ミノタウロスの皿、あるいはテセウスの船   作:サブレ.

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継子、ゲットだぜ!

弟弟子が選別を突破して数ヶ月が経過した、霧雨いろはです。

鬼殺隊に弟弟子が入ったというのに顔の一つも見れない柱、多忙すぎると思います。

 

「カァァッ!南南西ニ向カエェッ!」

「よっと」

 

鎹烏からの伝令をもとに、山の中へと迷いなく足を踏み入れる。今回の任務は階級が下の隊士たちの救援。どうやらなかなか手強い鬼であるらしい。もしかしたら十二鬼月に近いのかも?

夕方近くまで降り続いた雨の影響で、足元が泥濘んでいる。下手に地面を歩くより木を伝った方が早いと踏んで、木々を道と定めて駆け抜ける。

やがて鬼の根城であるお堂のある、ややひらけた場所へと辿り着く。ここに先んじて向かった隊士がいる筈だ。

 

「おっと、なるほどね」

 

地面から、カニのような手足が生えていた。数名の隊士がカニの鋏に挟まれている。刀を支えにして胴体を守っている者もいれば、それが間に合わずとっくに胴体がへし折れている者もいた。

頸は何処かにあるのだろうけど、ざっと見た限り見つからない。さて、捕まっていない隊士はどこかにいるのだろうか。

面の下に手を差し入れて、ピュウゥと指笛を吹く。その音に反応した生き残りの隊士たちがこちらを見上げて、特徴的なお面に正体を察し、口々に私の名前を呼ぶ。

 

「水柱さまだ」

「霧雨さんだ」

「助けてください!」

 

だが、鬼の反応に変わりはない。音に反応している訳ではなさそうだ。

姿も見えない、音も聞こえない。ならば、人間を識別している手段はおそらく、匂い。そして匂いを嗅ぎとる条件となると……。

そのまま木の上から飛び降りて地面にほんの一瞬足をつけた。その瞬間飛び上がると同時に、地面からもう一本の手が生えてきた。

 

「生生流転」

 

どれだけ外装を硬くしても、関節部は弱くなる。ハサミの内側を通すようにして刀を通せば、案外簡単に巨大なハサミは真っ二つになった。

そのまま、地面に落ちたハサミを足場にして一つ、二つとハサミを切って生きてる隊士を小脇に抱えては投げ、お堂の屋根の上へと避難させる。

結局、生きて回収できたのは四人。三人は絶命していた。

死体を持っていたハサミが、地面の中へと潜る。

バキバキ、グチャリ、ゴキュリ。

咀嚼音が響き、そして静かになった。周囲の隊士は震えているが、私は別の意味で震えていた。顔は狐面で隠れているので誰にもバレなかった。

 

……本当は私も、あの死体のように、食べられている筈だったのだけど。

 

おかしいな。死体が生者を助けている。

食べられたい自分は生きていて、食べられたくない誰かが死んでいる。

全く世の中は不平等だ。

ただ、まあ。今の私は柱なので、その役目を背負わねばならないし、食べてくれるならどの鬼でもいいなどと思っていない。どうせ食べられるならもっと強い鬼がいい。

だから、この鬼はここで斬る。と、決めて刀を構えようとしたところで、思いがけない応援がやってきた。

遠方でもう一体鬼が出ているとは聞いていた。そちらからの救援要請は出ていないので、誰かが鬼を斬ったのだろうと判断していたが、まさかこの男だったとは。

 

「……先生のお面?」

「おや、そういう君のお名前は?」

「冨岡義勇」

「そうでしたか。まさかここで弟弟子と行き合うとは。いずれ顔を合わせると思っていたよ」

「水柱!?」

 

ようやっと私の正体に当たりがついたらしい。流石に姉弟子が鬼殺隊の水柱をやっていることは聞いていたか。狐面で気付きたまえ。

それにしても丁度いい。生者は全て確保したので、鬼を斬るにあたって多少の余裕はあるのだ。

 

「斬ってみる?手助けをするから、死んじゃうことは無いと思うよ」

「俺が、ですか」

「実力を見せてほしいなー弟弟子。それじゃ、そこの君、名前は」

「はいっ!村田です!」

「村田くん。あの鬼について分かっていることを教えてくれるかな」

 

何故か始まった突発的な実践授業は、最終的に義勇が無事に鬼の首を取ったことで終了した。鬼殺隊という仕事柄、実戦で成長することってままあるんだけど、それで死んじゃったら元も子もないからね……難しい。

今日の戦果は、三体生け捕り、一体討伐補助といったところだろうか。

個人的には中々な戦果と言っていい。これで冨岡義勇を継子として指名するだけの実績を見届けられた。弟弟子以外にも面目が立つから、早速、継子として向かえる手配と、鱗滝先生への報告をしなければ。

それにしても、なあ。

若い。すっごく若い。まだ第二次成長期前だからかな?顔立ちもあどけなさが残っている。

 

