に倒れていった。

ルノーは王の側に立ち、短い命令だけを受ける。

拘束は即座に行われたが、それは死刑を意味しない。

王個人が武装し抵抗しない限り、人間としての扱いは受ける。

だが王を守ろうとした者は「敵戦闘員」と見なされ、撃たれることがあった。命令は冷徹だった。

 

「目標捕捉。王は生存。拘束完了」

 

ルノーは通信に答える。統合参謀本部の受信側は淡々と次の指示を返す。

 

「敵残存部隊は速やかに殲滅。市街地での武装勢力は例外なく排除。民間人の避難は継続せよ」

――短い文面だが、現場の行為はこの一行から広がる。

 

城内の数カ所で小競り合いが続いた。

剣と槍を手にした民兵や騎士らが突進を試みるが、機械化・射撃支援の前では効果を持たない。

一部は家屋の壁や通路に追い詰められ、最後の抵抗を見せた際には、即時射撃で鎮圧された。

GIGNは非戦闘員と思しき者を見分けるために白布や上げ手を確認し、該当する者は迅速に隔離された。

隔離の間に民間人は指示された広場へ護送され、安全管理班へ引き渡される手順だ。

 

だが戦争とは理想的手順通りにはいかない。

混乱の中、距離を誤認して発砲する場面もあり、そうした出来事は現場の士気に小さな揺らぎを残す。

隊員の一人が発砲後、唇をかむ。血の匂いがどこか遠くで立ち上る。

だが彼らは任務を止めない。生死は命令と現場判断の積み重ねで決まる。

 

午前四時一十分。王城内の主な勢力は押さえられた。ルノーは部下を集めた。

 

「我々は任務を完遂した。だが今後も市街地の武装勢力は残る。撤収ラインを確保し、掃討部隊に引き継げ」

 

彼の声は冷静だったが、沈んだものが確かに含まれていた。

 

隊員たちは任務報告を送信し、拘束した者の確認と民間人保護の状況を整理する。

通信回線は忙しくなり、司令部とのやり取りが瞬時に行き交う。

下からは機甲旅団の進軍音が次第に大きく聞こえ始めた。

外では、夜明けの兆しが空を割り、街の輪郭を輪郭を浮かび上がらせる。

 

ルノー少佐は玉座の間の窓から外を見た。

瓦礫と煙が混じる街路に、既にフランスの部隊らしい影が見え始めていた。任務は進行している。彼は隊員一人一人の顔を見渡し、短く述べた。

 

「帰還を急げ。任務はまだ終わらん」

 

その声は低く確かだった。

 

彼らは殺すために来たのではない。

だが、命令は明確であり、行動はそして結果もまた明確だった。

夜はまだ明けきらない。だがこの夜の行為は、ジン・ハークに刻印を残すだろう——武と鉄による新しい秩序の刻印を。

 

 

 

 

東の空が薄く赤味を帯び、夜の闇が押し返されるころ

――ジン・ハークの石造りの輪郭が次第に浮かび上がった。

市壁の陰、細い路地、軒先の松明。

だがその静謐を引き裂くのは、鉄の咆哮と砂を巻く履帯の轟音だった。

 

第7機甲旅団の先頭に立つのはルクレール戦車群。

砲塔は低く構え、暗視装置の視界を通して砲手が目標を追う。

続くのは第9海兵軽機甲旅団のVBCI装甲車とAMX‑10RC偵察車。

第132歩兵大隊は車両から降り、建物の影に散開して都市部の「割り込み」掃討を行う。

彼らの任務は明確だ:ジン・ハーク中心部へのルート確保と、武装するロウリア戦闘員の殲滅。

ただし合間に「非戦闘員保護」が挟まれる。

命令は冷徹だが、現場は血の選択を迫った。

 

司令車の中、旅団長は顎に蓄えた無精髭を指でかき、地図を凝視する。

無線からはGIGNの報告が断続的に流れる。

王城は確保され、王は生存下で拘束されたとのこと。だがこれは“外科的成功”であり、市街戦は別種の苦難を呈する。司令は短く指示を下した。

 

