アルペジオ:ロスト・アンカー 霧の艦は未知の海を征く   作:おかーちゃんサーナイト

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大戦艦、横須賀へ

 

 一夜が明け、厚士もCICの艦長席で数時間の仮眠を取った昼過ぎのこと。

 

 キリシマの艦内に、ナノマテリアルで急遽しつらえられた、会議室。その中央に置かれた長テーブルに、今回の作戦に参加した各鎮守府所属の戦艦艦娘たちが、緊張した面持ちで席に着いていた。

 

 金剛、比叡、榛名、霧島。扶桑、山城。伊勢、日向。錚々たる顔ぶれだ。

 

 そして、テーブルの上座に置かれた通信スクリーンの向こうには、横須賀鎮守府からこの会議を見守る、長門の姿があった。

 

 しかし、彼女たちの前に用意されていたのは、紅茶でもコーヒーでもなく、ただの「水」が入ったグラスだけだった。

そう、水しかないのだ。

 

 霧の艦艇であるキリシマには、そもそも食料という概念が存在せず、備蓄などあるはずもなかった。昨日、ソロモン海域へ急行したため、道中で魚を獲るような時間もなかった。今からならそれも可能だが、厚士は敢えてそうしなかった。この「飢え」すらも、交渉のカードにするつもりだったからだ。

 

 会議室に入ってきた厚士は、艦娘たちが訝しげに水のグラスを見つめているのを横目に、上座の、長門が映るスクリーンの隣席に着いた。

 

「集まってもらって感謝する」

 

 黒い軍服に身を包んだ厚士がそう切り出すと、場の空気が一層引き締まる。

 

「まず、自己紹介をさせてもらう。私は、東洋方面第一巡航艦隊所属、大戦艦キリシマ艦長、新井木厚士一佐だ」

 

 厚士は己の所属を、2056年の未来から来た海上自衛隊員であると、堂々と告げた。

 

「東洋方面第一巡航艦隊とは、君たちの時代で言う2039年に出現した『霧の艦隊』による奇襲攻撃を生き残った、海上自衛隊の残存艦隊のことだ。…もっとも、実態は、外洋を大手を振って航行できるのは、このキリシマと私だけ。他の艦艇は、横須賀の地下ドックに半ば死蔵されているようなものだがね」

 

 彼はそこで一度言葉を切り、艦娘たちの反応を窺う。彼女たちは、突如として語られた未来の話に、ただ困惑するばかりだった。

 

「このキリシマとは、その横須賀で出逢った。私が彼女の艦長となることで、人類にとって極めて希少な、『人類に味方する霧の艦艇』となったわけだ」

 

 厚士は続ける。この世界の彼女たちが知らない、もう一つの脅威について。

 

「『霧の艦隊』も、君たちの敵である深海棲艦と同じく、突如として現れた。第二次世界大戦期の軍艦の姿を持ち、クラインフィールドという強力なエネルギーシールドを持つため、我々人類の通常兵器では歯が立たない。さらに、このキリシマがそうであるように、見掛けは古くとも中身は最新兵器の塊、超重力砲のようなSFじみた兵装まで持つ、恐るべき敵だ」

 

 その説明は、深海棲艦の脅威に晒されている彼女たちにとって、他人事ではなかった。

 

「一つ、君たちの世界と我々の世界で決定的に違うことがある。我々の世界には、『艦娘』に相当する存在がいない」

 

 厚士は、その場の全員と、スクリーンの向こうの長門を真っ直ぐに見つめて言った。

 

「故に、私のように、霧のメンタルモデルを説得し、指揮下に置くことができる人間が重宝される。私がこの若さ…32歳で一佐という階級にいるのも、そのためだ」

 

 嘘と真実を巧みに織り交ぜた、壮大なハッタリ。

 

 しかしこうしたカバーストーリーというのは、嘘と真実を混ぜ合わせるからこそ、効果は絶大なのだ。

 

 昨日、キリシマが見せた圧倒的な力と、それを指揮した彼の姿が、その言葉に強烈な説得力を持たせていた。

 

 艦娘たちは、目の前の男が、自分たちの知る世界の理から、完全に外れた存在であることを、改めて理解させられた。

 

