アルペジオ:ロスト・アンカー 霧の艦は未知の海を征く   作:おかーちゃんサーナイト

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蒼き鋼の邂逅

 

 潮の香りと、肌を撫でる涼やかな風。そして、規則正しく繰り返される穏やかな揺れ。

 

 意識が浮上する感覚と共に、自分が硬い鉄の床に横たわっていることに気づいた。

 

「ん……?」

 

 重い瞼をこじ開けると、まず目に飛び込んできたのは一点の曇りもない青空。

 

 しかし、その視界の端を、見慣れない人影が遮った。

 

「目が覚めたか、人間」

 

 厚士がそちらに視線を向けると、一人の少女がこちらを覗き込んでいた。

 

 茶色のショートアップの髪、そして勝ち気そうな光を宿した瞳。

 

 その姿には、はっきりと見覚えがあった。

 

(嘘だろ……なんで……)

 

 数えること約10年のアニメのキャラクター。

 

 『蒼き鋼のアルペジオ』に登場する「霧の艦隊」の一隻、大戦艦キリシマ。

 

 そのメンタルモデルが、今、目の前にいる。

 

 厚士は驚きに目を見開きながらも、ゆっくりと上半身を起こした。

 

 周囲を見渡せば、巨大な主砲塔、複雑に入り組んだ艦橋構造物。

 

 それらは厚士が知識として知る、旧日本海軍の金剛型戦艦そのものだった。

 

 ここは間違いなく、戦艦「霧島」の甲板の上だ。

 

「……キリシマ、だよな?」

 

 恐る恐る問いかけると、少女──キリシマは少し意外そうな顔をしながらも、胸を張って答えた。

 

「いかにも。私がキリシマだ。貴様こそ何者だ? なぜ私の船にいる?」

 

 その口調は、記憶にある彼女の好戦的な性格を彷彿とさせる。

 

 しかし、今の厚士にはそれ以上に確かめたいことがあった。

 

「あんた、イオナと……伊401と戦ったのか? それとも、もしかしてクマのぬいぐるみに……」

 

「イオナ? クマだと?」

 

 厚士の言葉に、キリシマは怪訝そうに眉をひそめた。

 

「心当たりはないな。私も、気づいたらこの大海原を航行していた。貴様が甲板に転がっていたこと以外、変わったことは何もない」

 

 キリシマの話は、厚士の知る物語とは食い違っていた。

 

 彼女はイオナと戦った記憶も、敗北して「キリクマ」になった記憶もないという。

 

 互いに置かれた状況が全くの謎。

 

 共通しているのは、「気づいたらここにいた」という事実だけだった。

 

「なるほど……」

 

 厚士の頭の中で、冷静に状況を分析し始める。

 

 素の自分であればパニックに陥っていただろうが、今は「当たり障りのない人間」を演じることで、かろうじて平静を保っていた。

 

「どうやら、俺もそっちも、わけのわからない状況に放り込まれたらしい。でもこっちに敵意はない。ただ、何が起きているのか知りたいだけだよ」

 

 厚士の言葉に、キリシマは腕を組んでしばらく考え込んでいたが、やがてふっと口元を緩めた。

 

「いいだろう。貴様が何か知っているというのなら、話を聞いてやらんこともない。私もこの状況は好かんのでな。情報交換といくか、人間」

 

 今のところ、互いに害する意思はない。

 

 こうして、32歳のオタク青年・新井木厚士と、意思を持つ超兵器の少女・キリシマの、奇妙な航海が始まった。どこまでも続く青い海と空の下、二人を待ち受ける未来を、まだ誰も知らなかった。

 

 厚士の話を聞き終えたキリシマは、腕を組んだまま一つ頷いた。彼女の表情からは、依然として戸惑いの色が消えていない。

 

「一先ず情報収集をしよう。もうやったかもしれないけど、長距離レーダーで地形スキャンを。それと、衛星回線にハッキングして、そこからインターネットに潜って情報を集められないか?」

 