「君が冨岡義勇かあ……鱗滝先生から手紙で話は聞いているよ」

「俺も、先生からあなたの話を聞いていました。お会いできて光栄です」

「筋がいい。君はとても強くなるだろうね」

 

見る目とかじゃなくてカンニング知識です。

隠が後始末をしていくのに任せて、私は義勇を借りて一緒に藤の家紋の家に行くことにした。他の隊士は隠に任せよう。

家の者に頼んで、部屋をふたつと朝餉、湯浴みの準備をしてもらう。

ほんと、藤の家紋さまさまだ。柱であろうと彼ら彼女らがいないとまともな休息すら得られない。

風呂が一つしかないため、一応確認を入れたら一番風呂を譲られたのでありがたく頂戴する。こういうとき、目上が必要以上に謙遜していると周囲を困らせることになりかねない。槇さんから教わった。

先に風呂を済ませて、義勇が湯浴みを終えるまで茶を啜りながら待つ。この夜明けを迎えて日差しを浴びながらゆったりするのが、結構好きだ。日差しは鬼が得ることのできない、人間だけの特権だ。

養父は、この特権を奪われて何百年を過ごしたのだろう。

ぼんやりしていると、風呂を終えた義勇がこちらに来た。微妙に髪の毛から水滴がしたたっているのが気になる。仕方ないので手招きして私の前に座らせて、手拭いで乱暴に拭ってやることにした。手のかかる弟弟子である。

 

「……ねえさん」

 

聞かなかったことにしよう。

そういえば、今世の私自身は妹だった。姉が二人いて、三番目の女の子だったはず。はず、というのは私の前に誰か売られてるかもしれないから。貧乏農村の子沢山なんてそういうものだ。

二人の姉のうち、一番めは働き手だったから売られないと思うけど、二番めはどうなったのかなあ、なんて意味もない思考に若干の時間を割いた。

 

「ん、終わり。一緒にご飯たべよ。たまご焼きあげよっか?」

「要りません」

「そうかい。何が好き?」

「……鮭大根」

「私はねえ、軍鶏鍋が好きだよ」

 

言いながらお面を外すと、義勇が目を見開いた。あんまり人前でお面外すことないから、稲荷の化身だの化け狐だの好き勝手に噂されているのは知っている。隠との付き合いが長いのはこっちの方だ。

多少の噂話で気が紛れるならと放置しているけど、基本的に本人の耳に届くんだなあこれが。

 

「君たちは私のことをなんだと思っているんだね」

「水柱、霧雨いろは」

「そーいうことじゃあないんだよ」

 

いただきますと手を合わせると、向かいで義勇も手を合わせた。うむ、美味しい。疲れた身体に染み渡る。お味噌汁がやや濃いめに作られているのが匠の味。

食べながら、継子としての説明をする。義勇は一連の話をよく分からない顔で聞いていた。理解しているようなのでヨシとしよう。

 

「俺は、貴女とは違います。水柱などになるつもりはない」

 

俺は(選別を突破した姉弟子の)貴女とは違います、(大役である)水柱などになるつもりはない。

ってことね。圧縮言語が過ぎる。

 

「関係ないと思うけどね。そんな議論を始めたら、私ほど柱という大役に相応しくない者もいない」

 

喰われたがりの柱など、バレれば士気低下は確実だ。いずれ綻びが出るだろうとも思っている。

 

「私個人の見解として受け取ってほしいのだけれどね。柱の資質は単純。鬼をもっとも殺せるもの。君は剣の才能がある、いずれ柱になるだろう」

 

カンニング知識です。

 

「その時に君が困らないように、苦しくないように、必要なモノを教える。当代水柱の名において宣言する。次代は君だ。よろしくね」

「え、あ、は?」

 

断ったのに!という感情がありありと出ている。残念だったな冨岡義勇。私の知っている姉とは横暴の代名詞なんだ。

ついでに私は柱、君は一般隊士。権力が違うのだよ。ちょっと周囲に根回ししたらあっという間に継子と認定される。

 

「そういう横暴が許されるのが柱だからね」

 

顔が理不尽!と叫んでいる。無言だけど。

先に食べ終わり立ち上がる。懐から、義勇の湯浴み中に書き終えていた手紙を取り出した。目の前でヒラヒラと振って見せる。

 

「これは鱗滝先生とお館様に送る予定の、冨岡義勇を継子とするための連絡書。君が私からこれを奪えたら、あるいは切り捨てられたら、継子の話は諦めよう。さ、かかっておいで」

「その手紙を奪えばいいんだな……?」

「もちろん。あ、ここは藤の家紋の家だからあんまり暴れすぎないようにね」

 

そうして始まった唐突な鬼ごっこはもちろん私の勝利。恨みがましく私を見上げながら地面に伏せる義勇は、次期柱が内定した継子となったのだった。

継子、ゲットだぜ!

 

 

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