アルペジオ:ロスト・アンカー 霧の艦は未知の海を征く   作:おかーちゃんサーナイト

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無限大な撃ち放題とハイエナ祭り

 

 日本海、島根沖。

 

 第一洋上プラント『海神』の建設は、驚異的な速度で進んでいた。

 

 大戦艦キリシマと、イージス艦おおよど。

 

 二隻の霧の艦を同時に工作艦として投入し、ほぼ24時間、休みなく作業を続ける。

 

 その光景はもはや、人間の建築作業とはかけ離れた、神々の御業のようだった。

 

 そして、その神聖な創造の儀式の邪魔をする、あらゆる不浄なものを祓い清めるのが、もう一隻の霧の艦──重巡洋艦タカオの仕事だった。

 

「左舷前方、敵水雷戦隊! 旗艦、軽巡ツ級! 後方からも、敵航空機編隊、接近! 空母ヲ級の、艦載機よ!」

 

 タカオのブリッジに次々と敵の出現報告が飛び交う。

 

 だが、その報告を受ける艦長席の厚士の表情には、一切の緊張感などなかった。

 

 むしろその口元には、獲物を見つけた狩人のような獰猛な笑みが浮かんでいた。

 

(艦の規模だけで考えれば、キリシマとタカオの二隻で建設した方が早い……。だが、おおよどにはなくて、タカオには、あるものが、ある……)

 

 そう。それは超重力砲。

 

 敵が多少、強力な水上打撃部隊であろうと、空母機動部隊であろうと、この切り札が一枚あるだけで、戦況は一変する。

 

 キリシマができることは、タカオもできる。

 

 ならば、答えは一つ。

 

 タカオを使って、この周辺海域から深海棲艦を、一匹残らず根絶やしにする。

 

「タカオ! 敵空母がうっとうしい! 超重力砲、エンゲージ! 艦載機ごとまとめて塵にしてやれ!」

 

「了解! 愛さえあれば、なんだってできるんだから! 超重力砲、発射ァッ!」

 

 タカオの愛と、やる気に満ち満ちた絶叫と共に。

 

 漆黒のエネルギーが放たれる。

 

 それは空母ヲ級だけでなく、その周辺にいた全ての深海棲艦を飲み込み、空間ごと圧壊させていった。

 

 その圧倒的な殲滅力。

 

 そして、それを引き出しているのは間違いなく、艦長席に座る厚士の存在だった。

 

 彼が傍にいる。彼が自分を見ていてくれる。彼が、自分を指揮してくれる。

 

 その事実だけで、タカオのポテンシャルは有頂天。

 

 リミッターなど存在しないに等しい。

 

 イージス艦おおよどを護衛に使った方が、資材的には圧倒的に優しい。

 

だが、あらゆる不測の事態への対応能力の幅は、消費が重くとも、このタカオに軍配が上がるのだ。

 

 そして、その最大の懸念であった『消費の重さ』。

 

 それすらももはや、過去の話だった。

 

 プラントの基礎工事は既に終わり、天然ガスの掘削と精製を行う中核施設は、試験的に稼働を開始している。

 

 鎮守府にいた頃は、消費資材のバランスを考え、燃料、弾薬、鋼材と、律儀に補給を受けていた。

 

 だが、厚士は発見してしまった。

 

 霧の艦艇は、艦娘用の資材だけでなく、この掘り出したばかりの天然ガスからでも、直接ナノマテリアルを精製できるという驚愕の事実を。

 

 つまり、だ。

 

 燃料も、弾薬も、実質、無限大。

 

 バカスカ撃っても撃ち放題。

 

 コストは、タダ同然。

 

「───ククク……! クハハハ、ハーッハッハッハッハッ!! どうだ見たか深海棲艦ども! これが資源大国の力だ!!」

 

 厚士は高笑いをしながらタカオを操り、まるで害虫駆除でもするかのように、今日もまた、周辺海域の深海棲艦を追い掛け回し、蹂躙し、そして殲滅していく。

 

「資源の心配しなくて良いってのは、最っっっっ高に、気持ちがイイなァ!」

 

