「ご飯を食べながらでいいので静粛、注目!今回の座学は鬼喰いについて!」
食事の時間は大抵、座学を詰め込んでいる。飯を食いながらでもいいから耳にすれば、地力の強い彼らはたとえ無意識であったとしても記憶してくれると思っているからだ。
今までは鬼殺隊の基本的な説明が中心だったために、カナヲは無言の傾聴か、あるいは一言二言程度だが、補足説明をしてくれることもある。しかし、今日は初耳となる情報だからか、無心で私の方を向いていた。
「鬼喰いとは、今からおおよそ三百年ほど前、戦乱の世の鬼殺隊に実在したとされる隊士です。呼吸の才能がないその隊士は文字通り、鬼を喰らうことで鬼の力を得て戦っていました」
「鬼って食べられるものなのか?」
「鬼は、所詮は人間の変化体だからね。咬合力と消化能力があれば鬼は食べられます。美味しいかどうかは保証しない。あと確実に身体に悪い」
食事時だからだろうか、五人が一斉にうえっと嫌な顔をした。短期間とはいえ、やはり共通の敵という名の鬼教官がいると結束も早い。
「鬼を喰って得られる力は、怪力・不死性・再生力。このあたりは鬼と戦ったことがあるなら、みんな感じると思う」
「うん」
「そして、鬼喰いがさらに先に進むと、鬼喰い独自の『血鬼術』の発現にまで至ります。ここまでくると鬼か人間か、判別するのも難しい」
「鬼を食べ続けると人が鬼になるのか!?」
「いい指摘だ、炭治郎」
人差し指を炭治郎に指して褒める。そう、良い点もあれば悪い点もある。鬼喰いは全てを解決する魔法の選択肢ではない。
「鬼を喰べ続けて、得る力もあれば得る弱点もある。鬼喰いの場合、太陽の光に焼かれるようになり、藤の花もまた嫌うようになったと聞いています」
「ずっと太陽の下に出られない?」
「うーん、合ってるとも言えるし、違うとも言える。一度の鬼喰いによって得られる変化は短時間のものであって、時間経過で戻ります。しかし鬼喰いを何度も重ねると長期的な変化が起こり、鬼にどんどん近づいて行きます。稀血に惑わされることにもなるだろうね」
「いやいや何それコッワ!!!」
善逸の叫びに頷いた。そう、恐ろしいことなのだ。
悪鬼滅殺を掲げる鬼殺隊、特に柱という立場にある者にとっては特に。
鬼殺隊の隊士が鬼になることは重罪だ。鬼を狩るためとはいえ、隊士が自らの意思で鬼へと変質していくことが、どれほど恐ろしいか。
「加えて、回復能力も鬼に勝ることはありません。下位互換にすぎない。それでも」
一度言葉を切る。玄弥が真剣に耳を傾けているのを確認してから、続けた。
「それでも、その再生力と不死性は、間違いなく人間の上位互換になる。それは事実だ」
取れた腕もくっ付ければ元に戻る?
腹に風穴が空いても回復する?
体がへし折れて骨が粉々に砕けても戦線復帰できる?