 会議室を支配する重い沈黙の中、厚士は畳み掛けるように続けた。

 

「今回、我々がなぜこの時代、この場所にいるのか。…端的に言えば、事故だ。『霧の艦隊』と交戦中、互いに侵食弾頭を撃ち合った結果、発生した空間湾曲に巻き込まれ、気づけばこの世界にいた」

 

 彼は一度、水の入ったグラスを手に取り、喉を潤す。

 

「インターネットから情報を収集し、君たちの敵『深海棲艦』を、我々人類の敵性勢力と断定。急遽、鉄底海峡攻略戦に参陣し、君たちを助けるに至ったわけだ。……ここまで言えば、我々の置かれた状況に、察しがついていると思う」

 

 厚士はテーブルに着く艦娘たち一人ひとりと、そしてスクリーンの向こうの長門と、視線を合わせるようにして言った。

 

「我々は、根無し草だ。燃料、弾薬を補給するアテがない。そして何より、人間である私の食料も、尽きかけている」

 

 その言葉は、彼女たちの前に水しか置かれていない理由を、雄弁に物語っていた。

 

「だが、我々には価値がある。こちらは、君たちの切り札である大和型を優に超える戦闘能力を持つ、大戦艦キリシマを擁している。昨日、戦艦棲姫を葬った『侵食弾頭』。あれは我々の世界では標準装備で、使わなければこちらが撃ち負けるような代物だったが、あの威力だ。その危険性は理解している。今後はICBMと同等の戦略兵器として、厳重に管理しよう。そもそも、侵食弾頭が使えずとも、超重力砲だけで深海棲艦相手には十分すぎる戦力だと、先刻確認済みだ」

 

 厚士は、自分たちの持つ圧倒的な「力」を提示する。そして同時に、それを管理下に置く「理性」も持ち合わせていることを示す。

 

「このキリシマの監督責任は、艦長である私が全て負う。もしキリシマが人類へ敵対行動を取るようなことがあれば、私を煮るなり焼くなり、好きにしてくれて構わない。監視員の同乗も受け入れよう。ただし、それは艦娘で頼みたい。万が一、艦を放棄して脱出する際に、人間を連れて行く余裕がない場合が想定されるからだ」

 

 彼は次に、相手の懸念を先読みし、譲歩案を示す。だが、決して全てを明け渡すわけではない。

 

「しかし、艦の武装解除。これだけは、済まないが受け入れられない。こちらが漂流者という弱い立場であることは理解している。だが、我々も銃の引き金に指をかけたまま、その銃口を明け渡すような愚行はできない。私も日本の海上自衛隊に籍を置く佐官だ。君たちの国の法律、軍法は最大限尊重する。だが、こちらにも譲れない一線があることは、理解してもらいたい」

 

 厚士は立ち上がり、テーブルに両手をつくと、少しだけ身を乗り出した。その眼差しは、真剣そのものだった。

 

「結論を言おう。そちらは、我々が喉から手が出るほど欲しい戦略物資を持っている。食料、燃料、弾薬、鋼材、ボーキサイト……艦娘用のそれで構わない。それらは、こちらのナノマテリアルに変換できる性質があるようだ。そしてこちらは、君たちが欲しているであろう、圧倒的な戦力を提供できる。補給に関しては、そちらが軍港や鎮守府を解放してくれるというのならば、こちらから出向き、港に接舷して受け取ろう。我々が互いに足りないものを、互いに提供する。この提案、双方にとって、決して悪くはない取引だと考えるが、どうだろうか?」

 

 静まり返った会議室。

 

 そこにいた誰もが、理解していた。

 

 これは、ただの救援要請ではない。

 

 漂流者を名乗る未来からの来訪者による、対等な国家間の軍事協定にも等しい、あまりにも大胆不敵な交渉であった。

そして、その提案を拒否するという選択肢は、事実上、彼女たちには残されていなかった。

 

 

±±±±±

 

 

 横須賀鎮守府近海。

 

 波を裂いて浮上したキリシマの艦体は、すでに幾度も深海棲艦を薙ぎ払った後だった。

 

