ミノタウロスの皿、あるいはテセウスの船   作:サブレ.

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那田蜘蛛山【3】

ふむ、例の累の家族の鬼かな、これは。

救命行為に勤しみつつ十二鬼月の配下を一体。序盤の戦果としては上々かと思いながら、那田蜘蛛山での行動を振り返る。

 

 

 

那田蜘蛛山の奥に踏み入ると、相当数の犠牲者がいるようだった。私が物理的に引き留めた十人は無事とはいえ、やはり他にも踏み入っていた鬼殺隊士がいたようだ。

腐臭がする。気配がする。少し深く中に入ると、糸を使って操られた隊士がいた。怪我が痛そうだ。

 

「お願い……!階級が上の人を呼んできて!」

「その必要はありません、今助けます」

「え……?」

 

「月の呼吸、陸ノ型【常夜孤月・無間】」

 

さくっと糸を複数に切り分ける。そのまま隊士を抱えて、糸の射程範囲外へと後退した。

炭治郎たちは無事だろう。このまま下弦の伍を獲ってくれないだろうか。そう思いながら、山を駆けずり回り隊士を片端から回収、大怪我をして手足が変な方向に捻じ曲がった隊士の手当に移る。

 

「階級・癸の月詠イナバです。意識はありますか?」

「あ、助け……」

 

とりあえず意識はある。激痛で意識を失うことができないというのが正しいか?中には蜘蛛の形をしていた者までいた。治るかなこれ。

淡々と救命行為に専念する。柱時代は死にかけの隊士を見捨ててでも鬼の討伐に専念しなければならない場面が、数える程度にあった。

後輩の盾になるのは柱として当然の責務だ。だが時にトロッコ問題が発生する。身も心も削れるような思いは、柱であれば誰もが経験する。

そうして糸に絡まった人を助け、遺体を喰われないよう一つの場所に集め、ケガの手当てをして……と黙々と下っ端らしく仕事をこなしていたところに、あの鬼が来たのだ。

 

「ここは生存者は無しか……」

 

鬼を斬ってから少し移動した場所。かつて真っ白だった名残が見られる繭玉は、何故かその全てが丸焦げになっていた。中の人は溶けてはいるが、齧られてはいない。

と、いうことは……と考えたところで、足音に気がついた。

ここまで近寄られるまで私が察知できなかったということは、間違いなく柱、あるいは柱級。足音から推測される体重と身長からするに女性だ。二人分。

動きを止めて、彼女らを迎え入れる。

 

「あなた、階級と名前を」

「癸の月詠イナバです。鬼は別の仲間が倒しに行っているので、他の仲間の救命活動を行っていました。ここに生存者はいないようです、蟲柱様」

 

蟲柱、胡蝶しのぶ。背後には継子の栗花落カナヲ。

カナヲは柱と任務の手前大人しくしているが、知り合いの登場により少し感情がいい方向に揺れ動くのを感じた。それはしのぶちゃんも同じだったようで、ニコニコ笑顔が少し動いた。

 

「貴女とは以前から話をしてみたいと思っていましたが、後にしましょう。ここは隠が引き継ぎますので、貴女は鬼の元へ案内を」

「かしこまりました。柱は蟲柱のみがいらっしゃっているので?」

「ううん、水柱も来てる」

「そうなんだ」

 

義勇なのかな?霧雨いろはの醜聞で柱になれてなかったりするのかな……。

隠に後を任せて、駆け出す。カナヲから私の強さに関しては報告があるだろうから、実力の出し惜しみは不要。軽々と山を三人がかりで走って、おそらく炭治郎が戦っている十二鬼月が一人、累の近くまで走った。

そこにいたのは炭治郎、そして、水柱の冨岡義勇。

ぎ、義勇……ちゃんと柱になっていて良かった……。誰か別の水柱が就任する可能性もあったが、その刀に刻まれた悪鬼滅殺の文字を見るに、水柱と見ていいだろう。

 

「炭治郎!それに、水柱様!」

「イナバ!」

「鬼は倒せたの!?」

「俺は動けなくなってしまって……最後は義勇さんが頸を斬ってくれた」

「そうか、良かったあ……強かったんでしょう」「どんな鬼だった?」

「十二鬼月、下弦の伍だった」

「それは凄い」

「そうだ、善逸と伊之助は大丈夫だろうか」

「あの二人なら大丈夫だよ、きっと」

「強いもんねー」

 

まあ下弦から力を分け与えられた普通の鬼とか私未満だからね、私と打ち合えるなら普通に倒せるでしょうよ。

炭治郎、カナヲ、私の三人で駆け寄って藤襲山以来となる再会を喜ぶ。ふと、背中に目が行った。背中の箱が空っぽになっている。

 

「そうだ、禰豆子を箱に戻さないと」

「禰豆子?」

「炭治郎の妹さんなんだって。事情があって連れ歩いてるみたいだよ」

「逃げた鬼を追いかけるために別行動をしていたんだ」

「あ、それ私が斬ったかも。でも禰豆子ちゃん居なかったから、もしかしたらその鬼が斬られたのを確認して炭治郎のところに戻ったんじゃない?」

「そうなのか!?しまった、入れ違いになったかも……」

「そういうことなら先ず、竈門禰豆子さんを探しましょう」

「よろしいのですか?」

 

凄い提案をしてきたしのぶちゃんに、思わず聞き返した後で気づいた。会話内容的に、禰豆子=鬼だと知らないからか……!