「ええ、ええ! そうよ! だから存分に、この霧の重巡タカオの実力、たっぷりと見せてあげるわ、艦長!」

 

「やったれタカオ! 今日の資材(タマ)は使い放題だ!! おかわりもあるぞ!」

 

「了ー解ッ!! 対空レーザーオンライン、フルオート! VLS全門解放! ミサイルカーニバルよッ!!」

 

「エネミータリホー、マルチロック! 撃っちゃうんだなこれがァ!! ガンホーッ! ガンホーッ! ガンホーーー!!!!」

 

 そのあまりにもヒャッハーな雄叫びは。

 

 キリシマや大淀の呆れたような通信と、そしてタカオの嬉しそうな嬌声と共に、日本海の青い空へと吸い込まれていった。

 

 

±±±±±

 

 

 第一洋上プラント『海神』の建設は当初の予定を遥かに上回る速度で進んでいた。

 

 周辺海域の深海棲艦をあらかた掃討し、戦闘がなくなった日には重巡タカオも、その強力なナノマテリアル生成能力を活かし、プラント建造に参加した。

 

 大戦艦キリシマ、イージス艦おおよど、そして重巡タカオ。

 

 三隻の霧の艦艇が同時に作業を行う。

 

 その光景は圧巻だった。

 

 だが。

 

 それでも厚士の頭の中に描かれている完成図は、あまりにも巨大過ぎた。

 

「……ダメだ。埒が明かんわ」

 

 タカオの艦長席で進捗状況を確認していた厚士は、大きくため息をついた。

 

 彼が計画している『海神』の最終的な全長は実に66km。

 

 単純比較で東京23区がすっぽり収まる巨大なもの。

 

 漁業組合との話で佐渡島を例に出したのは伊達ではない。

 

 これをたった三隻の手作業(?)でやろうというのは、いくら霧の技術でも無茶が過ぎた。

 

「……タカオ、予定を変更する。これより工作艦の追加建造に入る」

 

『ほう?』

 

「また何か面白いことを思いついたのね、艦長!」

 

「ああ。タカオ、一旦建設作業から離れろ。そして新しい、工作艦を一隻造るんだ。設計図は今から送る。大工作艦『霧熊』の簡易量産型だ。キリシマ、頼むぞ」

 

『人遣いが荒いな。貴様、最近私を便利屋か何かと勘違いしていないか?』

 

「実際便利なんだから仕方ないだろ。適材適所だ。頼むよ、キリシマ」

 

『フン、あとで私も適当に暴れさせろ』

 

「オーライ、任せろ」

 

 その突拍子もない命令。

 

 だが、タカオはもはや驚かない。

 

 すぐにタカオはプラント建設を中断し、新たな仲間を生み出すための作業へと移行した。

 

 そして、小一時間もせず、『霧熊』の弟分とでも言うべき一隻の新型工作艦が完成した。

 

「よし。じゃあ次だ」

 

 厚士の命令は止まらない。

 

「今完成したその新しい工作艦とタカオのペアで、さらにもう一隻、工作艦を造れ。そうしたらタカオは作業に戻って良いぞ」

 

 その瞬間。

 

 キリシマも、タカオも、そして、その通信を聞いていた大淀も。

 

 厚士がやろうとしていることの本当の恐ろしさに気づいた。

 

 ねずみ算式自己増殖。

 

 一隻が二隻になり。

 

 二隻が四隻になる。

 

 新しく造られた工作艦が、さらに次の工作艦を造り出していく。

 

 四隻となった彼女たちは、二隻ずつの二つのペアに分かれた。

 

 そして、常に二隻がペアとなって、新しい仲間を量産し続ける永久機関のような生産ラインが完成したのだ。

 

 彼女たちは既に、部分的に稼働を開始している洋上プラントの掘削リグから天然ガスをパイプラインで直接受け取り、それをリアルタイムでナノマテリアルへと変換していく。

 

 エネルギーは無限。

 

 材料も無限。

 

 彼女たちは止まることのない、海の上に浮かぶ巨大な3Dプリンターと化していた。

 