 厚士の頭の中で、膨大な物語の知識から最適解を導き出す思考プロセス──彼が「フロム脳」と呼ぶそれが、現状を打破するための道筋を弾き出していた。自分はただのオタクで、ハッキングなどという特殊スキルは持ち合わせていない。だが、超技術の塊である「霧の艦隊」ならば、造作もないはずだ。

 

「……お前、自分が何を言っているか分かっているのか? 私の演算能力を試すような真似を」

 

 口ではそう言いながらも、キリシマの瞳にわずかな光が宿る。彼女が何かを思考するまでもなく、その命令は艦体(フネ)そのものへと伝達されていく。厚士には見えないレベルで、この鋼鉄の城は活動を開始していた。

 

 次の瞬間、キリシマの瞳が淡い光を放ち、彼女の周囲に幾何学的な紋様が浮かび上がる。まるでSF映画のワンシーンだ。厚士が呆然と見守る中、彼女はこともなげに言い放った。

 

「スキャン完了。演算処理もだ。…驚いたな。ずいぶんと脆弱なネットワークだ。現在位置は北太平洋のほぼ中央。最も近い陸地まで数千キロ。周囲に艦影はなし」

 

 そして、ハッキングの結果を告げる彼女の声には、僅かな困惑が滲んでいた。

 

「……日時……? グリニッジ標準時準拠で、2013年11月20日、水曜日。……おかしいな、私のクロノメーターと大幅な誤差が」

 

「2013年……」

 

 あっさりと成し遂げられた超絶的なハッキング。その結果もたらされた情報は、厚士にとって衝撃的なものだった。

 

 それは、彼がこの不可解な状況に陥る10年以上も前の過去だった。

 

 さらに、キリシマがどれだけ検索をかけても、「霧の艦隊」やそれに類する存在は、世界のどこにも確認できなかった。

 

 それもそのはずだ、と厚士は納得する。『蒼き鋼のアルペジオ』の物語において、「霧の艦隊」が人類の前に初めて姿を現すのは2039年。本編の時代は2056年頃。厚士の生きていた現実世界ですら、まだ25年は先の未来の出来事なのだ。

そして今いるのは2013年。物語が始まる遥か以前の時代だ。

 

「どういうことだ、人間。貴様は私のことを知っていた。だが、この世界のどこにも『霧』の情報はない。説明しろ」

 

 キリシマの鋭い視線が厚士に突き刺さる。

 

 厚士は一度大きく深呼吸をしてから、目の前の超兵器に向き直った。

 

「説明する。あんたがいた世界と、俺がいた世界。そして、今俺たちがいるこの世界は、どうやら全部違うらしい。俺の知る物語では、あんたたちはもっと未来に現れる存在だ。つまり……俺たちは、物語が始まるずっと前の、俺が元いた世界によく似た過去に飛ばされてきた、ってことじゃないかと思う」

 

 艦の往来もほとんどない、広大な太平洋の真ん中。

 

 時代遅れの鋼鉄の船体を持つ、未来からの来訪者。

 

 そして、その船に乗る、ただの一般人と、物語の登場人物。

 

 二人の置かれた状況は、あまりにも荒唐無稽だった。これからどうすべきなのか、皆目見当もつかない。

ただ、確かなことが一つだけあった。

 

 この世界にはまだ、「霧の艦隊」という脅威は存在しない。そして、目の前にいるキリシマは、人類の敵ではない、ただ一隻の迷子の戦艦でしかないということだった。

 

「……待て。中距離レーダーに感あり」

 

 穏やかな航海は、キリシマの鋭い一言によって破られた。彼女の視線が、何もないはずの水平線の一点に向けられる。

 

「なにかがこちらへと高速で接近してくる。それも一つではない……明らかに編隊を組んでいるな」

 

 その言葉に、厚士の背筋に緊張が走る。この時代に、大戦艦キリシマを捕捉し、編隊を組んで接近してくる航空機など、常識的に考えてあり得ない。

 

「キリシマ、最大望遠で映像を出せるか?」

 

 厚士の問いに、キリシマは無言で頷く。彼女の前に、光の粒子が集まって空間投影のホログラムディスプレイが形成され、急速に接近してくる「何か」の姿を映し出した。

 

