また、活動報告に今後の投稿頻度について載せています
無限列車【1】
再入隊してしばらく経ちました、月詠イナバです。
「…………」
藤の家紋の家の一室を借りて、宇髄弟殿から渡された螳琊奼からの司令書を読む。すでに、司令書の内容はそのまま書き写してお館様に提出済みだ。
無限列車に柱と共に乗ること。任務があればそれでよし、無ければ私用による偶然を装うこと。
ああ、だから列車なんだ。少なくとも山奥や特筆すべき場所もない郊外に行くよりは“偶々同乗している”ことの説得力が強いから。
とりあえず、お館様の采配で私と柱、それからもう複数人が任務を割り振られることは確定していると見て良いだろう。
「下弦が柱を殺し、私が柱を殺した下弦を単独で殺す。そして上弦と接触した上で生き延びさせる、か。確かに、これだけの成果があれば空いた柱の地位に就いても誰も文句は言わないだろうね」
柱の時代を思い返すが、もし私がその戦いを聞くだけの立場であれば、間違いなく歓迎した。柱に上り詰める戦果としては十分すぎる。
問題は、柱以外に付いてくるだろう他の隊士と共同で討伐した場合だが……何も考えていないのか。
あるいは。
……いや、これ以上は思考の堂々巡りになる。螳琊奼からの司令書の追伸の通り、手紙は誰にも読まれないように火にかけて燃やした。
燃やす前に写しを取ってはいけないなんて書いてなかったものでね。残念でした。
「猗窩座……猗窩座なあ……」
表向き鬼側に与してから、会ったことのない上弦の鬼の一人だが、今回の無限列車においてどう転ぶだろうか。
せめて、良い方向になるよう努めるしかない。
畳の上に寝転がって色々考えていたら、音羽が任務の詳細が書かれた手紙を持ってきた。鬼殺隊からも鬼からも司令だよ。頭の使いすぎで疲れる。
礼を言ってお館様からの手紙を開封した。無限列車の任務における人員一覧。
炎柱:煉獄杏寿郎
水柱:冨岡義勇
我妻善逸
竈門炭治郎
嘴平伊之助
月詠イナバ
「柱二人体制か。上弦が現れる可能性が高いからこの配置だろうけど……」
さあ、どうなることか。
「三人とも久しぶり〜」
「イナバも同じ任務だったのか」
「あれ、伊之助が私の名前を正しく呼んでる」
「練習したからな!」
「すごい!」
列車に乗る前に、鎹鴉の音羽の案内でかまぼこ隊こと炭治郎たちと合流した。相変わらず騒がしいな、元気そうで何よりですよ。
ちなみに、三人はこの数ヶ月の任務で多少階級が上がったそうだが、私は癸のままである。なんか柱が複数名「コイツ怪しい」と思ったのが表向きの理由らしい。うむうむ、想定通りに進んで何よりだ。余程のことがない限り、柱からは遠ざかったと言って良いだろう。
「炭治郎とイナバは煉獄さんと冨岡さんに会ったことあるんだっけ?」
「うん、柱合会議でね」
「煉獄さんは派手な髪の人だったし、二人の匂いは覚えているから大丈夫」
余談だが、善逸が私に泣きついたりしないのは単純に女とかを通り越して『性別:月詠イナバ』と認識しているからである。扱きまくったからね、仕方ないね。
炭治郎の案内で車両の一つに、座席に座っている派手な髪の男と、対照的に黒い地味な髪の男の二人組を見つけた。あっちはあっちで騒がしいし、大量の弁当が積み上がっている。
「うまい、うまい!」
「…………」
「えっと、あの人たちが」
「派手な髪色の方が炎柱の煉獄杏寿郎様、黒い髪の方が水柱の冨岡義勇様」
ところで君ら、なんで通路挟んで隣り合って座っているのかな。仲悪いのか?
とりあえず炭治郎が声をかけて、杏寿郎くんの席に炭治郎、それに続いて善逸と伊之助が周囲に座ってしまった。
必然的に私と義勇が向かい合うことになる。
「えっと、失礼します、水柱様」
「ああ」
「………………」
「………………」
き、気まずい……。
こういう時どういう顔をしたら良いのかわからないんだけど。というか私は何を話したら良いの。お館様、この人選はわざとですか。
私と義勇が微妙な空気になっているのを横目に、炭治郎が元気いっぱいに質問していた。
「煉獄さん、義勇さん!ヒノカミ神楽についてご存知ありませんか」
「知らない」
「うむ、知らん!俺はヒノカミ神楽についても聞いたことがない!君の父がやっていた神楽が戦いに応用できたことは素晴らしいことだ、父が君の家を訪ねたのもそれが理由かもしれないが、俺はそれ以上はわからない!」
「えっ!?槇さん……槇寿郎さんなら、何か知っていたのかもしれないんですか?」
「ああ!というのも、弟が父が亡くなる直前に、先代水柱との間でなにか口論をしていたのを聞いていたようだ。具体的な内容までは推し量れないが、とある呼吸の使い手について共有しているようだった」
……えっ、あの口論、千寿郎くん聞いてたの?
