ミノタウロスの皿、あるいはテセウスの船   作:サブレ.

34 / 39
柱合裁判【後】

それにしても、槇さんが討死直前に炭治郎と会っていたとは……それにこの柱達の会話から推測するに、それは幾らかの“価値”を持っているらしい。

死人に口はないのが惜しい。いやこの世界ちょくちょく霊界通信してるけど、一般論としてね。私も詰問に加わりたいが、下っ端なのでその権利はない。そのため柱と炭治郎ほやり取りを見ながら「聞きたいことはあるけど口を開きかねている」に留めつつ、場の流れに従う。

 

「オイオイ、なんだか面白いことになってるなァ」

 

おや、来たか。

遅れていた最後の一人、風柱の不死川実弥。

彼については弟についての懸念点が幾つかあるが……ここで口にすべきことではないな。

実弥くんは隠の静止にも関わらず、片手に禰豆子の入った箱を持っていた。

ちょーっと大切にして欲しいかな……同期の妹であると同時に対無惨最終決戦で結構大事になってくるのその子……。

 

「困ります不死川様。どうか箱を離してくださいませ」

「風柱様、私からもお願い申し上げます。どうかその子を離してあげてください。彼女が人を襲わないことは、私からも証言いたします」

「あァ?」

 

相変わらず柄が悪い。しかしここで言葉を尽くさず、お館様に会う前に禰豆子が死んでしまっては元も子もない。

那田蜘蛛山でうっかり禰豆子が死にかけた時の冷や汗凄かったので、ちょっと積極的になっているのは自覚している。それに、炭治郎が禰豆子について一生懸命主張しているのはいいが、説得力が無くて話が前に進まないので進展させたいという気持ちもあった。

こういうのはね、具体的な根拠がないと、精神論や信頼だけではどうにもならないんだよ炭治郎。

 

「那田蜘蛛山にて、蜘蛛鬼の繭に囚われた人間、死者およそ十四名。私がその場にたどり着いた際、繭は全て竈門禰豆子の血鬼術によって破壊されていました。遺体は蜘蛛鬼による溶解こそあれど、竈門禰豆子の血鬼術による損壊、及び人喰いの痕跡は無く。これらに関しては遺体の回収に当たった隠の方、あるいは隠の護衛に就いていた隊士に確認を取っていただければ、同じ証言を取れるかと思います」

 

ざわりと柱の空気が揺れた。

鬼を庇った隊士二人だけではない、隠を含めて複数名の証言。証言はこれで一気に重たくなったはず。

だが、これではまだ説得力のある状況証拠。決定的証拠にはあと一手ほしい。

結局、稀血である実弥くんが実験するのが一番手っ取り早いんだよな……その辺含めてお館様に進言済みだからお館様主導でその辺進めてもらうのが丸いかなあ……。

 

「だから何だ?テメェは何が言いたい?」

「人を喰わぬ鬼が、実在するということを」

「そんなことはなァ、あり得ねえんだよ馬鹿がァ!」

「禰豆子!」

 

実弥くんが箱に刀を突き立てた。炭治郎が無理やり動こうとして、さっきからずっと上に載っている時透くんに押さえつけられる。あちゃー、やっぱりこうなったかあ……。あ、時透くんが炭治郎の関節外した。痛そう。

本来なら頭突きでも何でもしてやりたいのだろうが、柱に押さえつけられて流石に身動きは取れなかったらしい。

それでも激昂して「善良な鬼と悪い鬼の区別もつかないなら柱なんて辞めてしまえ」とか言われると流石に頭を抱えそうになった。

炭治郎……鬼って私の養父含め九割九分九厘が「悪鬼」なんだよ。そもそも悪い鬼であることを前提にしないと手遅れになって立ち行かないのが柱という職務なんだよ……。

君の善良な鬼との遭遇率の方がおかしい。

 

「不死川やめろ、もうすぐお館様がいらっしゃるぞ」

「炭治郎、まずは落ち着いて?お館様のお成りだよ」

 

義勇と私がほぼ同時に二人に告げた。一気に静まり返り、そこに一人の男性がやって来る。

手紙にてこまめにやり取りしていたが、拝謁するのは二年ぶりだ。柱からあえて一拍ほど遅らせて頭を下げた。

炭治郎は実弥くんが頭を掴んで地面に叩きつけていた。時透くんはすでに炭治郎から降りている。

なんか懐かしいなこのオデコと地面が激突する音。

 

「お館様におかれましてもご壮健で何よりです。益々のご多幸を切にお祈り申し上げます」

「ありがとう実弥」

「畏れながら柱合会議の前に、この竈門炭治郎なる鬼を連れた隊士について、ご説明いただきたく存じますがよろしいでしょうか」

 

さて、お館様は当然、炭治郎と禰豆子について容認していらっしゃる。この場において私からの発言は不要。そして、実際に禰豆子を連れ歩くのは私ではなく炭治郎だ。お館様に拝謁する前に兄妹揃って斬首にならないよう尽力はしたが、ここから先は自らの意思で勝ち取ってもらいたいものだと思いつつ、柱合裁判の行方を座して待つ。

それにしても全体的に反対派が多いな、当然だが。私が詰問側にいたと仮定しても、原作知識を踏まえてなお全面的な賛成には至らないだろう。

合わせる顔を物理的にも精神的にも持たない今となっては懐かしき、鱗滝左近次先生の手紙が読み上げられるのを聞きながら、仮面越しに遠い目をした。

……義勇、君ほんと、なんという大博打を仕掛けたんだ。いや、鬼の懐に潜り込んで二重間諜している私も大概か。

いろは、義勇、炭治郎と三人揃ってとんだ問題児どもだ。鱗滝先生のお腹はご無事だろうか。

 