 ディスプレイに映し出された機影は、黒かった。

 

 それは遠いから黒く見えるというわけではない。まるで鋼鉄を燃やし尽くした灰のような、生命感のない色合い。そして、その形状は厚士が知るどんな航空機とも異なっていた。

 

 鋭角的にデザインされた、まるでエイリアンの戦闘機のようなフォルム。機首には機関砲らしき銃口が覗き、翼下には爆弾か魚雷と思しき兵装が懸架されている。

 

 そして何より不気味なのは、機体の後部に埋め込まれた、緑の眼のような発光部位だった。

 

 その異様な姿を見た瞬間、厚士の脳裏に、あるゲームの記憶が閃光のように駆け巡った。

 

「深海棲艦の艦載機…!? そんなバカなっ!」

 

 厚士の口から、驚愕に満ちた叫びが漏れる。

 

 間違いない。あれは、厚士がプレイしているブラウザゲーム『艦隊これくしょん』──通称『艦これ』に登場する、人類の敵性存在「深海棲艦」。その空母が放つ艦載機だ。

 

 『蒼き鋼のアルペジオ』の世界に、なぜ『艦隊これくしょん』の敵が?

 

 ここは2013年の、俺がいた世界によく似た過去のはずじゃなかったのか?

 

 混乱する厚士をよそに、キリシマはディスプレイに映る不気味な編隊を睨みつけ、好戦的な笑みを浮かべた。

 

「ほう……面白い。この私に喧嘩を売ろうというのか。所属不明機!」

 

 彼女の足元で、艦の装甲がミシリと音を立てる。甲板上の対空砲塔が、ゆっくりと黒い編隊へと照準を合わせていく。

 

「どこの誰かは知らんが、いいだろう。歓迎してやる!」

 

 わけもわからず過去に飛ばされたかと思えば、今度は別の物語の敵性存在からの襲撃。

 

 厚士の常識が、目の前の光景によって次々と破壊されていく。

 

 キリシマが迎撃態勢に入る中、深海棲艦の艦載機は、一直線にこちらへと突き進んでくる。

 

 戦闘の火蓋が、今まさに切られようとしていた。

 

「キリシマ、クラインフィールド展開! 対空戦闘用意!」

 

 厚士は、ほとんど叫ぶように指示を飛ばしていた。頭の中では、冷静さを保とうとしながら未知の状況に興奮するフロム脳、そして純粋な恐怖を感じる人格がせめぎ合っている。

 

「アレが本物の深海棲艦なら、言葉が通じるお前たち霧とは違う! 話の通じない、正真正銘、人類の敵だ! それと艦橋に上がらせてくれ! さすがに露天甲板じゃ、人間の俺は死ぬ!」

 

 必死の形相で訴える厚士を、キリシマは一瞥した。彼女の目に驚きの色が浮かぶ。

 

 この人間が、なぜ霧の防御兵器である「クラインフィールド」を知っているのか。だが、今はそれを問いただす時ではない。高速で迫り来る敵性存在は、明らかに敵意を剥き出しにしていた。

 

「フン、面白い! 貴様の言うことが本当か、試してやろう!」

 

 キリシマが不敵に笑うと同時に、彼女の足元から艦全体へと、青白い光のラインが無数に広がっていく。次の瞬間、艦体を覆うように六角形の文様が組み合わさったエネルギーフィールドが出現し、不可視の障壁を形成した。クラインフィールドだ。

 

 ゴウン、と重低音を響かせ、甲板に林立する対空砲塔が一斉に敵機編隊へと砲口を向ける。無数の砲身が機械的な駆動音を立てて旋回し、レーダーと連動した照準システムが、異形の艦載機たちを次々とロックオンしていく。

 

「艦橋は向こうだ、人間! 死にたくなければさっさと入れ!」

 

 キリシマが顎で示した先、そびえ立つ艦橋構造物の一角にあるハッチが、自動で開いていた。厚士は礼を言う間もなく、転がるようにして艦内へと駆け込む。

 

