ミノタウロスの皿、あるいはテセウスの船   作:サブレ.

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鬼滅の刃(オリ主)は初めてですがよろしくお願いします


プロローグ:Hello New World!

転生というものをした。

 

 

二歳の時に売られた。

私を買った養父は私を慈しんだ。

この男のために生きて死ぬのなら構わないとさえ思った。

間違いなく幸福だった。

 

十二歳の時に養父は首を斬られた。

塵となって消えて、肉体はかけらも残らなかった。

養父がそういう生き物だとは察していたが、まさか己が生き延びるとは思わなかった。

喰われて死ぬ予定だったはずか、不思議なことに生き延びた。

 

養父を殺した相手についていくことにした。

それ以外に、生きる術がなかった。

 

 

ただそれだけの、よくある悲劇の前日譚である。

 

+++++

 

そんな感じの前日譚は置いておいて、転生者こと霧雨いろはです。よろしく。鬼滅の刃は好きだったけど転生したくはなかったです。

 

現在私は鱗滝左近次さんのところで水の呼吸を学んでいる。色々調べたが、どうやら冨岡義勇と錆兎の二人はまだ弟子入りしてないので、私は少なくともその二人より年上ということで良いのだろう。

ちなみに真菰はもう死んでたので悲しいことに私に切磋琢磨する間柄というものはいない。鱗滝先生と二人暮らしだが、元は養父と二人暮らししてたので、そんなに気苦労はない。

むしろ、一日中の稽古で疲れ切ってる中で鱗滝先生にご飯とかお布団とか全部任せてしまっていることの方が心苦しいが、疲労困憊の身体にはどうにもならないのであった。

 

 

「次の最終選別に行くか」

「ふぇっ」

 

鍛錬がだいぶ身につき、鍛錬の横である程度炊事洗濯をある程度こなせるようになった頃、鱗滝先生がそういった。私が弟子入りしてから一年ほどの頃のことだった。

ちなみに、全集中・常中はまだ会得していない。あくまで下っ端の鬼殺隊士としての能力を得たというくらいだ。

だが、私は直接的な鬼を養父しか知らない。敵意を持って襲いかかってくる鬼にきちんと相対して、本当に戦えるのか?という疑問は解消されていないのだ。

 

「行きます」

 

即答した。

身の振り方を考えるにあたっても、最終選別は行くべきだ。

 

 

最終選別の数日前、鱗滝先生が狐のお面をくれた。厄除の面、つまり悪いものを追い払ってくれる。無事に帰っておいで、という思いをありがたく受け取って、私は最終選別へと出立した。

額のところに狐の面をつけて言われた通りの道を歩く。その日は雨が降っていて、分厚い雲が日光を遮っていた。そのためか、道中の人気のないとある場所で、青年が鬼に襲われているのを見つけた。

 

「水の呼吸、壱の型 水面斬り」

 

背後から忍び寄って斬ったので、鬼はあっさりと頸を落とされて死んでしまった。驚くほど感情が波立たない。養父と同じ生き物を殺すことはできない……!となるほど、私は情のある人間ではなかったようだ。鬼殺隊としてやっていけそうだ。

 

「大丈夫ですか?」

「あ、ああ…君みたいな子供に助けられるとは。ありがとう。帰り道を急いでいるところだったんだ」

「どういたしまして。……あ、そうだ」

 

厄除の面を外して、青年に差し出した。私より年上とはいえ、世間としてはまだまだ若いその人。鬼から助かったばかりで、まだまだ不安げだった瞳が揺れる。

 

「厄除の面なんです。私は刀があるので鬼と行き合ってもなんとかなりますから、差し上げます。どうか無事に帰って、家族を安心させてあげてください」

「すまない、ありがとう……!君も気をつけるんだよ」

「鬼は、藤が毒になります。藤のお香を焚いてくださいね!」

 

