アルペジオ:ロスト・アンカー 霧の艦は未知の海を征く 作:おかーちゃんサーナイト
量産型霧のイージス艦の建造が正式に決定した翌日。
新井木厚士は、瑞丸中将、長門、陸奥、そして工廠と技術部の責任者たちが集まる会議の席で、新たな、そして驚くべき提案を行った。
「量産型イージス艦の建造にあたり、資材について改めて要求したく存じます」
厚士は、手元の端末を操作し、正面のスクリーンに二つの項目を提示した。
【要求資材リスト】
1. 艦娘用資材(燃料・弾薬・鋼材・ボーキサイト):重巡洋艦一隻の建造・運用に相当する量
2. 現物支給:海上自衛隊所属 イージス護衛艦「こんごう」型 一隻
その二項目めを見た瞬間、会議室がどよめいた。
資材だけでなく、本物のイージス艦を「素材」として要求してきたのだ。
「新井木一佐、これは一体どういうことかね? 説明を願う」
瑞丸中将が、冷静に、しかしその声には隠せない驚きを滲ませて問う。
「はい。実は、皆様に二つの選択肢をご提示したく、このリストを作成いたしました」
厚士は立ち上がり、スクリーンを指し示しながら説明を始めた。
「まず、一つ目の選択肢。それは、先日建造した『きりしま』と同様に、ナノマテリアル100%で、全く新しい霧のイージス艦を建造するパターンです。この場合、性能は『きりしま』と同等か、それ以上のものをお約束できます。しかし、重大なデメリットが一つございます」
「デメリット、だと?」
「はい。ナノマテリアル100%で構成された艦体は、その構造があまりにも特殊なため、整備や修理を行うには、母艦である大戦艦キリシマのナノマテリアル供給が不可欠となります。つまり、横須賀にキリシマが停泊していない限り、本格的なメンテナンスが不可能になってしまう。これは、独立した戦力として運用するには、あまりにも大きな制約となりかねません」
その指摘に、技術部の面々が深刻な顔で頷く。ブラックボックス化された技術に、運用保守まで完全に依存してしまうことのリスクは、計り知れない。
「そこで、二つ目の選択肢です」
厚士は、リストの二項目めを指し示した。
「現在、港に死蔵されている本物のイージス護衛艦『こんごう』型をベースとし、その内部に我々霧の技術を組み込む形で、近代化改修を施す、というパターンです。船体や基本構造は既存のものですから、クラインフィールドを突破されるような大きな損傷を受けた場合でも、ナノマテリアルによる自己修復だけでなく、皆様の工廠の妖精さんや、人間の手によるダメージコントロールも可能となります」
「なんと……!」
工廠の責任者が、思わず声を上げる。
「もちろん、性能面ではナノマテリアル100%の艦には譲ります。ですが、その分、最大のメリットとして、資材消費は通常の重巡艦娘や、場合によっては軽巡艦娘程度にまで抑えられるでしょう。また、整備性も格段に向上し、キリシマが不在の状況でも、独立して長期間の作戦行動が可能となります」
厚士は、説明を終えると、会議室にいる全員を見渡して、静かに問いかけた。
「さて、皆様。どちらを選ばれますか? 性能は最高だが、我々の息が掛からないと何もできない、ピーキーな『霧の技術100%のイージス艦』か。性能は少し落ちるが、我々が使い慣れた技術がベースで、燃費も良く、独立運用も可能な『ハイブリッド型の近代化改修艦』か」
その問いは、鎮守府の未来の戦術思想そのものを問うものだった。
未知の超技術に全てを委ねるのか、それとも、自分たちの技術と融合させ、制御可能な範囲で運用していくのか。
瑞丸中将は、深く腕を組み、目を閉じた。
答えは、もはや明白だった。
彼らが選ぶべき道は、一つしかなかった。
自分たちの手で維持・管理できる、理解の及ぶ兵器。その価値は、計り知れない。
瑞丸中将は、深く頷いた。
「……見事だ、新井木一佐。君は、我々が何を恐れ、何を望んでいるかを完璧に理解している。……答えは決まっているな。我々が信頼できるのは、我々自身が扱える艦だ。こんごう型を供出し、君の手で“霧との融合艦”として生まれ変わらせてくれ」
厚士は軍帽を正し、深く礼を取った。
「はっ、謹んでお受けいたします」
