ミノタウロスの皿、あるいはテセウスの船   作:サブレ.

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柄の悪い新人

どうもこんにちは。最近入ってきた新人の柄が悪くて心配な、霧雨いろはです。

私これを取りまとめるんですかマジですか。

 

隣には古傷だらけで、ついさっき私がつけたばかりの額の傷が痛々しい新風柱の不死川実弥くんが座っている。その隣にはもう一人、新しく拝命されたばかりの新人柱。

実弥くんの額の傷に関しては、彼がお館様に食ってかかろうとしたので咄嗟に髪の毛を掴んで「礼儀!」と言いながら地面に叩きつけたからです。

とてもいい音が鳴った。その後お館様に手を離すよう言われて、言葉で諭してくださったのを見て「アッコレ原作の例のやつ」とようやく思い至りました。原作知識に関しては割と飛び飛びというか、印象深い記憶と曖昧な記憶が混ざり合っているところがある。

ちなみに礼儀に関しては、後々ほかの人が締めていたのでそちらに任せた。一応取りまとめ役でもあるのでね、ある程度経過したらまあまあと仲裁することで丸く収めるのが私の役目。

叩きつけたことに関しては現行犯ということで。

 

 

 

「……キツネに礼儀を説かれるとは思わなかった?」

「!……うす」

「あはは。そうだよねえ。一般隊士の間で色々と噂の種になってるのは知ってるよ」

 

常に狐の面を身につけているせいで、一般隊士は私の素顔を知らない者も多い。なんなら性別すら勘違いしている者もいるほどだ。隠してるつもりはないんだけどね。

現在は例の牛若丸と弁慶ごっこを見物するために私と実弥くんが並んで座っている。もう一人の新人柱は宇宙を背負いながら行さんに解説を受けている。

 

「なあ、これアンタが発案したって本当か」

「発案というか、なんとなくやってみたことが恒例化したというか」

「意味あんのか?時間の無駄だろォ」

 

今日の配役は、牛若丸役に胡蝶カナエ。弁慶役に宇髄天元。弁慶に刀を奪われる武士役に将来の水柱で私の継子の冨岡義勇。

わー美形しかいない。なんて豪華な配役なんだ。私が牛若丸をやったら狐面のおかげで若干胡散臭くなるのよね。ただ行さんが弁慶役をやった時の盛り上がりはすごい。

 

「そうだなあ……実のところ、柱って結構激務なんだよね。私が割と今日欠席の炎柱のところに行けてるのは、そこにいる継子に柱の業務を兼任させて負担を減らしているから」

 

キイン、と天元くんと義勇の刀が交差する。その重さに、義勇が僅かに眉を顰めたのが見えた。

 

「つまりね、ああやって刀を交わして相手の実力を知れる機会って、実は結構貴重なの。ごっこ遊びなら私闘ってくくりにも入らないしね」

 

一撃の重さ。

リーチの長さ。

重心の癖。

視線の高さ。

 

いつか肩を並べて共闘する日が来たとしたら絶対に役に立つ小さな情報すら、得る機会は滅多にない。

柱が継子以外の隊士を育てる暇も、柱同士で鍛錬する暇も、普通はない。悲しいなあ。槇さんマジでサボってるなら育成側に回ってくれないかなあ。

やる気なくなる理由もね、理解できなくもないんだけどね……こればっかりは感覚的なのもあるから……。

 

「なるほどなァ」

 

あ、納得した。こうして一から説明したら割と納得してくれるあたり、地頭いいし素直な子ですわほんと。

この子が今後弟と大揉めしてあの最後を迎えるんだからなー。なんというか、頼るの苦手な無茶する子ってことでいいのかね。一人で鬼狩してた頃の噂は私も聞いてたし。

 

「でも俺ァあんなの知らねえぞ」

「ごっこ遊びなんだから大体でいいよ。次に実弥くんがやるなら武士役にしようか。口上があるのって牛若丸と弁慶くらいなものだし」

「柱同士の鍛錬なんだろォ。あそこの冨岡は良いのか?」

「義勇は継子だし、生きてる限り次代の水柱に内定済みだからいいの。顔合わせも兼ねてるしね」

 

本人、未だに認めてなさげだけど、生来の生真面目さから私から任された柱の一部業務も普通にこなすし柱合会議にも私の付き添いという形で来る。周囲からは外堀を埋めていると言われがちだが、本人はまだ気づいていないらしい。