「主要交差点Aを優先確保。第7は正面突破、第9は側面掃討。第132は建物クリアリング、民間人避難支援は即応班に委ねる。」

 

ルクレールの先行は単なる威嚇ではない。

重装甲と120mm滑腔砲は、古い城門や石の防塁を一撃で砕く。

だが市街地での砲撃は慎重に用いられる。

民家や市場に被害を及ぼせば非戦闘員の犠牲が増える——政治的にも、倫理的にも許されない。

そこで選ばれた手段は「圧倒的機動での局所制圧」だった。

戦車は狭い通りに入らず、幅のある大道を主軸に押し上げる。

側道からはVBCIが小口径の機関砲で脅威点を削り、歩兵が屋根伝いに縦深を取る。

最初の接触は市場通りの北端で起きた。

市場は早朝の片付けの最中、だが戦闘員が先回りして伏せていた。

暗視ゴーグルで見えるのは人影、間に混じる背負い袋や布切れ。ロウリアの弓兵だ。彼らは高所を利用して射撃を試みるつもりらしい。

 

「VBCI、屋根上の射手に一斉機関砲掃射を行う。弓兵は高所にいる。高度確認、発砲は慎重に」

 

歩兵小隊長の声は落ち着いている。

VBCIの25mm機関砲が短い連射を放ち、屋根の縁に伏せた弓手たちの姿が消えた。

弓矢は金属や装甲を貫けない。だが、その一射一射が人を倒す音は静かで恐ろしい。

通りを抜ける際、歩兵中隊は「窓からの狙撃」を警戒する。

都市型戦闘の基本だ。

小隊はドアを分担し、フラッシュバンと煙幕を用いて突入、室内に潜む剣士や若い民兵を拘束あるいは即時射撃で止める。

命令は明確で容赦がない。

武器を持つ者、弓・槍・投石などで抵抗する者は「武装勢力」として扱う。

盾を持って床に伏せる者以外には次の瞬間が来る。

だが現場は単純ではない。

家屋の二階、老婆が窓から顔を出す。

それが民間人か監視兵かの見分けは瞬時に攻め手の目で行われる。

指揮官は短く指示を出す。

白布を掲げる余裕があるほど周りは冷静ではなく、戦況が流動する。

衛生兵班は電話で避難広場の位置を確認、順次民間人をそこへ護送する。

だが時間というリソースは有限だ。

 

混乱の中、誤射も起こる。

若い兵士が弾丸を放つと、その直後に空気が凍るような沈黙が訪れる——誰かが倒れたのだ。彼は表情を歪め、ふと目をそらす。戦争は決して教科書だけではない。

機甲列は徐々に都市内部へと押し込む。

 

ルクレールの車体は威圧そのものだ。

ある路面の十字路に到達した瞬間、先行偵察のAMX‑10RCが右側の狭い通りに入る。

偵察車の速度は速く、視界の端をスキャンする。

突如、狭い路地の奥から投石と棍棒が振るわれる音がする。

偵察車の前方に設置された機銃が瞬時に反応し、制圧射撃が行われる。

石と血が混じる。戦術的には短時間での圧倒が最も被害を少なくする──そういう論理が現場を支配していた。

 

空はフランスの制空下にあり、ラファールMが空域を往復して目標指示と精密誘導を行う。

だが空からの支援は2次的な安全網であり、地上での判断が最も多くの生死を決める。

歩兵は建物を逐次クリアし、屋根を経由し、路地を封鎖する。

工兵は必要な場所でドアや障害を除去し、IED(即席爆発物)の危険がある場所はロボットで先行処理する。

ロウリア側が用いる捕縛罠や火炎壺、投石台などは原始的だが、狭い空間では十分に危険を孕む。

 

第132歩兵大隊の中隊長は、短い報告を司令に上げる。

 

「北東区画、建物4件のクリアリングを完了。武装勢力の殲滅確認。民間人数名を保護領域へ誘導中。負傷者3名搬送要請」

 

救護の手配が即座に行われ、近くの臨時医療拠点へと担架が動く。

衛生兵は血まみれの包帯を巻きながら、冷静に彼らの命を繋ぐ。

現場の英雄譚はあまりに日常的で、誰もそれを誇らない。

 