 頑強な隔壁に守られた艦橋の窓から外を見やると、既に敵機編隊は目視できる距離にまで迫っていた。編隊は散開し、キリシマを包囲するように旋回を始める。その動きに一切の迷いはない。彼らは明確な殺意を持って、この鋼鉄の巨艦を沈めようとしていた。

 

「来るか……!」

 

 厚士が固唾を呑んで見守る中、キリシマは楽しげに口の端を吊り上げた。

 

「さあ、始めようか! 私の海で好き勝手はさせんぞ!」

 

 その言葉が号令だった。

 

 キリシマの対空砲群が一斉に火を噴き、無数の曳光弾が空を引き裂いて黒い翼の編隊へと殺到する。

 

 太平洋の空に、鋼鉄の咆哮が轟いた。

 

 無数の対空砲火が空を焦がし、深海棲艦の艦載機を次々と撃ち落としていく。だが、敵の数は多く、キリがない。何機かがクラインフィールドに衝突し、眩い光を放って霧散していく。

 

「キリシマ、レーダー範囲を中近距離、海上スキャンに切り替えてくれ! 艦載機がやって来たなら、その先に空母がいるはずだ!」

 

 艦橋の窓から激しい空中戦を見守りながら、厚士は叫んだ。彼の脳内では、艦これのゲームシステムと、アルペジオの兵器性能が高速で照合され、最適解を導き出していた。

 

「了解した!」

 

 キリシマは即座に反応し、その瞳に宿る光が演算処理の輝きを増す。ホログラムディスプレイの表示が切り替わり、扇状に広がるスキャンパルスが海面を走査していく。

やがて、レーダーの端に複数の影が捉えられた。

 

 スキャン画像が解析され、敵艦隊のシルエットがディスプレイに浮かび上がる。巨大な頭部のような構造物を持つ人型の艦影。異形の姿をした、より小型の艦影。そして、それらを取り巻くように航行する軽巡洋艦や駆逐艦クラスの反応。

 

「間違いない……空母ヲ級に、軽空母ヌ級。それに軽巡と駆逐艦……哨戒警備の空母機動部隊か!」

 

 厚士は、艦これプレイヤーとしての記憶から、敵の艦隊陣容を一瞬で見抜いた。敵はまだこちらを航空機による遠距離攻撃の対象としか見ていない。ならば、勝機はある。

 

「キリシマ、VLS(垂直発射システム)解放! 対艦ミサイルで空母を攻撃しつつ、艦首にクラインフィールドを集中展開! アフターバーナー全開で敵艦隊に吶喊するぞ!」

 

「なんだと!?」

 

 突拍子もない指示に、さすがのキリシマも驚きの声を上げた。しかし、厚士の言葉は止まらない。

 

「ヒエイもやってた! 姉妹艦のお前にもできるはずだ! 懐に潜り込んで、主砲射程範囲に捉えたら遠慮なくぶっ放せ!」

 

 その作戦は、あまりにも無謀で、あまりにも戦艦らしかった。

 

 ミサイルで先制し、敵の混乱に乗じて懐に飛び込み、自慢の主砲で殴りつける。

 

 キリシマの口元に、獰猛な笑みが浮かんだ。

 

「ヒエイ、だと……? 面白い! その名を出されて、退くわけにはいかないな!」

 

 彼女の言葉と共に、キリシマの艦体が咆哮を上げる。

 

 甲板のハッチが次々と開き、垂直発射システム(VLS)から無数の対艦ミサイルが白煙を引いて空へと舞い上がる。ミサイル群は放物線を描き、水平線の向こうの敵艦隊へと殺到していく。

 

 同時に、艦首部分のクラインフィールドが極限まで圧縮され、眩い光を放つ衝角(ラム)と化す。

 

「エンジン、オーバーブースト! 敵艦隊中央に針路固定! 突っ込むぞォ!」

 

 艦尾からは莫大なエネルギーが噴出し、鋼鉄の巨体が信じられない速度で加速を始めた。

 

 キリシマの船体が大きく沈み込むと、次の瞬間、艦尾から凄まじい水しぶきが巻き上がり、鋼鉄の巨体が海面を滑るように加速を始める。

 