ごっこ遊びは佳境へと入ったようで、花柱と音柱による戦いへと移行していた。義勇はびしょ濡れになっていて、隠から手拭いをもらっていた。

武士役、結構派手に濡れるんだよね。

あ、そうだ。

 

「実弥くん。ほらほら、あそこ見てみなよ」

「えっ、」

 

示した先は産屋敷御一家の席。ここからだとお館様とあまね様の横顔が見える。

いつも通りの表情。角度だけは普段見ることのない、横顔。

 

「ここだけの話なんだけどね、私もお館様の笑顔があんまり好きじゃなかったの」

 

あくまで私にとってのお館様は上司であって父ではない。そして仮に父であったとしても、あのような全てを受け入れるような人となりはどうにも、違和があった。

だからもう少しばかり、こちらが困ったりツッコミを入れられるような、彼自身の表情が見てみたかった。

その結果が心臓に悪い手紙であるのだが。あの人結構お茶目なのよね。

 

「あの方は幼い頃に今の地位に就かれたんだ。きっと癖になってそうだなって、どうやったらあのニコニコ笑顔を崩せるだろう?鬼のことをちょびっとばかり忘れられるだろう?って考えて、それで行さんと試したのが今の『牛若丸と弁慶』」

 

そうしたら思いの外、楽しかったようで。

行さんは目が見えないし、突発的だから近くに隠もご家族もいらっしゃらなかった。

すぐにいつもの笑顔に戻ったけど、あの一瞬はきっと私しか見ていないし、生涯忘れることはないだろう。それほどまでに衝撃的な光景だった。産屋敷耀哉という一個人の、わずかに仮面が崩れた笑顔。

見れて良かった。見なければ良かった。

あの表情を見てしまった瞬間、取り返しのつかない思考に足を踏み入れた。

行さんが盲目で本当に良かった。あの顔を見るのが私だけで良かったと、心から思う。

それでも、意味はあったと信じている。

 

「色々と、忙しい合間を縫うだけの理由はあるのよね。これも」

 

あとは、まあ、個人的な要望なんだけど。

ワンチャン赫刀出ないかなって……痣者でないと出ない可能性高いんだけど、なんとかワンチャン行けないかなあ……。日輪刀ぶつけ合ってるしさ……。

そんな願いも虚しく、赫刀が出ることはなかった。

結局痣がスタートラインか。痣者の始まりの一人目が日の呼吸しかなれないとかだったら本気でキレそうなんだけど。

 

 

 

そうして今回の柱合会議は終了。

新たな二人の柱のうち次回の会議に参加できたのは不死川実弥だけで、もう一人は二月後に死んだ。やはり、次の顔ぶれも変わるのか。

 

「槇さん、次の柱合会議には出るつもりはありますか?」

「……さあな」

「とりあえず、ここ最近の鬼を無駄に痛ぶって取り逃すのはやめてもらえません?私が後始末する羽目になるんですが」

「暇なようだな」

「義勇に私の業務の一部を任せてるからなんとかなっているだけですー!」

 

なんだか私が煉獄槇寿郎担当みたいなことになっているが、望むところだ。

ヒントが欲しかった。わずかなカケラでもいいから、手がかりを掴みたかった。

 

「……なぜ構い続ける。同じ諦念を持つなら見捨てればいいだろうに」

「貴方が炎柱の書を読んだ上で破いたからですよ!私はあの領域の入り方を知りたいんです!」

「無駄なことを」

「試さず無駄と言うのと試して無駄と言うのは天と地ほどの差があるでしょう!」

 

貴方が折れるのは理解する。引き止めもしない。

ただ、私が折れずにいられるために利用するし、同じ柱としてやったことに苦言くらいは呈する。

 

「……少なくとも、煉獄杏寿郎に炎柱の座は明け渡して頂きますよ」

「くだらん夢だな。杏寿郎は炎柱にはなれない」

「ご安心を。杏寿郎くんで炎柱は末代です」

 

久方ぶりに槇さんの動揺を背中に感じながら部屋を出た。任務の時間がすぐそこまで迫っている。

杏寿郎くんは既に最終選別を突破して、鬼殺隊の一員として働いている。煉獄だからと贔屓はされないから少しずつ階級を上げている最中だが、いずれ柱になるだろう。

それを、分からぬ人でもあるまいに。

 




数年前

水柱(先輩)「お館様の庭で牛若丸と弁慶ごっこやろうぜ!お前弁慶!」
岩柱(後輩)「!?」
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