「禰豆子が二年以上人を喰わずにいるという事実があり、三人もの命がかけられている」

「一人は鬼の実兄、さらに二人は裏切者の育手と継子です。本当にその言葉が真実であるか、いささか疑問に思われる」

「しかし、炭治郎は鬼舞辻無惨と遭遇している。鬼舞辻無惨は炭治郎と接触することなく逃走を選んだ。炭治郎と無惨の間に繋がりがないのは確実だ」

「鬼舞辻と!?」

 

途端、柱全体がざわめき立つ。鬼舞辻無惨、そういえば長らく柱でさえも会うことはできず情報が得られなかったんだっけ。上弦の鬼ですら長年情報がなかったから、そりゃそうか。

童磨と会ってその根城を掴んで乗り込んだ上に、黒死牟とそれなりの間を過ごしていたから感覚が麻痺していた。危ない。

 

「どんな姿だった!?能力は!?場所はどこだ!?」

「戦ったの?」

「鬼舞辻は何をしていた!?」

「根城は突き止めたのか!?」

 

半分くらい答えられるなこの質問。

騒がしいのを眺めていたら、お館様が黙らせた。禰豆子と炭治郎に追っ手が放たれていること、その尻尾を逃したくないことがお館様から語られる。

 

「それに今、詳細は語れないが、鬼舞辻無惨について深く探っている子がいるんだ。その子の情報と炭治郎、禰豆子の存在があれば、鬼舞辻無惨を倒す契機が訪れると考えている。分かってくれるかな?」

 

これは命令と同義だな。あとは実弥くんが禰豆子を喰わないことを証明すればよし……というか、ここまで話せば実弥くんが次にどう動くか分かってそうだな。

まあ私も推測という形で進言したしな。

淡々と見守っていたら、想定通り実弥くんが自分の血を流し、禰豆子の箱を刺し……いやいやいや、それはちょっと刺しすぎ。半分くらいで良くない?

さて、他の柱の様子は……炭治郎を抑えているのは小芭内くん。それを止めようとしているのが義勇。禰豆子の様子の推移は見守るしかない。

結論、沈黙。私の出る幕ではないな。

 

「禰豆子!」

 

炭治郎が叫ぶ。箱の中から禰豆子が出てきて、稀血である実弥くんの血をじーっと見つめている。目の前にあるご馳走、口の中に溢れる唾液。

それを、禰豆子は見事に拒否してみせた。ふい、と首を背けて食べないという意思を示す。

いや……すごいよホント。私の血も拒否したかと思ったら稀血でさえ喰わないか。とんでもねえ竈門禰豆子だ。分かってても驚愕が止まらないんだから、柱、特に実弥くんの驚きたるや凄まじいのだろう。

奇跡ってこういうことを言うんだろうな。

さて、あとはお館様がまとめに入った。十二鬼月を倒して認められること、炭治郎は蝶屋敷預かりになること、以上。

 

「さて、炭治郎は下がっていいよ。それからイナバ」

「はい」

 

忘れてた……みたいな視線が幾つか向けられた。お館様がいらっしゃってから多少揉めたし、炭治郎と禰豆子の処遇にかかりきりだったもんね。

 

「聞いていたとおり、鬼を庇ったことについては不問とする。ただ柱合会議の終了後、君の“育手”について聞かせてほしい。隠に案内を受けて、離れで待機してくれるかな」

「はい、お館様。炭治郎と禰豆子に寛大な処置をいただき、まこと感謝申し上げます」

 

一礼して立ち上がる。炭治郎と禰豆子は後藤さんによってあっという間に運ばれていった。それを見届けてから、私も柱たちに背を向けて離れへと案内される。

そこには分かっていたかのように芋羊羹とほうじ茶が用意されていた。そして目の前には産屋敷あまね様。

 

「あまね様、お心遣い痛み入ります」

「長きにわたる鬼の元への潜入、並々ならぬ心労もございましょう。僅かな時間ではありますが、どうかごゆるりと」

 

ここは宇髄天元の耳も届かない。あまね様がご退出されてから遠慮なくほうじ茶を啜る。廊下に待機している隠は間違いなく最精鋭。おそらくは元隊士、それもあと一歩で柱にならず引退した甲級が揃っている。

さて、報告、報告なあ……。

 

「───筆と、紙をいただくことは?」

 

独り言のように呟くと、速やかに全てが運ばれてきた。さらりさらりと文字ではなく絵を描いて時間を潰すことしばらく。

長い間かけて行われた柱合会議はようやく終わりを告げたようだった。紛糾したんだろうな。

それから入れ替わるようにして、私の報告の時間となる。耀哉様の体力大丈夫かな……なるべく端的に終わらせるか。

茶を飲み終わったあたりで案内を受け、とある一室の前で隠が待機の姿勢に入った。

膝をつき、襖に手をかけ、静かに入室する。中には産屋敷耀哉様、あまね様、輝利哉様、ご息女のくいな様とかなた様が揃っていた。

保険であるご息女二名を除いて産屋敷家が勢揃いしたか。私の報告をどれほど重要視しているかを実感する。

 

「霧雨いろは、改め、月詠イナバ、罷り越して御座います」

「二年ぶりだね。どうか、二年間のイナバの話を聞かせてほしい」

 

それにしても、まさか生きて再会することになろうとは、人生、何が起こるか分からぬものだ。

 




柱→霧雨いろはへの感情

岩柱:何も言うことはない
音柱:何を企んでいるのかね
水柱:とても悲しい。帰ってきてほしい
炎柱:今でも好き。自分が不甲斐ない
風柱:尊敬しなきゃよかった
蛇柱:理解できない。したくもない
蟲柱:私のことも姉さんのことも馬鹿にしていたのか?
恋柱:柱から裏切り者が……?
霞柱:会ったら斬らないと
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。