◇
「……と、いうわけなんだ」
「ええと、……いや、どういうわけなんだい?」
そうして私が電話をかけていたのはレイアだった。
牢屋敷で一緒に過ごしていた少女であれば、相談する相手としては誰でもいいような気がしたけれど、なんとなくこういったときに心の底から話すことができるのは彼女しかいない、という実感がある。だからこそ私はレイアに電話をかけていた。
私が行うべき学業や業務を終えて帰宅し、それから逡巡を巡らせた後に、私は彼女に電話をかけていた。遠い場所へと通学している関係で、電話をかける時間帯としては正しくないと思えるほどに遅い時間だったが、一応事前にメッセージを入れていたおかげか、レイアは予定通りに通話に出てくれた。
「送っただろう、メッセージ。……見てないのか?」
「……いや、見たよ。見たうえでの感想が、どういうわけ、というところではあるんだけど……」
はあ、と私は息をついた。彼女に聞こえるようにあからさまに。そうすると電話口から「私が悪いのかい?!」と少し演技めいたツッコミを返してくる声が聞こえてくる。私は彼女のそういった部分が少し面白くて好きだ。
「ともかくとして、メッセージで送った以上のことを聞きたいわけじゃない。私はこれからどうすればいいのか、そう思って君に聞いているわけなんだが」
「……そう言われてもなぁ」
電話先で、レイアは困ったように息をつく。考え込んでいるのか、とそう思うようなため息ではあったが、途端にくすくすと笑うような声をこちらに聞かせてきた。
「だって、もう仲直りはしたんだろう? それだったら、別に何の問題もないじゃないか」
「……だから、それとこれとは別問題で──」
「──そうかな? 別に、私はそんなに変わらないことだと思うんだけども」
私の言葉を食うように、レイアは言葉を挟んでいく。
「ええと……。今、改めてメッセージを見返しているけれど、やはり何が問題なのかが正直わからないよ。エマくんと仲良くしたい、ってだけの話だろう?」
「い、いや、そういうわけじゃ──」
レイアの言葉に、私は少ししどろもどろとなって冷静さを欠いてしまう。
別に、私はエマと仲良くなりたいわけじゃない。……いや、仲良くなりたくないわけでもない。ええと、やはりこれはそういった問題ではなくて、私なんかが彼女に近づいていっていいのだろうか、という倫理観の問題だ。
「──私はね、ヒロくん。彼女との間に何があったのか、という部分は正直知らない。きっと聞いても教えてはくれないだろうし、エマくんも積極的に話す、ということはしないだろうからね。だから私は君たちの事情についてを詳しく聞かないことにしているけれど、それでもいざこざや諍いなんかは解決したんだろう? それだったら別にエマくんと仲良くするのも、距離を近づけるのも、別に間違っている……いや、ヒロくん風に言うのなら『正しくないこと』ではないと、そう思うけどね」
レイアは、彼女は確かにそう言った。
◇
牢屋敷にいた彼女たちが、エマと私の間にあったことを知らないのは当然のことだ。
ミリアの魔女化による記憶の入れ替え、共有。それはそれぞれの禁忌をお互いに見せつけ合うようなことではあったものの、その詳細についてを知ることはできていない。
だから、レイアの言っていることはもっともなことだとはわかっている。
もう既に仲直りをした。仲直りをして、それから関係性が近くなっている。それを正しいかどうかで判断をしようとしている、周囲から見ればそんな私こそが正しくないのかもしれない。
けれど、この葛藤は誰にも伝わらない。もしかしたら、ユキくらいにだったら伝わるのかもしれないけれど、彼女はもうここにはいない。
「……はあ、どうしたものかな」
そんな独り言を、自室の中で呟いてみる。
感傷に浸っている、というわけでもない。ただ、私は自分がこれからも過ごしていくエマとの中で正しいのかどうか、それだけを考え続けてるだけに過ぎなかった。
◇
『お茶会を開催します!』
結局どうにもならないまま、それでもエマとの関わりを続けていたある日、そんなメッセージが携帯に届いている。
通知を開いてみれば、メッセージの送信元はハンナからのもので、シンプルな題名の次に主題とされている内容が記されていた。
『今度、お茶会を開催したいと思います。
元々予定していました、レイアさんのお家は所用で難しいとのことでしたので、改めて日程を決めて牢屋敷でお茶会を開催いたしましょう。
もちろん、全員参加で!
いいですか? 全員参加で!』
最後の一文を強調するみたいに、メッセージではその部分だけが太字になっている。普段聞いていた、ですわ、という仰々しいとも思える口調とは異なって、メッセージの文面はいたって真面目なものだったのに、私は少しばかり感心してしまった。
(お茶会、か……)
確かにそんな約束を、みんなと一緒にしていたな、と思い出した。
『わかった。日程が決まったらまた連絡してくれ』
私が即座に返信をすると、これまたすぐに返信はやってくる。
『ですわ!!』と大きく印字されているスタンプ。
ハンナらしいな、とそう思った。