 そして、その3Dプリンターから生み出されてくる新しい、量産型工作艦たち。

 

 彼女たちは完成したその瞬間から、誰からの指示を待つでもなく。

 

 あらかじめインストールされている人工島建造プロトコルに従って、自律的に動き出す。

 

 ある艦は海底へと潜り、基礎杭を打ち込み。

 

 ある艦は海面に浮き、巨大な甲板ブロックを形成し。

 

 またある艦は、それらを、連結させるための精密な溶接作業を開始する。

 

 その光景はまるで、巨大な蟻塚を創り上げる蟻の大群のようだった。

 

 そこには個別の意志は存在しない。

 

 ただ一つの巨大な目的のために.完璧にプログラムされた無数の個体が、黙々と、そして、効率的に作業を続けるだけ。

 

 その異様な光景は、周辺国からの偵察衛星に何度も捉えられた。

 

 だが、彼らはそれが一体何なのか、全く理解することができず。

 

 ただ、『日本海に突如として出現した謎の超巨大構造物とそれを建設する正体不明の艦隊』として、畏怖と恐怖の対象として、記録するしかなかったという。

 

 

±±±±±

 

  

 日本海に突如として出現し、自己増殖を続ける謎の大船団と超巨大構造物。

 

 その存在は隣国だけでなく、全世界の注目の的となっていた。

 

 各国の政府が事態を静観する中、特に領土問題を抱える隣国からは、日に日に非難の声が高まっていく。

 

 その国際的な緊張が一つのピークに達しようとしていたある日。

 

 日本の外務省を通じて、全世界の報道機関に向けて一枚の公式な声明文が発表された。

 

 その声明文の発信者として記されていたのは、日本国政府の名前と、そして、異例なことに一個人の名前が併記されていた。

 

 東洋方面第一巡航艦隊 司令長官 新井木 厚士

 

 その内容はどこまでも簡潔で、そして、一切の外交的配慮を欠いた、あまりにも事務的な『事実』の通告だった。

 

 【日本海における、洋上施設建設に関する、日本国政府、及び、東洋方面第一巡航艦隊による、共同声明】

 

 各位。

 

 現在、我が国が日本海島根県沖、及び、富山県沖にて建設を進めている二つの大規模洋上施設(コードネーム:『海神』『竜宮』)に関し、一部の国々より懸念の声が上がっていることを承知している。

 

 よってここに、その建設目的と法的見解について、明確に表明するものである。

 

 一.施設の建設目的について

 

 本施設は、我が国の排他的経済水域(EEZ)内に存在する海底エネルギー資源(天然ガス、メタンハイドレート)を採掘・精製し、我が国のエネルギー自給率を確保することを第一の目的とする。

 

 同時に本施設は日本海全域の航路の安全を脅かす敵性存在、『深海棲艦』を発見し、これを撃滅するための前線軍事拠点としての役割を担う。

 

 二.法的見解について

 

 上記の通り、本施設は国際法上完全に、日本の主権が及ぶ領海内、及び、排他的経済水域内に建設されている。

 

 その目的も、資源開発と領海防衛という、国家の固有の権利に基づくものであり、他国から干渉を受けるいかなる謂れもない。

 

 したがって、本件に対するいかなる外部からの抗議も、我が国に対する悪質な『内政干渉』とみなし、断固としてこれを拒否する。

 

 三.追記事項

 

 本施設は完成後、鎮守府としての軍事的な機能を持ち合わせるが、これはあくまで自衛目的のものである。

 

 本施設の存在をもって、我が国が新たに排他的経済水域の拡大を主張するものではないことを、ここに明確に記す。

 

 以上。

 

 その声明文は、一見すると非常に冷静で、国際法に則った丁寧な文章だった。

 

 だが、その行間から読み取れるメッセージは、あまりにも傲慢で、そして、絶対的な自信に満ち溢れていた。

 

 要約すればこうだ。

 

「これは俺の家の庭で家庭菜園と警備システムの設置工事をやってるだけだ。文句があるならかかってこい。ただし、その場合は容赦はしない」

 