「その口論の内容というのは」
「詳しいことは、弟に聞いてみないと分からない。この話はこれで終いだ!」
話が終わってしまった。相変わらず決断が早い男だ。聞かれて何が困るという話でもないが、聞かれたくない話であったのも事実だ。
あの、それでは、と炭治郎がもう一つの質問を口にした。
「槇さんが頼りにしていた霧雨いろはさんは、どんな人だったんですか?手紙を書くくらい槇さんと仲が良かったみたいですが」
「……俺の師匠だった人だな」
「じゃあカナヲみてーにそいつの継子だったのか?柱の弟子は継子なんだろ?」
「いいや!何度も頼み込んだが、ついぞ継子にはなれなかったな!継子だったのはそこにいる冨岡だ!」
大きな目が突然こちらに座っている義勇を向いたのでちょっとびっくりした。
あー……確かに何回か頼まれたな。全部断ったけど。義勇は杏寿郎くんの視線を受け止めてぱちぱちと瞬いてから口を開いた。
「横暴だった」
「確かに、いろは殿が向こうの事情を無視して強引に事を進めたのは冨岡ぐらいなものだろう!」
「えっ!?煉獄さん、弟子なのに継子じゃなかったんですか」
率直すぎる感想に、杏寿郎くんは心なしか苦笑して頷いた。炭治郎、もう少し手心加えてあげて。
「おそらく、父に遠慮したのだろうと思う。水柱と炎柱は共に歴史が長いから、そこを気遣ったのかもしれないな!」
「煉獄さんは、霧雨いろはのことは悪く思っていないんですね」
「ああ、今でも尊敬している!」
「尊敬してはいないだろう」
空気が一瞬冷めた。コラコラコラ義勇、言葉選び!ビックリしたよ流石に。
ほらー!かまぼこ隊の三人がめちゃくちゃビックリして君のこと見てるじゃんか。
義勇は杏寿郎くんの顔を見て、もう一度噛み締めるように繰り返した。
「尊敬ではないだろう、煉獄は」
いや、そんな二回も言わなくても……今悪口言われるのは仕方ないにしても、過去の自分に対して尊敬してなかったとか言われたら流石に傷つきますよ?
「そうかもしれないな。だが、いろは殿が何も告げず去った今、彼女が何を考えていたか、父上からどのような手紙を受け取るはずだったのかは、ここにいる誰にも分からない!」
ごめんなさい、本気で喰われたがってました。
というか、受け取るはずだった?何を?
元霧雨いろはにも心当たりないんですが。
「まだ見せてもらってないのか」
「見せてもらった?」
「竈門少年、君の家に滞在した直後の父から、霧雨いろは宛に出された手紙のことだ。当時彼女と組んでいた鎹鴉の瑪瑙が父から預かり、二年間今に至るまで、誰にも読ませていない」
ちょっと瑪瑙ー!?何やってんのーーー!!!
「そんなことがあり得るのですか……?」
「瑪瑙は、いろは殿に関しては頑なだからな!『霧雨いろは宛の手紙は霧雨いろはが最初に見るべきだ』と言ってどこかに隠してしまった!」
はい!?
唖然とする私を置き去りにして、話はトントンと槇さんと竈門家のものへと移行した。
「竈門少年、俺からも聞いて良いだろうか。父上は、煉獄槇寿郎は、何が理由で竈門家を訪れたのだろうか」
「昔、自分の先祖と深く関わりのあった場所だと言っていました。耳飾りが、槇さんのご先祖様がお世話になった人のものと同じだと」
……例の炎柱が残した書に記してあったのだろうか。耳飾りについて残したならば、継国縁壱と出会った場所についても残していておかしくないのかな。
継国縁壱は特異点だ。鬼殺隊にとっても、鬼にとっても。
「ただ、俺はその時忙しくしてて、あまり槇さんと話せた訳ではないんです。槇さんは力仕事を幾つか手伝ってくれた後、弟妹たちと遊んでくれていたので……もしも手紙の内容について知っているとしたら弟妹だと思うんですが」
その弟妹は死んでしまい、もう誰にもわからない。瑪瑙とて手紙を読めたとは限らない。
手紙を書いた者も、それを横から覗き込んだ者も、みんな死んでしまった。
「………………」
沈黙。ふうーと無意識に息を吐く。どうにも、裏切り者である先代水柱と故人である先代炎柱には謎が多いようだ。当事者通り越して当人の一人である私にも謎の答えが分からないのはどういうこっちゃ。
槇さんが霧雨いろは宛に残したものについて思考を巡らせつつ、通路を歩いてきた駅員に切符を差し出した。頬がこけて痩せ細り、目玉だけが蛙のように飛び出している。言葉は淡々としている中に藁にもすがるような、かろうじて何かを杖代わりにして立っているかのような、異様な雰囲気。
こいつかあ、ここで差し出さないと色々と怪しまれそうだしなあ……ま、私の潜在意識と望みなら早々に起きられるだろう。
思考は一旦ここで終わりだ。他にも気になることは色々あるが、無限列車と鬼との抗争に集中せねばなるまい。
パチン
おまけ:お館様からの司令書における名前の並び方の法則
炎柱:煉獄杏寿郎←先任の柱、責任者
水柱:冨岡義勇←後任の柱
我妻善逸←真ん中の階級、五十音の一番目
竈門炭治郎←真ん中の階級、五十音の二番目
嘴平伊之助←真ん中の階級、五十音の三番目
月詠イナバ←一番下の階級