そんなもの、人間には到底無理だ。それで何人も死んだ。死ななくても戦線からは去った。私と共に万世極楽教を調べた後輩も、柱から隠への転向を余儀なくされた。
鬼喰いだけが、その境地に至る。私たち鬼殺隊が苦しめられ時にひどく羨んだ、その超再生。
「仮に、君に鬼喰いの才能があったとしよう、玄弥。君の兄上の風柱様は稀血だから、鬼喰いをしたらきっと近づくことはできない。それに」
原作知識と実弥くんとの交流を踏まえた忠告をしようとして、一瞬言葉が止まる。ここで私が実弥くんの人となりを知ったような発言をするのは不味い。鬼や鬼殺隊に関する知識は「元鬼殺隊の師匠がいる」、柱に関する知識は「伝聞」という形で誤魔化せる。
だが、個人的な交流を元にした発言はそれでは誤魔化せない。嘘ではない範囲で、少しズレた推測を選ぶ。
その上で、私の言葉を否定させよう。
「風柱様は、御母堂を鬼にされ、その御母堂が弟妹を殺し、その後太陽によって亡くなったそうだ。玄弥、立場は君も同じだよね?」
「……うん」
「大切な御母堂を鬼にされたことで、風柱様の鬼嫌いの苛烈さは、柱の中でも群を抜いている、とされる。そんな中で身内が鬼のような姿となったなら、風柱様は、君を家族として認めるだろうか?」
正確には「自分に会うために大切な家族が鬼喰いになってまで鬼殺隊に入ったとしたら、鬼喰いも鬼殺隊も辞めさせるために家族であることを拒否する」なのだが、全部は言えないので敢えて勘違いを呼ぶような言い回しにした。
うん、ちょっと苛烈だし不器用すぎやしないかい実弥くん。
「そんなことないよ。鬼の姿になっても、玄弥のことは大好きなままだよ」
おっと、炭治郎が口を挟んできた。まあ鬼になった妹を抱える長男としては言いたいことの一つや二つ、あるだろうね。
「なんで分かるんだよ」
「だって、玄弥のお兄さんは鬼になったお母さんのことが今でも好きなんだろう?だったら玄弥のことだって、きっと好きなままだよ」
「……なるほど」
痛いところを突いてくるな、これが竈門炭治郎か。
やっぱ泣いた赤鬼作戦は無理だって不死川実弥。君は愛情深すぎるし、突き放すには不器用すぎる。
嫌われたいなら「柱の地位を捨てて鬼が教祖を務める信仰宗教に入信」くらいのことはやれ。藤の家紋の家で聞いた霧雨いろはの評判散々だからな。
「……私も勝手なことやったから、カナエ姉さんも、しのぶ姉さんも、怒ってると思う。でもそれは心配、してるからで」
「爺ちゃんも俺が逃げたら怒ったけど見捨てなかったし……」
援護射撃が来た。度々驚くけど、すごい勢いで同期組が仲良くなっているなあ……。
「だいたい、無惨を倒せば鬼が全部いなくなるんだろ?じゃあ無惨を倒して鬼が全部いなくなった後でいいじゃねえか」
「いやうん、理屈的にはそうなんだけどね?」
生きて帰れるか分からないんだって。原作で生きていたから、が通じないことは二年前に嫌というほど思い知った。槇さんは死んだ。不死川実弥だって生き残れるか分からない。
「……まあ、簡単な選択じゃないんだ。さっきも言った通り、一日かけてゆっくり考えることだね。ただね玄弥、考える前に一つだけ覚えておいてほしいんだけど」
玄弥の前に移動して、視線を近づける。
「どっちを選んでもいい。どっちを望んだとしても、私は君の味方だ。君が望むなら、風柱様と君が、仲直りできることを願うよ」
今はもう同期なのでね。それに、不仲だったとはいえ私は姉ではなく妹として生を受けた身だ。此度は遠慮なく、不死川玄弥の肩を持たせてもらおうか。
どうやら他の四人も、同じ心算であるようだしね!
「さあ、これで座学『鬼喰い』はお終い!寝るまでにもうひと踏ん張り」
「えええええ!?まだやんの死んじゃうって永遠に!」
「死ぬ寸前で止めるから大丈夫!玄弥は走り込み強化で行こうか!カナヲちゃん善逸の面倒見れそう?」
「がんばる」
時間足りないから仕方ないね。きりきりやって行こう。
「伊之助は玄弥と一緒に走って死ぬほど疲れてきて、そのあと常中が途切れてないか確認するからね。炭治郎は水の呼吸を見てくよ!」
「イナバは水の呼吸の使い手なのか?」
「昔、ちょーっとかじってた時期があったの。適性は月の呼吸だから、主に月の呼吸で戦ってるってだけ。時間もないし早速やって行こうか」
「はい!」
やにわに騒がしくなった藤襲山を眺め、刀を構える炭治郎を見ながら思う。
私の最終選別とまるで違いすぎる。やったのは自分だが。
最終選別というか、合宿みたいだな……。
イナバ「昔、ちょーっとかじってた時期があったの」
あの世の槇寿郎「ちょっと齧ってた…?」