皆様こんにちは、柱業務に復帰しました霧雨いろはです。
上弦の弐の拠点である万世極楽教は特定作業が続いています。この時代の調査大変すぎる。
この度無事に、煉獄杏寿郎が正式な柱へと昇格。槇さんはようやく退いた。お疲れ様でしたの意を伝えるために今度久方ぶりに煉獄家に行こうかな。童磨との接敵から煉獄家に行けていないのだ。
というわけで何度目かの柱合会議。顔ぶれが変わっているのはいつものことだが、炎柱が炎柱としてキチンと出席しているのは微妙に慣れない。いつぶりだろう。
「煉獄杏寿郎だ!改めてよろしく頼む!」
「おう、ようやくか!」
「南無……」
「…………」
「君は何か言いなさい」
報告のために来ている、実質二人で水柱をやっている相方のような冨岡義勇に話しかける。が、この二人はどういうわけか私の弟子のようなもの。すでに二人の間で話はついているのだろうね。
「今さらになるけど、よろしくお願いしますね、杏寿郎くん」
他の新人柱と同じように右手を差し出す。握手をすると、ゴツゴツとした弟子の手のひらを感じた。
「……おお、育ったなあ」
忙しい任務の合間に顔を出すたび視線が上に向かっていった日々を思い出してひとりごちる。男の子って雨後の筍のように伸びるよね。人類の神秘を浴びる時期だったあれは。
顔見知りだしいいか、と手をニギニギして遊んでみる。ガサガサでタコのできた手に満足。
「いろは殿、あの、その辺で」
「もうちょっと」
おお……私の手のひらより随分大きい。槇さんから見取り稽古をした型を杏寿郎くんに教え込むときはこういう風に触りながら指導したっけ。でも今は模擬試合ばっかりだからなー。うむうむ、懐かしい。
「おーい、霧雨さんよ、そこまでにしとけ」
「ん?」
感慨深くなっていたら、天元くんに止められた。そこで我に帰って前を向いたら、杏寿郎くんはいつもの元気な様子とは打って変わって、もう片方の手で口元を押さえて全力で顔を背けていた。無言で。
天元くんによって、半ば強引に杏寿郎くんと私が引き剥がされる。杏寿郎くんは天元くんに腕を回されてどこかに連行されていく。うむ、名残惜しいな……と思ってたら、ぬっと横に行さんが近寄ってきた。
えっ、なになになに。
「南無……煉獄に対して酷なことをされる」
「ちょっと手を触っただけですが?杏寿郎くんは嫌なら嫌ってはっきり言いますし」
「煉獄杏寿郎もまた男子」
……あっ。
「あー……成程そういうことですか?」
ようやくソレに思い至る。うん、これは天元くんがあの行動をするのも納得。これは私が呆けていたとしか言いようがない。そういえばさっき耳が赤くなっていた。
「これは私が百割悪い」
「気がついていなかったのですか」
「だって私、コレですよコレ」
お面を指で突く。顔も見えない表情さえわからない、一般隊士には好き勝手噂されるこのお面をずっと付けている。それでまさかそっち方面に傾くとは思わなかった。
「めくらであっても恋慕の情はあるもの。言葉を交わすことで感情を交わすならば当然」
「行さんに言われると説得力すごいですね。杏寿郎くんにはちょっと悪いことしちゃいました」
「……そうだったのか?」
「私が言うのも何だけど、義勇ももう少し気付けるようになったほうがいいよ……?」
特に君らある種の兄弟弟子みたいなものでしょうが。二人揃って私の見舞いに来てたの覚えてるからね。
「霧さんにも好いている人はいるのか」
「アー……ちょっと最近、眉目秀麗な白い髪の男に一目惚れしたばかりで」
「!?」
「うわびっくりしたァ」
一目惚れした男はもちろん童磨だ。“喰われたい”という欲求的にはあながち間違いでもないのか……?と考えながら返事をしたら、ぐりゅん!と勢いよく杏寿郎くんが振り向いた。あまりの速さに、黙って眺めていた実弥くんの肩が跳ねるほど。
「もしかして宇髄のことか?」
「いや違うよ。天元くんが色男なのは前提として、流石に妻帯者である男に恋慕する趣味はない」
「じゃあ不死川?」
「違います」
「じゃあってなんだよ」
なんか実弥くんのことを爆速で振ったみたいになったな。
「もしや父上か!」
「なんでそうなった!だいたい槇さん白髪でもなんでもないでしょうが!瑠火さんに申し訳が立たない!」
「父上は近頃白髪が出ております!」
「聞きたくなかったなぁー!」
「暴露されすぎだろ」
大喜利のような私の一目惚れ相手の特定会は柱合会議が始まるまでの間、何故か大盛り上がりを見せた。童磨という選択肢はまるで出てこなかった。鬼殺隊としては全くもって正しい。
あとお館様、大喜利大会聞きたくて何秒か登場遅らせたな?このお茶目さんが。
柱合会議では、現在の甲である胡蝶しのぶと伊黒小芭内の近日中の柱への昇格などが議論された。特にしのぶちゃんについては、一度目の昇格機会を固辞したと聞いている。あの時の『待機命令』が彼女なりに堪えたらしく、それが理由とのことだった。しかし実績は充分であることを、当時の待機命令を出した当人である私が保証したことで、改めて打診されるだろう。
「感覚的な話にはなるけれど、柱の質はここ数年で向上傾向にあると、そう思います」
「長年見てるアンタが言うならそう思うが……なら冨岡も昇格させるか?」
「あの子は次代の水柱だ、もうしばらく待っていただきたい」
「そうなった時点で霧雨は引退あるいは死亡か」
「個人的に上弦の弐を追っているので、そのような可能性も常に視野に入れてますよ。義勇を上弦の弐の探索から外しているのも意図的なものです」
水柱と炎柱は常に、鬼殺隊の歴史の中にいた。その意味はそれなりに理解している。だから槇さんとそれなりに長い間交流してきたし、言葉にしてはいけない共感を持っている。
「上弦の弐についてどこまで分かってる?」
「調査していますが、はっきり申し上げて袋小路ですね」
「一筋縄ではいかねえか」
「ただ、一箇所を拠点として据えている鬼であることは間違いなさそうです。有象無象の鬼どもも拠点を持つ者と持たない者とに分かれますが、上弦にも適用できそうかと」
「つまり、他の上弦もどこかを拠点としている可能性がある?」
「確定情報ではない故、推測という形での発言とはなりますが」
原作知識をそのまま話してしまうのは簡単だ。しかし、その知識にはこの世界における根拠というものが存在しない。ましてや柱、その発言力はあまりに強い。万が一にも間違っていて、それで人死にが出ようものなら目も当てられない。
根拠もない発言で鬼殺隊を窮地に陥れる真似をする訳にはいかない。故に、私の発言は根拠がある確定情報か、経験や感覚に由来した推測の二つに限っている。
回り道でも、それが最も確実だからだ。
その後も淡々と会議は続いていく。幾つもの議題を処理していると、不思議な感慨が湧いてくる。
すでにその座に就く岩柱、音柱、風柱、炎柱。
柱の座が内定した蟲柱、蛇柱。
次代の水柱。
役者が揃いつつある。
鬼滅の刃の物語の始まりはすぐそこまで迫っている。
未だ習得は不完全ながら、冨岡義勇に対して透き通る世界の伝授も始めている。
「次の柱の就任時期は───」
「警備地区の調整を───」
潮時が近い。
刀に刻まれた悪鬼滅殺の文字が、今までよりも重みを増していく。
やはり、この柱合会議を最後にしよう。
柱の座を、退く時が迫っている。