 潜水艦を爆雷で叩き潰し、空母の艦載機を濃密な対空弾幕で粉砕。

 

 小規模の軽巡・駆逐艦隊は、副砲と魚雷で次々と海に沈められていった。

 

 それらはすべて、艦長席から厚士自身の手で操作した結果だった。

 

 そして今、灰色の巨艦は横須賀の港湾に接舷し、艦橋にはためく旭日旗がその存在を示していた。

 

 桟橋に立つのは二人の艦娘──長門と陸奥。

 

 そして、その中央に立つのは壮年の軍人。

 

 鋭い眼光と背筋を正した姿で、一目で歴戦の指揮官と分かる。

 

 瑞丸(みすまる)中将──この鎮守府の総司令である。

 

 厚士は軍帽を正し、深く一礼した。

 

「東洋方面第一巡航艦隊所属、大戦艦キリシマ艦長、新井木厚士一佐──接舷を許可いただき感謝いたします」

 

 海自式の敬礼。

 

 瑞丸は一瞬目を細め、しかしすぐに口元を綻ばせた。

 

「……なるほど。話は聞いている。だが本当に“漂流者”であるとはな。君がこの大艦を導いてきたか」

 

 その声音には威圧よりも、人の良さを含んだ親しみがあった。

 

 厚士はわずかに肩の力を抜き、頷いた。

 

「ええ。キリシマがいたからこそ、自分はここまで来られました。深海棲艦と戦えたのも、艦娘たちを救えたのも」

 

 瑞丸は大きく頷き、背後を指し示す。

 

「見ろ。君が救った者たちだ」

 

 桟橋に架けられたタラップを渡り、鉄底海峡攻略戦に参加していた艦娘たちが次々と下船していく。

 

 負傷者を支える者、互いに励まし合う者、目元を濡らす者──その一人一人が、厚士の背後から歩み去っていくたびに、彼の胸に静かな重みが積もっていった。

 

 瑞丸はその光景を見やり、改めて厚士へ視線を向ける。

 

「君のことは、まだ“異邦の存在”として扱わねばならぬ。だが──人の命を救った。それは確かだ」

 

 長門も陸奥も、その言葉に頷いた。

 

 そして、厚士は内心でひとつ息を吐く。

 

 ここからが、本当の交渉の始まりだと。

 

 

±±±±±

 

 

 横須賀鎮守府の埠頭に、鉄底海峡から生還した艦娘たちが、一人、また一人と降り立っていく。

 

 見慣れたクレーン、潮風に揺れる軍艦旗、駆け寄ってくる妖精たちの姿。それは紛れもなく、自分たちの母港だった。

 

「はぁ……。やっと、帰ってこれた……」

 

 誰かが呟いたその一言は、その場にいた全員の気持ちを代弁していた。

 

 中破、大破した者たちは、応急処置を施されているとはいえ、まだ痛々しい傷跡が残っている。健在だった者たちも、心身ともに消耗しきっていた。彼女たちは互いの肩を貸し、あるいは仲間に支えられながら、ふらつく足で固い地面の感触を確かめる。

 

 安堵。

 

 そして、圧倒的な感謝。

 

 あの地獄のような戦場で、自分たちの前に突如現れた黒い戦艦がいなければ、今頃どうなっていたか。考えただけで、ぞっとする。

 

 だが、彼女たちの心を占めるのは、それだけではなかった。

 

「……信じられないっぽい。あの船、本当に空を飛んだんだよね……?」

 

 駆逐艦「夕立」が、隣を歩く「時雨」に小声で話しかける。その目は、今も自分たちを港まで運んできた、巨大な艦体に釘付けになっていた。

 

「うん……見たよ。それに、最後の……黒い太陽みたいな攻撃。戦艦棲姫が、一瞬で……」

 

 時雨の言葉は、畏怖に震えていた。

 

 艦娘たちの視線が、一様に深緑の戦艦──「キリシマ」へと集まる。

 

 未来からの来訪者。自分たちの知る「霧島」と同じ名を持つ、未知の超兵器。そして、それをたった一人で指揮していた「新井木厚士」という名の艦長。

 

 彼らの存在は、艦娘たちの常識を、世界の理そのものを根底から揺さぶっていた。

 