それは、単なる兵器の提供ではない。
未来の技術を、現代のシステムへと融合させるという、前代未聞の共同プロジェクトの始まりだった。
±±±±±
横須賀鎮守府、第1ドック。
そこには、数日前まで港の片隅で静かに眠っていた、海上自衛隊のイージス護衛艦「こんごう」が、その巨体を横たえていた。そして、その隣に並ぶように停泊する大戦艦キリシマから、無数のアームが伸び、「こんごう」の船体を慎重に、しかし恐るべき速度で解体し、内部構造を組み替えていく。
レーダーはより強力なものに換装され、VLSには霧の技術が組み込まれ、機関部にはナノマテリアルとのハイブリッドシステムが構築されていく。
その光景を、ドックサイドから見守っていたメンタルモデルのキリシマは、隣に立つ厚士に、感心したような、呆れたような声で話しかけた。
「……それにしても、貴様は本当に面白いことを考える奴だな、アツシ。私のナノマテリアルだけで作った方が、遥かに高性能なものができるというのに、なぜわざわざ、こんな鉄のスクラップを弄くり回す?」
その問いに、厚士は巨大なクレーンが「こんごう」の主砲塔を吊り上げるのを眺めながら、静かに答えた。
「実は、俺のオリジナルアイデアじゃないんだ。これは、俺の知る物語……『蒼き鋼のアルペジオ』の中で、イオナがやっていたことの、応用なんだよ」
「イオナが?」
キリシマが、意外そうな顔で聞き返す。
「ああ。あっちの世界では、人類側に付いたイオナにとって、ナノマテリアルを補給する手段は、ひどく限られていた。だから彼女は、自分の船体の一部を、人類が作った資材や兵器に置き換えて、その分のナノマテリアルを予備として捻出していたんだ。いわば、苦肉の策だな」
「なるほど。燃費改善のためのダウングレードか。馬鹿げているが、理には適っているな」
「だろ? もっとも、こっちの世界では、艦娘用の資材をキリシマに突っ込めば、ナノマテリアルはほぼ作りたい放題だから、その心配はない。俺がこの方法を選んだのには、別の理由がある」
厚士は、ドックで働く妖精さんや、遠巻きに見ている鎮守府の職員たちに、ちらりと視線を向けた。
「人間ってのは、自分の理解が及ぶ道具の方が、安心して使える生き物なんだ。ワケのわからないブラックボックスよりも、自分たちの手で整備できて、いざとなれば修理もできる、使い慣れた道具の方が、信頼できる」
そして、厚士は最大の理由を口にした。その声は、冷徹な戦略家のものだった。
「それに、なにより……プロパガンダ効果だよ」
「ぷろぱがんだ?」
「ああ。考えてもみろ。鎮守府の外にいる、艦娘を知らない一般の国民にとって、『少女の姿をした兵器が国を守っている』というのと、『つい一年前まで現役だった、見慣れたイージス艦が、新たな力で再び国の盾となった』というのとでは、どちらが分かりやすく、安心できるニュースになる?」
その問いに、キリシマは初めて、厚士の本当の狙いを理解した。
「……答えは、言うまでもないだろ? 新しい艦が完成し、その姿が報道されれば、国民は熱狂する。自分たちの知る最強の盾が、深海棲艦という未知の脅威に対抗できる力を持って帰ってきた、と。それは、艦娘という存在を補完し、国民全体の士気を高める、最高のプロパガンダになるんだ」
厚士の視線は、目の前のドックではなく、その遥か先にある、この国の未来を見ていた。
彼にとって、この近代化改修は、単なる兵器開発ではない。
人心を掴み、世論を味方につけ、この世界における自分たちの存在意義を確立するための、極めて高度な情報戦略の一環だったのだ。
戦術、兵站、そして人心掌握。
厚士の語る、多角的な戦略。キリシマは、自分の指揮官の思考の深さに、改めて静かな戦慄を覚えていた。
この男は、ただ戦が強いだけではない。戦争そのものを、そしてその裏にある人間社会の力学すらも、完全に手玉に取ろうとしているのだ。
±±±±±
「……プロパガンダ、か。貴様は、ただの戦闘狂かと思っていたが、どうやらそれだけではないらしいな」
ドックで行われている壮大な近代化改修を見下ろしながら、キリシマは隣に立つ厚士に、純粋な興味を込めた問いを投げかけた。