ある交差点で、騎士団の一隊が突撃してきた。

彼らは盾を構え、剣を振るいながら突進する。

だが戦車のスポット照明が彼らを白昼に曝し、機関銃の集中射撃が短時間で彼らを粉砕する。

剣と鎧は瞬時に無力化される。地上から響く金属音と、それに続く静かな落下音は、文明差の残酷さを示す。

 

戦闘はだが「掃討」段階へ入るにつれ、皮肉にも秩序を取り戻す。

敵の動きは次第に消耗し、民間人は指定区域へと移される。

ただし「消耗」の影には、言葉にできない数の悲しみがある。

広場には防寒布にくるまれた子どもたち、老婆たち、肩を抱く父親たちが集められ、衛生・物資の分配が行われる。

軍の心理班と憲兵隊が現場で身分確認を行い、非戦闘員と見られる者は保護下に置かれる。

だがこの手続きは常に完璧ではない。

誰かが誤認されることもまた、冷酷な現実だ。

 

午後にかけて、ルクレール戦車は主要幹線を制圧し、橋を押さえ、主要補給路を確保した。

第9は市街の側面を掃討し、要衝を押さえていく。

通信にはGIGNの報告が繰り返し入り、王城内部の監督・尋問班が要人のリストを整理している。

だが地上では細かな掃討作業が続き、民間人を巻き込まないための苦心は終わらない。

 

夕刻、司令部は作戦の現況をまとめる。

被害と成果を並べた表がスクリーンに表示される。

戦闘員の殲滅数、拘束数、非戦闘員の避難数、負傷者・死亡者の統計。

数字は冷たい。

どれだけ作戦が「成功」しても、その裏には数えきれない顔があることを、誰もが知っている。

夜が訪れるころ、市街は部分的に静まった。

火の手は収まり、通りは軍と救援の活動で満ちている。

兵士たちは装備の手入れを行い、弾薬を補給し、明日の掃討予定を確認する。

ある若い戦車兵が車体に腰掛け、煙草を一服する。

彼の顔はやつれているが、誰もそれを責めない。戦争は彼らに多くを与え、多くを奪った。

 

列車のような低い轟音が消え、瓦礫の間に灯りがともる。

フランスの三色旗が交差点にたてられ、機甲旅団の新しい拠点が形成される。

だが旗の色を見る者の顔に、心からの安堵は少なかった。

勝利は手に入ったが、代償は既に支払われている。

司令部は次の命令を準備する――残存勢力の徹底掃討、インフラの確保、民政当局の投入。そして臨時行政の設置。戦術の一段落は、別の負担の始まりでもある。

 

 

 

 

パリ・統合参謀本部

 

「ロウリア国王の確保を確認。首都の大半も制圧完了です」

 

通信士からの報告にド・ヴィル大将が深く頷く。

 

「わかった。これにてオペレーション・エジードを終了する」

 

作戦の終了が確認され、司令官たちが次の指示を出そうと無線を掴む。

 

「……まさか俺が本部長の時にこんなことが起きるとは思わなかった」

 

小さな呟きが静寂にかき消された。

 

 

 

 

エリゼ宮

 

「大統領、作戦終了しました」

「そうか、ご苦労様」

 

通信担当官からの報告にシュヴァリエは安堵の表情を浮かべる。

 

「ロウリアの国王は捕まえたのかな?」

「はい、GIGNが確保しました」

「一回こっちに連れてきて話を聞こうか」

 

通信担当官が執務室から出て行く。

それと同時に外務省の職員が駆け足で入ってきた。

 

「大統領、報告です!」

「落ち着いて、何が起きた?」

 

外務省職員は息を整えると口を開いた。

 

「先程、哨戒機が帆船の船団を確認しました。海軍が臨検を行ったところクワ・トイネ、クイラと言う国の外交官を乗せていました。我が国との対話を望んでいます」

 

 

 

 

 




読んでくださりありがとうございます。


フランス軍では2017年からFA-MASをH&K HK416Fと入れ替えを行っています。


ロウリアとの戦闘はこれで終わりです。
次からはクワ・トイネをはじめとした文明圏外国との話がメインになるかもしれません。


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