「…霧の大戦艦、キリシマ……」

 

 戦艦「金剛」の隣で、眼鏡をかけた彼女の妹「霧島」が、複雑な表情で呟く。

 

 自分と同じ姿、同じ名を持つ存在が、自分たちとは比較にならない力で敵を蹂躙した。その事実は、彼女の胸に誇らしさと、そしてわずかな戸惑いを刻みつけていた。

 

 疲労と安堵。感謝と畏怖。そして、未知への好奇心と警戒心。

 

 様々な感情が渦巻く中、艦娘たちはただ、自分たちの母港の空気を吸い込む。

 

 彼女たちは生きて帰ってきた。

 

 しかし、自分たちの知る海は、もはや昨日までの海ではない。

 

 一個艦隊、いや、一つの国の軍事バランスすら覆しかねない、謎の「一手」が盤上に置かれたことを、彼女たちは肌で感じていた。

 

「金剛お姉さま! ご無事でしたか!」

 

「Oh! 妹たち! 心配かけたネー!」

 

 埠頭で待っていた金剛型四姉妹の比叡が、姉の金剛の姿を見つけるなり駆け寄る。金剛はそんな妹を力強く抱きしめ、無事を喜び合った。彼女たちのすぐそばでは、彼女の姉妹の榛名と霧島も涙を浮かべながら再会を分かち合っている。

 

「扶桑姉さま……! 帰ってきましたよ!」

 

「ええ……不幸中の幸い、でしょうか。あの艦のおかげで……」

 

 お互いを支え合うようにタラップを降りてきた扶桑と山城の姉妹は、出迎えた他の艦娘たちに囲まれ、その労をねぎらわれていた。彼女たちの脳裏には、あの絶望的な戦況と、それを覆した黒い戦艦の姿が、鮮明に焼き付いていた。

 

 埠頭のあちこちで、歓喜の輪が広がる。

 

 仲間との再会を喜び、抱き合う者。

 

 出迎えに来てくれた妖精たちに頭を撫でられ、はにかむ者。

 

 そして、誰もが同じ方向を、畏敬と、少しばかりの好奇の念を込めて見つめていた。

 

 視線の先には、自分たちの司令官である瑞丸中将と、対等に言葉を交わす、黒い軍服の男──新井木厚士の姿があった。

 

 そして、その後ろに静かに佇む、あまりにも巨大で、あまりにも異質な戦艦「キリシマ」。

 

「ねえ、あの方が……」

 

「うん、間違いなく。キリシマの艦長さん……」

 

「すごい人だよね……たった一人で、あの艦を動かして、私たちを助けてくれたんだから」

 

「未来から来た、って言ってたけど……」

 

 駆逐艦の少女たちが、ひそひそと囁き合う。

 

 彼女たちにとって、厚士はもはや単なる「助けてくれた人」ではなかった。

 

 絶望的な戦況を覆し、自分たち750隻もの仲間を、誰一人欠けることなく故郷まで送り届けてくれた、伝説の英雄。その姿は、神々しさすら感じさせた。

 

「しかし、あの艦……改めて見ると、とんでもない大きさだな」

 

「ああ。私たちの知ってる金剛型とは、何もかもが違う」

 

「あの艦が、これから私たちの味方になってくれるんだ……」

 

 重巡洋艦や軽巡洋艦の少女たちも、キリシマの威容を見上げながら、その圧倒的な存在感に息を呑む。

 

 自分たちが束になっても敵わなかった深海棲艦の姫を、たった一隻で、それも玩具のように蹂躙してみせた、規格外の力。その力が今、味方になる。その事実は、彼女たちの心に、これ以上ないほどの安心感と、未来への希望を与えていた。

 

 地獄から生還した英雄たちは、それぞれの仲間との再会を喜びながらも、その胸の内には、共通の思いを抱いていた。

 

 自分たちの運命を変えた、未来からの来訪者に対する、尽きることのない感謝と、畏敬の念を。

 

 そして、これから始まるであろう、全く新しい戦いへの、静かな予感を。

 

 

±±±±±

 

 

 横須賀鎮守府、司令官執務室。

 