「だが、なぜそこまで考える? 人々の心など、圧倒的な力で捻じ伏せれば、それで済む話ではないのか。なぜ、わざわざそんな面倒な手を使ってまで、人心を掌握しようとする?」
彼女の思考は、力こそが全てを決定するという、霧の艦隊の行動原理に基づいていた。民衆の支持や、世論の動向など、彼女の価値観の中では考慮に値しない、些末な要素でしかなかった。
その問いに、厚士は少しだけ遠い目をして、苦笑いを浮かべた。
「そう単純な話じゃないんだよ、キリシマ。俺たちの世界……特に、この日本という国が採用している、『民主主義』って奴は、色々と気難しい怪物でな」
「みんしゅしゅぎ?」
「ああ。国民一人ひとりが国の主権者であり、その国民の支持がなければ、どんなに強力な軍隊も、どんなに正しい政策も、いずれは立ち行かなくなる。そういう面倒なシステムなんだ。力だけでは、人は動かない。心を動かさなければ、本当の意味で味方にはなってくれないのさ」
厚士の説明は、キリシマにとって、まるで理解不能な異星の言語のように聞こえた。
個の集合体が、絶対的な力を持つ個を縛る。その概念が、彼女には理解できなかった。
そんなキリシマの困惑した表情を見て、厚士はポンと手を打った。
「……まあ、口で説明しても難しいか。もし、その『民主主義』って奴の厄介さと、俺がやろうとしていることの意味が知りたければ、一つ、良い教材があるぞ」
「教材?」
「ああ。『銀河英雄伝説』っていうアニメだ。時間がある時にでも、アーカイブから検索して観てみるといい」
厚士は、悪戯っぽく笑った。
「独裁国家と民主主義国家が、宇宙を舞台に150年も戦争を続ける壮大な物語だ。それを見れば、俺の言いたいことや、これからやろうとしていることが、なんとなく……本当に、なんとなくだとは思うが、わかるはずだ」
その言葉に、キリシマは「ぎんがえいゆうでんせつ…」と、初めて聞く単語を反芻した。
彼女の超高性能な演算能力が、その未知のデータに対する興味を、急速に増大させていく。
厚士は、再びドックへと視線を戻した。
彼の頭の中には、銀河英雄伝説に登場する二人の天才、ラインハルト・フォン・ローエングラムと、ヤン・ウェンリーの姿が浮かんでいたのかもしれない。
絶対的な力を持つ独裁者と、腐敗した民主主義の中で苦悩する智将。
自分は、どちらの側に立つべきなのか。あるいは、全く新しい第三の道を、この世界で示すことができるのか。
「さてと」
厚士は、思考を切り替えるように、軽く首を鳴らした。
「俺たちの仕事は、まず目の前のこの艦を、最高の形で完成させることだ。物語の続きは、それからだな」
その言葉に、キリシマも頷き、二人は再び、生まれ変わっていく鋼鉄の巨体へと、その視線を注ぐのだった。
±±±±±
近代化改修を終えたイージス艦「こんごう」の、本格的な外洋航行テストの日がやってきた。
横須賀の港を、静かに出航していく灰色の船体。その少し後方を、まるで護衛するように、霧のイージス艦「きりしま」が追随する。
「こんごう」の艦内は、活気に満ちていた。艦橋には、鎮守府から選抜された人間のベテラン乗組員たちが、緊張と興奮の面持ちで各々の持ち場についている。そして、その後方には、金剛、比叡、榛名、霧島の四姉妹が、オブザーバーとして、また、来るべき「メンタルモデル運用テスト」のために控えていた。
その傍らには詳細なデータ収集の補佐役として、霧のイージス艦「きりしま」が随伴する。
さらに、万が一の戦闘に備え、「こんごう」の艦尾ヘリポートには、暁、雷、響、そして以前も乗艦した電からなる、第六駆逐隊が。「きりしま」のヘリポートには、吹雪を旗艦とした第十一駆逐隊(白雪、初雪、深雪、叢雲、磯波)の面々が待機していた。
テストは、二つのフェーズに分けて行われた。
フェーズ1:人間のみによる運用テスト
海上自衛隊から出向してきたベテランの乗組員たちが、「こんごう」のブリッジで各々の持ち場につく。瑞丸中将も、司令官席からその様子を見守っていた。
やがて、レーダーが深海棲艦の小艦隊を捕捉。中将の号令一下、戦闘が開始された。
「目標、敵巡洋艦! 主砲、撃ち方始め!」
