色々あって刀鍛冶の里に来ている、霧雨いろはです。
「あー……きもちい」
多忙な柱視点でも怒涛と言わざるを得ない任務の連続で疲労回復が間に合わなくなったのと、刀がそこそこイカれたので刀鍛冶の里にやって来ました。温泉最高。
軍鶏鍋出ないかな。
ここが将来大変なことになるんだもんな。結局、襲撃の原因てなんなんだろう。壺か?壺が悪さしたのか?
そこそこの長湯を楽しんで、桶に私の鎹烏用のお湯を張って部屋に持ち込んだ。うちの烏の
「瑪瑙、温泉だよー」
「ヤルジャナイ!」
女の子らしくお淑やかにお湯に浸かる瑪瑙はかわいい。任務に邪魔にならない程度に青いリボンを巻いてあげる程度には私も可愛がっている。
そしてご飯は軍鶏鍋だった。最高!温泉と軍鶏鍋の組み合わせに勝るものなし。
たらふく食べて温泉も楽しんだ。あとは刀と、前々から依頼していたモノを受け取れば里への用事は全て終了となる。
明日からまた鬼狩に翻弄される日々の始まりだ。終わりはない、悲しいね。
「イロハ、何ヲ作ッテ貰ッタノ」
「んー、補助武器っていうのかな。相談だけは前々からしてて、ようやく形になったの」
仕方ないじゃないか。
痣も透き通る世界も、いまだに到達できてないんだから。
「イロハ、ナンカ、暗イ」
「いろはさんだって惑い悩むことくらいありますー」
その正体は知っている。存在することもなんとなく分かる。
分かるのに、できない。何年も研鑽を重ねても、あと少しのところでその領域がすり抜ける。
全ては日の呼吸から始まっている。水の呼吸はその派生。日の呼吸よりずっと、その領域への道のりは厳しく遠いと、そう感じてしまう。実際には僻みなのかもしれないけど。
鬼滅の刃という原作を読んだ自分と、炎柱の書を読んだ槇さんは、多分少しだけ、近い位置にいる。
継国縁壱という神の領域に立った日の呼吸の使い手がどれだけ隔絶しているのか、自分がその場所にいかに届かないか、嫌というほど理解している。
彼が成し遂げられなかったことを、彼抜きで成し遂げなければならない。そんな無茶を目前にして、我が身がいかに矮小であるかを理解する。
それでも私が槇さんに叱咤する立場でいられるのは、その先を知っているからにすぎない。
「……動かないと、嫌なことばかり考えちゃうしね」
どうせ、時間は前に動き続ける。やれる時にやれることをやらないと、後悔なく喰べられることすらできない。
鉋さんが呼びに来るまでのおおよそ一時間、そんな会話をしていた。
「刀の手入れが終わりました」
「ありがとうございます。無茶な使い方をしてすみません……」
担当の鉋さんが刀を持ってきたので誠心誠意頭を下げた。むしろ百本中百本が「無理っす」と言うようなとんでもない使い方をして刃こぼれで済んだ鉋さんの腕の方がスゴイ。
刀を粛々と受け取る。さて、本題はもう一つある。鉋さんが、布に包まれた例のものを恭しく取り出した。
鋼を使って作られた、親指の先ほどの大きさの弾。
刃渡が中指と同じくらいの、小刀。
「日輪刀と同じ素材で作った指弾用の弾と、小刀です。ご確認を」
「ありがとう」
小刀の方は、全く心配していない。大きさが違うだけで同じ“刃”だ。
もう一つは……こちらも上々。素晴らしい出来栄えと言える。そもそも行さん用にモーニングスターを作るような人たちだから、こちらも心配しなくてよかったのかもしれない。
「数にしておおよそ三百ほど用意しました」
「多い!」
「いやあ、中々ない仕事だったので興が乗ってしまいまして」
「あ、そうでしたか……」
やる気失くされるよりは、いいのかな?
その後、刀鍛冶の里の外れを借りて、練習をすることにした。
まずは普通の指弾。うん、めっちゃ飛ぶ。飛ばすために重点とかのバランス考えてるからだと思うけど、その辺の小石より遥かに飛ぶ。威力も格段に向上している。
鬼を斬るときも、その辺の鎌より手入れされた日輪刀の方が斬りやすいのと同じだ。ただあくまで補助武器であり、斬る方がよっぽど有効だ。
「ナアニコレ」
瑪瑙からも、スゴイけどこの程度?という感情がひしひしと突き刺さる。痛い。視線が痛い。
「あくまで遠距離武器。本領はもう少し別のところにあるんだよね」
そう言いながら取り出した貰ったばかりの小刀を、新しく取り出した弾にぶつけてみた。
弾はどこかに吹っ飛んだ。
「……………」
「……………」
「……探すの、手伝って」
「……仕方ナイワネ」
使い捨てな以上あまり無駄にはしたくない。瑪瑙に手伝ってもらって、地面を這いつくばる羽目になった。柱といっても人間なのでこういう凡ミスもあるって。
それにしても、簡単にはいかないか。分かっていたことだけど、練習あるのみだなあ。刀振うのとは勝手が全然違う。
結局三十分くらい探すのに時間を消化して、その後は黙々と指弾の練習をしてから刀鍛冶の里を後にした。弾は全部で三百。多いのか少ないのか分からないが、鉋さんはノリノリで作っていたので、気軽におかわり出来そうなのが幸いか。
ただいま。久しぶりに感じる水屋敷。隠に背負われて午前九時ごろに帰ってきたら、たまたま義勇も同じ時間帯に帰ってきたようだった。
義勇は現在、継子として水屋敷の一室に住んでいる。とはいえ任務漬けなのであまり帰ってくることもないが、私も似たようなものか。
「義勇お帰り。温泉のお土産があるよ」
「必要ない」
「お土産は必要性の有無で判断するものではありません」
またこの子は仏頂面で圧縮言語やって。私は今後、義勇が柱になった後が心配ですよ。
「私が刀鍛冶の里に行ってる間、代理ありがとね。大変だったでしょう」
「報告書に書いてある、問題ない」
「後で読みます。とりあえずお風呂入って休みなさい。私は軽く片付けて、これから槇……煉獄家に行ってきます。午後から鍛錬なのでそのつもりで準備を」
「分かった」
素直に頷いて奥に去っていく義勇を見送って、里からもらってきた荷物を広げる。
小刀と弾。下弦までならともかく、上弦に一体どこまで通用するか分かったものじゃないし、もし使えるようになったとしても連発はできないだろう。所詮は小手先の技術にすぎない。
だが、もしも通用したのなら。
「……もしもばっかり考えてても仕方ないか」
まずは机上の空論を自分自身で実践できるようになること。柱相手か未だ柱未満の弟子たちかは分からないが、伝達はそれからだ。
小手先でもなんでも試したところで、使えるかは未知数だが、何もしないよりはマシだと言い聞かせる。
……思ったよりこの練習が身を結ぶのは早かったのだけど。