 重厚な執務机を挟み、瑞丸中将と新井木厚士が対峙していた。部屋の壁際には、不動の姿勢で長門と陸奥が控えている。埠頭での人の良い雰囲気とは打って変わり、今は一国の軍事組織の長として、未知の戦力を前にした真剣な眼差しが厚士に向けられていた。

 

「まず、改めて礼を言う。鉄底海峡での貴官の判断と、大戦艦キリシマの奮戦がなければ、我が軍は多くの貴重な()を失っていただろう。心から感謝する、新井木一佐」

 

 瑞丸中将の静かだが、心のこもった言葉に、厚士は椅子に座ったまま、深く頭を下げた。

 

「お言葉、痛み入ります。中将閣下。同じ人類の脅威を前に、友軍を救うのは軍人として当然の行動であります」

 

「うむ。その上で、本題に入らせてもらう。貴官が艦内で提示した協力関係について、こちらとしても前向きに検討したいと考えている。だが、その前にいくつか、確認せねばならんことがある」

 

 中将の視線が鋭くなる。最大の懸念事項。あまりにも強大すぎる「力」の管理についてだ。

 

「承知しております」

 

 厚士は姿勢を正し、先んじてその懸念に答えた。

 

「最大の懸念は、大戦艦キリシマの武装…特に、戦艦棲姫を消滅させた『侵食弾頭』の扱いかと存じます。つきましては、当方より一つ、提案がございます」

 

「ほう、聞こう」

 

「今後、侵食弾頭の使用に関しましては、その必要性が認められる作戦においてのみ、事前に当方より使用申請書を提出。作戦内容、使用目的、想定される効果と被害を明記の上、中将閣下にご提出いたします。そして、閣下のご裁可をいただいた場合にのみ、使用許可が下りるものといたします。無断での使用は、決して行わないことを、私の名誉にかけて誓います」

 

 その言葉に、瑞丸中将だけでなく、背後に控えていた長門と陸奥の表情にも、わずかな驚きの色が浮かんだ。

 

 最強兵器のトリガーを、一方的にこちらの司令官に委ねるという提案。それは、厚士が自分たちの力を誇示するだけでなく、この世界の指揮系統と秩序を最大限に尊重する意思があることを示す、何よりの証だった。

 

 瑞丸中将は、腕を組んでしばらく沈黙した後、ふっと、その厳格な表情を和らげた。

 

「……驚いたな。貴官は、ただの猛将ではないらしい。組織というものを、よく理解しておられる」

 

「一人の軍人として、当然の分別であります」

 

「よろしい。その提案、受け入れよう。侵食弾頭は、貴官の申請に基づき、私がその使用を許可する。では、その他の協力体制については、貴官の要求通り、食料及び艦娘用の各種資材を提供する。その代わり、我が鎮守府が管轄する海域の防衛、及び今後の大規模作戦への、大戦艦キリシマの戦力提供を願いたい。異論はないかな?」

 

「ありません。光栄であります」

 

「うむ。貴官の身分は、当面の間『客員提督』とし、一佐待遇とする。キリシマは第1ドックを自由に使用したまえ。監視役兼連絡員として、後ほど何名か艦娘を向かわせよう」

 

 交渉は、驚くほどスムーズに進んだ。それは、厚士が軍人としての礼節を尽くし、相手の懸念を的確に読み取り、最大限の譲歩と敬意を示した結果だった。

 

「では、交渉成立だな」

 

 瑞丸中将はそう言うと、席を立ち、厚士の前に手を差し出した。厚士も立ち上がり、その手を固く握り返す。

 

「ようこそ、横須賀鎮守府へ。新井木一佐。貴官の力を、大いに当てにさせてもらうぞ」

 

「はっ。ご期待に沿えるよう、全力を尽くす所存です。中将閣下」

 

 握手を解くと、瑞丸中将は人の良い笑顔に戻っていた。

 

「さて、固い話はここまでだ。まずは長旅の疲れを癒してくれたまえ。歓迎の宴の準備をさせよう。貴官は、魚は食べられるかな?」

 

 その言葉に、数日間、まともな食事にありつけていなかった厚士は、軍人としての表情をほんの少しだけ崩し、安堵の笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

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