 それはもはや航行ではなく、飛翔に近いほどの圧倒的な突進力だった。

 

 遠方でミサイルが着弾し、巨大な水柱が上がる。敵艦隊が混乱に陥るのが、レーダー越しに見て取れた。

 

 その混乱の只中へ、キリシマは一本の槍となって突き進んでいく。

 

 主砲塔がゆっくりと旋回し、今まさに射程圏内に入ろうとしている敵空母に、その切っ先を向けた。

 

 アフターバーナーが唸りを上げ、キリシマは海面に白い軌跡を描きながら敵艦隊へと突き進む。その速度はもはや戦艦の領域を遥かに逸脱していた。

 

「そこだァッ!」

 

 キリシマの咆哮と共に、主砲塔が火を噴く。放たれたのは砲弾ではない。空間を歪ませるほどの熱量を帯びた、青白いビームの奔流だ。しかし、超高速で移動する艦体からの射撃は、わずかなブレが命取りとなる。ビームは敵空母ヲ級を掠め、遥か後方の海面を蒸発させて巨大な水蒸気爆発を引き起こしただけだった。

 

「チッ…!」

 

 獲物を仕留め損ねた獣のように、キリシマが鋭く舌打ちする。だが、艦橋から響く厚士の声は冷静そのものだった。

 

「構うな、そのまま突っ込め!」

 

 厚士の言葉を信じ、キリシマは進路を変えない。その進路上に、回避しきれなかった敵艦隊の軽巡ホ級が立ち塞がった。人型の深海棲艦が、こちらに向けて主砲を放とうと腕を振り上げる。

 

 だが、それよりも早く、艦首に集中展開されたクラインフィールドの衝角がホ級の胴体に突き刺さった。

 

 ゴシャッ、という鈍い音と共に、軽巡ホ級の装甲がいとも容易く砕け散る。抵抗する間もなく、キリシマはその巨体で哀れな深海棲艦を轢き潰し、巨大な水しぶきと黒い残骸を蹴散らしながら、そのまま敵艦隊のど真ん中を突き抜けた。あっという間に敵艦隊の背後を取ることに成功する。

 

「左舷スラスター全開! 左ドリフト、相対速度を合わせろ!」

 

 即座に厚士の指示が飛ぶ。常識では考えられない命令だった。排水量数万トンの大戦艦がドリフトするなど、物理法則を無視している。だが、キリシマは霧の艦だ。

 

「やってやるさ!」

 

 キリシマが応えると、艦体左舷の喫水線下から凄まじい水流が噴射される。巨大な船体が大きく傾き、海面を削り取るようにして急旋回を開始した。まるでレーシングカーのような、あり得ない機動。敵艦隊と並走する形になった瞬間、厚士は最後の命令を下した。

 

「主砲、副砲、対空機銃、ミサイル発射管! 全門、放てぇぇぇっ!!」

 

 その号令は、一方的な蹂躙の始まりを告げた。

 

 主砲から放たれるビームが、至近距離から空母ヲ級の胴体を撃ち抜き、その巨体を真っ二つに引き裂く。

 

 右の副砲が絶え間なく火を噴き、軽空母ヌ級や駆逐艦の装甲を紙のように貫いていく。

 

 VLSからは再びミサイルが放たれ、回避する暇も与えず敵艦に突き刺さり、連鎖的な爆発を引き起こした。

 

 そして、本来は航空機を迎撃するための無数の対空機銃までもが水平射撃を行い、文字通りの弾幕を形成して、残った深海棲艦たちを蜂の巣にしていく。

 

 ゼロ距離からの、全火器による飽和攻撃。

 

 それはもはや戦闘ではなく、殲滅だった。

 

 黒煙と炎が海域を覆い尽くす中、キリシマは静かにその場に佇んでいた。

 

 ほんの数分前まで存在していた敵艦隊は、今や燃え盛る鉄の残骸と化して、ゆっくりと海の底へと沈んでいく。

 

 艦橋でその光景を見届けていた厚士は、大きく息を吐きながら、その場にへたり込んだ。

 

 とんでもないことをしてしまった、という実感だけが、彼の心を支配していた。

 

 

 

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