「了解! 主砲、撃ち方始めます!」
「VLS、対艦ミサイル発射用意!」
「ミサイル発射、用意!」
艦橋内を、規律正しく、しかしどこか人間的なタイムラグを含んだ声が飛び交う。艦長の命令が、砲術長や水雷長といった各セクションの長へ伝達され、彼らが部下へ指示を出し、ようやく兵装が稼働する。
戦闘は、問題なく「こんごう」の勝利に終わった。その性能は、既存の艦娘の戦艦にも匹敵する、素晴らしいものだった。
フェーズ2:艦娘によるメンタルモデル方式テスト
次に、人間の乗組員に代わり、金剛、比叡、榛名、霧島の四人がブリッジに入る。彼女たちの思考が、艦のシステムと直結し、より直感的な操作を可能にする。
再び、別の深海棲艦隊と交戦。
「目標発見デース! 主砲、Fire!」
金剛の号令と共に、主砲が火を噴く。人間の時よりも、命令から実行までのプロセスは明らかに短縮された。艦娘の判断で、ある程度の自律的な迎撃も可能だ。
こちらも、結果は圧勝。その戦闘能力は、人間のみの運用時を遥かに上回っていた。
テストは、大成功に見えた。誰もが、人類の新たな力の誕生に、満足していた。
ただ一人、このテストを冷静に分析していた、新井木厚士を除いては。
テスト終了後、瑞丸中将は、随伴していた「きりしま」の艦橋にいる厚士へと通信を入れた。
「新井木一佐、素晴らしい艦をありがとう。これならば、我々だけでも十分に戦える」
「お褒めに預かり、光栄です。ですが、中将閣下」
その言葉に厚士も敬礼をもって答えた。
だが、テストのデータを収集していた「きりしま」の艦橋で、厚士と大淀は、一つの厳然たる事実に気づいていた。
どちらの運用方法も、厚士とキリシマが操る「きりしま」の、圧倒的な応答速度には、遠く及ばないのだ。
その理由は、指揮系統の構造的な違いにあった。
まず、「こんごう」(人間運用時)。艦長の命令が、まず各セクションの長(砲術長や水雷長など)に伝達される。そして、その長が部下に指示を出し、初めて艦が動く。そこには、命令→受諾→実行という、軍隊組織として正しいが、時間のかかるプロセスが、必ず介在する。
次に艦娘運用時。艦娘の思考が直接艦を動かすため、反応は速い。しかし、彼女たちはあくまでも「兵」であり、その上には必ず「指揮官(提督や艦長)」が存在する。緊急時には独断で動くことはあっても、指揮官がその場にいる以上、その最終的な決定と指示を待つという、思考のプロセスが挟まる。
だが、「きりしま」は、そのどちらとも全く異なっていた。
キリシマは、自律思考型のユニオンコアを持つ、独立した一個の知性体だ。彼女は、常に自分で考え、次の行動を予測している。
そして同時に、艦長である厚士の思考や生体反応を、絶えずスキャンし続けている。
厚士が「敵を発見し、主砲で撃つ」と考えたその瞬間には、既にキリシマのシステム内で、照準やエネルギー充填といった、コマンドの先行入力が始まっているのだ。
そして、厚士が口頭で命令を発する頃には、キリシマは既に複数のシミュレーションを完了させ、最適解を導き出している。
厚士とキリシマの間には、命令の伝達や、意思決定を待つというプロセスが、事実上存在しない。二人の思考は、常にツーカーで、一心同体なのだ。
結論として、軍隊の指揮系統としては、「こんごう」の方が、遥かに「正しい」姿だった。
しかし、「きりしま」は、軍艦というよりも、厚士という脳が、キリシマという神経網を通じて操る、一個の巨大な生命体に近い。厚士にとって、きりしまは、自身の身体の延長のように、思考の速度で操艦できてしまうのだ。
その圧倒的な差は、戦闘における、ほんの数秒、コンマ数秒の反応の違いとなって現れる。そして、そのわずかな差が、生死を分ける決定的な要因となり得ることを、厚士は誰よりも知っていた。
「こんごう」改は、人類が作り得た、最高の「兵器」。
そして、「きりしま」は、厚士とキリシマという二つの個が融合した、異質の「生命体」。
その本質的な違いが、航行テストによって、明確に示されたのだった。