天涯孤独で帰る場所がないから泣く泣く妹を連れ歩いて任務を行っている子連れ狼状態だと勘違いしているから、この提案をしたんだ。

あと義勇、黙ってないで喋って。この場面で正しく状況把握してるの、原作知識を持つ私を除いたら義勇だって分かってるか?

 

「私が救助活動の指揮を引き継ぎますので、イナバさんとカナヲは炭治郎君に協力して、彼女を探してください。禰豆子さんの特徴は?」

 

しのぶちゃんがそう問いかけた直後、ガサゴソと音がした。草薮を掻き分けて、髪の毛に葉っぱをくっつけた幼い女の子がひょこりと顔を出した。

竹の口枷、桃色の着物、地面に引き摺るほどの長い髪の毛。鬼特有の瞳孔。兄を探し回っていたのか、緊張していた瞳が安堵に染まる。

動いたのは、五人同時だった。

しのぶちゃんとカナヲが、同時に刀を抜いて禰豆子を殺すために技を繰り出そうとして、それを私と義勇が止めに入る。

炭治郎が身を挺して禰豆子を庇い、しのぶちゃんを義勇が、カナヲを私が止めている。カナヲを鍛えたおかげで判断が速く技の練度も上がっているのがここで牙を向くとは。私が居なかったら禰豆子が殺されていてもおかしくなかったのではないか?

うっかり無惨討伐ルートが詰むところだった……何が……何がどう転ぶのか本当にわからん……。

あと、ここだけ見たら鱗滝一門がものすごく問題児。

 

「禰豆子!」

「お待ちくださいませ、蟲柱様!と、カナヲも!」

「イナバ、その子は鬼だよ」

「知ってる!炭治郎の妹で、人を喰べない鬼だから、」

「おやおや、お二人ともどうして鬼殺の邪魔をするのですか?特に冨岡さん。あなたも先代のように鬼に与すると?」

 

あ、分かっていたとはいえやっぱ凄い問題視されてる。

ごめんマジで。

 

「あれは確か二年前……」

「そんな所から長々と話されても困りますよ」

「イナバ、どうして庇うの?」

「私を食べさせようと試しても本当に食べなかったから良いかなって……それに、鬼殺隊に伝えて許可もらってるのかなって……」

 

お館様にはすでに私から報告済で、言えないだけでこの行為について既に許可もらっている。炭治郎のこの行動は既にお館様には伝わっているから、そろそろ指令があってもおかしく無さそうなんだけど。

おっと、噂をすれば。

 

「カァァ!伝令!伝令!炭治郎・禰豆子両名ヲ拘束!本部ヘ連レ帰ルベシ!」

『!』

 

来たか、竈門兄妹の本部への召喚命令!

少なくとも那田蜘蛛山において十二鬼月の討伐補助という『使える』実績を残し、鬼舞辻無惨との邂逅を果たしている炭治郎をここで処断するのは、鬼殺隊としても惜しいと判断したのだろう。

無事に柱合会議に進めそうだ。

 

「マタ、イナバヲ参考人トシテ連行スベシ!」

「私を?」

 

そう来たか。なるほど、だから柱相手に庇い立てしても良いと判断を下したのね。

禰豆子は呪いを外している、私に植え付けられた『肉の芽』に現在の居場所を特定するだけの能力が備わっていないのは確認済。本部に連行されても、位置情報はバレない。

───問題なし、このまま大人しく従おう。

 

「お館様からの命令ですので、彼らを拘束します。よろしいですね?冨岡さん」

「……ああ。炭治郎、大人しくしろ」

「は、はい」

「イナバさんも、我々に従ってください」

「かしこまりました。カナヲ、悪いんだけどこれ持ってて」

 

日輪刀を鞘に収めて、そのままカナヲに渡すと、両手を耳の辺りまで持ち上げる。これ以上揉め事を起こすつもりはない。

次は柱合会議か。ここで月詠イナバが霧雨いろはと看破されたら苦労が水の泡となる。今のところは胡蝶しのぶ、冨岡義勇相手になんとか誤魔化せているが、九人揃った盤面だとどうなるかは分からない。

最初の正念場だ、気合を入れなければ。

 

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