 その、あまりにも揺るぎない『事実』と、『覚悟』の通告の前に。

 

 隣国の政府も、そして、事態を静観していた他の国々も、もはや沈黙するしかなかった。

 

 なぜなら、その言葉の背景には、今この瞬間にも自己増殖を続け、海を埋め尽くしていく正体不明のオーバーテクノロジーの存在があるのだから。

 

 

±±±±±

 

 

 予想通り数日後。

 

 隣国及び一部の人権団体を中心に、国際社会から日本に対する非難の声が上がり始めた。

 

「日本の新型艦隊は、近隣で発生した海難事故の救難信号を意図的に無視した! これは人道に対する重大な罪である!」

 

「彼らは見殺しにしたのだ! 我々の勇敢な海の男たちを!」

 

 自らが仕掛けた盗人稼業の失敗を棚に上げ、被害者の顔をして国際世論を味方につけようとする、あまりにも厚かましいマッチポンプ。

 

 それは、彼らが長年得意としてきた外交戦術だった。

 

 各国のメディアも、センセーショナルにこの『見殺し事件』を報じ始めた。

 

 日本の新しい力が、その傲慢さの牙を剥き始めたのか、と。

 

 だが、厚士はその全てを完全に予測していた。

 

 非難声明が国連で議題に上がろうかというそのタイミングで。

 

 日本政府は駐日大使館を通じて、関係各国、及び、国連の安全保障理事会へ、一枚の分厚いファイルを提出した。

 

 その表題には、こう記されていた。

 

 【日本海における未確認艦艇の違法な領海侵犯、及び、敵対的軍事行動に関する調査報告書】

 

 (提出者:東洋方面第一巡航艦隊 司令長官 新井木 厚士)

 

 そのファイルに目を通した各国の外交官たちは、言葉を失った。

 

 そこには動かぬ『証拠』が、あまりにも克明に記録されていたからだ。

 

 証拠1:完全な通信記録

 遭難したとされる各艦艇が、出港前に本国の軍司令部や情報機関と交わしていた、全ての暗号通信。

 その通信内容は、『日本の新型艦の技術奪取』を目的とした、特殊作戦の概要を明確に示していた。

 

 証拠2:航行記録

 各艦艇が通常の航路を大きく外れ、明らかに日本の建設海域を目指して侵攻していたことを示す完璧なレーダー及びソナーの記録。

 

 証拠3:深海棲艦との交戦記録

 彼らが深海棲艦に発見され、一方的に攻撃されて沈んでいく、その一部始終を捉えた鮮明な映像記録。

 そして、その交戦中に彼らが発信した救難信号が、国際的な救難周波数ではなく、自国の軍事用周波数にのみ、限定されていたという、致命的な事実。

 

 厚士はただ傍受していただけではなかった。

 

 霧の圧倒的なハッキング能力を駆使し、彼らの企みを、その根っこから丸裸にしていたのだ。

 

 この完璧な証拠の山を前に、隣国の代表は国連の議場で顔面を蒼白にさせ、ただ黙り込むしかなかった。

 

 人道問題を訴えに来たはずが、逆に、自国の破廉恥なスパイ活動と、軍事的な侵略行為を全世界の前に暴露されてしまったのだ。

 

 この一件がもたらした影響は計り知れなかった。

 

 国際社会の認識の変化:

 世界は改めて、そして、明確に理解した。

 新井木厚士と、彼が率いる霧の艦隊は、ただ強いだけではない。情報戦においても既存のどの国家をも凌駕する、圧倒的な能力を持っている、と。

 

 彼の行動は、一つの明確な前例を作った。

 

 『正当な理由なく、我々のテリトリーに踏み込むハイエナに与える慈悲はない』。

 

 そのシンプルで揺るぎないルールは、今後、日本の海に手を出そうと考える、全ての国々に対する最も強力な抑止力となった。

 

 厚士は、たった一度の完璧なカウンターブロウで。

 

 国際社会における自らの、そして、日本の新しい立ち位置を、鮮やかに、そして、決定的に確立してしまったのだった。

 

 

 

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