そうして、青年とは別れた。

私は少しばかり遅れてしまった道中を巻き返すようにして道を急いだ。そのおかげで、藤暈山の最終選別開始には間に合った。

 

 

七日間を無事に終えて、下山が叶った。鬼は何体か倒し、多少の怪我はあったけど骨折のような重篤な怪我はない。

この年は参加者自体が少なかったのか、あるいはいつもいつもこんなものなのか、合格者は私一人。何人かリタイアに付き添ったので全滅ということはないのが、幸いだろうか。

鉱石をひとつ選び、簡単な質問をいくつかしてから下山した。行きよりも少し時間をかけて帰り、途中の店で土産を買った。

狭霧山、ほんの少ししか留守にしていなかったはずなのに、今はとても懐かしい。

 

「鱗滝先生、只今帰りました!」

「おお、帰ったか!無事でよかった、本当に……」

 

しばし、抱擁でぬくもりを分かち合う。

養父のことを思い出した。

その後、買ってきた甘味を出し、鱗滝先生がお茶を淹れて、藤暈山でのことや道中のことを話しながら、まったりと過ごした。

 

「───と言うわけで、狐面は手放してしまいました。ごめんなさい」

「謝ることはない。また新しいものを作ってやろう」

「わあい、ありがとうございます」

 

刀ができるまでの間は基礎鍛錬と型の練習、そして鱗滝先生から全集中・常中について学ぶ。幸にして、刀が届く前々日……休息期間に二日を要したあと、約十日で瓢箪を呼吸で割り、全集中・常中を会得した。もちろん質はまだまだこれからだが、土台ができただけでも良しとしよう。

そして、藤暈山から帰還して十五日目。

刀鍛冶の里から、ひょっとこのお面をつけた使いの人がやってきた。

 

(かんな)といいます」

「どうも、よろしくお願いします」

 

私の刀を担当する鉋という人が、日輪刀を持ってきてくれた。さて、日輪刀ガチャ改め呼吸ガチャの時間です。まずなんでもいいから呼吸と剣技を会得しないと自分の適性がわからないというのもなかなか捻れた話だ。

刀を抜く。通常の色味から少しずつ、透明感のある青へと変化した。大海を模したかのような美しい青、紛れもなく水の呼吸の適性を示している。

 

「これはー……青ですね」

「見事な青だな」

「呼吸変更しなくていいのは助かります」

 

とりあえず水の呼吸に適性があることがわかっただけでも大きい。

鉋さんを見送ってから、同じく送られてきた隊服を取り出した。

無駄に露出が多い。

 

「鱗滝先生」

「許可する」

 

速攻で油をかけて燃やした。

鱗滝先生は抗議文をしたためた。

 

 

それから、狐の面を改めて作っていただいた。鱗滝先生の天狗の面のように、顔につけて仕事をすることにした。なんのことはない、水柱に就任して引退まで五体満足で生き抜いた鱗滝先生にあやかるためだ。願掛けとも言う。上司に言われたり必要な時は外すので問題ない。

それから、鎹烏もついた。必要なものは全て揃い、私はこれから狭霧山を独り立ちして、一人前の隊士として鬼狩の任務に赴くこととなる。

 

「鱗滝先生、お世話になりました。お手紙書きます」

「気をつけるんだぞ」

「無論です」

 

鱗滝左近次。

私の養父を殺した人。

私に生き方をくれた人。

 

この人がいなければ、私は鬼に、養父に食べられていたのだろう。

養父に食べてもらえなかったのは残念だ。だがしかし、養父が討伐されて然るべき存在であったことは、納得している。

 

「カアー!」

 

鎹烏が鳴いている。そろそろ旅立たなくてはならない。

私が十年間過ごした小屋を出る時は誰も何も言ってくれなかったけど、見送る人は塵となっていたけど。

今は、いってらっしゃいを言ってくれる人がいる。

 

「行ってきます!」

 

私の、それなりに激動と思われる鬼狩としての第一歩は、そう特筆することもなく始まったのだった。

 

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