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「こんごう」改の航行テストは、順調に続けられた。艦は日本列島の太平洋側を南下し、製油所が点在する沿岸部へと進出していく。この海域は、深海棲艦の主力艦、特に戦艦ル級の目撃情報が多い危険地帯だった。
道中、軽巡や重巡が率いる水雷戦隊と幾度か遭遇したが、「こんごう」改はそれらを全く寄せ付けなかった。人間のクルーと金剛型艦娘の連携は、テストを重ねるごとに練度を増し、ビームと実体弾を織り交ぜた主砲攻撃と、VLSからのミサイル攻撃で、敵艦隊を的確に、そして効率的に撃滅していく。
途中、製油所に立ち寄り、燃料の補給を受けた「こんごう」改は、ついに四国沖の海域へと進出した。
そして、その時は来た。
「レーダーに感あり! 敵水上打撃艦隊を捕捉!」
「こんごう」のブリッジで、索敵を担当していたクルーが叫ぶ。
「旗艦、戦艦ル級! 随伴に雷巡チ級、軽巡ヘ級、駆逐ロ級2隻を確認!」
ついに現れた、戦艦クラスを中核とする、本格的な敵主力艦隊。
「こんごう」のブリッジに、緊張が走る。
その様子を、少し離れた後方で並走する「きりしま」の艦橋から、厚士は静かに見守っていた。
「ここから先、戦闘の主導権は『こんごう』に任せる」
厚士は、隣に立つキリシマに告げた。
「だが、油断はするな。両舷減速、いつでも介入できるよう、距離を保て」
「了解した」
「VLS、ハッチ開け。ミサイル発射管、1番から8番セルは、対艦ミサイル『スレッジハマー』を装填。マイクロミサイルも、即時発射可能な状態でスタンバイさせろ。主砲は、常に敵旗艦である戦艦ル級に指向。いつでも援護できるようにしておけ」
厚士は、完璧なバックアップ体制を整えさせた上で、まるで観劇でもするかのように、艦長席に腰を据えながら「こんごう」の戦いを見守り始めた。
海上自衛隊の運用思想と、艦娘の魂、そして霧の技術が融合した、人類のための新しい牙。それが、どれほどの力を見せてくれるのか。
「敵艦隊、射程圏内に入ります!」
索敵班からの報告に「こんごう」のブリッジで、艦長役の士官が叫ぶ。
「ようし! 対水上戦闘、用意!」
ブリッジの中央に立つ金剛が、メンタルモデル代理として、力強く号令をかけた。
「VLS、対艦ミサイル発射! 主砲、砲撃始め! 目標、敵旗艦、戦艦ル級! Burning Love! デース!」
金剛の威勢の良い号令と共に、「こんごう」改がその牙を剥いた。
VLSから、人類が開発した対艦ミサイルが、炎を吹いて次々と発射される。同時に、主砲が火を噴き、大口径の実体弾が戦艦ル級へと殺到していく。
それは、厚士とキリシマが見せる、静かで一方的な殲滅戦とは違った。
砲声が轟き、硝煙が立ち上る、誰もが知る「海戦」の光景。
「敵一番艦、ミサイル着弾!」
「主砲、第二射、命中!」
戦艦ル級の巨体が、連続する着弾で大きく揺れる。だが、敵もさるもの。ル級の主砲が反撃の火を噴き、強力な砲弾が「こんごう」へと迫る。
「クラインフィールド、最大展開!」
ブリッジに立つ比叡が叫ぶ。艦体に淡い光の膜が形成され、敵の砲弾を弾き返した。
「敵の雷巡と軽巡が前に出てきます!」
榛名が、冷静に戦況を分析する。
「VLSからマイクロミサイルを発射! 鬱陶しい護衛は、先に沈めるのよ!」
霧島が、的確な指示を出す。
VLSから、霧の技術であるマイクロミサイルが発射され、突進してくる雷巡チ級と軽巡ヘ級を的確に捉え、撃沈した。
人類の兵器と、霧の兵器。その二つを、彼女たちは巧みに使い分けている。
「よし! 邪魔者はいなくなったネ! 主砲、ビームモードに切り替え! トドメを刺すヨー!」
金剛が、最後の号令を下す。
主砲の砲身に、ナノマテリアルによるエネルギーが収束していく。そして放たれたビームが、既に満身創痍だった戦艦ル級の胴体を、正確に撃ち抜いた。
一際大きな爆発を起こし、戦艦ル級はゆっくりと海の底へと沈んでいった。
「こんごう」のブリッジが、歓喜の声に包まれる。
その光景を、「きりしま」の艦橋から見ていた厚士は、満足げに、そして静かに、微笑んでいた。
それは、自分の子供の成長を見守るような、穏やかな笑みだった。
人類は、新たな力を、確かにその手にしたのだ。